パートタイム労働者の雇用契約書で勤務時間を記載するときの注意点とは
更新日: 2025.3.11
公開日: 2020.12.7
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雇用契約書に記載されるべき内容の1つとして、「勤務時間」に関する内容が挙げられるます。
正社員の場合は、毎日決まった時間帯で勤務することがほとんどですが、パートタイム労働者は勤務する時間帯や日数がバラバラになることが多いため、雇用契約書に「勤務時間」を明記するのが難しいかもしれません。
本記事では、パートタイム労働者の雇用契約書に記載しなければならない内容や勤務時間の記載方法、注意事項などについて詳しく解説していきます。
関連記事:雇用契約の定義や労働契約との違いなど基礎知識を解説
目次 [非表示]
雇用契約は法律に則った方法で対応しなければ、従業員とのトラブルになりかねません。
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1. パートタイム労働者の定義とは?
パートタイム労働者の定義とは、「1週間の所定労働時間が、同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」です。
ここで示されている「通常の労働者」というのは、基本的に正社員や正職員のことを指します。正規型の社員がいない場合には、フルタイムで基幹的な働き方をしている労働者のことを「通常の労働者」とみなします。
つまり、非正規雇用全般がパートタイム労働者に当てはまるというのが一般的な解釈です。
具体的には、「契約社員」「準社員」「パート・アルバイト」「臨時社員」などが当てはまります。
2. そもそも雇用契約書とは
そもそも雇用契約書とは、雇用主が労働者に労働条件を明示し、労働者側がその労働条件に合意したことを示すために、企業側と労働者側で取り交わす書類となります。
労働者に一方的に交付される労働条件通知書とは異なるため、法律上は、書面で作成する義務があるわけではありません。
しかし、雇用契約書を交わしておかなければ、労働条件について「確認した」「確認していない」というようなトラブルが発生してしまうこともあるため、口頭ではなくしっかりと書類を作成しておくことが望ましいです。
なお、記載する文言の些細な点で、労使間で認識のズレが生じる可能性もあるため、新しく雇用契約書を作成する際は専門家に確認してもらうとよいでしょう。
2-1.契約締結後に辞退されたときの対処法
雇用契約を締結したとしても、人によっては締結後に辞退することがあります。
原則として、契約が締結すれば、労働者にも雇用主にも契約内容を遵守することが義務づけられます。そのため、雇用契約書の中に、退職に関する項目があれば、雇用主が勝手に解雇できないのと同様に労働者もやむを得ない事由が無い限り契約解除はできません。
ただし、労働基準法第137条では、雇用契約期間の初日から1年経てば、「やむを得ない事由」は必要ですがいつでも契約解除ができるとされています。「やむを得ない事由」に関しては、雇用主が納得すれば契約解除可能です。しかし、「やむを得ない事由」は明確な基準がないため、判断が難しい場合は法律家に相談するのが望ましいでしょう。
3. 雇用契約書の記載事項
労働条件通知書を雇用契約書と兼用して使用する場合には、必ず記載しなければならない「絶対的明示事項」と、その企業において何らかの決まりやルールがある場合に記載する必要がある「相対的明示事項」があります。
それぞれの事項について、以下で説明します。
3-1. 絶対的明示事項
必ず記載しなければならない絶対的明示事項には、以下のような内容が含まれます。
|
さらに、パートタイム労働者の場合は、パートタイム労働法によって「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」の明示が義務付けられています。
そのため、正社員よりも必ず記載しなければいけない明示事項が多い点に注意が必要です。
なお、法改正により2024年4月から「就業場所・業務の変更の範囲」が絶対的明示事項に追加されているので、正確に記載されているか確認しておきましょう。改正内容を正しく理解した上で雇用契約を締結していない場合、法律違反となり罰則が科されるリスクがあります。
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3-2. 相対的明示事項
企業にルールがある場合に記載する相対的明示事項には、以下のような内容が含まれます。
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なお、就業規則の交付ができているのであれば、相対的明示事項に関してあらためて文書で明示をする必要はありません。
ここまで記載すべき事項を押さえたところで、実際に労働条件通知書(兼雇用契約書)を作成する際に参考にできるサンプルがほしいという方向けに、当サイトでは社労士が監修した労働条件通知書のフォーマットを配布しています。
令和6年に労働条件の明示ルールが変更された点も反映した最新のフォーマットで、雇用契約書として兼用することもできる雛形です。「これから作る雇用契約書の土台にしたい」「労働条件通知書を更新する際の参考にしたい」という方は、ぜひこちらからダウンロードの上、お役立てください。
関連記事:労働条件通知書と雇用契約書の違い|それぞれの役割と発行方法を解説
関連記事:正社員雇用で必須の雇用契約書の作成方法を分かりやすく解説
4. 雇用契約書の勤務時間の記載方法
パートタイム労働者というのは、正社員よりも短時間での勤務となっているのが一般的です。
パートタイム労働者は、毎回決まった時間で働く場合もあれば、シフト制などで日によって始業時間や終業時間が変わる場合もあるため、どのように勤務時間を明記すればよいのかわからないという担当者もいるかもしれません。
そこでここでは、それぞれのケースにおいての勤務時間の記載方法を解説します。
4-1. 勤務時間が決まっている場合
パートタイム労働者の勤務時間が定まっている場合は、始業時刻、終業時刻、休憩時間を記載すればOKです。
具体的には以下のような形になります。
始業時刻 9時
終業時刻 17時30分
休憩 12時30分から13時30分までの1時間
|
なお、但し書きとして「会社の都合により始業時刻や終業時刻を変更できる」という文言を加えることも可能です。
4-2. シフト制などで勤務時間が変わることがある場合
シフト制などで始業時間や終業時間が変わることがある場合は、厚生労働省からの通達において「勤務の種類ごとの始業および終業の時刻、休日などに関する考え方を示したうえで、当該労働者に適用される就業規則上の関係項目を網羅的に示すことで足りる」とされています。
つまり、パート社員が1週間で働く日数や時間の合計を示したうえで、具体的に勤務をおこなうシフトの時間帯を示すという形で、勤務時間を記載することになります。
シフトについての記載は、パート社員ごとに時間帯もパターン数も異なると思いますが、イメージとしては以下のように記載されます。
パターン1: パターン2: パターン3: |
なお、シフト制であるため、休日は決まった曜日でなくても問題ありません。
5. パートタイム労働者と雇用契約書を結ぶ際の注意点
パートタイム労働者と雇用契約書を結ぶ際には、5つの注意点があります。
- 雇用契約書で定めた勤務時間より短くしない
- パートタイム労働者でも有給は取得可能
- 有期雇用契約の場合は更新の有無と判断基準を記載する
- 同一労働同一賃金を適用する
- 最低賃金を下回っていないか確認する
ここでは、これらの注意点を詳しく解説していきます。
5-1. 雇用契約書で定めた勤務時間より短くしない
労働基準法15条の2項では、「明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。」と定めています。
そのため、会社の都合でパートタイム労働者と雇用契約書で定めている勤務時間より短くすることは、原則認められません。やむを得ない事情で、勤務時間が少なくなってしまった場合、休業手当として平均賃金の6割を支払う必要があります。
このような事態を防ぐためには、雇用契約書上で勤務時間には変動の可能性があることを記載するとよいでしょう。その他にも、就業規則と雇用契約で優先順位が決まっていたり、雇用契約に関する禁止事項が決まっていたりと、雇用契約業務を行う上では、正しい知識が必須となります。そこで当サイトでは、雇用契約に関する基礎知識や禁止事項、正しい対応などをまとめた資料を無料で配布しております。雇用契約について少しでも不安な点がある方は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
5-2. パートタイム労働者でも有給は取得可能
有給休暇は雇用形態を問わず付与が義務付けられており、以下の条件を満たすことで発生します。
- 雇用開始日から6ヵ月が経過していること
- その期間の所定労働日の8割以上出勤していること
なお、通常は上記の条件を満たすと10日の有給休暇が付与されますが、パートタイム労働者の場合、雇用契約書や労働条件通知書に記載の所定労働時間によって有給休暇の付与日数が決まります(比例付与)。
労働条件の絶対的明示事項には、休暇に関する事項も含まれているので、雇用契約書にはしっかりと有給休暇に関する記載もおこなうようにしましょう。
関連記事:パート・アルバイトにも有給休暇はある!付与日数や発生条件について解説
5-3. 有期雇用契約の場合は更新の有無と判断基準を記載する
パートタイム労働者と有期雇用契約を結ぶ際は、「契約更新の有無」にくわえ、更新ありの場合は「更新の判断基準」も明記しなくてはいけません。
万が一記載が漏れてしまった場合は、労働基準法違反とされ罰則の対象になる恐れがあるため注意が必要です。
なお、法改正により2024年4月から、有期雇用契約の場合はさらに「更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容」の明示も必要となるので、合わせて注意しましょう。
5-4. 同一労働同一賃金を適用する
パートタイム労働者であっても、同一労働同一賃金を適用する必要があります。
「同一労働同一賃金」とは、「同一の業務をおこなっていれば同一の賃金を支給する」という考え方で、これには雇用形態は関係ありません。「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」では、正社員と非正規雇用労働者(パートタイム労働者を含む)の待遇差を解消するため、「同一労働同一賃金」を定めています。
この法律では、非正規雇用労働者でも経験や勤続年数、能力などが正社員と同一と判断できれば、待遇差をつけてはいけないとしています。つまり、「パートだから」など雇用形態だけで賃金を低くするのは違法となる可能性があるので、不当な賃金設定になっていないかしっかり確認しましょう。
5-5. 最低賃金を下回っていないか確認する
正規社員だけでなく、パートタイム労働者にも「最低賃金」が決められています。そのため、パートタイム労働者の雇用契約書を作成する際には、最低賃金法で定められている「最低賃金」を下回っていないか、必ず確認しましょう。
最低賃金は全国一律ではなく、「地域別最低賃金」もしくは「特定最低賃金」があります。
地域最低賃金は都道府県ごとに定められているもの、特定最低賃金は業種ごとに定められているものですが、どちらも不定期に改定されるので、雇用契約書を作成する場合は、その都度確認するようにしてください。
6. 「フレックスタイム制」や「裁量労働制」は記載する事項が増えるので注意
最近では働き方改革の影響などで、フレックスタイム制や裁量労働制などを取り入れている企業も増えてきています。
こういった働き方は主に正社員に対して適用されるものですが、パート社員の方に対して適用されるケースがないわけではありません。
フレックスタイム制や裁量労働制を採用している場合は、雇用契約書に必ずその旨を記載する必要があります。
またフレックス労働制では、必ず出社しなければならない時間である「コアタイム」と、出勤や退勤を自由におこなえる時間である「フレックスタイム」も記載しなければなりません。
このように、フレックスタイム制や裁量労働制で雇用契約をする場合は、記載する事項が増えるので漏れがないよう注意してください。
関連記事:パートタイマーの雇用契約書を発行する際に確認すべき4つのポイント
7. パートタイム労働者との雇用契約書で定めた勤務時間はしっかり守ろう
雇用契約書における勤務時間記載に関しては、正社員の方とパートタイム労働者の方で大幅にルールの違いがあるわけではありません。
ただ、パートタイム労働者は正社員と異なり、シフト制などで勤務時間の形態に違いがあることが多いため、記載方法には注意する必要があります。また、働き方が「フレックスタイム」や「裁量労働」などの場合は、記載する事項が増えるので、記載漏れがないようにしっかり確認してください。
労働条件を明示する雇用契約書は、トラブルを避けるために重要な書類なので、フォーマットや独自で記載しなければならない事項をきちんと把握して作成することを心がけましょう。
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