就業規則に違反した社員に対する正しい対処方法
違反にあたる行為と、懲戒処分の具体的な内容を記載することで、就業規則違反を理由として、社員の処罰が可能となります。
とはいえ、行為の内容と処分の程度は等しい必要があります。また、就業規則に違反しない仕組み作りも大切です。
この記事では、就業規則違反を理由に社員を解雇できるのかについて、また、懲戒処分の段階、就業規則違反を防ぐ方法を解説します。
▼就業規則について1から理解したい方はこちら
関連記事:就業規則とは?人事担当者が知っておくべき基礎知識
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1.就業規則に違反した社員は解雇できるか
就業規則に違反したことを理由に、社員を懲戒解雇にすることは可能です。
しかしながら、懲戒処分の中でも最も重い罰則のため、下記のとおり、正しい手順で運用されることが重要です。
- 就業規則が有効であること
- 就業規則に懲戒解雇規定を設けていること
それぞれの内容を詳しく解説します。
1-1. 就業規則が有効であること
まずは、運用している就業規則の法的有効性を確認しましょう。
そもそも就業規則が法令に違反している場合、その規則を理由として、懲戒処分をおこなうことはできません。
- 労働基準法や労使協定に違反しているルールはないか
- 絶対的必要記載事項は漏れなく記載されているか
- 相対的必要記載事項は記載されているか
- 就業規則の作成・変更時、労働者代表から意見を聞き、意見書を作成しているか
- 労働基準監督署に届出をおこなっているか
- 労働者全員に周知されているか
少なくとも、上記を満たしていることが必要です。
また、満たしていない部分には、無効となる場合もあります。
関連記事:就業規則の作成方法や注意すべきポイントを解説
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1-2. 就業規則に懲戒解雇規定を設けていること
就業規則が法的に有効であっても、「懲戒規定」がない場合、社員に懲戒処分を下すことはできません。
懲戒規定では、以下を明記する必要があります。
- どのような行為が懲戒に該当するか(違反行為を明確にする)
- それぞれの違反行為に対して、どのような処分が下るか(懲戒の種類と内容)
さらに、懲戒処分は社員の違反行為と懲戒内容に妥当性や平等性が必要です。労働契約法第15条と第16条により、合理的な理由がなく社会通念上も相当とみなされない場合は、懲戒や解雇が無効とされるためです。
そのため、懲戒解雇処分とする場合は、下記などの事由に該当しなければなりません。
- 社会通念と照らし合わせても、懲戒解雇が妥当と思えるほど重大な過失であること
- 過去にも同じ過失で懲戒解雇処分としていたこと
2. 就業規則の違反に気がついたときの対処法
就業規則の違反に気づいた時は、いきなり懲戒解雇にするのではなく、違反の内容に応じた処罰を科すことが大切です。まずは就業規則に懲戒規定を設けておきましょう。
懲戒には違反の程度に応じて、戒告~懲戒解雇までの7段階があるため、ふさわしい処罰を利用しなくてはいけません。ただし、処罰の段階や程度は、就業規則によって異なるケースもあります。
以下、それぞれの処罰の内容について、詳しく解説します。
2-1. 戒告(かいこく)
社員に対して、口頭や書面で厳重注意をおこなう処罰です。
懲戒処分の中では最も軽い処罰のため、遅刻・欠勤が甚だしい場合など、軽微の就業規則違反の際に利用します。
給与や昇給に影響を与えない場合が多いほか、就業規則によっては記載されていない場合もあります。
2-2. 譴責(けんせき)
口頭や書面で厳重注意をおこなう以外に、社員に始末書を提出させ、同じ違反を繰り返さないように戒めます。
もし、始末書を提出しなかった場合は、「人事考課に影響を与える」などの規定を設けることもあります。
2-3. 減給
違反行為に対して、給与の一部を差し引く処罰です。
減給は重い処分のため、労働基準法第91条により金額の上限が定められています。
- 1回あたり、1日の賃金の半分以上を超えてはいけない
- 総額が1ヵ月の賃金の10分の1を超えてはいけない
そのため、1回の減給処分で1日分の賃金すべてを差し引くようなことはできません。
参照:労働基準法|e-Gov法令検索
関連記事:労働基準法第91条に規定された「減給の限度額」の意味や計算方法
2-4. 出勤停止
一定期間出勤を停止し、その間の賃金は支払わない懲戒処分です。この場合の賃金不支給に関しては、昭23.7.3 基収2177号の行政通達により、労働基準法第91条の適用を受けないとされています。なお、出勤停止期間中は有給休暇の利用もできません。
具体的な停職期間は法律上定めがないため、それぞれの就業規則に委ねられます。
とはいえ、給与が一切支給されないため、違反の程度と出勤停止期間の長さが妥当である必要があります。
2-5. 降格
管理職の役職を引き下げるだけでなく、社員の職能資格や給与等級の引き下げも降格処分に含まれます。
また、降格の場合、懲戒処分だけでなく、人事異動のケースもあるため、どちらに該当するか社員に説明しましょう。
また、降格によって役職手当の減額だけでなく、基本給の減額をおこなう場合は、下記の点を確認しながら、注意してすすめるようにしましょう。
- 就業規則に基本給の減額について明記されていること
- 人事評価が合理的であること
- 社員に弁明の機会が与えられていること
2-6. 諭旨解雇(ゆしかいこ)
社員に退職を促す懲戒処分です。
自ら退職届けを提出した場合は“退職”扱いとし、退職金を支払うこともできます。違反に対し、深く反省をしているなど、懲戒解雇では重いと判断される時におこなう処分です。
実際の手続きは下記の通りです。
- 就業規則違反の証拠を集める
- 社員に対して弁明の機会を与える
- 弁明を確認し、再度処分内容を検討する
- 諭旨解雇に該当する場合処分通知書を交付する
もし、退職届の提出を拒絶された場合は、「懲戒解雇」をおこないます。
2-7. 懲戒解雇
懲戒処分の中でも最も重い処分で、会社が一方的に社員を解雇するものです。
普通解雇とは違い、下記のように重い処罰となります。
- 即日解雇できる(解雇予告除外認定が必要)
- 退職金を支給しない(就業規則への明記が必要)
そのため、懲戒解雇をおこなう際は相当の理由がなくてはいけません。
例えば、刑事罰に該当する行為をおこなった、地位を利用し横領を繰り返した、重大な経歴詐称があった、などが該当します。
懲戒解雇の手順についても、諭旨解雇と同様に証拠を集めたり、社員に弁明の機会を与えたりすることが必要です。
関連記事:労働基準法による解雇の方法や種類、円満解雇するための秘訣を解説
3. 就業規則の違反を防ぐには
就業規則の違反者が出ることは、社員だけでなく会社にとっても大きな痛手となります。そのため、日頃から違反者を出さないための取り組みが大切です。
3-1. 就業規則の理解を促す
就業規則は周知しているものの、何が違反となるか理解していない社員も少なくありません。
そのため、懲戒処分に該当する事例は社員全員に周知を徹底しましょう。
3-2. ケーススタディをおこなう
実際に懲戒解雇となった事例(自社・他社を問わない)を社員どうしで議論すれば、就業規則の理解につながります。
その際は、どうすれば懲戒解雇を防ぐことができたかも、合わせて検討しましょう。
3-3. 相談しやすい環境を作る
社内に相談できる環境があることで、就業規則違反を防げる可能性もあります。例えば、お金に困っているものの、誰に相談してよいかも分からず、目の前の現金に手を付けてしまったというケースもあるでしょう。
些細なことでも相談できる環境の整備は、重大な就業規則違反を防ぐことにもつながると考えられます。
4. 就業規則違反に対処するためには、懲戒処分の内容を記載する必要がある
違反となる行為と、懲戒内容をあらかじめ記載すれば、就業規則違反を理由に社員を処罰できるようになります。
ただし、懲戒処分の内容が客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められることが必要であるため、処罰する際は注意が必要です。
とはいえ、懲戒解雇などの重い処分が特定の社員に下ることで、会社全体のモチベーション低下にもつながります。
そのため、違反を取り締まるだけでなく、就業規則を守る仕組みや、違反を未然に防ぐ取り組み作りが重要といえるでしょう。
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