試用期間に能力不足を理由に解雇できるか?判断ポイントやリスクも解説
更新日: 2025.8.26 公開日: 2022.9.27 jinjer Blog 編集部

試用期間とは、採用した従業員の業務適性や勤務態度を見極めるために設けられる期間です。この期間中に、従業員が期待された能力を発揮できない場合、会社は解雇できるのでしょうか。
本記事では、試用期間中に能力不足を理由として解雇が認められるかどうか、そして解雇が可能となる具体的なケースや注意点について解説します。
目次
雇用契約の基本から、試用期間の運用、契約更新・変更、万が一のトラブル対応まで。人事労務担当者が押さえておくべきポイントを、これ一冊に凝縮しました。
法改正にも対応した最新の情報をQ&A形式でまとめているため、知識の再確認や実務のハンドブックとしてご活用いただけます。
◆押さえておくべきポイント
- 雇用契約の基本(労働条件通知書との違い、口頭契約のリスクなど)
- 試用期間の適切な設定(期間、給与、社会保険の扱い)
- 契約更新・変更時の適切な手続きと従業員への合意形成
- 法的トラブルに発展させないための具体的な解決策
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1. 試用期間に能力不足で解雇できる?


「試用期間はお試し期間なので、能力不足の従業員は解雇しても問題ない」と考えている方もいるかもしれません。
しかし、実際は試用期間であっても、能力不足が理由の解雇は難しいでしょう。なぜなら、労働契約法第16条で、解雇は客観的・合理的な理由があり、社会通念上相当でなければ認められないとしているからです。
要するに、解雇する従業員の能力が不足していることを、客観的に見て妥当だと判断されたうえで、一般的な社会においても通用するものと認められる必要があります。
試用期間中の従業員を本採用前に解雇する場合は、正当な理由がある場合に限り可能ということです。
よくある解雇の理由として認められる例は、病気や怪我が理由で業務に支障が出る場合や経歴詐称などであり、能力が足りないことで解雇できるケースは稀でしょう。
関連記事:試用期間に解雇できる?必要な手続きや注意点を詳しく解説
2. 試用期間中に能力不足で解雇できるケース


試用期間中であっても、能力不足を理由に解雇することは、原則として厳しく制限されています。
しかし、一定の要件を満たす場合には、例外的に能力不足が解雇理由として認められることもあります。ここでは、そのようなケースとして考えられる代表的な3つの例を紹介します。
2-1. 十分な指導をしたが能力不足の場合
入社直後に能力不足と判断するには、それ相応の教育や指導をおこなった事実が必要です。十分な指導を受けているにもかかわらず、指示通りに業務を遂行できない場合には、解雇が認められる可能性があります。
とくに部署が複数ある企業では、1つの部署だけの勤務実績で「能力が不足している」と断定するのは難しいでしょう。配置転換や他の業務への変更を試みても業務遂行が困難である場合、はじめて解雇の正当性が検討されます。
ただし、試用期間は通常3~6ヵ月程度と短いため、この期間内に能力不足と判断するには高いハードルがあります。しかし、指示に従わず、頻繁にトラブルを引き起こすような場合は、解雇の正当性が認められやすくなるでしょう。その場合でも、必ず注意や指導といった対応を段階的におこなう必要があります。十分な指導もないまま、いきなり解雇に踏み切った場合には、不当解雇と判断されるリスクがあります。
2-2. 幹部社員として採用したが能力不足の場合
新卒や未経験者の採用とは異なり、幹部社員として採用された場合は、能力不足を理由とした説明が比較的しやすくなります。幹部ポジションでは、あらかじめ求めるスキルや成果が明確に示されているケースが多く、実績を上げることを前提に採用されるのが一般的です。
そのため、採用時に期待していた能力が著しく欠けている場合には、客観的に「能力不足」であると判断されやすい傾向があります。また、幹部社員は特定の役職を前提に採用されるので、一般職のような配置転換による対応は難しいケースも多いでしょう。
ただし、幹部社員であっても、能力不足を理由に簡単に解雇できるわけではありません。解雇が認められるためには、社会通念上相当であること、そして合理的な理由があることが必要です。そのため、事前に労使双方の認識を合わせるためにも、雇用契約書などの書面に担当してもらう業務内容や期待される役割・成果などを明確に記載し、客観的な証拠を残しておくようにしましょう。
2-3. 能力不足により会社に大きな損失を与えている場合
試用期間中であっても、従業員に業務を適切に遂行する能力が著しく欠けており、かつその結果として会社に大きな損害や経営上の重大な支障が生じている場合には、解雇が認められる可能性があります。
ただし、そのような場合でも、会社側が適切な業務配分をおこなっていたか、十分なフォローや指導体制が整っていたかといった点が問われます。企業として必要な支援や指導を尽くしていたかどうかは、解雇の妥当性を判断するうえで重要な要素の一つです。
また、解雇の正当性を裏付けるためには、従業員の能力不足によって具体的にどのような損害や支障が発生したのかを、客観的かつ合理的に説明できる資料や記録が必要です。単に「会社に損失を与えた」という理由だけでは、解雇が正当と認められないこともあるので慎重な対応が求められます。
関連記事:雇用契約の試用期間とは?解雇時や労働契約上の注意点、よくあるトラブルを紹介
3. 試用期間中に能力不足で解雇する場合の注意点や判断ポイント


試用期間中であっても、解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。能力不足による解雇は認められにくいものの、事前の教育指導や評価を経て、改善が見られなかったといった具体的根拠があれば、例外的に認められる可能性もあります。
ただし、適切な手続きを踏まないと不当解雇と判断されるリスクがあるため、慎重な対応が必要です。ここでは、試用期間中に能力不足で解雇する場合の注意点や判断ポイントについて詳しく紹介します。
3-1. 新卒者や未経験者の場合
新卒者や未経験者の場合、入社直後から十分な業務遂行能力を備えていないことは一般的であり、会社としては適切な指導や研修をおこなうことが求められます。このような指導のもとで徐々に成長していくことが前提となるため、試用期間中に「能力不足」のみを理由として解雇が認められるケースは限定的です。
ただし、著しく協調性を欠く言動や、繰り返しの指導にもかかわらず改善の見込みが全く見られないなど、勤務継続が困難と判断される事情がある場合には、例外的に解雇が正当と認められる可能性もあります。
また、能力の不足を理由とする場合であっても、上司や一部の関係者のみの主観的判断に基づくものでは、客観性・合理性に欠けるとして解雇の正当性が否定される恐れがあります。複数の視点からの評価や、指導・改善の経過を記録として残すなど、慎重な対応が必要です。
3-2. 仕事の成果のみに着目していないか
経験者を採用する場合、企業は即戦力としての活躍を期待し、処遇面でも比較的好条件を提示することが一般的です。そのため、試用期間中に期待した成果が見られない場合、能力不足と判断することを検討する企業もあるかもしれません。
しかし、たとえ過去に豊富な経験があったとしても、転職により職場環境や業務内容が変わる中で、すぐに成果を上げるのは容易ではないでしょう。実務への適応には一定の時間を要するため、短期間で結果が出なかったことをもって直ちに能力不足と評価するのは、合理性を欠く可能性があります。
とくに試用期間中に十分な指導がおこなわれており、業務の進め方や勤務態度に問題がない場合には、今後の成長や成果が見込まれるとして、解雇が「不当」と判断されるリスクが高まります。また、仮に裁判に発展した場合、判断材料として重視されるのは成果だけでなく、従業員の勤務姿勢、就労意欲、改善努力の有無なども含まれます。そのため、会社側が成果のみに着目して解雇を判断することには慎重さが求められます。
3-3. 指導をせずに能力不足と判断していないか
試用期間中に能力不足を理由に従業員を解雇するには、まず会社が適切かつ十分な指導をおこなっていることが前提となります。この原則は、経験者・未経験者を問わず、すべての従業員に当てはまります。
とくに注意が必要なのは、経験者への対応です。「経験者であれば即戦力として働けるはず」として、必要な業務説明や指導を省略してしまうケースでは、会社側の指導義務の履行が不十分とみなされる可能性があります。
たとえ同業界からの転職であっても、業務内容や進め方は企業ごとに異なることが一般的です。したがって、経験者であっても入社後には一定の指導・支援をおこない、そのうえで適性や能力を見極める対応が求められます。
3-4. 本採用後の能力不足による一方的な給与減額(減給)も違法
試用期間中に能力不足を理由として解雇することが難しい場合、本採用後に給与の引き下げ(減給)を検討する企業もあるかもしれません。しかし、能力不足を理由に、会社が一方的に減給をおこなうことは原則として違法です。給与は労働条件の根幹にあたり、労働契約法第8条に基づき、労働者本人の同意がなければ変更できません。
一方、懲戒処分としての減給については、就業規則に明記されている場合に限り、一定の条件下で認められる可能性があります。ただし、単に「能力が足りない」という理由だけでは、懲戒権の濫用とみなされ、無効とされるリスクが高いので注意が必要です(労働契約法第15条)。
懲戒処分として減給をおこなう場合は、あらかじめ就業規則や雇用契約書などにその根拠が定められていることが前提となります。そのうえで、勤務態度や指導履歴、改善の見込みなどを総合的に判断し、慎重な対応が求められます。なお、労働基準法第91条により、減給の制裁規定には制限が設けられていることにも注意しましょう。
参考:労働契約法第8条、第15条|e-Gov法令検索
参考:労働基準法第91条|e-Gov法令検索
関連記事:労働基準法第91条に規定された「減給の限度額」とは?法律上の意味や計算方法
4. 試用期間中に能力不足で解雇する場合の手続き


試用期間中に能力不足を理由に解雇をする場合、正しく手続きしなければ法令違反となる可能性があります。ここでは、試用期間中に能力不足を理由として解雇する際に留意すべきポイントや手続きについて解説します。
4-1. 雇用契約書や就業規則の解雇事由を確認する
まずは試用期間中の従業員の能力不足が、雇用契約書や就業規則に記載されている解雇事由にあてはまるかどうか確認することが大切です。たとえ解雇事由に該当するとしても、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められなければ、解雇権濫用として当該解雇が無効となります。
したがって、業務遂行状況や指導履歴、改善の機会などを総合的に判断し、慎重に対応することが重要です。また、とくに専門職や技術職の場合には、求めるスキルや技術水準を事前に明文化しておけば、能力不足かどうかの判断に客観性を持たせられ、トラブル防止にもつながります。
関連記事:労働基準法における解雇とは?種類や方法・解雇が認められる理由から円満解雇するための秘訣を解説
4-2. 解雇予告または解雇予告手当の支払いをする
従業員を解雇する場合、労働基準法第20条により解雇予告をおこなうことが求められています。この決まりは、試用期間中の従業員にも適用されます。
試用期間開始から、14日以上経過している場合は、解雇の30日以上前に予告をしなければなりません。14日以内であれば、解雇予告は不要です(労働基準法第21条)。一方で、14日を超えて勤務している従業員を即日解雇する場合には、30日前の予告がない限り、不足日数分の「解雇予告手当(平均賃金)」を支払う義務があります。
関連記事:労働基準法第20条に定められた予告解雇とは?適正な手続方法
4-3. 解雇理由証明書を交付する
労働基準法第22条に基づき、従業員が解雇予告を受けた日から退職日までの間に「解雇理由証明書」を請求した場合、会社は遅滞なくこれを交付しなければなりません。なお、証明書には、従業員が求めた事項のみを記載する必要があり、本人が請求していない内容を一方的に記入することはできません。そのため、発行前に請求内容を正確に確認することが重要です。
4-4. 社会保険や税金などの手続きをする
試用期間中に能力不足を理由に従業員を解雇する場合でも、通常の退職と同様に、必要な手続きを適切におこなう必要があります。例えば、社会保険に加入している労働者であれば、資格喪失手続きが必要です。これを期限内におこなわないと、本人の国民健康保険や国民年金の加入手続き、失業手当の申請に支障をきたす恐れがあります。
また、給与の最終精算後には、退職日以後1ヵ月以内に源泉徴収票の交付も必要です(所得税法第226条)。従業員はこの書類を基に確定申告や転職先での年末調整などの手続きをおこなうため、正確かつ速やかに発行することが大切です。
関連記事:退職手続きで会社側はいつまでに何をする?手続き一覧と流れをくわしく解説
4-5. 能力不足を理由とする解雇は会社都合と自己都合どっち?
試用期間中に「能力不足」を理由として解雇する場合、本人の意思によらず会社の判断で雇用契約を終了させることになるため、原則として会社都合退職として扱われます。この「会社都合」か「自己都合」かの判断は、失業手当の給付時期や受給要件に大きく影響する重要な要素です。そのため、離職票の記載内容や解雇理由の整理にあたっては、法令に則った正確かつ慎重な対応が求められます。
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5. 試用期間中に能力不足で解雇する際のリスクとその対策


試用期間中に能力不足を理由に解雇し、不当解雇と認められた場合、さまざまなリスクが生じます。ここでは、試用期間中に能力不足で解雇する際のリスクとその対策について詳しく紹介します。
5-1. 試用期間中の能力不足解雇を無効とした判例
証券会社において、営業職の課長として6ヵ月の試用期間付きで採用された従業員が、試用期間満了前に「営業の資質に欠ける」として解雇されたため、地位確認や未払賃金などを求めて訴訟を提起した事案があります(ニュース証券事件)。
裁判所は、当該解雇について「客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当とは認められない」として解雇の無効性を認めました。ただし、原告がすでに他社へ転職していたことから、地位確認請求は棄却され、未払賃金などの金銭請求のみが認められています。
このように、試用期間中であっても、能力不足を理由とした解雇が無効とされることがあります。一方で、有効とされた判例(例:日本基礎技術事件)もあるため、実例を参考にしつつ、弁護士や社会保険労務士などの専門家と相談のうえ、慎重に対応方針を検討することが重要です。
参考:賃金等請求控訴、同附帯控訴事件(ニュース証券事件)|全国労働基準関係団体連合会
参考:地位確認等請求控訴事件(日本基礎技術事件)|全国労働基準関係団体連合会
5-2. 損害賠償請求や社会的信用低下の恐れもある
試用期間中の能力不足を理由とした解雇をおこなった場合、不当解雇として従業員から訴訟を起こされる可能性があります。万が一、解雇が無効と判断された場合は、未払い賃金の支払い義務が生じるだけでなく、精神的苦痛を理由に慰謝料を請求される恐れもあります。さらに、訴訟や報道を通じて企業名が公になれば、社会的信用の低下や人材採用・取引先との関係に悪影響を及ぼすリスクもあるので慎重な対応が必要です。
5-3. 試用期間の延長や退職勧奨も検討する
試用期間中の能力不足を理由とした解雇には、大きなリスクが伴います。解雇に値するかどうかの判断が難しい場合は、いきなり解雇に踏み切るのではなく、試用期間の延長や退職勧奨を検討することも有効です。
ただし、試用期間の延長をおこなうには、就業規則や雇用契約書にあらかじめ延長の可能性が記載されており、かつ延長の理由が合理的であることが求められます。
また、退職勧奨をおこなう際は、従業員の自由意思を尊重することが重要です。強引な説得や圧力によって退職を強要した場合、違法と判断され、損害賠償などの法的責任を問われる恐れがあるため注意しましょう。
関連記事:試用期間の延長に違法性はある?要件や手続き・本採用拒否や解雇についても解説
6. 試用期間中に能力不足で解雇する場合は慎重に


試用期間であっても、一度雇用契約を締結すると、簡単には従業員を解雇することはできません。能力が足りないことを理由に解雇できる場合もありますが、認められるケースは非常に稀です。
能力不足を理由とした解雇には客観的な理由が必要ですが、一般的に試用期間の数ヵ月の間で客観的理由を証明することは難しく、不当解雇として判断される可能性が高くなってしまいます。
採用した従業員の能力が足りていないと感じたとしても、まずは会社側で繰り返し指導をおこない、改善の見込みがあるかどうか長い目で見ていくことが大切です。



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