年末調整の計算方法5ステップや注意点を分かりやすく解説
更新日: 2024.11.7
公開日: 2021.2.24
OHSUGI
年末調整の計算方法を理解していないと、1年間に納めるべき所得税及び復興特別所得税額を求めることはできません。年末調整の計算方法は5つのステップを踏む必要があり、しっかりと計算したいところです。そこで今回は、年末調整の計算方法について説明します。
基礎から定額減税の対応方法まで知りたい方へ
年末調整は、人事労務・総務担当者の皆さんにとって毎年やってくる1年の集大成となる一大業務です。
しかしながら法改正や制度変更に伴い、ルールや帳票の変更が複雑であり、何度経験していても、正しく対応できているのか不安という方も多くいらっしゃいます。
そこで当サイトでは、税理士が解説した「令和6年版 年末調整セミナー」の動画を無料でオンデマンド配信しています。この動画は誰でも視聴可能となっており、動画内では、基本的な年末調整の流れから、令和6年版の定額減税への対応方法や変更点をわかりやすく説明しています。
そのため、「そもそも年末調整の対応に不安がある」「定額減税にちゃんと対応できているのか、本当に抜け漏れがないか心配」という方は、ぜひこちらからお申込みの上、動画を視聴してお役立てください。
1. 年末調整の計算方法5ステップ
会社など給与の支払者は、役員又は従業員に対して給与を支払う際に所得税及び復興特別所得税の源泉徴収をおこなっています。会社が源泉徴収をおこなう額は会社がその1年間に支払う予定の給与額に基づいて計算されていますが、実際に1年間に支払うべき給与額はその予定額とは異なることが多いです。
したがって、その年1年間に給与から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税の合計額は、その人が1年間に納めるべき税額とはならない事が通常です。
そのため、1年間に納めるべき所得税及び復興特別所得税額を、実際に支払うべき給与の額から計算して、1年間に源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税の合計額と一致させる必要があります。この手続のことを年末調整といいます。
年末調整は、以下の5ステップでおこないます。
▼先に基本のルールを知りたい方はこちら
年末調整の計算方法|知っておきたい基本ルール7つ
1-1. ステップ1:給与所得控除を求める
先ず、その年1年間に支払うべきことが確定した給与の合計額から、給与所得控除後の給与等の金額を求めます。年末調整までに合計給与額が確定していない場合は、見積額にて計算しましょう。給与所得控除の金額の求め方については、次の表のとおりです。
給与等の収入金額
(給与所得の源泉徴収票の支払金額)給与所得控除額 1,625,000円まで 550,000円 1,625,001円から 1,800,000円まで 収入金額×40%-100,000円 1,800,001円から 3,600,000円まで 収入金額×30%+80,000円 3,600,001円から 6,600,000円まで 収入金額×20%+440,000円 6,600,001円から 8,500,000円まで 収入金額×10%+1,100,000円 8,500,001円以上 1,950,000円(上限)
給与の総額が660万円未満の場合は、「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」を使って簡単に求めることも可能です。
参照:年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表|国税庁
なお、子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用がある場合には、その所得金額調整控除の額を、給与所得控除後の給与の額から差し引きます。
1-1-1. 子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除
子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除は、その年の給与等の収入金額が850万円を超える給与所得者で、(1)のa,b,cのどれかに該当する給与所得者の総所得金額を計算する場合に、(2)の所得金額調整控除額を給与所得から控除するものです。
(1)適用対象者
a本人が特別障害者に該当する人
b年齢23歳未満の扶養親族がいる人
c特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族がいる人
(2)所得金額調整控除額
{給与等の収入金額(1,000万円超の場合は1,000万円) - 850万円}×10%=控除額(1円未満の端数があるときは、その端数を切り上げます。)
年末調整においてこの控除の適用を受けようとする給与所得者は、その年最後に給与等の支払を受ける日の前日までに、会社に所得金額調整控除申告書を提出する必要があります。
この控除は、同一生計内のいずれか一方のみの所得者に適用するという制限がありません。そのため、例えば、夫婦ともに給与等の収入金額が850万円を超えていて、夫婦の間に年齢23歳未満の扶養親族である子が一人いるような場合には、その夫婦の両方が、この控除の適用を受けることができます。
1-2. ステップ2:所得控除を求める
ステップ1により求めた金額から、扶養控除などの所得控除を差し引きます。
年末調整を経ることで受けられる所得控除は、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除、扶養控除、配偶者控除、配偶者特別控除、基礎控除です。
1-2-1. 社会保険料控除
納税者が自分又は自分と同じ生計で暮らしている配偶者やその他の親族の負担すべき社会保険料を支払った場合には、その支払った金額について所得控除を受けることができます。これを社会保険料控除といいます。
控除できる金額は、その年に実際に支払った金額又は給与や公的年金から差し引かれた金額の全額です。
関連記事:年末調整の社会保険料控除とは?対象となる保険の種類まとめ
1-2-2. 小規模企業共済等掛金控除
納税者が小規模企業共済法に規定された共済契約に基づく掛金等を支払った場合には、その支払った金額について所得控除が受けられます。これを小規模企業共済等掛金控除といいます。小規模企業共済等掛金控除の金額は、その年に支払った掛金の全額です。
1-2-3. 生命保険料控除
納税者が生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合には、一定の金額の所得控除を受けることができます。これを生命保険料控除といいます。
なお、生命保険料控除には限度額が設けられているため、計算をする際は注意が必要です。
1-2-4. 地震保険料控除
納税者が特定の損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料又は掛金を支払った場合には、一定の金額の所得控除を受けることができます。これを地震保険料控除といいます。
地震保険料控除の金額は以下の通りです。
区分 | 年間の支払保険料の合計 | 控除額 |
(1)地震保険料 | 50,000 円以下 50,000 円超 |
支払金額の全額 一律50,000円 |
(2)旧長期損害保険料 | 10,000円以下 10,000円超 20,000円以下 |
支払金額の全額 支払金額×1/2+5,000円 15,000円 |
(1)・(2)両方がある場合 | ー | (1)、(2)それぞれの方法で計算した金額の合計額(最高50,000円) |
1-2-5. 障害者控除
納税者自身、同一生計配偶者、扶養親族が所得税法上の障害者に当てはまる場合には、一定の金額の所得控除を受けることができます。これを障害者控除といいます。障害者控除の額は、障害者:27万円、特別障害者:40万円、同居特別障害者:75万円です。
関連記事:年末調整の障害者控除とは?その範囲や金額を詳しく解説
1-2-6. 寡婦控除
納税者が寡婦であるときは、一定の金額の所得控除を受けることができます。これを寡婦控除といいます。寡婦控除の控除額は27万円です。
1-2-7. ひとり親控除
納税者がひとり親であるときは、一定の金額の所得控除を受けることができます。これをひとり親控除といいます。ひとり親控除の控除額は35万円です。
関連記事:年末調整における「ひとり親控除」の対象や寡婦控除の違い
1-2-8. 勤労学生控除
納税者自身が勤労学生であるときは、一定の金額の所得控除を受けることができます。これを勤労学生控除といいます。勤労学生控除の控除額は27万円です。
1-2-9. 扶養控除
納税者に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合には、一定の金額の所得控除が受けられます。これを扶養控除といいます。
扶養控除の金額は以下の通りです。
●一般の控除対象扶養親族:38万円
●特定扶養親族:63万円
●老人扶養親族 同居老親等以外の者:48万円
同居老親等 :58万円
1-2-10. 配偶者控除
納税者に所得税法上の控除対象配偶者がいる場合には、一定の金額の所得控除が受けられます。これを配偶者控除といいます。
配偶者控除額の金額は以下の通りです。
控除を受ける納税者本人の 合計所得金額 |
控除額 | |
一般の控除対象配偶者 | 老人控除対象配偶者 | |
900万円以下 | 38万円 | 48万円 |
900万円超950万円以下 | 26万円 | 32万円 |
950万円超1,000万円以下 | 13万円 | 16万円 |
老人控除対象配偶者とは、控除対象配偶者のうち、その年12月31日現在の年齢が70歳以上の人をいいます。なお、配偶者が障害者の場合には、配偶者控除の他に障害者控除27万円(特別障害者の場合は40万円、同居特別障害者の場合は75万円)が控除できます。
関連記事:年末調整は結婚したら何が変わる?書類の書き方のポイント
1-2-11. 配偶者特別控除
配偶者に48万円を超える所得があるため配偶者控除の適用が受けられないときでも、配偶者の所得金額に応じて、一定の金額の所得控除が受けられる場合があります。これを配偶者特別控除といいます。なお、配偶者特別控除は夫婦の間で互いに受けることはできません。
配偶者特別控除の金額は以下の通りです。
1-2-12. 基礎控除
確定申告や年末調整において所得税額の計算をする場合に、総所得金額などから差し引くことができる控除の一つに基礎控除があります。基礎控除の金額は以下の通りです。
納税者本人の合計所得金額 | 控除額 |
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
1-3. ステップ3:所得税額を求める
ステップ2で求めた金額の1,000円未満を切捨てた後に、次の計算式に以下の所得税の税率を当てはめて税額を求めます。
課税される所得金額額×所得税率ー控除額=所得税額
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
1-4. ステップ4:住宅借入金等特別控除の差し引きをおこなう
年末調整で住宅借入金等特別控除をおこなう場合には、ステップ3で求めた金額から住宅借入金等特別控除の控除額を差し引きます。
計算方法に関しては、居住の用に供した年によってそれぞれ異なります。また、限度額も設けられているため、計算する際には注意が必要です。
住宅借入金等特別控除については以下をご参照ください。
参照:No.1213 認定住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁
1-5. ステップ5:納付額と源泉徴収額の差分を調整する
ステップ4で求めた金額に102.1%をかけた金額から100円未満を切捨てた金額が、その人が1年間に納めるべき所得税及び復興特別所得税になります。
年間所得税額×102.1%(復興特別所得税率)=年調年税額
最後に、源泉徴収済みの所得税額と照らし合わせて、多く支払っていた場合は従業員へ還付金の返還、少なく支払っていた場合は差額を徴収します。
年調年税額-源泉徴収額=還付金または追加徴収金
2. 年末調整の計算事例
ここまで、年末調整の計算方法について解説してきました。次に、計算の大まかなイメージを掴むことができるように、具体的な計算事例をご紹介します。
一般的な2つのケースを取り上げて解説していきますので、年末調整の計算の流れをしっかりと掴みましょう。
2-1. 収入なしの配偶者と16歳の子どもがいる既婚者
ここでは、収入なしの配偶者(妻)と16歳の子どもが1人いる既婚者で、以下の条件に該当するケースを想定して計算をしてみましょう。なお、以下条件の金額は計算イメージを掴みやすいように概算額にしています。
・年間の給与額:500万円
・源泉徴収税額:8万円
・社会保険料控除額:75万円
・生命保険料控除額:7万1,500円
まずは、ステップ1で紹介した給与所得控除後の金額を求めます。令和5年度の速算表を用いた場合、給与所得控除後の額は356万円です。
次に、ステップ2で紹介した各控除を差し引いた後の金額を求めます。配偶者と16歳の子ども1名を扶養のため、配偶者控除38万円と扶養控除38万円が受けられます。計算式にすると次のとおりです。
356万円-38万円(配偶者控除)-38万円(扶養控除)-75万円(社会保険料控除)-7万1,500円(生命保険料控除)-48万円(基礎控除)=149万8,500円
1,000円未満は切り捨てのため、149万8,000円となります。
続いて、ステップ3で紹介した所得税額を求めます。
149万8,000円×5%=7万4,925円
ステップ4の住宅借入金等特別控除はないため、ステップ5に進み年調年税額を求めましょう。
7万4,925円×102.1%≒76,498.4円
100円未満は切り捨てのため、7万6,400円が年間の所得税額です。源泉徴収額が8万円のため、差額の3,600円を従業員へ還付することになります。
2-2. 16歳の子供がいるひとり親
ここでは、16歳の子どもが1人いるひとり親の場合で計算してみましよう。なお、条件については上述で使用したものをここでも用います。
ステップ1で紹介した給与所得控除後の金額は、令和5年度の速算表を用いると356万円です。
ステップ2で紹介した各控除の計算については、ひとり親で16歳の子どもを扶養しているため、ひとり親控除35万円と扶養控除38万円が受けられます。計算式にすると次のとおりです。
356万円-35万円(ひとり親控除)-38万円(扶養控除)-75万円(社会保険料控除)-7万1,500円(生命保険料控除)-48万円(基礎控除)=152万8,500円
1,000円未満は切り捨てのため、152万8,000円となります。
次に、ステップ3で紹介した所得税額を求めます。
152万8,000円×5%=7万6,400円
ステップ4の住宅借入金等特別控除はないので、そのままステップ5に進み年調年税額を求めましょう。
7万6,400円×102.1%≒78,004.4円
100円未満は切り捨てのため、7万8,000円が年間の所得税額です。源泉徴収額が8万円のため、差額の2,000円を従業員へ還付します。
2. 年末調整の計算方法の注意点
年末調整は5つのステップを踏むことでスムーズに計算ができるものの、従業員の数が多いとミスも起こりがちです。ここでは、年末調整の計算をおこなう際に気をつけておきたい注意点について解説します。
3-1 .端数処理の仕方に気をつける
年末調整を計算を進めていく中で、端数処理しなくてはいけない計算がいくつかあります。課税所得金額を求める際の1,000円未満切り捨てや、年調年税額を求める際の100円未満切り捨てのような場合です。
それぞれ端数処理の仕方が異なるため、ここを誤ってしまうとその後の計算にも狂いが生じます。年末調整の計算をおこなう前に、端数処理の仕方についてしっかり把握しておきましょう。
3-2. 扶養控除の人数変更に注意する
年末調整は還付されるケースが多いのが一般的ですが、期の途中で扶養人数が変わった場合、還付ではなく追加徴収となることもあるため注意しましょう。
従業員に年末調整の書類を記載してもらう際は、扶養人数や配偶者の収入など変更点について正しく記載するよう注意を促す必要があります。
3-3. 提出期限までに間に合うように計算する
年末調整の書類提出期限は翌年1月31日、源泉所得税の納付期限は翌年1月10日となっており、それぞれ期限を遵守するためにスケジュールを組んで計算しなくてはいけません。
期日に遅れた場合は、延滞税の発生や罰則が適用となる恐れがあるので注意しましょう。
3-4. 年末調整の計算方法に迷ったときには?
年末調整の計算方法に迷った時には、国税庁の相談窓口に相談することも解決方法のひとつです。国税庁が用意した相談窓口については以下をご参照ください。
また、当サイトでは、年末調整業務に必要な書類や計算方法を含めた書類の作成方法まで解説した「年末調整ガイドブック」を無料でお配りしています。年末調整について不明点がある場合にいつでも見返すことができるので、年末調整業務に不安のある方はこちらからダウンロードしてお使いください。
4. 年末調整の計算方法をマスターして正しい納税額を求めよう
ここまで、年末調整の計算方法の5ステップや注意点などについて説明してきました。年末調整の計算方法についてよく理解できたという方もいらっしゃることでしょう。
ただし、人によって適用となる控除も異なることから、従業員数が多くなると計算業務が煩雑となり、ミスも起こりやすくなってしまいます。
年末調整の計算を簡易化さるなら、年末調整に対応した給与計算システムを導入するのがおすすめです。必要項目を入力するだけで自動計算してくれるので、計算ミスを減らすこともできます。
毎年、年末調整の計算で苦労している場合は、上記のようなシステムの導入を検討してみても良いでしょう。
基礎から定額減税の対応方法まで知りたい方へ
年末調整は、人事労務・総務担当者の皆さんにとって毎年やってくる1年の集大成となる一大業務です。
しかしながら法改正や制度変更に伴い、ルールや帳票の変更が複雑であり、何度経験していても、正しく対応できているのか不安という方も多くいらっしゃいます。
そこで当サイトでは、税理士が解説した「令和6年版 年末調整セミナー」の動画を無料でオンデマンド配信しています。この動画は誰でも視聴可能となっており、動画内では、基本的な年末調整の流れから、令和6年版の定額減税への対応方法や変更点をわかりやすく説明しています。
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