割増賃金とは?深夜や休日の割増賃金率や計算、副業の取扱などをわかりやすく解説
更新日: 2025.12.1 公開日: 2025.8.27 (特定社会保険労務士)

割増賃金とは、従業員が時間外労働や休日出勤、深夜勤務をした際に、法律で定められた割増率を上乗せして支払われる賃金のことです。
割増賃金の未払いは労働基準法違反となるため、企業は労働時間を適切に管理し、運用しなければなりません。
本記事では、時間外・休日・深夜それぞれの割増賃金率や計算の手順、適用除外のケースなどをわかりやすく解説します。割増賃金のトラブルを防ぎ、適正な労務管理を実現したい人事労務担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
従業員の多様な働き方が進む中、割増賃金の計算はますます複雑化しています。しかし割増賃金の計算ミスは、未払い賃金の請求といった経営リスクに直結するため、労務担当者は注意が必要です。
そこで、当サイトではこれらの疑問を解決する資料を無料配布しており、複雑な割増率をケース別に図解しているほか 、深夜労働・時間外労働との組み合わせなど、複雑なパターンを図解で分かりやすく解説 しています。
実例を用いた計算方法も紹介しており 、これ一つで正確な割増賃金計算をマスターできます。参考にしたい方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 割増賃金とは?

割増賃金とは、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて働いた場合や、法定休日(週1日または4週4日)・深夜(午後10時~翌朝5時)に勤務した場合に、通常の賃金に一定の割増率を上乗せして支払う賃金のことです。
割増賃金は、長時間労働を抑制し、労働者の健康と生活を守るための重要なルールです。労働の種類によって割増率は異なり、時間外労働の場合は通常の賃金の25%以上、休日労働では35%以上、深夜労働では25%以上の割増率が法律で定められています。
1-1. 割増賃金の未払いは労働基準法違反
割増賃金の支払いは、労働基準法第37条によって定められている義務です。時間外労働や休日労働、深夜労働に対して割増賃金を支払わない場合、企業には「6ヵ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金」という罰則が科されるおそれがあります。
未払いが発覚した場合、労働基準監督署から指導や是正勧告を受けるほか、悪質なケースでは送検されることもあります。
さらに、従業員から訴訟を起こされるリスクもあり、敗訴すれば未払い分の遡及支払いが命じられます。訴訟や報道にまで発展すれば、企業の信用失墜や採用への悪影響など、経営全体に深刻な打撃を与えかねません。
こうしたリスクを避けるためにも、正しい労働時間の把握と、法定に沿った賃金計算が不可欠です。また、就業規則には割増賃金の計算方法や支給基準を明記し、従業員に対して周知しましょう。
なお、労働基準法第36条に基づく「36協定(時間外・休日労働に関する協定)」を締結し、労働基準監督署へ届出をしていなければ、そもそも従業員に時間外労働や休日労働をおこなわせることはできません。
また、原則の上限(月45時間・年360時間)を超えて時間外労働をさせる特別の事情がある場合は、36協定に「特別条項」を設けておく必要があります。36協定の届出や特別条項の定めを怠ると、法令違反となるため十分に注意しましょう。
関連記事:36協定とは?残業上限規制・特別条項や罰則、協定書の基本を解説
1-2. 労働基準法第41条で定められた労働者は対象外
すべての労働者が割増賃金の支払い対象となるわけではありません。労働基準法第41条では、次の労働者は割増賃金の適用除外とされています。
- 監督または管理の地位にある者(管理監督者)
- 機密の事務を取り扱う者
- 農業・畜産業・養蚕業・水産業に従事する者(林業を除く)
- 監視、または断続的労働に従事するもので、企業が行政官庁の許可を受けた者
これらは、業務の性質や勤務形態により、一般の労働時間制度の適用が困難であるとされている労働者です。
ただし、管理監督者であっても深夜労働に関してのみ、割増賃金の支払い義務があります。適用除外の範囲を正しく理解していなければ、思わぬ法令違反につながる可能性があるため注意しましょう。
2. 割増賃金の種類

割増賃金には、次の3種類があります。
- 時間外手当(残業手当)
- 休日手当
- 深夜手当
いずれも正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトを含むすべての労働者に適用されます。それぞれの労働時間帯や勤務条件によって割増率が異なるため、支払い基準の正しい理解が大切です。
2-1. 時間外手当(残業手当)
時間外手当とは、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて働いた場合に発生する割増賃金です。
労働基準法第37条では、時間外労働に対して通常の賃金の25%以上を上乗せして支払うことが義務付けられています。なお、月60時間を超える時間外労働については、さらに高い割増率として、50%以上が適用されます(中小企業にも2023年4月から適用)。
2-2. 休日手当
休日手当は、法定休日に勤務した場合に発生する割増賃金です。
労働基準法第35条では、企業は「毎週少なくとも1日、または4週に4日以上」の法定休日を設けることが義務付けられています。法定休日に従業員を勤務させた場合、通常の賃金の35%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
なお、会社が独自に定めた「所定休日(例:土曜日・祝日)」に勤務した場合は、法定休日とは異なり、時間外労働として25%の割増率が適用される点に注意が必要です。
2-3. 深夜手当
深夜手当とは、午後10時から翌朝5時までの時間帯に勤務した場合に発生する割増賃金です。
企業は深夜時間帯に勤務させた従業員に対し、通常の賃金の25%以上の割増率を上乗せして支払う必要があります。

なお、深夜手当は、日勤の従業員が残業によって深夜時間帯に差し掛かった場合だけでなく、夜勤や交替制勤務など、所定労働時間が深夜時間帯の者にも適用されます。
3. 割増賃金率の一覧

時間外手当・休日手当・深夜手当の割増賃金率は次のとおりです。
3-1. 時間外労働・60時間超の割増賃金率
| 種類 | 支払いの条件 | 割増率 |
| 時間外手当(法定外) | 1日8時間・週40時間を超過して働かせたとき | 25%以上 |
| 時間外労働が1ヵ月45時間を超過したとき | 25%以上 | |
| 時間外労働が1ヵ月60時間を超過したとき (中小企業にも2023年4月から適用) |
50%以上 | |
| 時間外手当(法定内) | 1日8時間・週40時間以内で、所定労働時間を超過して働かせたとき | 0%以上 |
関連記事:月60時間超残業の割増賃金率引き上げは中小企業も対象に!計算方法を解説
3-2. 休日労働の割増賃金率
| 種類 | 支払いの条件 | 割増率 |
| 休日手当 | 法定休日(週1日または4週4日)に働かせたとき | 35%以上 |
3-3. 深夜労働の割増賃金率
| 種類 | 支払いの条件 | 割増率 |
| 深夜手当 | 深夜時間帯(午後10時〜翌朝5時)に働かせたとき | 25%以上 |
3-4. 時間外労働と深夜労働が重複した場合の割増賃金率
| 手当が重複するケース | 適用される手当 | 合計割増率 |
| 時間外労働が深夜まで及んだ場合 | ・時間外手当:25%以上
・深夜手当:25%以上 |
50%以上 |
3-5. 休日労働と深夜労働が重複した場合の割増賃金率
| 手当が重複するケース | 適用される手当 | 合計割増率 |
| 法定休日の出勤で深夜に働かせた場合 | ・休日手当:35%以上
・深夜手当:25%以上 |
60%以上 |
注意すべきポイントは、時間外手当と休日手当は重複して支払われないという点です。
法定休日には「法定労働時間」という概念がありません。そのため、法定休日に出勤した場合は、労働時間が8時間以内でも、8時間を超過していても、割増率は一律で35%以上となります。
関連記事:時間外労働の割増率とは?計算方法と法改正で中小企業がとるべき対応を解説
4. 割増賃金の基礎となる賃金

割増賃金の計算にあたっては、「どの賃金を基礎にするか」を正確に把握しておく必要があります。基礎となる賃金を誤って設定すると、割増賃金の未払いにつながるおそれがあるため注意が必要です。
ここでは、割増賃金の基礎に除外される手当・除外されない手当について、それぞれ整理します。
4-1. 基礎となる賃金から除外される手当
割増賃金は、原則として「労働の対価として支払われる賃金」をもとに算出されます。ただし、次の7つの手当は、割増賃金の基礎となる対象から除外できます。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
これらが除外されるのは、個人の事情や臨時性に基づく支給であり、労働時間や仕事の成果とは直接の関係がないためです。
関連記事:割増賃金の基礎となる賃金とは?計算方法など労働基準法の規定から基本を解説
4-2. 基礎となる賃金から除外されない手当
割増賃金の基礎となる賃金から除外できる7つの手当は、例示ではなく限定列挙です。つまり、その他の手当は、すべて割増賃金を算出する基礎に含める必要があります。
割増賃金の基礎に含めるべき項目は、例えば次のようなものが挙げられます。
- 基本給
- 歩合給
- 役職手当
- 営業手当
- 職務手当
- 資格手当
- 精勤手当
- 皆勤手当
注意が必要なのは、「固定残業手当(固定残業代)」を導入している企業です。固定残業代は、あらかじめ一定時間墳の残業代を定額で支給する制度であり、原則として、割増賃金の基礎には含まれません。
ただし、企業が固定残業代に含まれる時間数や内訳を明確に定めていない場合、その金額が適正な残業代と認められず、割増賃金の未払いと判断されるリスクがあります。そのため、就業規則や賃金規程の中で、各手当の趣旨や支給基準を明確に記載し、誤解を招かないような周知が重要です。
5. 割増賃金の計算方法

割増賃金の計算は、次の手順で進めましょう。
- 1時間単位の賃金額を算出する
- 割増賃金の対象となる労働時間を数える
- 割増賃金を算出する
- 端数を処理する
具体例を挙げながら、計算方法を解説します。
5-1. 割増賃金の基礎となる1時間あたりの賃金を算出する
まずは、従業員の時給換算額(1時間あたりの賃金)を算出します。
「年間休日110日・1日8時間勤務・月給30万6,000円」の従業員の計算例は次のとおりです。
- 1ヵ月の労働時間=(365日−110日)÷12ヵ月×8時間=170時間
- 1時間単位の賃金額=30万6,000円÷170時間=1,800円
この従業員の1時間あたりの賃金額は、「1,800円」となります。所定労働時間や休日数は就業規則によって異なるため、実際の計算は自社の制度に合わせておこないましょう。
5-2. 割増賃金の対象となる労働時間を数える
続いて、割増賃金の対象となる労働時間を確認しましょう。割増率は、労働時間の種類(時間外・休日・深夜)によって異なるため、それぞれの時間を正確に把握することが重要です。
| 対象となる労働 | 詳細 |
| 時間外 | ・1日8時間・週40時間を超過した時間
・時間外労働が1ヵ月60時間を超過した時間 |
| 休日 | 法定休日(週1日または4週4日)における勤務時間 |
| 深夜 | 午後10時〜翌朝5時の時間帯における勤務時間 |
なお、「時間外かつ深夜」「休日かつ深夜」など、労働が重複する場合には、下図のように複数の割増が適用されます。

5-3. 割増賃金を計算する
割増賃金を算出する計算式は次のとおりです。
割増賃金=1時間あたりの賃金 × 残業・休日・深夜労働時間 × 割増率
例えば、1時間の賃金額が1,800円の従業員が、時間外に10時間働いた場合の割増賃金額は次のとおりです。
- 割増賃金=1,800円×10時間(法定外残業)×1.25(時間外労働の割増率)=2万2,500円
また、時間外労働が深夜まで及んだ場合は、時間外手当と深夜手当が重複します。時給1,800円の従業員が、時間外かつ深夜に5時間働いた場合の割増賃金額は次のとおりです。
- 割増賃金=1,800円×5時間(時間外かつ深夜の勤務時間)×1.5(時間外の割増率1.25+深夜の割増率0.25)=1万3,500円
時間帯や勤務の内容によっては、さらに休日手当と重複するケースもあります。
5-4. 端数を処理する
割増賃金の計算では、時間や金額に端数が生じる場合があります。次のような基準で処理することが、実務上定められています。「時間」「円」に端数が生じた場合は、次の方法で処理しましょう。
| 労働時間の端数処理(1ヵ月の時間外・休日・深夜労働のそれぞれの労働時間合計) | 30分未満は切り捨て、30分以上は1時間に切り上げ |
| 金額の端数処理(1時間あたりの賃金額・割増賃金額) | 50銭未満は切り捨て、50銭以上は1円に切り上げ |
| 金額の端数処理(1ヵ月あたりの時間外・休日・深夜労働のそれぞれの割増賃金総額) | 50銭未満は切り捨て、50銭以上は1円に切り上げ |
処理方法を誤ると過少支給につながるおそれがあります。就業規則や計算ロジックの確認を徹底しましょう。
6. 割増賃金を管理するために企業が講じるべき対策

割増賃金を適切に管理し、過重労働を防ぐためには、労働時間そのものを見直す取り組みが欠かせません。企業が実施できる代表的な対策として、次の2点が挙げられます。
- 代替休暇制度の活用
- 変形労働時間制やフレックスタイム制の導入
時間外労働・休日出勤・深夜勤務を減らすことは、従業員の健康維持に加え、生産性向上や人件費削減にもつながります。ここでは、それぞれの制度の詳細を見ていきましょう。
6-1. 代替休暇制度の活用
代替休暇制度とは、1ヵ月の時間外労働が60時間を超過した場合に、割増賃金の支払いに代えて休暇を付与できる制度です。長時間労働が発生した際に、従業員の健康確保を図りながら、企業の割増賃金負担を軽減できる点が特徴です。
代替休暇制度を導入する際は、過半数労働組合または過半数労働者代表との労使協定の締結が必要となります。また、休暇の取得単位・有効期間・管理方法などを明確に定め、就業規則に規定しておくことが重要です。
関連記事:従業員の残業を代休扱いにできる?法律に基づいた2つの条件
6-2. 変形労働時間制やフレックスタイム制の導入
変形労働時間制やフレックスタイム制は、繁忙期と閑散期の労働時間を調整し、無理のない働き方を実現できる制度です。導入することで、時間外労働を削減できる可能性があります。それぞれの特徴は、次のとおりです。
| 制度 | 特徴 |
| 変形労働時間制 |
|
| フレックスタイム制 |
|
自社の業種・勤務形態・繁閑の波を踏まえ、最も効果的な制度を選択・運用することがポイントです。制度導入時には、就業規則の整備や労使協定の締結など、必要な対応を忘れずにおこないましょう。
関連記事:変形労働制でも残業代は出さないとダメ!残業時間の計算ルールも解説
7. 割増賃金を適切に管理して企業の信頼性を高めよう

割増賃金を正しく支払うことは、法令遵守の基本であると同時に、企業への信頼を守るために欠かせません。未払いが発生すれば、罰金や遅延損害金などの金銭的負担に加え、従業員の不信感や企業イメージの低下にも悪影響を及ぼします。
従業員の勤務時間を適正に把握し、就業規則や36協定などの労務管理体制を定期的に見直すことで、トラブルを未然に防止しましょう。
従業員の多様な働き方が進む中、割増賃金の計算はますます複雑化しています。しかし割増賃金の計算ミスは、未払い賃金の請求といった経営リスクに直結するため、労務担当者は注意が必要です。
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