所得税が非課税対象となる世帯は?所得の種類や非課税所得も解説
更新日: 2025.6.11
公開日: 2025.5.29
jinjer Blog 編集部
「所得税が非課税対象となる世帯を知りたい」
「課税対象となる所得の種類や、控除制度について整理したい」
上記のようにお悩みの方も多いでしょう。
2025年の法改正により、所得税が非課税対象となる世帯年収は160万円以下に変更されました。制度の変更に伴い、企業や従業員が把握すべき税制のポイントも変化しています。
本記事は、所得税が非課税の対象となる世帯や税収の対象となる所得の種類、所得控除の種類や所得が非課税になるケースを解説します。
そのほかに、従業員が所得税の非課税対象世帯だった場合に企業が対応すべきことについても解説しているため、ぜひ参考にしてください。
目次
1. 所得税が非課税の対象となる世帯
2025年の法改正により、世帯年収が160万円以下の給与所得世帯は、所得税が非課税となる対象に追加されました。低所得世帯の支援を目的とした新たな施策です。
世帯年収とは、生計を同一とする家族全員の給与収入(年収)の合計額を指します。税金・社会保険料が引かれる前の金額が基準です。
法改正に伴う給与収入の所得税に関する以下の変更点について、詳しく解説します。
- 所得税が非課税対象となる年収160万の壁
- 年収200万円超えの所得税の基礎控除額
上記の各詳細について見ていきましょう。
1-1. 所得税が非課税対象となる年収160万の壁
年収160万の壁とは、給与所得者の給与収入に対して所得税が発生しない年収の上限額のことです。
給与の所得税の計算では、給与収入から基礎控除と給与所得控除などを差し引いた課税所得金額に税率をかけて算出します。
年収が160万円以下の場合、上記の控除の合計金額よりも給与収入が少なくなるため、課税所得金額は0円となり、所得税がかかりません。
法改正により控除額が変更されて合計額が変動した結果、年収103万円の壁が年収160万円の壁となりました。
法改正前 | 法改正後 | |
基礎控除額 | 48万円 | 95万円 |
給与所得控除の最低保障額 | 55万円 | 65万円 |
合計金額 | 103万円 | 160万円 |
ただし、年収200万円以下の世帯のみが非課税措置の対象となるため注意が必要です。
また、所得税とは別に、社会保険に関する「年収160万円の壁」や「130万円の壁」なども引き続き存在します。保険料の支払いや加入義務の発生に関係するため、あわせて確認しておきましょう。
1-2. 年収200万円超えの所得税の基礎控除額
2025年3月の法改正に伴い、年収200万円を超える給与所得者の基礎控除額が見直されました。対象となる年収帯ごとの控除額は以下のとおりです。
給与所得者の年収 | 基礎控除 |
200万円超え~475万円以下 | 88万円 |
475万円超え~665万円以下 | 68万円 |
665万円超え~850万円以下 | 63万円 |
今回の法改正では、従来の基礎控除額(58万円)に対し、最大95万円までの控除が適用される仕組みになっています。
ただし、2026年までの2年間限定で実施される「税負担軽減措置」による上乗せであり、恒久的な制度ではありません。
また、軽減措置は年収850万円以下の給与所得者が対象です。年収が850万円を超える場合には、上乗せ措置の適用はありません。
なお、給与所得控除額は年収に応じて増えていく仕組みです。
2. 税収の対象となる所得の種類
所得税法上、税収の対象となる所得は以下の10種類です。
利子所得 | 預貯金の利子や投資信託の収益の分配などに関する所得 |
配当所得 | 法人から受領する剰余金や収益の分配などに関する所得 |
不動産所得 | 不動産・土地の上の権利・船舶の貸付けなどに関する所得 |
事業所得 | 農業や製造業など各人が営む事業から生じる所得 |
給与所得 | 賃金や賞与など従業員が受領する給与に関する所得 |
退職所得 | 退職により勤務先から受領する退職手当や解雇予告手当などの所得 |
山林所得 | 立木や伐採木の譲渡などにより生じる所得 |
譲渡所得 | 土地や建物などの資産の譲渡により生じる所得 |
一時所得 | 労働や譲渡の対価ではなく、継続的な営利目的行為により生じる所得以外の一時的な所得 |
雑所得 | ほかの所得に該当しない所得 |
上記の所得には、それぞれ内容や計算方法が定められており、課税方法も異なります。
なお、所得税は個人が得た全所得に対して課税される仕組みです。税法上では、収入から必要経費を引いた金額を所得と定義しています。
3. 所得控除の種類
所得控除は全15種あり、以下の2タイプに大別されます。
タイプ | 概要 |
人的控除(8種類) | 扶養家族・配偶者・本人の状況に応じて適用される控除 |
物的控除(7種類) | 医療費・保険料・寄付金など納税者の支出に対する控除 |
これらの控除は、該当する条件を満たした場合に適用されます。全所得の合計金額から控除額の合計金額を差し引き、残った課税所得をもとに所得税額を算出する仕組みです。
上記の2タイプ別に、各控除の概要を見ていきましょう。
3-1. 人的控除(8種類)
人的控除に分類される所得控除は、以下の8種類です。いずれも配偶者・扶養親族・本人の属性など、家族構成や生活状況に応じて適用されます。
基礎控除 | 納税者の所得金額に応じた一定額の所得控除 |
配偶者控除 | 納税者に年間所得48万円以下の配偶者がいる場合の納税者の所得額・配偶者の年齢に応じた一定額の所得控除 |
配偶者特別控除 | 納税者に年間所得48万円超え133万円以下の配偶者がいる場合の配偶者の所得額に応じた一定額の所得控除 |
扶養控除 | 納税者に控除対象の扶養親族がいる場合の一定額の所得控除 |
障がい者控除 | 納税者や納税者と同一生計の配偶者・扶養親族が税法上の障害者に該当する場合の一定額の所得控除 |
寡婦控除 | 12月31日時点で納税者が寡婦に該当する場合の一定額の所得控除 |
ひとり親控除 | 12月31日時点にて納税者がひとり親である場合の一定額の所得控除 |
勤労学生控除 | 納税者が12月31日時点で勤労学生にあてはまる際の一定額の所得控除 |
所得控除はそれぞれ適用条件や所得額が異なるため、具体的な内容は制度ごとに確認することが大切です。
3-2. 物的控除(7種類)
物的控除に分類される所得控除には、以下の7種類があります。いずれも、納税者の支出に対して適用される控除です。
社会保険料控除 | 納税者が納めた本人や生計を一にする親族の社会保険料額の所得控除 |
生命保険料控除 | 納税者が支出した生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料に対する一定額の所得控除 |
地震保険料控除 | 納税者が損害保険契約の地震保険の保険料や掛金などを支払った場合の一定額の所得控除 |
小規模企業共済等掛金控除 | 法にもとづく共済契約において納税者が掛金として支出した支払金額についての所得控除 |
医療費控除 | 納税者や納税者と生計を一にする親族のために支払った年間医療費額が一定額を超える場合の支払医療費額にもとづく計算による算出金額の所得控除 |
雑損控除 | 災害・盗難・横領により損害を受けた対象資産に対する一定額の所得控除 |
寄附金控除 | 納税者の対象となる国・地方公共団体などへの寄附金に対する一定の所得控除 |
日本国内に住所がない非居住者は、適用される所得控除の種類が限られる場合があるため、手続きの際は注意しましょう。
4. 所得が非課税になるケース
原則として、すべての所得は所得税の課税対象となります。ただし、法律により課税が免除される「非課税所得」に該当する場合は、所得税がかかりません。
非課税所得にはさまざまな種類があります。給与・年金や利子、保険給付などに関連する、代表的な非課税所得は以下のとおりです。
区分 | 概要 |
給与・年金関連 | ・傷病者や遺族が受け取る恩給・遺族年金など
・旅費・通勤手当・現物給与(制服・社宅・食事代の補助など) ・海外勤務者に支払われる在外手当など |
利子関連 | ・勤労者財産形成住宅貯蓄の利子
・納税準備預金の利子 |
保険給付関連 | ・出産手当金
・傷病手当金 ・育児休業給付金 ・各種労災保険給付など |
これらの非課税所得は、所得金額の計算時に除外されます。申告や手続きのミスを防ぐためにも、制度を正しく理解しましょう。
5. 従業員が所得税の非課税対象世帯だった場合に企業が対応すべきこと
従業員が所得税の非課税対象世帯に該当する場合、企業が対応すべきことは、年末調整における提出書類の回収を徹底することです。
年末調整では、1年間の所得額にもとづいて実際の所得税額を算出します。
ただし、以下のような各種控除に関する申告書が未提出の場合、控除額が反映されず、課税所得が増えてしまう可能性があるため注意が必要です。
- 扶養控除確定申告書
- 基礎控除確定申告書
- 配偶者控除確定申告書
- 所得金額調整控除確定申告書
- 保険料控除確定申告書
世帯年収160万円以下であっても、控除が反映されなければ非課税対象から外れてしまう恐れがあるため、確実な書類回収と確認が重要です。
また、年度の途中で入社した従業員の場合は、前職の「源泉徴収票」の提出も必要です。
6. 非課税対象の所得を理解して手続きを進めよう!
2025年の法改正により、所得税が非課税対象となる世帯年収が160万円以下に変更されました。従って、従来「年収103万円の壁」と呼ばれていた基準も、「年収160万円の壁」へと移行しています。
非課税制度を正しく理解するためには、課税される所得の種類や、課税されない非課税所得の内容をそれぞれ把握しておきましょう。控除額を差し引ける所得控除の種類や内容についても、理解しておくことが重要です。
本記事で紹介した「年末調整における企業の対応」なども参考にしつつ、非課税対象の所得を十分に理解した上で手続きを進めてください。
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