労働保険の加入条件・成立手続き・年度更新と計算方法をわかりやすく解説
更新日: 2026.2.27 公開日: 2025.9.5 jinjer Blog 編集部
労働保険は、労災保険と雇用保険の総称であり、原則、労働者を一人でも雇用する事業所に加入が義務付けられています。しかし、従業員の入退社や多様な雇用形態、頻繁な法改正により、その手続きは年々複雑化しています。
この記事では、労働保険の加入条件・成立手続きから、年度更新の具体的な計算方法、実務上の注意点まで、担当者が押さえるべきポイントをわかりやすく解説します。
目次
従業員の入退社、多様な雇用形態、そして相次ぐ法改正。社会保険手続きは年々複雑になり、担当者の負担は増すばかりです。
「これで合っているだろうか?」と不安になる瞬間もあるのではないでしょうか。
とくに、加入条件の適用拡大は2027年以降も段階的に実施されます。
◆この資料でわかること
- 最新の法改正に対応した、社会保険手続きのポイント
- 従業員の入退社時に必要な手続きと書類の一覧
- 複雑な加入条件をわかりやすく整理した解説
- 年金制度改正法成立によって、社会保険の適用条件はどう変わる?
この一冊で、担当者が押さえておくべき最新情報を網羅的に確認できます。煩雑な業務の効率化にぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 労働保険とは


労働保険とは労働者災害補償保険と雇用保険の総称です。制度の内容や目的は両保険で異なりますが、保険料の納付などは一体のものとして取り扱われています。
まずは労災保険と雇用保険の概要を確認しましょう。
1-1. 労災保険(労働者災害補償保険)
労災保険は、労働者が業務上の事由や通勤が原因で負傷した場合、病気になった場合、亡くなった場合に被災労働者や遺族を保護するための保険給付をおこなう制度です。労災が生じれば、次の図の給付がなされます。
労災保険料は全額事業主が負担します。そのため、従業員の給与から保険料を徴収しないよう注意が必要です。
関連記事:労災保険料とは?計算方法や保険料率、注意点などを解説
1-2. 雇用保険
雇用保険は労働者が失業した場合や働き続けるのが難しくなった場合に、労働者の経済的な支援や雇用の安定を図るとともに、再就職を促進するため必要な給付をおこなう制度です。失業の予防、労働者の能力の開発や向上などの事業もおこなっています。
雇用保険料は、労災保険料と違い、労使で負担し合います。そのため、従業員の給与から労働者負担分の雇用保険料の徴収が必要となります。
関連記事:雇用保険料の計算方法は?保険加入後の計算時期や計算するときの注意点
2. 労働保険の適用対象者・加入条件


同じ労働保険でも、労災保険と雇用保険では対象となる事業や労働者が異なります。それぞれ違いを確認しましょう。
| 労災保険 | 雇用保険 | |
| 事業所の要件 | 次のいずれかに当てはまる暫定任意適用事業所以外は強制加入
※法人の場合は強制加入 |
次の3点すべてに当てはまる暫定任意適用事業所は強制加入
|
| 被保険者の要件 | なし(事業所で働く労働者全員が対象) |
※2028年10月1日から週所定労働時間10時間以上に改正予定 |
参考:雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要|厚生労働省
2-1. 労災保険
労災保険は、事業主が自由に加入を選べる制度ではありません。労働者を1人でも雇用している事業所は、暫定任意適用事業所を除き、必ず加入する必要があります。加入した事業所で働く労働者は、雇用形態にかかわらず労災保険の給付を受けられます。
ここでいう労働者とは、職種に関係なく事業に使用され、賃金が支払われる人のことです。正社員や契約社員、パート・アルバイトのほか、派遣や出向で働く人も含まれます。
参考:労働保険の適用単位と対象となる労働者の範囲|厚生労働省
2-1-1. 労災保険の特別加入制度
労災保険の特別加入とは、中小企業の事業主や自営業者など、通常は労災保険に加入できない人が加入できる制度です。特別加入には次の4種類があります。
- 中小事業主など
- 一人親方・その他の自営業者
- 特定作業従事者
- 海外派遣者
一人親方やその他自営業者、特定作業従事者は加入可能な業種が限定されていますが、対象業種は年々拡大しています。直近では、2024年11月に企業から業務委託を受けるフリーランスも特別加入の対象に加わりました。今後も対象者の範囲が拡大することが見込まれます。
なお、特別加入者が労災給付を受ける際には、企業による事故状況の証明が必要です。人事担当者として対応が求められるケースが増える可能性があるため、制度改正には注意しておくことが重要です。
2-2. 雇用保険
雇用保険への加入には、まず事業所としての要件を満たす必要があります。具体的には、暫定任意適用事業所に該当せず、かつ雇用保険の対象となる労働者を新たに雇用した事業所は、必ず加入しなければなりません。
さらに、労災保険とは異なり、労働者一人ひとりが加入要件を満たしているかの確認も必要です。加入要件は主に次の通りです。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上雇用される見込みがあること
事業所が加入していても、要件を満たさない労働者は被保険者になれず、給付を受けることはできません。
例えば、週3日・1日6時間勤務のアルバイトは、週の所定労働時間が18時間のため被保険者には該当しません。一方、週4日・1日6時間勤務の場合は週24時間勤務となり、被保険者として加入できます。
つまり、非正規雇用の労働者であっても、条件を満たせば雇用保険の対象となるので、全員が対象外になるわけではありません。雇用契約の内容を正確に確認することが重要です。
参考:雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!|厚生労働省
関連記事:雇用保険とは?パート・アルバイトの加入適用や給付内容についてわかりやすく解説
3. 労働保険の成立・加入手続き


労働保険(労災保険および雇用保険)は、事業を営む場合、労働者を雇用した時点で原則として加入が義務付けられています。ここでは、事業の種類に応じた手続きと従業員の加入方法について説明します。
3-1. 一元適用事業(多くの事業が対象)
一元適用事業とは、二元適用事業に該当しない多くの事業を指します。一元適用事業では、労災保険と雇用保険の手続きをまとめておこないます。
一元適用事業における、労働保険の加入手続きの流れは次の通りです。
- まず、労働基準監督署に「保険関係成立届」を提出します。
- 続いて、労働基準監督署(都道府県労働局などでも可)に「概算保険料申告書」を提出します。
- さらに、公共職業安定所(ハローワーク)には「雇用保険適用事業所設置届」を提出します。
関連記事:労働保険の保険関係成立届とは?書き方など手続きを詳しく解説
3-2. 二元適用事業(農林水産業や建設業など)
二元適用事業とは、労災保険と雇用保険の保険関係を別々に取り扱う事業を指します。主な対象事業は次の通りです。
- 都道府県・市町村がおこなう事業等
- 港湾運送事業
- 農林水産業
- 建設業
二元適用事業では、労災保険と雇用保険で保険関係をそれぞれ成立させる必要があるため、「保険関係成立届」と「概算保険料申告書」は労災保険用と雇用保険用に分けて別々に提出しなければなりません。詳しい加入手続きについては、次の関連記事をご覧ください。
関連記事:労働保険の加入手続き方法を徹底解説!加入条件や計算方法まで
3-3. 従業員の雇用保険の加入手続き
雇用保険に関しては、従業員一人ひとりの加入条件を確認して、被保険者としての資格を取得する手続きをしなければなりません。
具体的には、資格取得の事実があった日の翌月10日までに、所轄ハローワークへ「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要があります。
また、雇用保険の加入条件を満たさなくなったときは、被保険者でなくなった日の翌日から10日以内に、所轄ハローワークへ「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出する必要もあるので注意しましょう。
関連記事:雇用保険被保険者資格取得届とは?書き方や提出先・提出方法をわかりやすく解説!
4. 労働保険料の年度更新と計算方法


年度更新とは、1年間の労働保険料を申告・納付する手続きです。毎月納付する健康保険料などと異なり、労働保険では独自の仕組みで保険料の申告・納付をおこないます。
年度更新スケジュールや計算方法、申告書の作成方法を確認しましょう。
関連記事:労働保険の年度更新とは?提出期限や電子申請手続きのやり方をわかりやすく解説!
4-1. 年度更新とスケジュール
年度更新とは、4月から翌年3月の1年間を年度として労働保険料を計算・申告し納付する手続きです。労働保険では企業や政府の事務手続きの合理化や簡略化を図るため、労災保険と雇用保険の保険料を年に1度まとめて申告し、納付する仕組みを取っています。
年度更新では前年4月から3月までの保険料(確定保険料)を計算し、その年の4月から翌年3月までの1年間の保険料(概算保険料)と一緒に納めるサイクルを繰り返します。
年度更新の申告期間は毎年6月1日から7月10日です。1年分の賃金を集計する必要があり、作業に時間がかかるため、期限に間に合うよう計画的に手続きを進める必要があります。
4-2. 労働保険料の計算方法
労働保険料は次の3つの合計額です。
- 労災保険料:労災保険の対象者の賃金総額×労災保険率
- 雇用保険料:雇用保険の被保険者の賃金総額×雇用保険料率
- 一般拠出金(※):労災保険の対象者の賃金総額×0.02/1,000(一般拠出金)
※「石綿による健康被害の救済に関する法律」にもとづく、アスベスト被害者救済のための負担金
確定保険料と概算保険料で計算式に違いはなく、確定保険料の賃金総額は1年間の実績を、概算保険料は申告時点の見込みの賃金総額を用いて計算します。
ただし、概算保険料の賃金の見込額が前年度と比較して1/2以上2倍以下の場合は、確定保険料の賃金総額と同額を見込額とします。大きな組織改編などがない限り、ほとんどの企業では同額で申告することになるでしょう。
賃金総額は労働者に支給した給与・賞与を全額計上するわけではありません。支給の性質を踏まえ、賃金に含めるものと含めないものを厚生労働省が例示しています。
| 賃金に含めるもの | 賃金に含めないもの | ||||||
| 基本賃金 | 時間給・日給・月給、臨時・日雇労働者・パート・アルバイトに支払う賃金 | 役員報酬 | 取締役などに対して支払う報酬 | ||||
| 賞与 | 夏季・年末などに支払うボーナス | 結婚祝金
死亡弔慰金 災害見舞金 年功慰労金 勤続褒賞金 退職金 |
労働協約・就業規則などの定めの有無を問わない | ||||
| 通勤手当 | 課税分、非課税分を問わない | 出張旅費
宿泊費 赴任手当 |
実費弁償にあたるもの | ||||
| 定期券・回数券 | 通勤のための現物給与 | ||||||
| 超過勤務手当
深夜手当など |
通常の勤務時間以外の労働に対して支払う残業手当など | 工具手当
寝具手当 |
労働者が自己負担で用意した用具に支払われる手当 | ||||
| 扶養手当
子供手当 家族手当 |
労働者本人以外の者に支払う手当 | 休業補償費 | 労働基準法第76条の規定に基づく費用
(法定額60%を上回った差額分を含む) |
||||
| 傷病手当金 | 健康保険法第99条の規定に基づく費用 | ||||||
| 技能手当
特殊作業手当 教育手当 |
労働者個々の能力、資格に対して支払う手当や、特殊な作業に就いた場合に支払う手当 | 解雇予告手当 | 労働基準法第20条に基づいて労働者を解雇する際、解雇日の30日以前に予告をせず解雇する場合に支払う手当 | ||||
| 在宅勤務手当 | 在宅勤務をおこなうことのみを要件として、就業規則などの定めに基づき定額で支払う手当 | ||||||
| 調整手当 | 配置転換・初任給などの調整手当 | 財産形成貯蓄などのため事業主が奨励する奨励金 | 勤労者財産形成促進法に基づく勤労者の財産形成貯蓄を援助するために事業主が一定の額や率の奨励金を支払う場合
(持株奨励金など) |
||||
| 地域手当 | 寒冷地手当・地方手当・単身赴任手当など | 企業が全額負担する生命保険の掛け金 | 労働者を被保険者として保険会社と生命保険等厚生保険の契約をし、事業主が保険料を全額負担するもの | ||||
| 住宅手当 | 家賃補助のために支払う手当 | 持家奨励金 | 労働者が持家取得のため融資を受けている場合で事業主が一定の率や額の持家補給金などを支払う場合 | ||||
| 奨励手当 | 精勤手当・皆勤手当など | 住宅の貸与を受ける利益(福利厚生施設として認められるもの) | 住宅貸与されない者全員に対し(住宅)均衡手当を支給している場合は、賃金となる場合がある | ||||
| 休業手当 | 労働基準法第26条に基づき、事業主の責に帰すべき事由により支払う手当 | ||||||
| 宿直・日直手当 | 宿直・日直などの手当 | ||||||
| 雇用保険料
社会保険料など |
労働者の負担分を事業主が負担する場合 | ||||||
| 昇給差額 | 在職中に支払いが確定したものを離職後に支払われた場合を含む | ||||||
| 前払い退職金 | 支給基準、支給額が明確な場合は原則として含む | ||||||
| 社会保険適用促進手当 | 短時間労働者への社会保険の適用を促進するため、労働者が社会保険に加入するにあたり、事業主が労働者の保険料負担を軽減するために支給するもの | ||||||
| その他 | 労働協約、就業規則、労働契約、労使協定(休業協定)などによってあらかじめ支給条件が明確にされたもの | ||||||
引用:令和7年度事業主の皆様へ(継続事業用)労働保険年度更新申告書の書き方|厚生労働省
労働保険料率は労災保険と雇用保険で異なります。料率は送付される申告書に記載があるほか、厚生労働省のホームページでも確認可能です。
労災保険は業種によって細かく保険料率が異なっています。工場と営業所など、同じ企業でも事業所によって業種や保険料率が異なる場合があるため注意しましょう。
関連記事:労働保険料とは?計算方法や納付方法を解説
4-3. 労働保険料申告書の作成・提出方法
労働保険料の申告書は労働局から事業所の情報が印字されている状態で送られてくるほか、労働基準監督署でも白紙の様式を入手可能です。厚生労働省のホームページにも様式が掲載されているため、印刷して使用することもできます。
様式自体が変わることはほとんどありませんが、労働保険料率は年によって変動があります。労働局から送付される申告書には労働保険料率も印字されているため、必ず最新のものを使いましょう。
申告書の提出には3つ方法があります。
- 電子申請
電子申請はe-Gov(イーガブ)というシステムを使っておこないます。e-Govとはデジタル庁が運営する行政向けの電子申請窓口です。
電子申請を使えば書き損じの心配がなく、郵送費や時間がかからないなどのメリットがあります。 - 郵送
郵送の場合は管轄の労働局へ送付します。受付印が押印された控えが必要な場合は、事業所控分の申告書と返信用封筒を同封しましょう。
- 窓口
窓口提出の場合、次のいずれかに持ち込みます。- 金融機関
- 管轄の労働局
- 管轄の労働基準監督署
- 社会保険・労働保険徴収事務センター(年金事務所内)
受付印が押印された控えがすぐに必要な場合には、労働局や労働基準監督署、社会保険・労働保険徴収事務センターの窓口へ持参するのが最も確実です。
関連記事:e-Gov(イーガブ)とは?知っておくべき電子申請義務化と使い方を解説
4-4. 労働保険料の納付方法(口座振替)
申告書を提出したら、期日までに保険料を納付します。納付方法は次の3つです。
- 金融機関窓口
申告書と納付書を金融機関に持ち込み、窓口で振込みます。 - 電子納付
労働保険料申告書を電子申請で提出した場合に選択可能です。利用している金融機関のインターネットバンキングから納付するか、Pay-easy(ペイジー)に対応しているATMから納付できます。 - 口座振替
銀行口座を登録し、期日がきたら自動で引き落とされる方法です。窓口へ行く必要がなく、納付忘れの心配もありません。現金納付の期限よりも引き落とし日が遅いため、資金繰りの面でも有利です。
事前に申し込みが必要な点や、引き落とし日に納付額を口座に入金しておく必要がある点には注意しましょう。入金額不足で納付ができなかった場合、金融機関窓口で納付し直す必要があります。
4-5. 労働保険料の分割納付
労働保険料は原則として1年分をまとめて支払う必要がありますが、概算保険料が40万円以上であるなど要件を満たす場合に7月10日、10月末、1月末の3回に分けて納付する「延納制度」が利用できます。
延納制度を利用した場合の2025年度のスケジュールは次の表のとおりです。
| 第1期 | 第2期 | 第3期 | |
| 通常の納期限 | 7月10日 | 10月31日 | 2月2日 |
| 口座振替による納付日
(引き落とし日) |
9月8日 | 11月14日 | 2月16日 |
| 口座振替の申込締切日 | 2024年2月25日 | 8月14日 | 10月14日 |
延納は1度に労働保険料を支払わなくて済むため資金面で有利なうえ、手数料もかかりません。ただし、第2期・第3期の納付期限を忘れないよう注意が必要です。
労働保険料の申告は人事担当が、納付は経理担当がおこなうなど担当が分かれている場合は、企業内の連絡・調整やスケジュール管理に気をつける必要があります。
5. 労働保険の適用や年度更新の注意点


5-1. 労災保険率・雇用保険料率は毎年改定される可能性がある
労災保険率や雇用保険料率は、経済情勢や保険制度の財政状況などを踏まえ、毎年度見直される可能性があります。
2025年度の雇用保険料率は、2024年度から0.1%引き下げられ、一般の事業では14.5/1,000となりました。さらに、2026年度についても、2年連続で0.1%の引き下げがおこなわれる見通しとなっています。
参考:雇用保険料2年連続下げ 26年度1.35%、厚労省部会了承|日本経済新聞
一方、2025年度の労災保険率は、2024年度から変更されていません。労災保険率は、業種ごとの過去3年間の労働災害の発生状況や給付実績などをもとに、原則として3年ごとに見直される仕組みです。直近の改定は2024年度におこなわれているため、次回の見直しは2027年度の予定となっています。
参考:令和7年度の労災保険率について(令和6年度から変更ありません)|厚生労働省
このように保険料率は定期的に改定されるため、古い料率で計算すると、保険料の過不足が生じるおそれがあります。実務にあたっては、厚生労働省や所轄の労働基準監督署、ハローワークが公表する最新情報を必ず確認し、最新の保険料率を用いて計算することが重要です。
5-2. 年度更新の賃金総額の集計誤りに気を付ける
年度更新で最も誤りが生じやすいのが「賃金総額」の算定です。賃金総額には、正社員に限らず、パートやアルバイトを含むすべての労働者に支払った賃金が含まれます。年度の途中で退職した人であっても、その年度内に賃金を支給していれば集計の対象です。
また、労働保険における賃金は「実際に支払った日」ではなく「発生した月」を基準に計上します。例えば、残業代を翌月に支給する場合でも、残業をおこなった月の賃金としてさかのぼって計上する必要があります。ここを誤ると、年度をまたいだ計上漏れや二重計上が起こりやすくなるため注意が必要です。
さらに、各種手当が賃金総額に含まれるかどうかの確認も欠かせません。通勤手当は非課税部分を含めて全額が賃金に該当しますが、出張旅費などの実費精算は賃金には含まれません。
ペット手当のように一般的でない手当については、支給の趣旨や実態を踏まえて賃金に該当するかを判断する必要があります。判断に迷う場合は、管轄の労働局や社会保険労務士などの専門家に相談すると安心です。
参考:労働保険料の申告について~適正な申告をお願いします~【労働保険徴収課】|厚生労働省
5-3. 過去の申告状況も適切に管理しておく
過去の書類の不備にも注意が必要です。以前の申告書の控えが見つからないと、労働保険番号や前年度の申告内容がわかりません。
申告書に記入する情報を探したり、集計方法を改めて確認したりと、年度更新の作業がスムーズに進まない可能性があります。
労働基準監督署の調査では、労働保険料の申告・納付状況も確認されます。必要書類がすぐに提示できないと調査の対応に時間を取られるだけでなく、指摘につながる場合もあるでしょう。
原本をファイリングしておく、スキャンデータを残しておくなど、申告書や納付書の控えはすぐ取り出せる状態で保管しましょう。
6. 労働保険の手続きを誤った場合に企業が負う主なリスク


6-1. 成立手続きを怠ると追徴金や労災給付費用の徴収が生じるおそれがある
労働保険は、事業主が所定の手続きを適切におこなうことで効力を持ちます。しかし、成立手続きを怠ると、労働保険は正式に適用されません。
成立手続をおこなうよう指導を受けたにもかかわらず手続きをおこなわない事業主には、行政庁が職権で成立手続を実施し、労働保険料を認定決定することがあります。この場合、過去に遡って労働保険料が徴収されるほか、追徴金(10%)も加えて請求されます。
さらに、事業主が故意または重大な過失により労災保険の保険関係成立届を提出していない期間中に労働災害が発生し、労災保険給付がおこなわれた場合、その給付にかかった費用の全部または一部が事業主に請求されるおそれがあるのです。
このようなリスクを避けるため、従業員を一人でも雇用した場合は、速やかに手続きをおこないましょう。
6-2. 雇用保険の加入対象者を見誤ると従業員トラブルにつながる
雇用保険の加入対象は、労働時間や雇用形態によって決まります。対象となる従業員を誤って加入手続きをおこなわなかった場合、失業手当など必要な給付が受けられず、従業員から損害賠償を請求されるなど、トラブルにつながるリスクがあります。
加入条件を満たす場合、雇用保険は正社員だけでなく、パート・アルバイト・契約社員も対象となります。条件を正しく理解し、適切に手続きをおこないましょう。
6-3. 労働保険料の計算ミスは追加納付を招く可能性がある
労働保険料は、賃金総額や保険料率を正確に把握し、適切に計算する必要があります。計算方法が複雑なため、算定を誤りやすい点には注意が必要です。
万が一、保険料を過少申告していた場合には、後日、不足分の追加納付を求められることがあります。この場合、本来の納付期限を過ぎて支払うことになるので、延滞金が課されるおそれもあります。
こうしたリスクを防ぐためにも、日頃から給与や労働時間に関するデータを正確に管理することが重要です。また、制度改正や保険料率の変更についても定期的に確認し、適正な労働保険料の申告・納付を心がけましょう。
6-4. 悪質と判断されると法令に基づく罰則が課されるリスクもある
労働保険の成立手続きや労働保険料の申告・納付は、労働保険徴収法により事業主に義務付けられています。これらの手続きを意図的におこなわなかったり、保険料を未納のまま放置したりした場合には、悪質と判断され、行政指導の対象となる可能性があります。
行政庁から報告や関係書類の提出を求められたにもかかわらず、これに応じない、または虚偽の報告・提出をおこなった場合には、労働保険徴収法第46条に基づき、6ヵ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が課されるおそれもあるのです。
このように、行政指導や刑事罰の対象となれば、企業の信用低下や経営リスクに直結します。そのため、日頃から労働保険に関する手続きを適切に管理し、法令を遵守する体制を整備することが重要です。
参考:労働保険の保険料の徴収等に関する法律第42条、第46条|e-Gov法令検索
7. 労働保険の申告・納付を効率化する方法


7-1. いつまでに何をすべきか社内マニュアルにまとめておく
労働保険料の申告・納付に関する期限や必要書類、担当者ごとの役割を社内マニュアルとして整理しておくことで、手続き漏れの防止につながります。
例えば、年度更新や新規加入手続き、離職者に関する各種届出などのスケジュールをカレンダーで管理し、期限の2~3週間前に担当者へ通知が届く仕組みを整えると安心です。
マニュアルを整備しておけば、担当者の異動や交代があった場合でも、手続きの流れを継続的に維持できます。
また、労働保険料の申告・納付手続きや保険料率、提出様式は改定されることがあります。そのため、厚生労働省が毎年公表する最新の手引きや案内を確認し、最新の内容に基づいて手続きを進めることが重要です。
参考:令和7年度事業主の皆様へ(継続事業用)労働保険年度更新申告書の書き方|厚生労働省
7-2. 電子申請(e-Gov)を活用する
労働保険料の申告は、窓口への持参や郵送だけでなく、政府の電子申請システムであるe-Govを利用しておこなうことも可能です。e-Govを活用すれば、24時間いつでも申告手続きができ、書類作成や提出にかかる時間や手間を削減できます。
さらに、Pay-easy(ペイジー)対応のインターネットバンキングを利用した電子納付を併用すれば、申告から保険料の納付までをすべてオンライン上で完結させられます。金融機関の窓口へ出向く必要がないので、業務効率化や担当者の負担軽減につながるでしょう。
なお、特定法人(資本金1億円を超える法人など)については、「年度更新申告書」および「増加概算保険料申告書」の電子申請が義務付けられているため注意しましょう。
参考:2020年4月から特定の法人について電子申請が義務化されます。|厚生労働省
7-3. 労務管理システムを導入する
従業員情報や給与情報を一元管理できる労務管理システムを導入すれば、労働保険料の計算や申告書の作成を効率的に自動化できます。
多くのシステムでは、入社・退職に伴う加入者・離職者の管理をはじめ、最新の保険料率に基づいた保険料の自動計算、さらには電子申請に対応したデータの出力まで一貫しておこなうことが可能です。
その結果、手作業による計算ミスや申告漏れといった人的ミスの防止につながるだけでなく、担当者の業務負担を大幅に軽減し、作業時間の短縮も期待できます。また、勤怠管理システムや給与計算ソフトと正確に連携させれば、より正確でスムーズな労働保険手続きを実現できるでしょう。
7-4. 社労士・外部専門家に一部アウトソースする
労働保険料の複雑な計算や煩雑な手続きに不安がある場合は、社会保険労務士(社労士)などの外部専門家に一部業務を委託する方法も有効です。
例えば、労働保険の年度更新における賃金集計や保険料計算、申告書の作成・提出代行、さらには頻繁におこなわれる法改正への対応までをアウトソーシングすれば、担当者の負担を大幅に軽減できます。
また、専門家に任せることで、制度解釈の誤りや計算ミス、提出期限の失念といったリスクを防ぎやすくなり、結果としてコンプライアンス体制の強化にもつながります。
社内に十分な知識や経験が蓄積されていない場合や、少人数体制で労務管理をおこなっている企業にとっては、特に有効な選択肢といえるでしょう。
委託には一定の費用が発生しますが、追徴金や延滞金、行政指導といったトラブルを未然に防げることを考えると、長期的にはコストパフォーマンスの高い投資と評価できる場合も少なくありません。
8. 労働保険のよくある質問


最後に労働保険のよくある質問と回答をいくつか紹介します。
8-1. 労働保険番号と雇用保険適用事業者番号とは何ですか?
労働保険番号は年度更新の申告や労災保険の手続きに、雇用保険適用事業者番号は雇用保険の手続きに必要な番号です。違いを次の表にまとめました。
| 比較項目 | 労働保険番号 | 雇用保険適用事業者番号 |
| 用途 | 年度更新の申告や労災保険の手続き | 雇用保険の手続き |
| 付与単位 | 事業所単位 | 事業所単位 |
| 桁数 | 11桁または14桁 | 11桁 |
| 確認方法 | 加入時の会員証や年度更新の申告書の控えに記載 | 適用事業所設置届の控えや被保険者資格取得時等確認通知書に記載 |
関連記事:労働保険番号とは?確認方法や項目の意味など基本知識を解説
8-2. 労働保険料の計算ツールはありますか?
厚生労働省が年度更新申告書計算支援ツールを提供しています。次のリンクからダウンロードできます。
参考:主要様式ダウンロードコーナー(労働保険適用・徴収関係主要様式)|厚生労働省
支援ツールは毎年新しいものを使いましょう。労働保険料率が変更されると、前年度以前のツールでは変更後の料率での計算ができず、誤りの原因となります。
ツールには申告書のイメージシートがありますが、このシートを印刷しても申告書として使うことはできません。計算ツールは補助として使い、計算後は実際の申告書や電子申請の入力項目へ転記しましょう。
8-3. 令和7年度の労働保険料率は?
労働保険料率は年によって見直される場合があります。見直されるタイミングは原則として労災保険率が3年に1度、雇用保険料率が1年に1度です。
令和7年(2025)年度は次の表のとおり、雇用保険料率が見直されています。
なお、令和8(2026)年度の雇用保険料率も2年連続で0.1%引き下げられる見通しです。
参考:雇用保険料2年連続下げ 26年度1.35%、厚労省部会了承|日本経済新聞
労災保険率は業種によって細かく分かれています。令和7(2025)年度の労災保険率は前年度からの変更はありません。直近では令和6(2024)年度に見直されたため、次回は令和9(2027)年度に改定されることが予測されます。
9. 労働保険の手続きと年度更新をマスターしよう


労働保険(労災保険・雇用保険)の手続きは、人事担当者の重要な業務です。
特に年度更新は確定保険料と概算保険料を申告・納付する労働保険特有の制度であり、正しく処理するには制度への正確な理解が必要になります。年度更新で計算ミスや手続き漏れがあると、延滞金や追徴金が課される場合もあるため、注意が必要です。
労働保険や年度更新の理解を深め、効率よく正確に手続きを進めましょう。
関連記事:労働者災害補償保険法とは?対象や給付金をわかりやすく解説



従業員の入退社、多様な雇用形態、そして相次ぐ法改正。社会保険手続きは年々複雑になり、担当者の負担は増すばかりです。
「これで合っているだろうか?」と不安になる瞬間もあるのではないでしょうか。
とくに、加入条件の適用拡大は2027年以降も段階的に実施されます。
◆この資料でわかること
- 最新の法改正に対応した、社会保険手続きのポイント
- 従業員の入退社時に必要な手続きと書類の一覧
- 複雑な加入条件をわかりやすく整理した解説
- 年金制度改正法成立によって、社会保険の適用条件はどう変わる?
この一冊で、担当者が押さえておくべき最新情報を網羅的に確認できます。煩雑な業務の効率化にぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
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