残業手当とは?割増率や計算方法、残業代の未払い発生時の対応を解説
更新日: 2025.12.16 公開日: 2022.3.4 (特定社会保険労務士)

企業にとって残業手当(残業代)を適切に計算し、正しい給与計算をおこなうことは欠かせません。万が一、残業代の未払いが発生した場合に備えて、対処法や放置してはならない理由も知っておくと安心でしょう。
この記事では、残業手当の割増率、法定内残業・法定外残業の違い、36協定の重要性など基本となる考え方を説明した後、残業手当の計算方法、未払い発生時の対応について解説します。
目次
残業時間の管理や残業代の計算では、労働基準法で「時間外労働」と定められている時間を理解し、従業員がどれくらい残業したかを正確に把握する必要があります。
しかし、どの部分が割増にあたるかを正確に理解するのは、意外に難しいものです。
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1. 残業手当とは?


残業手当とは、法定で定められた労働時間や休日を超える労働が発生した従業員に対し、企業が支払わなければならない割増賃金のことです。残業手当の支給義務は、労働基準法によって次のように明確に定められています。
【労働基準法】
- 第32条:使用者は、労働者に、1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならない
- 第35条:使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1日、または4週間を通じ4日以上の休日を与えなければならない
- 第37条第1項:法定労働時間を超えて労働させた場合は、通常賃金の「25%以上」の割増賃金を支払わなければならない。法定休日に労働させた場合は、通常賃金の「35%以上」の割増賃金を支払わなければならない
- 第37条第4項:深夜(22時〜翌朝5時)に労働させた場合は、通常賃金の「25%以上」の割増賃金を支払わなければならない
参考:労働基準法|e-Gov法令検索
参考:労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令|e-Gov法令検索
ここでは、どのような条件下で残業手当が発生するのか、詳しく確認していきましょう。
1-1. 残業手当が発生する条件
残業手当が発生するのは、労働基準法第32条に定める法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働した場合です。この範囲内で収まっている労働については、法律上、残業手当の支給義務はありません(ただし、法定時間内の残業についても割増賃金を支払うことを就業規則に定めている場合は除く)。
企業は、法定労働時間を超えて従業員を労働させた場合には、労働基準法第37条に基づき、通常の賃金に加えて「25%以上」の割増賃金を支払わなければなりません。
1-2. 法定内残業と法定外残業
残業手当を正しく理解するためには、「法定内残業」と「法定外残業」を区別して考える必要があります。どちらも所定労働時間を超える労働という点では同じですが、法定労働時間を超えたかどうかによって、企業に課される割増賃金の支払い義務が大きく変わります。
1-2-1. 法定内残業
企業が独自に定めた「所定労働時間」を超えるものの、法定労働時間(1日8時間・週40時間)の範囲に収まる労働を指します。
- 【例】定時9:00~17:00(所定労働時間7時間)の企業で、9:00~18:00まで勤務した場合
- 17:00~18:00は定時を超過しているため残業時間ではありますが、1日8時間以内に収まっているため「法定内残業」に該当し、労働基準法上の割増賃金支払義務はありません。
ただし、就業規則や労働契約で「法定内残業にも割増賃金を支払う」と定めている場合は、その企業ルールが優先されます。
1-2-2. 法定外残業
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働を指します。前述のとおり、労働基準法第37条に基づき、通常の賃金の「25%以上」の割増賃金の支払いが法律で義務づけられています。
1-3. 残業手当が発生する際の割増率の種類
残業手当が発生する割増率の種類は次のとおりです。法定労働時間や法定休日を超えた労働、深夜労働に対して適用される割増率を確認しましょう。
|
労働の種類 |
割増率 |
根拠条文 |
|
法定外残業(法定労働時間を超える残業) |
25%以上 |
|
|
月60時間を超える法定外残業 |
50%以上 |
|
|
法定休日労働 |
35%以上 |
|
|
深夜労働(22時~翌朝5時) |
25%以上 |
2023年3月末日まで、中小企業は1ヵ月60時間を超える残業に対する割増賃金が適用外でした。しかし、現在は事業規模や業種を問わずに、すべての企業でこの割増賃金が必要になっています。雇用形態(正社員・アルバイト・パートタイムなど)による違いもありません。
また、深夜時間帯に法定外残業や法定休日労働が重なった場合には、割増率の加算が必要です。
- 法定外残業+深夜:25%+25%=50%以上
- 法定休日+深夜労働:35%+25%=60%以上
関連記事:深夜残業とは?今さら聞けない定義や計算方法を徹底解説
関連記事:法定外残業とは?残業代の計算方法や割増について解説
1-4. 時間外手当・休日出勤手当・深夜手当との違い
「残業手当」という言葉には法的な定義はありませんが、所定労働時間を超えて働いた際に支払われる割増賃金全体を指す総称として用いられることが多いです。一方で、法律上の割増賃金は次のように区分されます。
- 法定労働時間を超えた残業に対し支払うもの=時間外手当
- 法定休日に働いた際に支払うもの=休日出勤手当
- 22時〜翌朝5時の深夜時間帯に働いた支払うもの=深夜手当
ここでは、3つの手当の違いを解説します。
1-4-1. 時間外手当とは
時間外手当は、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた場合に支払われる「25%以上」の割増賃金を指します。実務では、残業手当と同じ意味で使われることもありますが、厳密には「法定外残業」に対して発生する手当のみを指す点が異なります。
もっとも、「時間外手当」という言葉自体も法律上の用語ではありません。そのため、日常的な運用では、どちらの表現を使っても大きな問題にはなりません。ただし、労務トラブルが発生し、労働紛争にまで発展するような場面では、法定内残業と法定外残業の区別を含め、用語の使い分けを意識することが重要です。
関連記事:時間外労働とは?定義や上限規制、割増賃金の計算など原則ルールを解説
1-4-2. 休日出勤手当とは
休日出勤手当は、法定休日(週1日または4週4日)に労働した場合に支払われる「35%以上」の割増賃金を指します。
なお、法定休日に該当しない休日は、企業が独自に定めた「所定休日」と区別されます。所定休日の労働には「35%以上」の割増賃金支払い義務はありませんが、所定休日に労働した結果、週40時間の法定労働時間を超える場合には、時間外手当と同様に「25%以上」の割増賃金が必要となります。
関連記事:休日出勤のルールは?割増賃金が必要な場合や計算方法を解説
1-4-3. 深夜手当とは
深夜手当は、22時~翌朝5時までの深夜時間帯に労働した場合に支払われる「25%以上」の割増賃金を指します。
なお、前述したとおり、深夜時間帯に法定外残業や法定休日労働が重なった場合には、割増率の加算が必要です。
- 22時~翌朝5時までの法定外残業=「50%以上」の割増賃金
- 22時~翌朝5時までの法定休日労働=「60%以上」の割増賃金
誤って22時以降の残業に対し、深夜手当のみや時間外手当のみの支給になっている場合は違法になるため、注意しましょう。
関連記事:深夜労働は何時から?賃金の計算や深夜労働できない従業員を解説
2.残業手当と36協定の関係性


36協定とは、労働基準法第36条に基づき、企業(使用者)と従業員(労働者代表)が書面で締結し、労働基準監督署へ届け出る制度です。36協定を締結していない企業が、従業員に法定労働時間を超える残業や法定休日労働を命じると、法律違反となります。
一方で、残業手当は36協定の締結有無に関わらず、支払わなければならないものです。ここでは、その関係性を整理します。
関連記事:36協定における残業時間の上限を基本からわかりやすく解説!
関連記事:36協定の届出とは?作成の方法や変更点など基本ポイントを解説
2-1. 36協定の締結有無にかかわらず残業代の支払い義務は生じる
残業手当は、労働基準法第37条に基づき、「実際に働いた時間」に応じて支払われなければなりません。36協定を締結しているかどうかに関係なく、残業をした事実があれば当然に支払義務が発生します。
36協定はあくまで、労働基準法第36条に基づいた「法定外残業・法定休日労働を命じるための事前手続き」です。したがって、
- 36協定を締結していないのにも関わらず従業員に残業を命じることは違法
- しかし、残業をさせた以上、残業手当の支払い義務は生じる
という2つの視点を切り分けて理解する必要があります。たとえ「36協定を結んでいないのに残業を命じてしまった」「36協定の上限時間を超えて残業させてしまった」場合であっても、割増賃金は必ず支払わなければなりません。
厚生労働省が公表している監督指導結果でも、次の2つは依然として主要な指摘事項です。
- 36協定違反(労基法第32条・第36条)
- 時間外・休日労働の割増賃金不払い(労基法第37条)
36協定と残業手当の関係を正しく理解せず、両者を混同していることが、違反の背景にあると考えられます。適切な残業手当の支払いと36協定の締結・運用は、労務トラブルを防止するうえで不可欠です。
参考:長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果を公表します|厚生労働省
2-2. 36協定が未締結の場合の企業リスク
36協定を締結しないまま時間外労働をさせることは、労働基準法第32条・第36条に違反し、労働基準監督署から行政指導や是正勧告を受けるリスクがあります。未締結のケースはもちろん、36協定を締結していても、定められた上限時間を超えて残業させれば同様に違法となります。
また、36協定を締結していない状態で残業を継続させると、後日、従業員から未払い残業代をまとめて請求されるリスクもあります。労働審判や裁判に発展した場合、企業の労働時間管理が不十分であると捉えられやすく、企業に不利な判断が下される可能性が高まります。
とくに固定残業代(みなし残業代)制度を採用している企業では、実労働時間の把握不足と相まって、紛争につながりやすい点にも注意が必要です。
このように、36協定の未締結は法令違反であるだけでなく、高額な未払い残業代請求や労働紛争の発生など、企業にとって深刻なリスクに直結します。時間外労働をおこなわせる可能性が少しでもある場合は、36協定を適切に締結し、確実に運用することが不可欠です。
3. 残業手当の計算方法


残業手当の計算方法は、残業が「法定労働時間を超えているか」「どの時間帯・休日に発生したか」によって割増率が変わります。
例えば、次の図のように平日に9時から24時まで勤務したケースでは、通常の勤務時間・法定時間外労働・深夜時間帯が混在します。


同じ1日の中であっても割増率が変わる時間帯が複数存在するため、一律の計算ではなく、時間帯ごとに正確な区分が必要です。
ここでは、残業手当の基本となる法定時間外労働から、深夜労働、月60時間超、法定・所定休日労働など、代表的なケースごとに計算方法を整理して解説します。
関連記事:固定残業代の計算方法をパターン別に分かりやすく解説
3-1. 法定時間外労働(通常の残業)
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて働いた場合には、通常の賃金の25%以上(1.25倍)の割増賃金を支払う必要があります。
【割増賃金の算定方法】
まず、割増賃金は、次の計算式で求めます。
割増賃金額
=1時間当たりの賃金額×時間外・休日・深夜労働時間数×割増賃金率
【1時間当たりの賃金額の計算方法】
月給制の場合、1時間当たりの賃金額は以下の手順で算定します。
1時間当たりの賃金額
=月給(月の所定賃金額)÷1ヵ月の平均所定労働時間
なお、「1ヵ月の平均所定労働時間」は次の式で求めます。
1ヵ月の平均所定労働時間
=(1年間の所定労働日数×1日の所定労働時間)÷12
【割増賃金の基礎から除外できる手当】
残業手当の基礎となる賃金には、すべての手当を含めるわけではありません。労働基準法施行規則第21条に基づき、次の手当は割増賃金の計算基礎から除外できます。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
これらは例示ではなく、法律で限定列挙されたものです。そのため、職務手当・役職手当・営業手当など、該当しない手当はすべて割増賃金の計算に算入しなければなりません。
- 法定時間外労働の残業手当の計算例
-
1ヵ月の平均所定労働時間が160時間の企業で、月給240,000円の従業員がその月に12時間の法定時間外労働をおこなった場合、残業手当は次のように計算します。
-
- 1時間当たりの賃金額=240,000円÷160時間=1,500円
- その月の残業手当=1,500円×12時間×1.25=22,500円
-
法定時間外労働は、残業代計算の中で最も基本となる部分であり、深夜労働や法定休日労働など、他の割増賃金計算の前提となる考え方です。まずは、この基本的な計算方法を確実に押さえておきましょう。
3-2. 深夜労働(22時〜翌朝5時)
深夜時間帯(22時〜翌朝5時)に労働した場合には、通常の賃金の25%以上(1.25倍)の割増賃金を支払う必要があります。
深夜手当
=1時間当たりの賃金額×深夜労働時間数×1.25
ただし、夜勤が所定労働時間に含まれる職種を除き、多くの企業では深夜時間帯の労働が法定外残業と重なるケースが一般的です。深夜時間帯に法定時間外労働が重なった場合、割増率は加算されるため、合計1.5倍の割増計算となります。具体的には次のように計算します。
- 法定外時間外+深夜労働の残業手当の計算例
-
定時9:00~18:00(所定労働時間8時間)の企業で、1時間当たりの賃金額1,500円の従業員が9:00~24:00まで、休憩時間1時間を除き合計14時間勤務した場合
- 9:00~18:00(8時間※休憩1時間除く):定時内のため割増無し
→1,500円×8時間=12,000円
- 18:00~22:00(4時間):法定外残業(25%)=割増率25%(1.25倍)
→1,500円×4時間×1.25=7,500円
- 22:00~24:00(2時間):法定外残業(25%)+深夜(25%)=割増率50%(1.5倍)
→1,500円×2時間×1.5=4,500円
12,000円(所定内)+7,500円(法定外残業)+4,500円(法定外・深夜残業)=合計24,000円
- 9:00~18:00(8時間※休憩1時間除く):定時内のため割増無し
実務では、このような「法定外残業+深夜労働」部分の計算漏れや割増率の誤りが非常に多く、未払い残業の原因になりやすい点に注意が必要です。
3-3. 月60時間超の法定時間外労働
法定時間外労働が月60時間を超えた部分については、割増賃金率が50%以上(1.5倍)に引き上げられます(労基法37条1項但書)。
月60時間超の残業手当
=1時間当たりの賃金額×月60時間超過時間数×1.5
以前は中小企業には猶予措置がありましたが、2023年4月以降はすべての企業に適用されています。なお、代替休暇制度を導入している場合は、割増賃金の代わりに代替休暇を付与する選択も認められています。
3-4. 法定休日労働(週1日または4週4休の休日に働いた場合)
法定休日(週1日または4週4日)に労働した場合には、通常の賃金の35%以上(1.35倍)の割増賃金を支払う必要があります。
法定休日出勤手当
=1時間当たりの賃金額×法定休日労働時間数×1.35
なお、法定休日に労働させる際も、法定時間外労働と同様に36協定での定めが必要です。
3-5. 所定休日労働(企業独自の休日に働いた場合)
「所定休日」とは、企業が独自に設定している休日(例:土日のうち片方、会社カレンダーによる休日など)を指します。所定休日に労働した場合は、まずその労働を「所定労働時間として扱う」点が重要です。
- 所定休日に労働しても週40時間以内に収まる場合:割増賃金は不要
- 所定休日に労働した結果、週40時間を超えた部分:時間外手当として1.25倍の割増賃金が必要
つまり、計算式は次のとおりです。
所定休日労働の割増賃金
=1時間当たりの賃金額×所定休日労働時間のうち週40時間を超えた時間数×1.25
なお、就業規則で「所定休日労働にも全額割増賃金を支払う」と独自に定めている企業もあります。この場合は、就業規則の内容が優先されるため注意が必要です。
所定休日と法定休日はしばしば混同されやすいため、就業規則などで、休日の定義を明確にしておくことが望まれます。
関連記事:所定休日と法定休日の違いとは?休日出勤時の割増賃金の考え方も解説
4. 残業手当の未払い分を請求された際の対応方法


計算ミスや管理不足、または労使間での認識の不一致などにより、残業代の未払いが発生することがあります。
従業員に未払い分の残業代を請求された場合は、すぐに支払う方向で検討し始めるのではなく、次の点を十分に検討してから行動に移しましょう。
4-1. 支払い義務のある残業手当を計算する
まずは、会社で保管しているタイムカードや勤怠管理システムなどを確認し、間違いなく支払い義務のある残業手当がどれほどあるか確認します。
従業員の主張は、計算方法が間違っていたり、時効消滅分が含まれていたりするケースも少なくありません。残業の実態や正確な時間を十分に精査し、会社が支払うべき残業手当のみを計算しましょう。
その際、法定の割増率である25%や60時間を超えた場合の50%の割増賃金を適用した計算をおこなうことが重要です。また、深夜勤務や休日出勤が含まれる場合は、さらに割増賃金が発生するので、注意が必要です。
4-2. 反論できる点をまとめる
次に、請求に対して反論できる点をまとめましょう。
例えば、次の2点など、請求をした従業員の勤務態度や職種・役職なども加味して、反論できる点はないかまとめましょう。
- 営業職が直行直帰の際は、労働時間の算定が困難なため事業場外みなし労働時間制を適用していた
- 対象者は労働基準法第41条第2号の「管理監督者」に該当するため、深夜を除く残業手当の支払義務がない
なぜ残業手当を支給していなかったのか、その根本的な理由を見つけて会社の規定や従業員の待遇と照らし合わせることが大切です。
5. 未払いの残業手当の請求を放置するリスク


未払い残業手当の請求がされた場合、それを放置することは非常に危険です。企業にとって大きな悪影響が出るおそれがあります。
放置するリスクを正しく認識し、もしもの場合に備えておきましょう。
5-1. 遅延損害金や付加金が発生するケースがある
残業手当を給料日に支払わないことは、債務不履行に該当するため、遅延損害金の支払いが必要です。
従業員が在職中の場合、民法第404条に基づき、遅延損害金の法定利率は「原則年3%(以降3年ごとの変動制)」となります。
ただし、従業員が既に退職している場合は年利14.6%となります。
また、裁判に発展した結果、未払い残業の悪質性が認められた場合、未払い残業手当とは別に「付加金」の支払いを命じられる可能性があります。
なお、付加金の上限は未払い額と同額までです。
例えば未払いの残業手当が300万円あれば、付加金の支払いも300万円まで、合計600万円までの支払いを命じられる可能性があります。
5-2. 労働審判や裁判・訴訟に発展するおそれがある
従業員からの請求に応じず、長期間放置を続けた場合は労働審判に発展するケースもあります。
通常、裁判所から出頭の呼び出しがあり、3回以内の審判により解決を図ります。
話し合いによる和解(調停成立)や、労働審判の確定がされた場合は、決定事項に応じて金銭の支払いなどを済ませて解決に至るでしょう。しかし、どちらかに不服がある場合は訴訟手続きへと移行します。裁判まで発展すると判決が下されるまで8ヵ月~1年6ヵ月など長期に及びます。
裁判に至った場合は時間や金銭的なコストが増えるだけでなく、企業イメージにも悪影響が出ることを考えなければいけません。
6. 会社が残業手当を計算する際の注意点


会社が残業手当を計算する際は、次の点に注意して正確に算出しましょう。残業手当は通常の給与とは計算方法が異なり、後から支払う場合は時効も存在します。
6-1. 残業代は1分単位で計算する
残業代は原則として1分単位で計算しなければなりません。これは労働基準法で1分でも労働した場合は、その対価を支払うことが定められているからです。
10分や30分単位で端数を切り捨てて計算することは違法になる可能性が高いため、必ず1分刻みで計算するようにしましょう。
ただし、1ヵ月の残業時間の合計時間は、30分未満は切り捨て、30分以上は繰り上げすることが許容されています。
6-2. 正しい残業時間や割増率で計算する
従業員が請求した残業時間と、その時間に対する割増率が正確であることも重要です。
打刻をしていても、勤務時間に副業をしていたり、長時間のタバコ休憩をしていたり、本来の業務以外のことをしたりしていた証拠があれば、タイムカードなどの信頼性を否定できます。
残業時間が正しい場合は、残業手当に加えて深夜手当や休日手当が発生していないかも確認し、正確に計算しましょう。
関連記事:時間外労働の割増率とは?計算方法と法改正で中小企業がとるべき対応を解説
6-3. 残業を許可制にしても残業手当は必要
残業を許可制にしている会社も多くあります。本来、残業は会社の指示に基づいておこなわれるものですが、従業員が会社の管理範囲を超えて残業をおこなったとしても、実際に働いているのであれば「黙示の残業命令」として、残業手当の支払義務が生じます。そのため、許可制の運用は、こうした不明確な残業の発生を防ぐうえで一定の効果があります。
ただし、運用にあたっては注意が必要です。従業員から「定時で処理できる仕事量ではなかった」と反論されることも起こり得るため、仕事が定時で終わらなかった場合の具体的な対処法(管理職に引き継ぐなど)と合わせて指示をしている必要があります。対処法がなく、そもそも定時で終わらない仕事量が常態化していた場合には、残業手当の支払いが必要になります。
6-4. 名ばかり管理職になっていないか注意する
管理監督者は36協定の締結が不要であり、残業手当の支払いは必要ありません。
ただし、管理監督者とは経営者と一体的立場の者であり、下記の要件を満たす必要があります。
- 重要な職務内容である
- 責任と権限を有している
- 労働時間の規制になじまない勤務態様である
- 地位にふさわしい待遇がなされている
そのため、請求した従業員が管理監督者ではなく「名ばかり管理職」と判断されれば、残業手当の支払いが必要になる可能性が高くなります。
また、管理監督者でも深夜手当の支給は必要です。
関連記事:労働時間の上限規制は管理職にもある?管理監督者との違いを理解しよう
6-5. みなし(固定)残業代の上限を超えていないか確認する
みなし(固定)残業代を支給している会社では、すでに残業代を支給しているものとして主張できます。
ただし、みなし残業時間以上の労働に対して残業手当を支給していない場合は、別途残業手当の支給が必要です。また、みなし残業の時間が100時間など、違法性が高いと判断されれば無効になる可能性が高いため注意しましょう。
関連記事:みなし残業と固定残業の違いとは?それぞれの定義を紹介 | jinjerBlog
6-6. 残業代の時効消滅期限を正しく把握する
2020年4月の民法などの改正により、残業代の時効消滅期間が下記のように変更されています。
- 2020年3月までの支払い分:2年
- 2020年4月以降の支払い分:3年
残業代を後から請求されたケースで、請求された時期が上記よりも以前の分であるなら、時効消滅を主張できます。
退職している従業員や何年も前の残業に対する請求をされた場合は、まずはこの時効消滅を確認するとよいでしょう。
7. 残業手当のトラブルを避けるために勤怠管理を徹底しよう


残業手当は取り扱いが少し特殊で、気を付けなければならない点があります。計算する際は正確性を重視し、未払いを防がなくてはなりません。
従業員から未払いの残業手当を請求されたら、まずはその請求内容を確認し、間違いや反論できる部分はないか確認しましょう。
なお、請求を放置したり、無視したりすると、トラブルが悪化する原因になるため、速やかな対処が大切です。
残業手当の請求は労働審判でも多い内容です。日頃から勤怠管理を抜け漏れなくおこなう、自己判断の残業はさせないなど、対策を徹底しましょう。



残業時間の管理や残業代の計算では、労働基準法で「時間外労働」と定められている時間を理解し、従業員がどれくらい残業したかを正確に把握する必要があります。
しかし、どの部分が割増にあたるかを正確に理解するのは、意外に難しいものです。
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