労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定とは?運用ポイントを解説
更新日: 2026.9.30 公開日: 2021.11.25 jinjer Blog 編集部

多くの派遣会社で採用されている労使協定方式ですが、適用するには労働者派遣法第30条の4第1項に基づく適切な労使協定の締結・運用が必要です。
本記事では、労使協定方式を適切に運用するためのポイントを法令に基づいてわかりやすく解説します。2026年10月1日に施行される派遣労働者の同一労働同一賃金に関する改正内容についても触れているのでぜひ参考にしてください。
参考:派遣労働者の同一労働同一賃金改正ポイントのご案内~令和8年10月1日施行~|厚生労働省
▼そもそも労働者派遣法とは?という方はこちらをお読みください。
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1. 労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定とは


派遣元事業主は、派遣労働者の待遇を確保するため「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」のいずれかの方式を採用します。とくに労使協定方式を採用する場合は、労働者派遣法第30条の4第1項に基づく労使協定を適切に締結し、その内容に沿って待遇を確保することが重要です。
1-1. 派遣先均等・均衡方式とは
派遣先均等・均衡方式とは、派遣労働者の待遇について、派遣先の通常の労働者との「均等・均衡」を確保する方式です。
派遣元は、派遣先から提供された比較対象となる労働者の待遇に関する情報などをもとに、派遣先の通常の労働者との間で不合理な待遇差が生じないよう、派遣労働者の待遇を決定する必要があります。
とくに派遣先が複数ある場合には、派遣先ごとの待遇情報の収集・管理や、賃金・手当などの待遇の検討・調整が必要となり、業務負担が増加しやすくなります。
関連記事:労使協定方式とは?均等均衡方式との違いや派遣労働者の賃金水準を解説
1-2. 労使協定方式とは
労使協定方式とは、派遣元事業主が、過半数労働組合または過半数代表者と労使協定を締結し、その協定に基づいて派遣労働者の待遇を決定する方式です。
労使協定方式では、派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金を基準として、職種や地域、能力・経験などを踏まえて賃金を決定する点が特徴です。
この方式を採用すれば、派遣先が変わるたびに派遣先の通常の労働者との待遇を比較して賃金を決定する必要がなくなり、派遣先の変更による賃金水準の変動を抑えやすいというメリットがあります。
関連記事:労働者派遣法第30条の4第1項とは?その内容や注意点を解説
2. 労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定の運用手順


労使協定方式を選択する場合、労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定を適切に締結し、その内容に沿って運用する必要があります。ここでは、労使協定を締結から運用までのポイントを紹介します。
2-1. 過半数代表者を適切に選出する
労使協定を締結するには、事業場に過半数労働組合がある場合はその労働組合と、過半数労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)と協定を締結する必要があります。
過半数代表者は、労働者の意思に基づき適切な方法で選出しなければなりません。使用者が一方的に指名することは認められず、また、労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者は過半数代表者になることができません。
そのため、投票や挙手など、労働者の過半数がその者の選出を支持していることを確認できる方法で手続きをおこなうことが重要です。
参考:労使協定方式を選択する派遣元事業主の皆さまへ「労働者派遣事業報告書」~「労使協定」添付のポイント~|厚生労働省
2-2. 派遣先から必要な待遇情報を受領する
労使協定方式では、労使協定に基づいて派遣労働者の待遇を決定するため、原則として派遣先から比較対象労働者の待遇情報を提供してもらう必要はありません。
一方、労使協定方式の対象外となる待遇については、派遣先から必要な情報提供を受ける必要があります。具体的には、派遣先が実施する業務の遂行に必要な教育訓練や、給食施設・休憩室・更衣室などの福利厚生施設の利用に関する事項が該当します。
なお、これらの情報提供については、派遣先均等・均衡方式のように派遣先の比較対象労働者を選定して待遇を比較する必要はありません。
参考:派遣労働者の≪同一労働同一賃金≫の概要 令和8年10月1日改正対応版(令和2年4月1日施行)|厚生労働省
2-3. 派遣労働者の待遇を算定する
派遣労働者の賃金や福利厚生などの待遇を決めましょう。とくに賃金については大きく「基本給・賞与・手当等」「通勤手当」「退職金」に分けて考えられます。
労使協定方式では、それぞれの待遇について対応する一般賃金(派遣労働者の待遇を決める際に比較対象となる一般的な労働者の賃金水準)と比較し、派遣労働者の待遇が一般賃金と同等以上となるように定める必要があります。
参考:派遣労働者の≪同一労働同一賃金≫の概要 令和8年10月1日改正対応版(令和2年4月1日施行)|厚生労働省
2-3-1. 基本給・賞与・手当等
基本給・賞与・手当等については、一般賃金との比較に必要な賃金水準を基準値に能力・経験調整指数や地域指数を反映して算出します。これらの基準となる数値は、厚生労働省が毎年公表しています。
また、一般賃金の算定にあたっては「賃金構造基本統計調査」や「職業安定業務統計」といった職種・地域別の賃金水準を用います。どの統計のどの職種・地域の賃金水準を使用するかについては、労使協定で定める必要があります。
2-3-2. 通勤手当
派遣労働者に支給する通勤手当は「実費支給(選択肢A)」または「1時間あたりの通勤手当に相当する額を支給(選択肢B)」のいずれかの方法で対応します。
選択肢Aを採用する場合、原則として、一般通勤手当と同等以上の待遇を確保したものとして扱われます。
一方、選択肢Bでは、一般通勤手当の額である1時間あたり79円(令和8年度)を基準として待遇を確保します。固定額の通勤手当が79円を下回る場合でも、不足額を一般基本給・賞与等に加えて合算比較することで、同等以上の待遇を確保できることがあります。
参考:令和8年度適用版(令和8年1月公表)(イメージ)労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定|厚生労働省
2-3-3. 退職金
派遣労働者の退職金については、次の3つの方法から選択できます。
| 退職金の算出方法 | 概要 |
|---|---|
| 退職手当制度の方法 | 派遣元が設けている退職手当制度を派遣労働者にも適用する方法です。自社の退職手当制度による退職金が、局長通達で示されている一般退職金と同等以上の水準となるように設定します。 |
| 退職金前払いの方法 | 一般基本給・賞与等の額に5%以上(令和8年度)を乗じた額を退職金相当額として、毎月の賃金に上乗せして支給する方法です。 |
| 中小企業退職金共済制度等に加入する方法 | 中小企業退職金共済制度や確定拠出年金などを活用し、派遣元事業主の掛金等によって一般退職金と同等以上の水準を確保する方法です。複数の制度を組み合わせて基準を満たすこともできます。 |
参考:令和8年度適用版(令和8年1月公表)(イメージ)労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定|厚生労働省
2-4. 労使協定を締結する
待遇の算定方法を決定したら、過半数労働組合または過半数代表者との間で労使協定を締結します。労使協定には次の事項を記載する必要があります。
- 労使協定の対象となる派遣労働者の範囲
- 賃金の決定方法
- 公正な評価制度
- 賃金以外の待遇の決定方法
- 教育訓練
- その他(有効期間など)
参考:労使協定の作成について(令和7年度に向けて)|厚生労働省
労使協定を作成する際は、厚生労働省が公表している最新の「労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定」のイメージを参考にするとよいでしょう。
参考:令和8年度適用版(令和8年1月公表)(イメージ)労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定|厚生労働省
2-4-1. 労使協定の対象となる派遣労働者の範囲
労使協定では、どの派遣労働者を対象とするのかを明確に定める必要があります。特定の職種や雇用形態などに限定して適用する場合は、対象となる派遣労働者の範囲が明確になるよう記載しましょう。
対象範囲が不明確だと、どの派遣労働者に労使協定方式を適用するのかがわかりにくくなり、待遇の決定方法を誤るおそれがあるので注意しましょう。
2-4-2. 賃金の決定方法
賃金の決定方法については、一般賃金との比較を踏まえ、基本給・賞与・手当等をどのように決定するのかを具体的に定めます。また、労使協定方式は長期的なキャリア形成を目的とした待遇決定方式です。
そのため、派遣労働者の職務内容や成果、能力、経験などを賃金へ反映できる仕組みを整備し、協定に沿って運用することが重要です。例えば、昇給の仕組みを設けたり、能力や経験などに応じた手当を支給したりする方法が考えられるでしょう。
2-4-3. 公正な評価制度
労使協定方式では、派遣労働者の能力や経験などに応じて賃金を適切に決定できるよう、公正な評価制度を設ける必要があります。
具体的には、キャリアマップを整備して就業実態や能力の向上状況を評価したり、派遣労働者との面談で成果目標を設定してその達成状況を評価したりする方法が考えられるでしょう。
たとえ賃金の改善の仕組みを適切に設けていても、公正に評価がおこなわれなければ、派遣労働者の適切な賃金の改善につながらないおそれがあるので注意しましょう。
2-4-4. 賃金以外の待遇の決定方法
社宅や休暇など賃金以外の待遇については、原則として派遣元の通常の労働者との均等・均衡を図ることが求められます。職務の内容や人材活用の仕組みなどを考慮して不合理な待遇差が生じないように制度を設計することが重要です。
ただし、食堂や休憩室などの利用については例外です。これらは派遣先が派遣労働者に利用の機会を与えることが義務付けられており、派遣先の通常の労働者との均等・均衡を確保する必要があります。
なお、2026年10月1日から適用される改正「同一労働同一賃金ガイドライン」では、不合理な待遇差を解消する際、通常の労働者の待遇を引き下げるのではなく、派遣労働者の待遇を改善する方向で対応することが示されています。
2-4-5. 教育訓練
派遣元は派遣労働者の職業能力の向上を図るため、段階的かつ体系的な教育訓練を実施する必要があります。教育訓練の対象者や内容、実施方法などを整理し、派遣労働者が必要な訓練を受けられる体制を整備しましょう。
2-4-6. その他(有効期間など)
労使協定には、協定の有効期間など必要な事項も定めます。有効期間には始期・終期を記載します。厚生労働省の資料では、有効期間について一律の基準は設けられていませんが、目安として2年以内とすることが望ましいとされています。
有効期間終了後も労使協定方式を継続する場合は、協定内容を確認・必要に応じて見直したうえで、新たな有効期間を定めた労使協定を締結します。
また、特段の事情がない限り、一の労働契約の契約期間中に派遣先の変更を理由として協定対象派遣労働者であるか否かを変更しないことも、労使協定に定める事項とされています。
2-5. 締結した労使協定を周知する
労使協定を締結した後は、その内容を対象となる派遣労働者に周知する必要があります。書面の交付や社内イントラネットへの掲載など、法令で定められた方法により、適切に周知しましょう。
参考:労働者派遣法施行規則第25条の11|e-Gov法令検索
2-6. 労働局へ報告する
労使協定を締結した後、労使協定そのものを直ちに労働局へ提出する必要はありません。
ただし、派遣元は毎年6月30日までに、労働者派遣事業の実績などを記載した「労働者派遣事業報告書」を所轄労働局へ提出する必要があります。
労使協定方式を採用する場合は、6月1日時点で有効なすべての労使協定の写しを、労働者派遣事業報告書に添付して提出しなければならないので注意しましょう。
参考:労使協定方式を選択する派遣元事業主の皆さまへ「労働者派遣事業報告書」~「労使協定」添付のポイント~|厚生労働省
2-7. 派遣先と労働者派遣契約を締結する
労使協定方式を採用している場合でも、派遣元と派遣先との間で労働者派遣契約を適切に締結する必要があります。労働者派遣契約では、派遣労働者の業務内容や就業場所など、法令で定められた事項を明確に定めましょう。
関連記事:労働者派遣法26条による労働者派遣契約の内容や注意点を解説
2-8. 新たに雇用する派遣労働者へ労使協定の内容を説明する
派遣元は新たに労働者を雇い入れる際、労使協定方式により待遇が決定されることなどを明示・説明する必要があります。また、労働者を派遣する際にも待遇に関する事項を明示・説明しなければなりません。
なお、2026年10月1日からは派遣労働者の雇入れ時や派遣時における明示事項として「待遇の相違の内容及び理由等について派遣元事業主に説明を求めることができる旨」が追加されます。
これに伴い、雇入れ時や派遣時に使用する明示書についても、改正内容を反映した記載に変更する必要があるので注意しましょう。
参考:派遣労働者の≪同一労働同一賃金≫の概要 令和8年10月1日改正対応版(令和2年4月1日施行)|厚生労働省
参考:派遣労働者の同一労働同一賃金改正ポイントのご案内~令和8年10月1日施行~|厚生労働省
関連記事:派遣の就業条件明示書とは?明示事項や労働条件通知書との違いも解説
3. 労働者派遣法第30条の4第1項に基づく労使協定に不備があった際のリスク


労働者派遣法第30条の4第1項に基づく労使協定に不備があると、労使協定方式の要件を満たせず、適切に運用できない可能性があります。ここでは、労使協定の不備によって生じる主なリスクを解説します。
3-1. 派遣先均等・均衡方式が適用される可能性がある
労働者派遣法第30条の4第1項に基づく労使協定について、必要な事項が定められていないなど、法令上の要件を満たしていない場合には労使協定方式を適用できません。この場合、派遣先均等・均衡方式によって派遣労働者の待遇を確保する必要があります。
そのため、これまで労使協定方式を前提として待遇を設計していた場合には、派遣先から比較対象労働者の待遇に関する情報提供を受けるなど、追加の対応が必要になる可能性があります。労使協定を締結・運用する際は、法令要件を満たしているかを十分に確認することが重要です。
3-2. 行政指導や罰則の対象となるおそれがある
労働者派遣法第30条の4第1項に基づく労使協定を適切に運用していない場合、労働者派遣法上の義務に違反することとなり、行政による指導・助言や、違反の内容によっては行政処分・罰則の対象となる可能性があります。
また、締結した労使協定に従って派遣労働者の待遇を決定していない場合には、派遣労働者との間で待遇をめぐる紛争が生じ、損害賠償請求などの民事上の請求を受ける可能性もあります。そのため、法令に基づき労使協定を締結するだけでなく、協定の内容に沿って実際の待遇を適切に確保することが重要です。
関連記事:労働者派遣法に違反する行為とは?罰則規定や違反例を解説
4. 適切な労使協定を結び派遣労働者の待遇を確保しよう


労使協定方式は派遣先ごとの待遇情報をもとに待遇を決定する必要がないなど、派遣元にとって運用上のメリットがあります。
一方、労使協定に不備があると、労使協定方式の要件を満たせず、派遣先均等・均衡方式によって待遇を確保する必要が生じるほか、派遣労働者との民事上の紛争につながる可能性もあります。この記事を参考に、法令上の要件を満たした労使協定を締結・運用し、派遣労働者の適切な待遇を確保しましょう。



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