労働契約法6条に規定された労働契約が成立する条件
労働契約とはいかなる条件で成立するのか説明できるでしょうか。雇用主が労働者を雇うとき、多くの場合で賃金や労働時間などを明示した雇用契約書や、労働条件通知書などを交付しているでしょう。本記事では、労働契約が成立する条件を労働契約法6条と照らし合わせて解説しています。
▼そもそも労働契約法とは?という方はこちらの記事をご覧ください。
労働契約法とは?その趣旨や押さえておくべき3つのポイント
目次
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従業員を雇い入れる際は、雇用(労働)契約を締結し、労働条件通知書を交付する必要がありますが、法規定に沿って正しく進めなくてはなりません。
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2024年4月に改正された「労働条件明示ルール」についても解説しており、変更点を確認したい方にもおすすめです。
1. 労働契約法6条による「労働契約の成立」とは?
2008年から施行されている「労働契約法」では、労働者が安心して労働に従事できるよう、さまざまな規約が定められています。
労働契約法によって労働紛争を防ぎ、事業主と従業員がより良い関係を構築できるよう期待されていますが、そのためには契約における「合意原則」が重要です。
労働契約法6条で制定している「労働契約の成立」では、契約における合意について示しています。
労働契約法6条の条文は下記の通りです。
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
条文では、労働契約とはどのようなものなのかについて端的に明示されており、契約成立のために必要不可欠である「合意の原則」について確かめています。
労働契約は、当事者の合意のみによって成立するものとされている通り、「合意」があれば契約は可能です。
そのため、合意さえあれば、書面の取り交わしをせず口頭での合意のみでも効力を有します。
しかしながら、労働基準法では「労働条件の明示」として労働条件をできる限り書面で明らかにすべきだとしているので、注意が必要です。また、労働契約法4条でも条件や契約内容を書面によって確認するものと定めています。労働者とのトラブルを避けるためにも、口頭のみでの合意ではなく、書面を取り交わすことが望ましいでしょう。
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2. 労働契約法6条による「労働契約の成立」の対象者
労働契約法が適用される対象者については「使用者」と「労働者」であり、第2条では以下のように定義されています。
- 「使用者」は使用する労働者に賃金を支払う者
- 「労働者」は使用者に使用されて労働をし、その対価として賃金を支払われる者
よって「労働契約の成立」の対象者も使用者と労働者となりますので、一般的に雇用主と従業員にあたります。
2-1. 地方公務員は「労働契約の成立」の対象外
反して、労働契約法の「対象外」となる人も存在します。
これは労働契約法の第22条で規定されており、「国家公務員及び地方公務員」と「使用者が同居の親族のみを使用する場合」は、法の適用外となります。
なぜ公務員には法が適用されないのかというと、公務員は任命権者(公務員の任命などをおこなう権限を持つ者)とのあいだに労働契約がないためです。
また親族については、民法で夫婦や親子の財産などに関するあらゆる規定が定められており、同居している親族は特に結びつきが強いため、一般的な使用者と労働者とは同じ扱いができないとされています。
3. 労働契約法6条は労働条件を定めていなくても成立する
労働契約法6条において、労働契約は使用者と労働者間の「合意」のみで、労働条件を定めていない場合でも成立します。
また、冒頭でも触れたように、労働契約法6条において労働契約が成立する条件は、労使が契約内容に合意することであり、必ずしも書面が必要なわけではありません。
ただし、口頭のみで契約をした場合、万が一何か起こった際に水掛け論に発展する恐れがあります。
これは労使ともに当てはまる問題であり、会社側が労働者に伝えたつもりでも「聞いていない」と言われたり、逆に労働者が「○○という条件だと聞いた」と言ったとしても、会社に「そんなことは言っていない」と言われるかもしれません。
もしそのような状況になった場合、口頭でのやり取りの証拠がなければどうすることもできないのが現状です。
トラブルを回避するためにも、条件を明示したことや双方で合意を得たことを証明する書面をできる限り残しておきましょう。
3-1. 労働基準法15条による労働条件の明示
しかし、労働基準法15条では以下の条文の通り、「労働条件の明示」が義務付けられています。
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
引用:労働基準法 | e-Gov法令検索
そのため、ほとんどの企業では労働契約の際に「労働条件通知書」と「雇用契約書」を交付しています。
労働条件通知書で必ず明示しなければならない「絶対的明示事項」は以下の6項目です。
- 契約期間
- 就業場所や業務内容
- 労働時間、休憩、休日などについて
- 賃金に関すること
- 退職に関すること
- 契約の期間に定めがある場合、更新する際の基準について
上記の項目を満たしていれば書式はどれを使用しても問題ありませんが、厚生労働省からひな型が提供されているため、その用紙を使って明示している企業も多いでしょう。
また、これまで労働条件通知書の交付は紙のみが認められていましたが、2019年の法改正に伴い、メールやSNSなどのメッセージ機能を利用しての明示することも可能です。
一方、雇用契約書とは雇用契約においてお互いが合意したことを証明するための書類で、一般的には2部作成して署名捺印をし、使用者と労働者のそれぞれが保管します。
労働条件通知書と雇用契約書は別々でも問題ないですが、一つの書類としてまとめて交付することも可能です。
関連記事:雇用契約書・労働条件通知書を電子化する方法や課題点とは?
関連記事:労働条件通知書とは?必要な理由や項目別の書き方について
4. 労働基準法で禁止されている労働契約
労働契約は双方が合意さえしていれば口頭のみでも成立しますが、労働基準法や労働組合法によって禁止されている労働契約が4つあります。
法律違反で罰則を受けることの内容に、以下の内容を押さえておきましょう。
4-1. 賠償予定
労働基準法16条では、労働者が契約期間の途中で退職した際に違約金を支払うことを定めたり、社内の備品などを壊した場合に損害賠償を支払うよう金額を決めておくことを禁止しています。
4-2.前借金相殺
働くことを条件に、労働者やその家族などが使用者から借金をすることを前借金といいます。
労働基準法17条では、この前借金を毎月の賃金から差し引いて返済させることを禁止しています。
4-3. 強制貯金
労働基準法18条では、貯蓄の強制や、労働者の貯蓄額を管理することを禁止しています。
ただし、労働者から任意の委託を受けて、使用者が貯蓄管理をおこなうことは一定の規制のもとに認められています。
4-4. 黄犬契約
黄犬契約の読みは「おうけんけいやく」です。労働組合法7条では、労働組合への非加入や、労働組合からの脱退を雇用の条件とすることを禁止しています。
5. 労働条件を変更する場合も合意が必要?
ここまでは主に、就業開始前の契約締結についてお伝えしてきました。
雇用前及び就業前の契約締結は双方ともに非常に重要なものですが、その時の契約内容がいつまでも続くとは限りません。
途中で労働条件が変更されることも十分あり得ますので、労働条件が変更される場合の流れも把握しておきましょう。
5-1. 労働条件を変更する場合
基本的に労働条件を変更するためには、締結時と同じように労使による合意が必要です。
「労働契約の内容の変更」は労働契約法第8条で規定されており、ここでも同様に「合意の原則」を確認しています。
また、労働契約法第3条で定める「労働契約の原則」は契約締結及び変更における基本ルールです。
変更にあたっては労働者にとって不利益となる条件に変えることは認められませんが、昇給の停止や手当ての廃止など、変更せざるを得ない時もあります。
その場合、変更内容が合理的であり、就業規則で変更したのちに労働者へ周知すれば、条件変更は可能となります。
しかし、「合理的」であるかかどうかの判断は難しいポイントです。
合理性の判断をするには、「労働者が被る不利益がどのくらいのものになるか」「労働条件を変更する必要性」「変更後の就業規則の内容の相当性」「労働組合との交渉状況」などを考慮する必要があります。
労働条件変更に関しても、契約締結時と同じく必ずしも書面での交付が義務付けられているわけではありませんが、やはりトラブルを防ぐためにも書面交付はしておくべきでしょう。
関連記事:労働契約法8条に規定された労働契約の内容の変更方法
関連記事:労働契約法3条に定められた「労働契約の原則」を詳しく解説
6. 採用内定時に労働契約は成立している?
上述したように、労働契約とは使用者と労働者の双方が合意した時点で成立するものと定められているため、採用内定時にも労働契約は成立します。
ある裁判例では、企業からの募集に対して求職者が応募する行為が「労働契約の申込」にあたり、採用内定を出すという行為が「労働契約の承諾」との判決がされています。
具体的に説明すると、内定者の段階では、就労の始期と解約権留保の2つの条件が付いた「始期付解約権留保付労働契約」が成立しています。
この労働契約がおこなわれているあいだも、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、内定取り消しは認められず、解雇とみなされます。
内定の取り消しを検討する際には、その取り消し事由が適切なものであるのかしっかりと判断しましょう。
関連記事:入社手続きで内定者に送る通知メールの書き方3つの基本
7.【労働契約法6条】契約成立のためには合意が必須
労働契約法6条における「労働契約の成立」では、労使による合意が必要なことを定めています。
当事者による合意だけで契約は成り立つため、例え口頭での約束であっても契約は有効となるものです。
ところが実際にはトラブル防止のためにも、書面で労働条件を明示する会社が多く、労基法でも可能な限り書面で取り交わすことが望ましいと示しています。
労働契約を締結するときには、雇用側と働く側が対等な立場で合意をし、契約を締結した証拠を残しておくことが重要です。
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