同一労働同一賃金で就業規則の見直しは必要?待遇差の要素や注意点
更新日: 2025.8.26 公開日: 2022.2.1 jinjer Blog 編集部

同一労働同一賃金は、正社員(通常の労働者)と非正規雇用労働者(パート、有期契約社員、派遣社員など)の間に生じる不合理な待遇差を解消するために設けられた制度であり、現在は規模を問わず、すべての企業に適用されています。
現行法では、同一労働同一賃金に関して直接的な罰則規定(刑事罰など)は設けられていませんが、不合理な待遇差が認定された場合、民事訴訟において損害賠償や未払賃金の支払いを命じられた判例もあります。
本記事では、同一労働同一賃金への対応として就業規則を見直す必要性や、待遇差の判断要素、制度設計上の注意点について解説します。就業規則や人事制度の見直しを検討されている人は、ぜひ参考にしてみてください。
▼そもそも「同一労働同一賃金とは?」という方はこちら
同一労働同一賃金とは?派遣・非正規の待遇における規定や法改正の背景をわかりやすく解説
目次
意図せず不合理な待遇差を放置してしまうと、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。
企業の信頼性を守るためにも、客観的な視点での定期的な見直しが不可欠です。
◆押さえておくべき法的ポイント
- 「均衡待遇」と「均等待遇」の判断基準
- 企業に課される「待遇に関する説明義務」の範囲
- 万が一の紛争解決手続き「行政ADR」の概要
最新の法令に対応した盤石な体制を構築するために参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 同一労働同一賃金で就業規則の見直しは必要?


同一労働同一賃金とは、業務の内容や責任の程度、配置の範囲が同じであれば、雇用形態にかかわらず不合理な待遇差を設けてはならないという法律上の原則です。就業規則には賃金の計算方法や労働時間、退職に関する事項が記載されているため、この原則に沿って、必要に応じた見直しが求められます。
また、同一労働同一賃金の対象は基本給や手当といった賃金だけでなく、福利厚生や教育訓練の機会などにも及びます。そのため、休暇や職業訓練に関する規定についても再確認し、必要があれば見直すことが望ましいでしょう。ここでは、同一労働同一賃金の原則に基づいて見直しが推奨される就業規則の記載事項について解説します。
1-1. 同一労働同一賃金で見直すべき就業規則の具体的な項目
労働基準法第89条に基づき、就業規則に記載すべき事項は、下記のように「絶対的必要記載事項(法律上記載が必須の項目)」と「相対的必要記載事項(定めがある場合に記載が必須の項目)」に区分できます。
【絶対的記載事項】
- 始業・終業時刻
- 休憩時間
- 休日
- 休暇
- 交替制勤務における就業時転換に関する事項
- 賃金の決定・計算・支払の方法
- 賃金の締切と支払時期
- 昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
【相対的記載事項】
- 退職手当関係
- 臨時の賃金・最低賃金
- 費用負担
- 安全衛生関係
- 職業訓練関係
- 災害補償・業務外の傷病扶助
- 表彰・制裁
- その他事業場に適用されるルール
同一労働同一賃金の観点からは、主に「基本給」「賞与」「各種手当」「福利厚生・職業訓練」の待遇に関する項目が見直しの対象です。これに伴い、就業規則に記載された「賃金」「昇給」「休暇」「退職手当」「臨時の賃金・最低賃金」「費用負担」「教育訓練」「表彰・制裁」などの規定について、内容の確認や見直しが求められる場合があります。
参考:労働基準法第89条|e-Gov法令検索
参考:モデル就業規則|厚生労働省
参考:同一労働同一賃金ガイドライン|厚生労働省
関連記事:同一労働同一賃金の退職金の扱いとは?注意点や確認すべきポイント
2. 同一労働同一賃金で改善すべき待遇差の要素


同一労働同一賃金の待遇差について解説する前に、同一労働同一賃金で重要視されている待遇の考え方をご紹介します。
2-1. 同一労働同一賃金の判断基準「均等待遇」と「均衡待遇」
同一労働同一賃金では、判断基準の一つに均等待遇と均衡待遇の考え方を用いています。均等待遇とは、
- 職務の内容(業務の内容および責任の程度)
- 職務の内容・配置の変更の範囲
が同じ場合は雇用形態によって差別的取り扱いを禁止するという取り決めです。
一方で均衡待遇では、
- 職務の内容
- 職務の内容・配置の変更の範囲
- そのほかの事情(能力や経験、成果など)
を考慮して、不合理な待遇差を作らないことを定める取り決めです。
したがって、雇用形態を理由に、不合理かつ差別的な取り扱いをした場合は、同一労働同一賃金に反することを指します。
2-2. 同一労働同一賃金で問題になる待遇差の例
実際に問題となる待遇差の例を紹介します。例えば、能力や経験に応じて基本給を支給している企業で、正社員Aに対して有期雇用労働者Bよりも高い賃金を支払っているものの、正社員Aの経験が現在の業務内容と直接関係ない場合には、不合理な待遇差と判断される可能性があります。
また、勤続年数に応じて基本給を設定している企業において、有期雇用労働者の勤続期間を契約単位で区切って算出し、通算していないケースも、実質的に継続勤務していると判断される場合には、同一労働同一賃金の原則に抵触する恐れがあるでしょう。そのほかにも以下のような待遇差が問題となり得ます。
- 正社員には賞与を支給し、短時間・有期雇用労働者には一切支給していない
- 同じ役職であるにもかかわらず、正社員よりも短時間・有期雇用者の役職手当を低く設定している
- 正社員に支給している地域手当を有期雇用労働者には支給していない
ただし、これらの待遇差が違法かどうかは、業務の内容や責任の程度、配置変更の範囲、その他の事情を総合的に判断したうえで、最終的には司法(裁判所)が判断することになります。そのため、明確な一律基準があるわけではなく、個別具体的な検討が必要です。
関連記事:同一労働同一賃金の問題点と日本・海外との考え方の違いを解説!法改正の影響とは?
3. 同一労働同一賃金に基づき就業規則を変更する際の注意点


就業規則を変更する場合、正しい手続きを踏まなければ違法となる可能性があります。ここでは、実際に同一労働同一賃金に基づき就業規則を変更する場合の注意点について詳しく紹介します。
3-1. 就業規則を変更する場合は労働組合や過半数代表者などとの協議が必要
そもそも就業規則を作成し、労働基準監督署に届出をしなければならないのは、常時従業員数10人以上を雇用している使用者であり(労働基準法第89条)、これは変更する場合も同様です。また、労働基準法第90条により、就業規則を作成・変更する場合、その事業場の過半数労働組合(ない場合には過半数代表者)の意見を聴取する義務があります。
3-2. 就業規則の変更後は労働基準監督署への届出が不可欠
就業規則を変更する場合は、所轄の労働基準監督署への届出が必要です。その際には、過半数労働組合または過半数代表者の意見を聴取し、その内容を記した「意見書」を添付する必要があります。
関連記事:就業規則の意見書とは?様式・記入例や作成に必要な内容と押印時のポイントを解説
3-3. 変更された就業規則を従業員に周知する義務もある
労働基準法第106条に基づき、就業規則を変更した際には、その内容を従業員に周知する義務があります。とくに賃金や手当などの待遇に関わる変更がある場合、従業員が内容を理解していないと、後に「不当な変更」としてトラブルになる可能性があります。書面の交付や各作業場の見やすい場所への掲示など、法令に則った正しい方法で、確実に周知しましょう。
4. 同一労働同一賃金に関連する押さえておきたいポイント


同一労働同一賃金の実現にあたっては、不合理な待遇差の有無を判断する基準に加え、従業員同士を適切に比較する方法や、待遇差に関する企業側の説明責任など、さまざまな視点からの配慮が必要となります。ここでは、同一労働同一賃金に関して留意すべきポイントを詳しく解説します。
4-1. 比較対象はあくまでも正社員
同一労働同一賃金は、同一企業内における正社員(通常の労働者)と非正規雇用労働者(パート、有期契約社員など)との間で、不合理な待遇差を解消することを目的とした制度です。待遇差の判断における比較対象はあくまで正社員と非正規雇用労働者であり、パート同士や契約社員同士の待遇差については、この制度の直接的な適用対象とはなりません。
ただし、たとえ同一労働同一賃金制度の直接的な違反に該当しないとしても、従業員間で不公平感が生じる可能性があります。このような不公平感は、職場の不満やモチベーションの低下、人材流出といったリスクにつながる恐れもあります。したがって、従業員の意見を丁寧に聞き取りながら、雇用形態にかかわらずすべての従業員が納得感を持って働ける環境づくりを進めることが重要です。
関連記事:同一労働同一賃金で交通費はどうなる?判例や課税について解説
4-2. 不合理でない待遇差でも説明の義務がある
法改正によって、短時間・有期雇用労働者の請求がある場合は、待遇差についての説明義務が課されました。派遣労働者から説明を求められた場合も同様です。また、求められた場合の説明はもちろんですが、雇い入れの際に雇用管理上の措置(賃金など)に関する説明も必要なので注意しましょう。
参考:不合理な待遇差の禁止(同一労働同一賃金)について|厚生労働省
関連記事:同一労働同一賃金の説明義務はどう強化された?注意点や説明方法も解説
4-3. 福利厚生・教育訓練にも同一労働同一賃金が適用される
同一労働同一賃金の原則は、賃金にとどまらず、福利厚生や教育訓練などを含むあらゆる待遇に適用されます。
例えば、社宅や食堂といった福利厚生施設の利用、病気休職や慶弔休暇の制度について、職務内容や責任の程度、人材活用の方針が正社員と同等であるにもかかわらず、非正規労働者に対して不利な取扱いをしている場合、それが不合理と判断されれば法令違反となる可能性があるので注意が必要です。
また、業務の遂行に必要な教育訓練にも同様の原則が適用されます。非正規労働者が正社員と同様の業務に従事しているにもかかわらず、教育訓練の機会が与えられない場合は、不合理な待遇差とみなされるおそれがあります。
このような差を防ぐためには、正社員との待遇の違いに合理的な理由があるかを適切に整理し、説明責任を果たすとともに、従業員が納得できる制度設計をおこなうことが重要です。
関連記事:同一労働同一賃金における福利厚生の待遇差や実現するメリットとは
4-4. 不合理な待遇差と判断されれば損害賠償を請求される可能性がある
同一労働同一賃金の原則は、短時間・有期雇用労働法や労働者派遣法に明記されています。これらの法律に違反しても、直ちに刑事罰が科されるわけではありませんが、労働者からの訴訟提起や行政による是正指導の対象となることがあります。
また、過去の判例では、賞与や手当の不支給が不合理と判断され、損害賠償や未払い賃金の支払いを命じられた判例もあります。企業としては、待遇差の有無とその合理性について説明できるように制度設計や運用体制の整備をおこない、トラブルの予防と是正に努めることが重要です。
当サイトでは、不合理であると判断された場合の対応について解説した資料を無料で配布しております。そのほかにも、合理的と判断されうる具体的な理由もまとめているので、自社の対応について不安な点があるご担当者様は、こちらから「同一労働同一賃金 対応の手引き」をダウンロードしてご確認ください。
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(短時間・有期雇用労働法)|e-Gov法令検索
参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)|e-Gov法令検索
5. 同一労働同一賃金で待遇差を見直す際は就業規則の見直しも必要


同一労働同一賃金の原則は、すべての企業に適用されており、待遇を見直す際には、就業規則の改定も必要となる場合があります。就業規則には、賃金に関する記載のほか、支給する場合には手当、退職金、費用負担、表彰、職業訓練などについても記載しなければなりません。
就業規則を変更する場合は、労働者代表者の意見を聴取し、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。また、労働者にとって不利益となる変更をおこなう場合は、労働者の同意や十分な説明をおこない、合意を得ることが望ましいです。



意図せず不合理な待遇差を放置してしまうと、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。
企業の信頼性を守るためにも、客観的な視点での定期的な見直しが不可欠です。
◆押さえておくべき法的ポイント
- 「均衡待遇」と「均等待遇」の判断基準
- 企業に課される「待遇に関する説明義務」の範囲
- 万が一の紛争解決手続き「行政ADR」の概要
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