同一労働同一賃金の問題点と日本・海外との考え方の違いを解説!法改正の影響とは?
日本でも2020年4月から施行された同一労働同一賃金。正規雇用と非正規雇用の格差をなくす目的で施行されたもので、少しずつ認知され、広がっています。
違反に対する罰則はないものの、労働者から声が上がった場合、経営者は対応する責任があります。同一労働同一賃金で起こり得る問題点と解決策を解説しますので、ぜひ参考にしてください。
日本と諸外国で異なる、同一労働同一賃金の背景についても解説します。
▼そもそも「同一労働同一賃金とは?」という方はこちら
同一労働同一賃金とは?適用された理由やメリット・デメリットについて
目次
同一労働同一賃金に罰則はありませんが、放置すると損害賠償のリスクが高くなります。
同一労働同一賃金とは、「正社員と非正規社員を平等に扱う概念」のように認識されていても、具体的にどのような対策が必要かわからない方も多いのではないでしょうか?
本資料では、どのような状態が「不平等」とみなされうるのかや、企業が対応すべきことを4つの手順に分けて解説しております。 自社でどのような対応が必要か確認したい方は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
1. 同一労働同一賃金とは
同一労働同一賃金とは、同一企業内で、正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間で、賃金や福利厚生などの待遇に不合理な差をつけるのを禁止する制度です。
1-1. 同一労働同一賃金の施行開始はいつから?
同一労働同一賃金の施行開始は、大企業においては、パートタイム・有期雇用労働法が2020年4月1日から施行されました。
一方、中小企業については、1年の猶予期間を設けた後、2021年4月1日から同法が施行されています。さらに、改正労働者派遣法も大企業と同じく2020年4月1日から施行されています。
この法改正により、非正規雇用労働者は「同じ仕事をしているのに正社員と待遇が違う」と感じた場合、待遇差の内容や理由について事業主に説明を求める権利が認められています。この施策は、労働環境の改善と企業の透明性向上を目指しており、企業の人事担当者や経営者にとっても重要な課題となっています。
参考:パートタイム労働者、有期雇用労働者の雇用管理の改善のために|厚生労働省
1-2. 同一労働同一賃金のメリット
同一労働同一賃金のメリットには、まず非正規雇用労働者のモチベーション向上が挙げられます。待遇が平等になることで、社員全体が企業の目標に対して一丸となり、組織のエンゲージメントが高まると期待されます。また、能力開発にも積極的に取り組む姿勢が見られるようになり、結果として企業のパフォーマンス向上が図れます。さらに、不合理な待遇差を改善することで、企業の魅力が社内外に伝わりやすくなり、離職率の低下や採用活動の効率化も期待できます。これにより、人材不足の問題が解消され、企業全体の業績向上にも寄与するでしょう。
1-3. 同一労働同一賃金のデメリット
同一労働同一賃金のデメリットには、主に企業側の人件費の高騰と人事制度の大幅な変更が挙げられます。これらの要素は企業にとって大きな負担となり、結果的に非正規雇用労働者の受け入れが縮小されるリスクが存在します。さらに、人件費の圧迫から雇い止めや派遣切りが発生する可能性があり、この状況は特に中小企業にとって深刻です。大企業と中小企業の賃金格差が一層広がる懸念もあります。
労働者側から見ると、雇用の不安定さが増し、「自分はいつでも切られる弱い立場にある」という心理的負担を感じることが考えられます。これにより不明な点があっても質問しづらくなり、労働者の働く意欲やモチベーションにも影響が出るかもしれません。このようなデメリットを理解し、適切な対応策を講じることが求められます。
2. 同一労働同一賃金の問題点を3つの視点で解説
同一労働同一賃金は、同じ労働をする人たちへの報酬に、公平性を持たせるためのものです。よい効果も多くありますが、問題点がないわけではありません。事業者側・労働者側両方の視点から問題点を考えていきます。
2-1. 社会が抱える問題点
日本の労働市場において、少子高齢化が進み労働人口の減少や高度成長期の終了が大きな影響を与えています。終身雇用や年功序列が崩壊し、非正規雇用労働者が増加しています。2022年時点で非正規雇用労働者は2,101万人にのぼり、これは役員を除く全雇用者数の約36.9%を占めています。
参考:「非正規雇用」の現状と課題|厚生労働省
こうした背景から、不合理な賃金や待遇の不平等が顕在化し、同一労働同一賃金の議論が必要とされています。しかし、この方針の実施には社会全体での考え方の変革が求められます。企業は適切な労働環境を整え、法改正に対応しつつ、従業員のモチベーションを維持・向上させる方法を見つけ出さなければなりません。労働法に関しても専門的な知識が必要となり、法改正の影響やトラブル回避の手段についても継続的な情報収集と対応が不可欠です。
2-2. 事業者側が抱える問題点
事業者側が抱える問題点としては
- 人件費が高くなる
- 賃金格差が消えるわけではない
- 労働者への説明が必要になる
これら3つが挙げられます。
人件費が高くなる
人件費が高くなる問題点は、パートタイムや派遣労働者など、非正規雇用の労働者にも正規雇用と同等の賃金を支払うことになれば当然発生するものです。
人件費が経営を圧迫しないように、人員を減らすか、全体の賃金を見直すか、大きな悩みになるでしょう。
賃金格差が消えるわけではない
同一労働同一賃金は、正規雇用と非正規雇用の間で、同じ労働に対する賃金を同一にするものです。しかし、責任の大きさや役職などが違えば、賃金の格差は当然発生します。そのため、会社が下す評価と報酬に対する不満が消えるわけではなく、賃金の格差問題とそれに関連するトラブルは残ってしまいます。
労働者への説明が必要になる
前述したように、同一労働同一賃金を行っても、賃金格差が消えるわけではありません。そのため、労働者が受け取る報酬に疑問を持つ可能性は十分にあります。同一労働同一賃金が改正されたことで、労働者が賃金や評価の説明を求めた場合、事業者側はそれに応じなくてはいけなくなりました。
今までは表に出なかった疑問や不満が出てくれば、その都度説明のための時間や、書類作成にコストを割くことになるでしょう。
関連記事:同一労働同一賃金の説明義務はどう強化された?注意点や説明方法も解説
2-3. 労働者側が抱える問題点
労働者側が抱える問題点としては
- 賃金の見直しが検討される
- 非正規雇用の枠が減る可能性がある
この2つが挙げられます。いずれも事業者側が抱える問題点でお話した、同一労働同一賃金を行うことで、人件費が高騰することに起因する問題点です。
賃金の見直しが検討される
同一労働同一賃金では、労働に対して公平な報酬を支払うことになります。そのため、非正規雇用だけでなく、正規雇用の労働者の評価も見直され、場合によっては賃金が引き下げられるかもしれません。
特に人件費高騰の問題が大きい企業では、現在の雇用を維持するために、大幅な賃金の見直しがされる可能性が高いです。当然賃金が上がる可能性もありますが、正規雇用・非正規雇用問わず引き下げの可能性もあることを知っておきましょう。
非正規雇用の枠が減る可能性がある
人件費による経営圧迫を改善するためには、人員の削減が効果的です。その対策の1つとして、非正規雇用の枠を減らす可能性があります。派遣契約を切る、パートタイムの時間を減らす、契約社員を減らすなど、さまざまな形で非正規雇用の枠が減るかもしれません。
また、新規雇用の枠自体も縮小されるでしょう。非正規雇用だけでなく、正規雇用の窓口が減るリスクもあります。
3. 日本と海外で違う同一労働同一賃金の捉え方
日本に定着しつつある同一労働同一賃金は、もともとは海外で発祥したものです。それぞれの国が抱える問題の違いは、同一労働同一賃金の捉え方にも表れています。
3-1. 欧米・欧州では人権保障の側面が強い
日本での同一労働同一賃金は、正規雇用と非正規雇用の賃金格差をなくすものだとお話をしてきました。対して欧米・欧州では人権保障の側面が強く表れています。
黒人や女性差別を筆頭に、海外では日本よりも差別問題が深刻です。そのため、人種・性別・障害・信仰する宗教など、ひとりひとりが抱える事情や個性によって、労働場所や労働に対する報酬に大きな違いがありました。
それを是正し、労働に対する適正な報酬を支払うことを広めるために、同一労働同一賃金が始まりました。日本よりも多くの人種や文化が入り交ざる欧米・欧州ならではの事情かもしれません。
3-2. 海外では当たり前の同一労働同一賃金
海外では人権保障の側面が強い同一労働同一賃金は、欧州を中心に当たり前のシステムになっています。年功序列や終身雇用が根強く残る日本では、施行から数年が経過しましたが、まだ十分に実施されているとはいえず、先進国の中では非常に遅れていると言わざるをえません。
海外で同一労働同一賃金が根付いた理由は、やはりここにも「差別をなくす」という考えが関係しています。人種や性別、宗教などで賃金の差を付ければ、それは差別とされてしまい、差別を禁じる原則から外れることになってしまうからです。
3-3. 同一労働同一賃金を行う範囲の違い
日本と諸外国の同一労働同一賃金では、もう1つ大きな違いがあります。同一労働同一賃金を行う範囲です。
日本では企業単位で同一労働同一賃金を実施していますが、海外では職種ごとに同一労働同一賃金が行われています。同じ職種であれば、会社が違っても同一の賃金を受け取れるわけです。
3-4. 同一労働同一賃金の重さにも違いがある
日本の同一労働同一賃金は、法令ではなく考え方の1つです。そのため、違反していても企業に対する罰則はありません。同一労働同一賃金を知らない人や、理解していない人も非常に多いです。
海外の中でも、とりわけ欧州では、同一労働同一賃金がEU指令によって義務付けられています。欧米では明確な規定はありませんが、労働者が格差を訴えた際に、企業側は「差別をしていないこと」を立証する責任が生じます。
同一労働同一賃金に対する考えや重さも、日本と諸外国では大きく違うのです。
関連記事:パートタイム・有期雇用労働法に定められた罰則の詳細を解説
4. 同一労働同一賃金の違反事例
同一労働同一賃金の違反事例として代表的なものは、正社員と非正規社員間での賃金格差です。特に基本給やボーナスの不均衡が問題となることが多く、待遇面での差別も見過ごせません。法改正により、同一労働同一賃金の原則が強化され、企業は違反による罰則を避けるために迅速な対応が求められます。ここでは具体的な違反事例を紹介します。
4-1. 定年後の待遇に変わるケース
A社は従業員66人を雇用する運送会社で、昭和55年から平成5年までに入社した従業員に対し、60歳定年後の再雇用制度を適用して勤務を継続させていました。再雇用された従業員は、定年前と同じ職務内容や就業場所で働くにも関わらず、給与額が大きく減額されていました。このため、再雇用の従業員が「正社員と同等の賃金」を請求した事例が発生しました。
この事例は、同一労働同一賃金の原則を犯しているとして、東京地裁が労働契約法第20条に違反すると結論付けました。裁判所は、定年前後の職務内容が同一であるにも関わらず、給与に大きな格差が存在することは不合理な差異であり、処遇の改善をA社に指示しました。企業の人事担当者や経営者は、この判例を踏まえ、定年後の待遇にも十分な注意を払うべきです。公平な給与設定を行うことは、トラブルの回避と従業員のモチベーション維持につながります。
4-2. 有期契約社員と無期契約社員の格差があったケース
B社において、有期契約社員と無期契約社員の格差が問題となったケースがあります。同一労働同一賃金の違反事例として、このケースでは有期契約社員と無期契約社員、つまり正社員との間に大きな給与体系の違いが存在していました。具体的には、正社員は月給制を採用し、「賞与や退職金」「無事故手当」「作業手当」「給食手当」「住宅手当」「皆勤手当」「家族手当」などの各種手当が支給されていましたが、有期契約社員にはこれらの手当が一切支給されず、時給制が適用されていました。
この状況について、労働者側は不合理な格差があると主張し、裁判所は最終的にこの主張を認めました。大阪高等裁判所の判決では、有期契約社員と無期契約社員の間に存在する大幅な給与差は不合理であり、同一労働同一賃金の理念に反すると判断されました。この判決は企業に対し、労働契約の形態による不合理な待遇差を設けないよう再考を促す重要なメッセージとなっています。
企業の人事担当者や経営者は、このような違反事例を教訓に、労働者間で不公平が生じないような賃金体系の見直しや適切な対応を行うことが求められます。労働法に関心のある専門家も、このような事例を参考に、企業が合法かつ公正な労働条件を提供するためのガイドラインを整備することが重要です。
5. 企業が同一労働同一賃金のトラブルを回避する3つのポイント
同一労働同一賃金が施行された現在、違反によるトラブルを発生させないためには、3つのポイントを押さえて労働者の環境を見直す必要があります。
5-1. 労働者全員の雇用形態と待遇を確認する
まずは事業場に在籍している労働者全員の雇用形態と待遇を確認しましょう。正規雇用の労働者だけであれば、同一労働同一賃金への対応はほとんど必要ありません。
非正規雇用の労働者がいる場合は、人数や待遇を明確にしておきます。
5-2. 待遇に差がある場合はその理由を明確にする
同じ職務についている、正規雇用と非正規雇用の労働者の間に格差がないか確認します。
- 基本給
- 賞与や手当
- 福利厚生
これら3つはとくに正規雇用と非正規雇用で違いが出る部分です。
格差がある場合は、その理由を明確にします。
同一労働同一賃金では、雇用形態を理由にした格差は認められません。役割や役職などによる「不合理ではない差」であることを、説明できるようにしましょう。 当サイトでは、通勤手当や精皆勤手当、賞与などの待遇差の説明内容について、具体例をまとめた資料を無料で配布しております。
不合理な待遇差にならない説明ができるか不安な点があるご担当者様は、こちらから「同一労働同一賃金 対応の手引き」をダウンロードしてご確認ください。
5-3. 改善に向けて動く
2で格差があることが判明し、その理由に不合理な部分がある場合は、改善に向けて動きましょう。経営者の判断だけでなく、労働者の意見や現場の状況を見て判断を下すことが重要です。
また、改善前に労働者から説明を求められた場合は、それに対応する義務があります。それも踏まえて準備をしておきましょう。
関連記事:同一労働同一賃金の説明義務はどう強化された?注意点や説明方法も解説
6. 日本の同一労働同一賃金は正規雇用と非正規雇用の不合理な待遇差をなくすもの
欧米・欧州では差別をなくすために広まった同一労働同一賃金ですが、日本では正規雇用と非正規雇用の格差を減らす目的が強いです。現在は罰則がありませんが、非正規雇用の労働者から、不満が出れば説明しなくてはいけません。
トラブルを防止するために、労働者の労働条件や待遇を確認し、不合理な格差が発生していたら、改善に向けて働きかけましょう。
同一労働同一賃金に罰則はありませんが、放置すると損害賠償のリスクが高くなります。
同一労働同一賃金とは、「正社員と非正規社員を平等に扱う概念」のように認識されていても、具体的にどのような対策が必要かわからない方も多いのではないでしょうか?
本資料では、どのような状態が「不平等」とみなされうるのかや、企業が対応すべきことを4つの手順に分けて解説しております。 自社でどのような対応が必要か確認したい方は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
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