時間外労働の割増率とは?計算方法と2023年法改正、よくある疑問と注意点の総まとめ
更新日: 2025.11.28 公開日: 2021.11.12 jinjer Blog 編集部

法定労働時間を超える時間外労働や休日出勤、深夜勤務に対しては、通常の賃金に上乗せした賃金を支払う必要があり、この上乗せする割合を割増率といいます。割増率を正しく理解し、計算ミスによるトラブルを防ぐことが重要です。
本記事では割増率の基本から、計算方法や2023年の法改正ポイント、よくある疑問と注意点まで詳しく解説します。
従業員の多様な働き方が進む中、割増賃金の計算はますます複雑化しています。しかし割増賃金の計算ミスは、未払い賃金の請求といった経営リスクに直結するため、労務担当者は注意が必要です。
そこで、当サイトではこれらの疑問を解決する資料を無料配布しており、複雑な割増率をケース別に図解しているほか 、深夜労働・時間外労働との組み合わせなど、複雑なパターンを図解で分かりやすく解説 しています。
実例を用いた計算方法も紹介しており 、これ一つで正確な割増賃金計算をマスターできます。参考にしたい方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
目次
1. 時間外労働の割増率とは?

時間外労働の割増率とは、労働基準法で定められた労働時間の上限である法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働に対して、上乗せして支払う賃金の割増率のことです。法定労働時間を超えて従業員を働かせる場合、25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
参考:法定労働時間(労働基準法第32条、第40条)|厚生労働省
1-1. 所定労働時間と法定労働時間の違い

法定労働時間内であっても企業が独自に定めた所定労働時間を超える勤務は「所定外労働」と呼ばれます。所定外労働には割増賃金の支払いは不要です。
なお、就業規則の定めにより、所定時間外労働にも割増賃金を支払う取り扱いを設けている企業もあります。
2. 割増率一覧と適用条件

時間外労働・休日労働・深夜労働には、それぞれ法律で定められた割増賃金率があります。表は割増率の一覧です。
割増率 |
||
|
1ヵ月の時間外労働 60時間以内 |
1ヵ月の時間外労働 60時間超え |
|
|
時間外のみ |
25%以上 |
50%以上 |
|
法定休日労働のみ |
35%以上 |
|
|
深夜労働のみ |
25%以上 |
|
|
時間外労働+深夜労働 |
50%以上 |
75%以上 |
|
休日労働+深夜労働 |
60%以上 |
|
2-1. 時間外労働の割増率は25%
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させた場合の時間外労働には、原則として25%以上の割増賃金を支払う義務があります。例えば、1時間あたりの賃金が2,000円の労働者が法定時間を超えて時間外労働した場合、少なくとも2,500円以上(2,000円×1.25)の賃金を支払わなければなりません。
割増率25%は法律上の最低基準であり、企業が独自に割増率を引き上げることも可能です。また、時間外労働と深夜労働が重なった場合は、割増率を加算して計算する必要があります。
2-2. 60時間を超えた時間外労働の割増率は50%
1ヵ月の時間外労働が60時間を超えた場合、その超過分については50%以上の割増率に引き上げなくてはいけません。
もともとは大企業のみ適用されていた規定ですが、2023年4月1日から中小企業にも適用され、2025年10月現在は企業規模に関わらず50%以上の割増賃金を支払う必要があります。
なお、時間外労働には労働基準法第36条に基づく上限規制があります。たとえ36協定を締結していても、時間外労働は原則として月45時間・年360時間が限度と定められています。
具体的な時間外労働の上限規制については、こちらの記事を参照ください。
関連記事:時間外労働の上限規制はいつから?上限時間と罰則・労働時間管理のポイントを解説
2-3. 深夜時間帯の割増率は25%
深夜労働とは午後10時から翌朝5時までの間の労働を指します。深夜に労働させた場合は、通常の賃金の25%以上を追加で支払わなければなりません。
深夜割増はほかの割増と重複して適用されます。つまり、深夜時間帯の労働が時間外労働にも該当する場合は、「時間外割増25%+深夜割増25%=合計50%増」の賃金を支払う必要があります。
深夜時間帯の割増率について、例えば、23時まで時間外労働した場合の計算方法を見てみましょう。このケースでは、労働時間が8時間超となれば、22時から23時までの1時間に時間外労働25%増と深夜労働25%増の双方が適用され、合計50%増の割増賃金となります。
このように深夜と時間外、深夜と休日など割増要件が重なるケースでは割増率が加算される点に注意してください。
2-4. 休日労働の割増率は35%
法定休日(労基法上最低週1日与える休日)に労働させた場合は、通常賃金の35%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
ここで注意すべきポイントは、「休日」の定義です。法定休日とは先述のとおり労働基準法で週1日以上与えるよう義務付けられた休日を指します。
一方、企業が独自に定めている休日は所定休日といい、例えば土日祝日休みで日曜日を法定休日と定めた場合、土曜日や祝日は法定外の休日となります。
35%以上の割増賃金が発生するのは法定休日に労働させた場合のみで、所定休日の労働は、1日8時間・週40時間の範囲内であれば割増賃金の支払は不要です。これらの上限を超えた分は、時間外労働として扱います。
関連記事:割増賃金とは?種類別の割増率や計算方法・企業が講じるべき対策を解説
3. 残業代の計算方法

次に、時間外労働の残業代を計算する方法について解説します。例えば、月所定労働時間160時間、月給が基本給30万円のみの人が1日に10時間労働した場合、割増率を加算した給料はこのように計算されます。
- 基礎賃金=30万円÷160時間=1,875円
- 割増率=25%
- 1,875円×2時間×1.25=4,687.5円
- 4,687.5円の場合、切り上げになるため4,688円となる
続く章で、計算例を基にステップごとに解説していきます。
3-1. 1時間当たりの基礎賃金を計算する
まず時間外労働の割増率を計算するために、1時間当たりの基礎賃金を計算する必要があります。
平均所定労働時間=(365日-年間所定休日)×1日の所定労働時間÷12ヵ月
時給=月給÷月の平均所定労働時間
この金額が基礎賃金と呼ばれ、1時間当たりの賃金となります。
関連記事:割増賃金の基礎となる賃金とは?計算方法など基本を解説
3-2. 時間外労働を集計し正しい割増率を確認する
次に、該当期間の時間外労働の時間数を集計し、それぞれ適用すべき割増率を確認します。時間外労働の割増率は、「2. 割増率一覧と適用条件」章の表の通り、状況によって異なります。
手作業で時間外労働の時間を集計する場合、「法定内か法定外か」「60時間超か否か」「深夜帯かどうか」「法定休日かどうか」などを判定しなければならず、手間がかかるうえに確認ミスが起きやすい業務です。
そこで、勤怠管理システムや給与計算システムを導入して、打刻データから自動で労働時間の集計と割増率の判定をおこない、集計漏れや割増率適用ミスの防止につなげるとよいでしょう。
3-3. 割増率を適用して残業代を計算する
基礎賃金と、時間外労働の時間数・割増率を算出した後は、割増賃金を計算し、通常の賃金に上乗せします。
割増賃金=基礎賃金×時間外労働の時間数×(1+割増率 )
1時間あたりの給料や割増賃金に1円未満の端数が生じた際は、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を切り上げます。
このように、時間外労働の計算は流れを押さえてしまえば難しいものではありません。ただし、従業員が多い企業では一人ひとりの割増率を把握して計算するまでに時間がかかるため、その場合は勤怠管理システムや給与計算システムなどの活用がおすすめです。
3-4. 歩合給の場合の残業代の計算方法
従業員の賃金が歩合給(出来高給)の場合も、残業代支払い義務があります。歩合制は労働時間ではなく成果に応じて賃金を支払う制度ですが、残業代が不要になるわけではありません。
歩合給の残業代計算では、まず賃金計算期間の総支給額(歩合給分)を総労働時間で割って1時間当たりの賃金を算出します。次に、その時間単価に割増率を掛け算します。
実務では、完全歩合給でなく一定の基本給など固定給+歩合給という形が多いでしょう。その場合、固定給部分については通常の残業代計算をおこない、歩合給部分については先ほどの方法で算出した金額をそれぞれ求め、結果を合算します。
割増率が25%の場合の例:
- 固定給:基礎賃金×時間外労働の時間数×1.25
- 歩合給:歩合給の時価単価×時間外労働の時間数×0.25
これらを合算した金額が残業代となります。
4. 2023年法改正により60時間超の割増率は50%

1ヵ月60時間を超えた部分の時間外労働については割増率を50%に設定します。この規定は2010年の法改正で新設後、大企業にのみ適用されていました。しかし、2023年4月1日から中小企業にも適用されることになり、現在はすべての企業が対象となっています。
関連記事:月60時間超残業の割増賃金率引き上げは中小企業も対象に!計算方法を解説
やむを得ず60時間を超えるような繁忙が発生する場合には代替休暇制度の活用も検討するとよいでしょう。月60時間を超える時間外労働に対し、追加の25%を支払う代わりに、有給の代替休暇を与えることができます。この制度を設ける際は、労使協定の締結が必要です。
ただし、実際に代替休暇を取得するかどうかは従業員の意思により決定されるため、取得を義務づけることはできません。
5. 割増率が適用されないケース

労働基準法第41条では、特定の従業員について労働時間や休日の規定を適用しないと定められており、時間外労働や休日労働の割増が法的に適用除外となるケースがあります。代表的な例を紹介します。
5-1. 管理監督者
管理監督者には、労働時間や時間外労働・休日の規定が適用されません。
管理監督者とは、経営者と一体的な立場にある従業員のことを指します。経営上重要な職務と権限を与えられている、出退勤の自由度が高いなどの一定の要件を満たす場合、労働基準法上は時間外・休日労働の割増賃金を支払う義務がありません。ただし、深夜割増については支払わなくてはならないため、判別に注意が必要です。
管理監督者は、肩書きでなく、実態として要件を満たしているかどうかで判断されます。経営的な意思決定に深く関与していることや、裁量や待遇面で相応の処遇がされていることが必要であり、管理職だからといって安易な適用除外は禁物です。
5-2. 機密の事務を取り扱う者
機密の事務を取り扱う者とは、典型的には社長秘書や役員秘書など、経営者または管理監督者の活動と一体不可分な職務に就く従業員のことです。
経営者の出張への同行や重要会議の準備・同席など、勤務状況に合わせて臨機応変に働く必要があり、厳密な始業・終業時刻の管理になじまないのが特徴です。
機密の事務を取り扱う者に該当するのは極めて限定的な場合で、一般的なデスクワーク中心で、勤務時間の見通しがつきやすい秘書の多くは原則として該当しません。
さらに労働基準法第41条では、農業・畜産・水産業に従事する労働者や監視または断続的労働に従事する者で、所轄労基署長の許可を受けたものも適用除外としています。断続的労働とは、宿直や警備員など、常時緊張を伴わない業務を指します。
5-3. 研究開発職
新技術や新商品を生み出す研究開発業務は、特定の時期に業務量が集中しやすく、一律の残業上限になじみにくい業務です。そのため、2019年の労働基準法改正により、残業上限規制の適用を除外する特例が設けられました。
ただし、専門的・科学的な知識や技術を持つ労働者が専門的な新技術や新商品の研究開発に主として携わっている場合に限ります。既存製品やサービスの改良・維持に留まる業務や、製品を単に製造するだけの業務は、この「研究開発業務」には含まれません。
6. 時間外労働の割増率についてよくある質問

最後に、人事担当者が押さえておきたい、時間外労働の割増率に関する疑問についてQ&A形式で解説します。
6-1. 割増率が適用されない場合の残業代はどうなる?
法律上、労働時間規制の適用除外となる労働者(管理監督者・機密事務取扱者など)については割増賃金を支払う義務はありません。そのため多くの企業では残業代が支給されないこととなっています。ただし、その場合でも深夜労働の割増(25%)は適用除外されないため、深夜22時~翌5時に勤務した場合は深夜割増を支払う必要があります。
6-2. 割増率を間違えて少なく支払った場合どうなる?
割増賃金の支払い不足は労働基準法違反となります。紛争となった場合、未払い残業代の支払いに加えて法定の遅延損害金(延滞利息)や付加金の支払いを裁判所に命じられる可能性があります。また、従業員からの信頼にも影響を与えるでしょう。
注意したいのは、単に差額を払えば終わりではない点です。不足分の支給に伴い、社会保険料や源泉所得税も過去にさかのぼって修正が必要になることがあります。このような修正には多くの手間がかかるため、ミスを起こさないよう普段から正確な計算を心がけましょう。
6-3. 未払い残業代を請求されたらどう対応すべき?
まずは請求内容を精査することが重要です。従業員の主張する時間外労働の時間数や金額が正しいか、タイムカードや勤怠記録、賃金台帳などをもとに事実関係を確認します。請求されている残業代が時効(原則3年)を超えている場合は、支払いの義務はありません。
企業側の計算ミスによる未払いが判明した場合は、できるだけ早急に未払い残業代を支払い、従業員との間で和解についての合意書を交わすことが望ましいです。悪質な未払いでない限り、多くは話し合いでの解決(和解や労基署でのあっせんなど)となります。これらの対応が難しい場合は、弁護士や社労士など専門家に相談するとよいでしょう。
6-4. 就業規則や労働条件通知書には割増率の記載が必要?
就業規則や労働条件通知書には、時間外労働の割増率の記載が必要です。労働基準法では、労働契約締結時に賃金・労働時間その他労働条件を明示することを義務づけています(労基法第15条)。賃金の決定・計算方法を明示することとされており、時間外労働の割増や深夜労働の割増の計算方法まで具体的に示さなければなりません。
また就業規則(常時10人以上の企業で作成義務あり)にも、賃金に関する事項として割増賃金の計算方法を定めておくことが法律で定められています。
関連記事:就業規則とは?人事担当者が知っておくべき基礎知識をわかりやすく解説
関連記事:労働条件とは?明示義務や必須項目、雇用契約書との違いなどを解説!
7. 時間外労働の割増率は正しく計算しよう

人事労務担当者は、法律で定められた割増率を正確に適用し、未払い残業代が発生しないよう適切に管理する責任があります。違反すれば従業員の信頼を失うだけでなく、法的リスクも伴います。
正しく計算するコツは、「労働時間の区分(法定内・法定外・深夜・法定休日)」「割増率」を一つひとつチェックすることです。近年では柔軟な勤務制度の普及などで労働時間の把握も複雑化しているため、勤怠管理システムや給与計算システムの活用も検討するとよいでしょう。
残業代を正しく支払い、健全な労使関係の構築に努めましょう。
従業員の多様な働き方が進む中、割増賃金の計算はますます複雑化しています。しかし割増賃金の計算ミスは、未払い賃金の請求といった経営リスクに直結するため、労務担当者は注意が必要です。
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