同一労働同一賃金で賞与はどうなる?契約社員やパートを賞与なしにするリスク
更新日: 2025.11.21 公開日: 2022.1.20 jinjer Blog 編集部

2018年6月29日に働き方改革関連法が成立し、「同一労働同一賃金」の原則が整備されました。今後は雇用形態によらず、不合理な差がない賃金を、職務の内容などに応じて支払う必要があります。
ここでいう賃金には、基本給や各種手当だけでなく、夏のボーナスや冬のボーナスなどの「賞与」もふくまれます。
今後、同一労働同一賃金の考え方に基づき、賞与の支払いをどのように考えていけばよいのでしょうか。
この記事では、同一労働同一賃金における賞与の扱いや、就業規則の変更が必要な箇所、同一労働同一賃金に違反した場合の罰則についてわかりやすく解説します。
▼そもそも「同一労働同一賃金とは?」という方はこちら
同一労働同一賃金とは?適用された理由やメリット・デメリットについて
目次
意図せず不合理な待遇差を放置してしまうと、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。
企業の信頼性を守るためにも、客観的な視点での定期的な見直しが不可欠です。
◆押さえておくべき法的ポイント
- 「均衡待遇」と「均等待遇」の判断基準
- 企業に課される「待遇に関する説明義務」の範囲
- 万が一の紛争解決手続き「行政ADR」の概要
最新の法令に対応した盤石な体制を構築するために参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 同一労働同一賃金で賞与はどうなる?厚生労働省の見解に基づき解説


同一労働同一賃金は、働き方の多様化が進む中で、正規・非正規間の不合理な待遇差をなくす重要な考え方です。特に賞与の支給についても、これまで以上に公正な対応が求められるようになりました。
ここでは、同一労働同一賃金の導入によって賞与の扱いがどのように変わるのか、厚生労働省の見解に基づいて解説します。
1-1. 賞与への同一労働同一賃金の適用はいつから?
同一労働同一賃金とは、正規社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規社員(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者、嘱託社員、契約社員)との間にある不合理な待遇差の解消を図る考え方です。異なる雇用形態でも仕事の内容が同じであれば、待遇も同じ内容にすることを目指しています。
非正規社員の割合は年々増加しており、2024年時点で全雇用者数の4割近くを占めています。多様で柔軟な働き方の選択肢を広げるには待遇差の解消が不可欠であることから、2020年4月にパートタイム・有期雇用労働法によって同一労働同一賃金が法整備されました(中小企業への適用は2021年4月から)。この法律は、通常の労働者との間で「均衡待遇」と「均等待遇」の実現を目指すものです。
なお、同一労働同一賃金が掲げる「不合理な待遇差の解消」には、労働者に支払う基本給や各種手当のほか、毎年の賞与もふくまれます。そのため、賞与に関しても同一労働同一賃金の考え方に照らしあわせて、設定や見直しをする必要があります。
1-2. 同一労働同一賃金の均衡待遇・均等待遇の考え方
厚生労働省によると、企業は正社員と非正規雇用労働者の不合理な待遇差を解消するため、均衡待遇・均等待遇の2つの条件を満たす必要があります。
均衡待遇、均等待遇それぞれは次のとおり定義されています。
【均衡待遇】
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない
【均等待遇】
事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない
つまり、同一労働同一賃金では、職務の内容などが同一であれば同一の賃金を(均等待遇)、職務の内容などが異なる場合は合理的でバランスのとれた待遇差を(均衡待遇)付与することが求められます。
この「賃金」には、「基本給、賞与その他の待遇」がふくまれます。したがって、賞与の支払いについても、企業は均衡待遇・均等待遇の考え方に従う必要があります。
1-3. 同一労働同一賃金ガイドラインに基づいて「貢献に応じた支給」が必要
厚生労働省のガイドラインでは、同一労働同一賃金における賞与の扱いを次のように説明しています。
ボーナス(賞与)であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについては、同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。
とくに派遣労働者の場合は、派遣元の企業が「派遣先均等・均衡方式」を選択している場合、派遣先労働者と同等の賞与を支払う必要があります。「労使協定方式」を選択している場合は、この限りではありません。
同一労働同一賃金の導入によって、今後は雇用形態によらず、労働者の職務の内容などに応じて賞与を支給しなければならないことを覚えておきましょう。
関連記事:同一労働同一賃金で業務における責任の程度はどう変化する?
関連記事:労使協定方式や同一労働同一賃金における派遣会社の責任について
2. 同一労働同一賃金で就業規則はどう変わる?法改正の2つのポイントを解説


賞与の支払いについて就業規則に記載している場合、同一労働同一賃金に対応した内容のものに改定しなければならない可能性があります。ここでは、同一労働同一賃金を踏まえた、就業規則の2つのポイントを解説します。
2-1. そもそも賞与の支払いは就業規則に記載なしでも認められる
賞与の支払いは「臨時の賃金」として「相対的必要記載事項」に該当します。そのため、従業員に明示していれば就業規則等に記載していなくてもよいとされています。しかし、パートや有期雇用の従業員に対しては、パートタイム・有期雇用労働法で書面による明示が義務付けられています。
2-2. 非正規雇用労働者を支給対象外にはできない
賞与の支払いを就業規則に記載している場合、注意点が1つあります。
それは、就業規則に「非正規雇用労働者(パートやアルバイト)に賞与を支給しない」といった内容の記載がある場合、同一労働同一賃金の考え方に違反する可能性がある点です。
同一労働同一賃金では、雇用形態によらず、労働者の職務の内容などに応じて賞与を支給しなければなりません。
就業規則はあくまでも全社員を対象としたものであり、「パート・アルバイトは一律で支給対象外とする」といった書き方は、労働者に不合理な待遇差ととらえられるリスクがあります。ただし、職務の内容に応じた合理的な待遇差(均衡待遇)であれば認められます。
そのため、正社員やパート・アルバイトで職務の内容が異なる場合は、就業規則を分けて作成することにより、賞与の支給についての誤解を防ぐことができます。
3. 同一労働同一賃金の罰則は?違反した場合の2つのリスク


もし同一労働同一賃金の罰則に違反した場合、なんらかの罰則が科されるのでしょうか。
実はパートタイム・有期雇用労働法において、企業が同一労働同一賃金を守らなかった場合の罰金や科料は決められていません。
しかし、行政による是正指導や勧告に従わない場合は、20万円以下の過料が科される可能性があります。このほかにも、同一労働同一賃金に違反し、不合理な待遇差を設けた場合、企業は2つのリスクを負うことになります。
- 優秀な人材が他社に流れるリスク
- 不合理な待遇差により訴訟に発展するリスク
不合理な待遇差が是正されないままだと、労働者が現状の待遇に不満を持ち、現場を動かす人材が外部に流出するリスクがあります。
罰則がないからといって同一労働同一賃金を遵守しないのではなく、「人材の流出リスク」「損害賠償リスク」の2つのリスクに備えて、同一労働同一賃金の実現に向けた人事制度の整備に取り組みましょう。当サイトでは、同一労働同一賃金の基礎知識や具体的な対応方法、リスクに備えて企業が準備すべきことを、図を用いながら解説した資料を無料で配布しております。自社の同一労働同一賃金の対応で不安な点があるご担当者様は、こちらから「同一労働同一賃金 対応の手引き」の資料をダウンロードしてご確認ください。
3-1. 賞与格差が違法となる場合もある
ただし、注意が必要なのが、訴訟に発展するリスクもある点です。労働者が不合理な待遇差を裁判所に訴え出て、損害賠償が認められた判例も過去に存在します。
たとえば、ある判例では、契約社員と正社員の間で業務内容に大きな差がなかったにもかかわらず、十分な賞与が支給されなかったことが問題となりました。裁判所は、「賞与の支給が労働者の貢献に対する正当な評価であり、雇用形態のみを理由に支給しないのは不合理である」と判断し、企業に対し未払い分の支払いを命じました。
参考:正規労働者と同一の雇用契約上の地位確認等請求事件|裁判例検索
4. 同一労働同一賃金での賞与の扱いを知り、就業規則を見直そう


同一労働同一賃金の導入により、基本給だけでなく賞与の扱いも変わります。今後は労働者の雇用形態によらず、職務の内容などに応じて賞与を支払わなければなりません。
賞与の支払いについて就業規則に記載している場合は、抜本的な見直しが必要な可能性があります。同一労働同一賃金での賞与の扱いを知り、就業規則の変更もふくめた対応をおこないましょう。
関連記事:同一労働同一賃金で就業規則の見直しは必要?待遇差の要素や注意点



意図せず不合理な待遇差を放置してしまうと、思わぬ労使トラブルに発展する可能性があります。
企業の信頼性を守るためにも、客観的な視点での定期的な見直しが不可欠です。
◆押さえておくべき法的ポイント
- 「均衡待遇」と「均等待遇」の判断基準
- 企業に課される「待遇に関する説明義務」の範囲
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