有期雇用契約書に正社員登用についての条件記載は必須?作成ポイントも解説!
契約社員の方を採用する場合、後にその方を正社員登用する可能性もあります。雇用契約書には正社員登用のことについてきちんと記載する必要があります。
雇用契約書は、労働条件について雇用主と従業員が納得していることを示すための書類です。正社員登用の条件や基準についても明記しておくことで、不要なトラブルを避けやすくなります。
本記事では、契約社員からの正社員登用について雇用契約書の作成で押さえるポイントや、契約社員からの正社員登用について雇用契約書の記載で注意するべきことについて、解説いたします。
参考記事:雇用契約の定義や労働契約との違いなど基礎知識を解説
目次
有期雇用契約は労働基準法・労働契約法において様々なルールが設けられているため、法律に則って雇用契約を結ぶ必要がありますが、従業員とのトラブルになりやすい部分でもあります。
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1. 契約社員の雇用契約書に正社員登用条件は記載したほうがよい
労働基準法第15条では、雇用主には雇用契約締結時における労働条件の明示義務について以下の通り定めています。
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
労働条件の明示義務を果たすために作成される一般的な書類として「労働条件通知書」があります。労働条件通知書には「絶対的明示事項」という必ず記載しなければならない項目が定められています。
2023年現在、この絶対的明示事項の中に「正社員登用に関する条件の明示」は含まれていません。また、法改正により2024年4月1日から無期転換申込権が発生する契約更新時に無期転換ができることを労働者へ明示することが加わりますが、無期転換は正社員登用とは異なります。
つまり、現状の法律では正社員登用条件を明示しなくても違法とはなりません。
しかし正社員登用の条件を記載することでトラブルを未然に回避できたり、採用時に正社員登用の条件を明示することで応募者にポジティブな印象を与えられるなど、記載することによりメリットを得られます。逆に、書かないことによりトラブルが発生する可能性があることを考慮すると、明示しておくことが望ましいと言えます。
また、労働条件通知書へ記載しておけば十分ではありますが、労働条件通知書から特に重要な項目を抜粋して雇用契約書を作成することで、従業員と雇用契約の内容について念入りに確認ができます。契約後の認識齟齬を回避できる可能性が高まるため、雇用契約書にも記載しておくとより安心でしょう。
関連記事:労働基準法第15条に基づく労働条件の明示義務や意味、方法を解説
2. 契約社員からの正社員登用について雇用契約書の作成で押さえるポイント2点
契約社員を正社員登用する可能性がある場合、雇用契約書を作成する際に押さえておくべきポイントとしては、以下の2点が挙げられます。
- 絶対的明示事項と相対的明示事項を網羅する
- 正社員登用のための判断基準をきちんと記載する
それぞれについて、説明します。
2-1. 絶対的明示事項と相対的明示事項を網羅する
昨今、労働条件通知書と雇用契約書を兼ねた労働条件通知書兼雇用契約書を作成する企業も増えてきています。
社員の雇用形態に限らず、労働条件通知書には必ず記載しておかなければならない事項があり、「絶対的明示事項」と言います。労働条件通知書兼雇用契約書の作成を考えている場合は、各項目の内容を必ずおさえておきましょう。
また、「絶対的明示事項」とは別に、その企業において何らかの決まりやルールがある場合に記載する必要がある「相対的明示事項」という項目もあります。相対的明示事項は口頭説明だけでも問題ありませんが、後にトラブルに発展しないように書面で明示することを推奨します。なお、就業規則の交付が行われているのであれば、相対的明示事項に関してはあらためて文書で明示をする必要はなく、就業規則を参照してもらう形でも問題ありません。
【絶対的明示事項】
- 労働契約期間
- 就業場所および業務内容とその変更範囲
- 始業時刻と終業時刻
- 所定労働時間を超える労働(いわゆる残業)の有無
- 休憩時間・休日・休暇に関する事項
- (交代制勤務が発生する場合)交代順序あるいは交代期日
- 賃金計算方法、支払い方法および支払日
- 退職・昇給に関する事項(昇給に関する内容のみ、文書で示さずに口頭での説明などでも問題なし)
- 契約の更新上限の有無とその理由
- 無期転換申込の機会(2024年4月以降で、無期転換ルールが適用できる場合)
- 無期転換後の労働条件(2024年4月以降で、無期転換ルールが適用できる場合)
【相対的明示事項】
- 退職手当の計算方法、支払い方法および支払日
- 臨時の賃金および最低賃金額に関する事項
- 労働者への負担が発生する食費や作業用品に関する事項
- 安全衛生や職業訓練に関する事項
- 災害補償および業務外の疾病扶助に関する事項
- 表彰・制裁に関する事項
- 休職に関する事項
労働条件通知書兼雇用契約書の作成においては、これらの事項を網羅しているかどうかをしっかりと確認する必要があります。
また、雇用契約は口頭でも成立するため雇用契約書は法律上必ず作成しなければならない書類ではありませんが、労使間トラブルが起きた際の証拠資料になるので、必ず書面で締結するようにしましょう。
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2-2. 正社員登用のための判断基準をきちんと記載する
契約社員から正社員への登用は無条件ではなく、何らかの条件が設けられているケースが大半です。
勤務成績・勤務態度、業務遂行能力、契約更新時期の会社の経営状況など、さまざまな要素を考慮に入れたうえで正社員登用の可否が判断されるため、雇用契約書にもそのことをきちんと記載しておくべきといえます。
正社員登用の条件をあやふやにしておくと、トラブルの原因になりかねません。
正社員の雇用契約書に記載の条件を参考に、できる限り具体的な内容で記載することが望ましいでしょう。
参考記事:正社員の雇用で必須の雇用契約書の作成方法を分かりやすく解説
3. 契約社員の雇用契約書を作成する際に注意するべき2つのこと
契約社員の雇用契約書や、実際に正社員登用する際の雇用契約書を作成する場合に注意しておくべきこととして、以下2点が挙げられます。
- 雇用形態ごとに雇用契約書の雛形を作成しておく
- 正社員登用した際にはあらためて雇用契約書を交わす
それぞれについて、説明します。
3-1. 雇用形態ごとに雇用契約書の雛形を作成しておく
契約社員でも正社員と同じような仕事を担当するケースは多々ありますが、雇用形態が違えば当然ながら労働条件も異なります。
そのため、雇用契約書の雛形を一つしか用意せずに、雇用契約を結ぶ際に雇用形態に応じてその都度細部を修正しているようだと、本来であればその雇用形態にそぐわない内容の雇用契約書で契約を結んでしまうといったミスも考えられます。
正社員・契約社員・派遣社員・パート・アルバイトなど、雇用形態ごとに雇用契約書の雛形を作成しておき、それぞれに適した雇用契約書で雇用契約を交わすようにしましょう。
参考記事:雇用契約書が正社員でも必要な場合と不要な場合の違いとは?
3-2. 正社員登用した際にはあらためて雇用契約書を交わす
契約社員を正社員登用しても仕事内容に大きな違いがない可能性がありますが、ボーナスの有無や定年までの雇用保障の有無など、雇用契約の条件には大きな違いが生じる可能性が高いです。
そのため契約社員を正社員登用した場合には、あらためて雇用契約書を交わすのが一般的です。
雇用契約書は、雇用主と従業員の双方が労働条件について確認したことを示すための書類なので、正社員登用のタイミングで再度交わしておくことで、不要なトラブルを避けることにつながります。
参考記事:雇用契約を更新する手順|従業員に対して実施すべき具体的対応を解説
4. 契約社員の正社員登用に関するよくある質問
契約社員の正社員登用に関して、「正社員登用に年齢制限を設けていいのか?」「正社員登用する際に考慮すべき点が分からない」と疑問を持たれる人事担当者や、「無期転換は正社員登用と同義なのか?」など従業員から質問される人事担当者もいらっしゃるのではないでしょうか?
それぞれについて詳しく説明していきます。
4-1. 正社員登用への年齢制限は違法?
世間的に「正社員登用は40代がボーダーライン」のような定説があったりしますが、雇用対策法第10条により募集や採用において年齢制限を設けることを禁止しているため、原則年齢制限はありません。
参照:募集・採用における年齢制限禁止について|厚生労働省
ただし、国家公務員および地方公務員に関しては年齢制限が適用されない旨が同法第37条第2項に記載されています。
また、一部例外として年齢制限が認められる場合もあります。詳しくは厚生労働省が発行している以下の資料をご参照ください。
関連資料:例外として年齢制限が認められる場合があります|厚生労働省
4-2. 正社員登用する際の検討ポイントとは?
正社員登用をする際は、該当従業員の日々の業務態度・成果や、周りの従業員や所属部署の上長からの評価を判断基準として検討しますが、企業や部署を取り巻く状況も考慮して判断する必要もあると言えます。
たとえば、人件費がひっ迫していて今年度の採用が難しい、配属予定の部署は人が足りている、などです。
正社員登用は企業や組織の視点に立って考えると、人材戦略の一部となります。俯瞰的な視点も忘れないように心がけましょう。
4-3. 無期契約社員に転換できる「5年ルール」とは?
正社員登用と混同しがちな言葉として、無期契約や無期転換があります。
無期契約や無期転換は、有期雇用契約の対義語で無期雇用契約が正式名称です。
言葉のとおり、有期雇用契約は期間の定めがある雇用契約で、無期雇用契約は期間の定めがない雇用契約です。
正社員は期限の定めがない雇用契約であるため、無期雇用契約と同義だとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。厳密には無期雇用契約は、正社員である場合と非正社員である場合の両パターンが存在するのです。
というのも、平成25年4月1日に改正労働契約法18条が施行され、有期雇用契約が何度も更新され同企業との契約期間が通算5年を超えた場合、労働者が申し出ることで有期雇用契約から無期雇用契約へと切り替えることができるようになりました。
しかし、この無期雇用契約への転換は、正社員への転換と同義でない場合があるのです。有期雇用契約社員を正社員とする場合、コストが大きく変わります。そのため、契約期間だけを無期とし、それ以外の条件は有期雇用時と同等のままとしてコストへの影響を最小限とする企業が多くみられています。
労働者にとって、有期雇用契約時は契約更新の確認が都度発生するため不安定でしたが、無期雇用契約になれば安定的に労働できる点がメリットです。一方で正社員となり処遇を改善したいと考えている労働者にとっては良い制度とは言いきれず、無期転換は正社員になる機会損失につながっているのではないかといった意見もあがっています。
5. 契約社員の正社員登用がある場合はその条件・判断基準の記載が重要
契約社員として働く場合、正社員に登用されることを目指す方も多いので、そのための条件や判断基準をうやむやにしておくと、トラブルの火種になってしまう可能性もあります。
雇用契約書は、労働条件について雇用主と従業員の双方が納得したことを示すための書類です。正社員登用の条件や判断基準についてもきちんと記載することを心がけましょう。
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