年末調整を忘れた場合に発生する問題と対処法をわかりやすく解説
更新日: 2025.5.30
公開日: 2021.9.10
jinjer Blog 編集部

年末調整とは、従業員の給料から天引きしている源泉所得税の合計と、その年に納めなければならない税額(年税額)を比較し、過不足分を調整する処理のことです。企業は必ずおこなわなければならず、忘れた場合はさまざまな問題が発生します。
今回は、年末調整をし忘れてしまった場合に考えられるリスクについて解説するとともに、適切な対処法を紹介します。
関連記事:年末調整とは?確定申告との違いや必要書類、計算の流れをわかりやすく解説
目次
年末調整は、従業員の家族構成やライフステージ、副業の有無、控除対象となる保険類への加入状況など、人によって複雑な分岐や異なる計算方法のルールがあるため、とても複雑な業務です。
給与計算を担当する方にとって、計算結果を統合する一年の集大成とも言える業務ですが、
「結婚・離婚・定年・退職・死亡など、様々なケース別の年末調整に対応する際の注意点が知りたい」
「障害者や勤労学生、共働き、遺族年金がある場合など家族構成に関する控除のポイントを押さえておきたい」
「記載ミスや、申告内容・扶養の変更、税務署からやり直し通知を受けた際などの対応方法が知りたい」
このようなイレギュラーケースの対応について不安を抱えている担当者の方に向けて、当サイトでは「Q&A形式でわかる年末調整と源泉徴収」という資料を無料配布しています。
資料では、一問一答形式でケース別の具体的な年末調整の対応方法を解説していますので、すぐに使える年末調整のガイドブックが欲しいという方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 年末調整を忘れた場合の問題とリスク
年末調整を忘れた場合、大きな問題やリスクに発展する恐れがあります。会社だけでなく、従業員にも影響を及ぼすため、正しく年末調整の手続きをすることが大切です。ここでは、年末調整を忘れた場合の問題とリスクについて詳しく紹介します。
1-1. 正しい所得税を納付できない
年末調整を忘れてしまうと、従業員の所得税を正しく納付できないことになります。企業は毎月(毎日)支払う給与から所得税を源泉徴収し、従業員の代わりに納めています。
この源泉所得税はあくまでも概算であり、その年の給与総額や控除額などが確定しなければ、正しい所得税を計算・納付することができません。そのため、年末調整を忘れたということは、所得税を納め過ぎたもしくは、所得税が納め足りない可能性が高いです。
関連記事:年末調整をしないとどうなる?5つのリスクと間に合わなかった時の対処法を解説
1-2. 従業員の還付金や住民税にも影響が出る
年末調整をし忘れると、正しい所得税が納付できないだけでなく、従業員の還付金や住民税にも影響を及ぼします。年末調整をしなければ、正しく所得控除が反映されないために、税金を納め過ぎている可能性が高いです。その場合、従業員は本来受けられるはずの還付金をもらえないことになってしまいます。
還付される金額は収入によって異なりますが、10万円前後が還付されるケースもあります。従業員の手取りを増やすためにも、年末調整は忘れてはなりません。
また、年末調整の結果を基に、翌年の住民税は決められます。年末調整で所得控除を正しく反映させていなければ、本来よりも住民税の金額が高くなってしまうことも考えられるので注意しましょう。
▼各控除の説明はこちら
関連記事:年末調整の障害者控除とは?対象範囲やいくら戻るのか、書類の書き方を解説
関連記事:年末調整の社会保険料控除とは?対象となる保険や計算方法を解説
関連記事:年末調整の「ひとり親控除」とは?寡婦控除との違いや対象者を解説
1-3. 従業員が確定申告をしなければいけなくなる
年末調整をし忘れた場合、原則として従業員が自分で確定申告をしなければなりません。確定申告をしない場合、配偶者控除や扶養控除、社会保険料控除といった所得控除を正しく反映できていないため、税金の納め過ぎとなっている可能性が高いです。
そのため、確定申告をしなければ、還付を受けられず、従業員が損をする恐れがあります。場合によっては、毎月の給与などから天引きされる源泉所得税が、本来納めるべき所得税よりも少ないことにより、確定申告によって追加で税金を納めなければならない可能性があります。この場合、確定申告をしなければ、法令違反となり、従業員が罰金などの罰則を受けるリスクもあるので注意が必要です。
このように、会社が年末調整を忘れた場合、従業員に確定申告をしてもらわなければならず、本来不要な手続きの負担を増やしてしまう原因にもなりえます。
関連記事:【従業員向け】年末調整はいつまでにおこなう?期限と提出書類の種類を紹介
1-4. 法令に基づき会社に罰則が課せられる
従業員の税金の問題だから、会社に大きな損は発生しないだろうと考えている担当者もいるかもしれません。年末調整をおこなうのは、企業の義務です。年末調整を正しくおこなわなかった場合、所得税法に基づき、罰金や懲役などの罰則が課せられる恐れがあります。年末調整忘れは、従業員の納税手続きの負担を増やすだけでなく、会社に法的な罰則が課される可能性もあるので、正確かつ慎重に年末調整をおこないましょう。
ここまで解説したように、年末調整を忘れることによる影響は大きいです。また、年末調整において抜け漏れが発生していたり、故意に不正をおこなったりした場合、最悪のケースで罰金や懲役が企業に科される可能性があります。そのようなことにならないためにも、年末調整に必要な業務をあらかじめ把握し、抜け漏れなく対応する必要があります。当サイトでは、年末調整の手順や必要な書類をまとめた資料を無料でお配りしています。ミスなどが発生しないように参照しながら業務をおこないたい方は、こちらから「年末調整のガイドブック」をダウンロードしてご活用ください。
2. 年末調整の提出期限はいつまで?
年末調整を忘れていなくても、うっかり期限を過ぎてしまうと忘れたときと同じことになります。年末調整の期限を正しく理解し、余裕を持って手続きができるようにしましょう。ここでは、年末調整の提出期限と、必要書類について詳しく紹介します。
2-1. 年末調整の提出期限
会社で取りまとめた従業員の年末調整書類を税務署に提出する期限は、翌年の1月31日までとなっています。そのため、年末調整の期限は、翌年1月31日までです。それまでであれば、たとえ従業員が年末調整について忘れていた場合など、会社が定めた期限を過ぎても、再計算により対応できる可能性があります。
ただし、源泉徴収票を既に発行している場合には、訂正・再発行には大きな手間がかかるので、実務上は再計算が困難となるケースもあります。年末調整を忘れないためにも、期限を正しく理解し、従業員にも書類の提出期限をきちんと周知しましょう。
関連記事:年末調整の再調整は可能!方法やポイントをわかりやすく解説
2-2. 従業員が提出する年末調整関係書類
従業員が記入し、提出すべき主な年末調整関係書類は次の3つです。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
- 給与所得者の基礎控除申告兼給与所得者の配偶者控除等申告兼所得金額調整控除申告書
以下、それぞれについて簡単に説明します。なお、2年目以降に住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)を年末調整で適用する場合、住宅借入金等特別控除申告書も提出する必要があるので注意しましょう。
1. 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は、従業員が扶養控除を受けるときに必要な書類です。控除の要件にあたる扶養親族がいるときは、扶養控除を受けることで、本来納めるべき税金の負担を軽減することができます。
この申告書には、扶養者の氏名、生年月日、収入の有無などを記載する必要があります。扶養控除を正確に申告することで、従業員の税負担を減少させられるので、各自での記入が重要です。
なお、扶養控除等(異動)申告書の提出期限は、その年の最初に給与を支払う日の前日までと定められています。ただし、年の途中に扶養親族の人数が変わったなどで、会社に情報が伝わっていない場合には、控除内容を正しく反映させるため、年末調整のタイミングにも提出してもらうことが大切です。
参考:A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告|国税庁
2. 給与所得者の保険料控除申告書
給与所得者の保険料控除申告書は、従業員が保険料(生命保険料や地震保険料など)の控除を受けるときに必要となる書類です。
この申告書には、従業員が支払った各種保険料の金額を正確に記入する必要があります。保険料控除は、従業員の課税所得を減少させる効果があり、その結果、納めるべき税金を軽減することが可能です。従業員は、保険証券や領収書を確認しながら、正確に数値を記入することが求められます。
3. 給与所得者の基礎控除申告兼給与所得者の配偶者控除等申告兼所得金額調整控除申告書
従業員が年末調整で基礎控除や配偶者(特別)控除、または所得金額調整控除を受ける際に必要となる書類です。
この申告書には、従業員自身や配偶者の収入、扶養の状況に関する詳細が記入される必要があります。特に、基礎控除は多くの納税者(所得が2,400万円を超えると段階的に軽減)に適用される基本的な控除です。また、配偶者や子どもなどがいる場合、配偶者控除や所得金額調整控除も適用し、納税負担を軽減できる可能性があります。この申告書は、書き方に戸惑う従業員も多いので、事前に記入例を開示するなどして従業員をサポートしてあげましょう。。
2-3. 年末調整関係書類の提出期限はいつまでが理想?
年末調整を会社が進めるには、従業員から必要な書類を提出してもらわなくてはなりません。提出が遅すぎるとその影響で年末調整が間に合わなくなります。
年末調整関係書類の提出期限は、会社でおこなう事務処理を考慮した時期にする必要があります。12月中に年末調整の計算を終えて、1月上旬には法定調書などを提出できる状態にしておくことが推奨されます。そのため、従業員に提出してもらう年末調整関係書類の期限は、11月中旬~下旬が理想だといえるでしょう。
関連記事:年末調整はいつ提出?時期や期限、申告書の種類をくわしく解説
3. 年末調整を忘れた場合の対処法
もし年末調整を失念してしてしまった場合、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。ここでは、年末調整を忘れた場合の対処法について詳しく紹介します。
3-1. 1月末までで年末調整の再計算を実施する
会社によっては法定調書などの提出期限である1月末まで年末調整の再計算を実施することができます。
年末調整に必要な書類の提出を忘れた従業員がいた場合、年末調整の再計算で対応できる旨を伝え、なるべく早く書類をそろえてもらうようにしましょう。
▼年末調整の再調整について詳しく知りたい方はこちら
年末調整の再調整は可能!方法やポイントをわかりやすく解説
3-2. 2月から3月に確定申告で対応してもらう
年末調整がどうしても間に合わなかった場合は、従業員本人に確定申告をしてもらうことになります。該当する従業員には、後に自社とその他の勤務先から受け取る源泉徴収票を使って期限までに手続きをするよう伝えましょう。
通常、確定申告の期限は2月16日から3月15日までです。確定申告の期限に遅れた場合、無申告加算税(本来の納税額プラス15%から30%の追加税の支払い)および延滞税(年7.3%から14.6%の追加税の支払い)が罰則として課されます。
なお、2024年1月から無申告加算税の罰則は強化されており、追加で納めるべき税額が300万円を超える部分については30%(従来は20%)の税率が適用されるようになっています。従業員には確定申告の期限を正確に伝え、忘れずに申告するよう促してください。
3-3. 還付申告で対応してもらう
年末調整を忘れてしまい、従業員が税金を納め過ぎとなっている場合、確定申告だけでなく、還付申告でも対応できます。年末調整を忘れた期間の申告について、その期間の翌年1月1日から5年間以内であれば、還付申告が可能です。
そのため、従業員が後から税金を納め過ぎていると気付いた場合など、確定申告に間に合わないときでも、還付申告であれば税金を取り戻せる可能性があります。ただし、納める税金が不足している場合、このような規定はないので、年末調整を忘れてしまったら、必ず従業員に確定申告の期間に申告をおこなうよう伝えましょう。
4. 年末調整を忘れないための対策
年末調整を忘れてしまうのには、原因や理由があります。ここでは、年末調整を忘れないための対策について詳しく紹介します。
4-1. 年末調整の対象者(パート・アルバイト含む)を正しく把握しておく
年末調整の対象者は、原則として年末まで勤務している従業員です。そのため、正社員だけでなく、契約社員やパート・アルバイトも含まれます。なお、次に該当する人は、年末調整の対象外となるので、自分で確定申告をおこなうよう周知しましょう。
- 給与収入が1年で2,000万円を超える人
- 災害減免法の規定により源泉徴収の徴収猶予・還付を受けた人
一方、次のような年末まで勤務していない人でも、年末調整に含めなければらない可能性があります。
- 海外赴任などにより非居住者となった人
- 死亡退職した人
- 著しい心身の障害のために退職した人
- 12月の給与を受け取って退職した人
- その年の給与収入が103万円以下と見込まれる退職した人(パート・アルバイトなど)
上記に該当する人でも、退職後にその年に再就職して、給与を受け取る見込みがある場合などは、年末調整の対象者から除外されるケースもあります。このように、正しく年末調整の対象者を把握しておくことで、年末調整忘れを未然に防止することができます。
4-2. 年末調整のスケジュールを明確に定める
年末調整を実施するには、申告書の配布・回収、年税額の計算、過不足分の精算、源泉徴収票の交付、法定調書の提出など、さまざまな手続きが必要です。12月から年末調整業務を始めればよいと考えている場合、年末調整忘れにつながる原因になります。
そのため、年末調整のスケジュールを明確に定めることが大切です。申告書の配布は10月下旬~11月上旬頃に始めると、余裕を持って年末調整業務を進めることができるでしょう。
4-3. 従業員への案内・周知を徹底する
年末調整をスケジュール通りに進めるためには、従業員の協力が不可欠です。例えば、従業員が会社の定めた期限までに申告書類を提出しない場合、年末調整が間に合わず、結果として年末調整忘れになってしまう可能性があります。
そのため、年末調整の書類の書き方や提出期限を従業員にきちんと案内・周知することが大切です。従業員からの年末調整の問い合わせにすぐに回答できるよう、会社に専門の窓口を設けるのも一つの手です。
4-4. 年末調整システムの導入を検討する
紙の書類で年末調整の手続きをしている場合、年税額を計算するため、エクセルなどに転記をしなければなりません。この作業で転記漏れなどが生じれば、年末調整ミスが発生します。年末調整忘れとはならなくとも、過不足税額の計算にも間違いが起こり、従業員に確定申告してもらわなければならないことになります。
年末調整の手続きを効率化したいと考えている場合、年末調整の電子化を進めてみるのがおすすめです。年末調整の電子化を進める第一歩として、年末調整システムの導入が推奨されます。年末調整システムを導入すれば、従業員との書類のやり取りを効率化できます。また、控除額や年税額の計算も自動化できるので、年末調整ミスを未然に防止することが可能です。
関連記事:年末調整のペーパーレス化とは?その背景や課題を詳しく解説
5. 年末調整を忘れると発生する問題を理解して余裕を持って対応しよう
年末調整を忘れた場合、正確な年税額の計算ができず、従業員は還付金を受け取れないなど不利益が生じる可能性があります。また、従業員に確定申告をしてもらわなければならず、不要な負担を増やしてしまいます。
会社側は従業員が正しく年末調整の申請ができるよう、やり方や期限などについて早めにアナウンスを出しておくことが大切です。万が一、従業員が申請を忘れてしまった場合は、本記事で紹介した方法で適切に対処しましょう。
年末調整は、従業員の家族構成やライフステージ、副業の有無、控除対象となる保険類への加入状況など、人によって複雑な分岐や異なる計算方法のルールがあるため、とても複雑な業務です。
給与計算を担当する方にとって、計算結果を統合する一年の集大成とも言える業務ですが、
「結婚・離婚・定年・退職・死亡など、様々なケース別の年末調整に対応する際の注意点が知りたい」
「障害者や勤労学生、共働き、遺族年金がある場合など家族構成に関する控除のポイントを押さえておきたい」
「記載ミスや、申告内容・扶養の変更、税務署からやり直し通知を受けた際などの対応方法が知りたい」
このようなイレギュラーケースの対応について不安を抱えている担当者の方に向けて、当サイトでは「Q&A形式でわかる年末調整と源泉徴収」という資料を無料配布しています。
資料では、一問一答形式でケース別の具体的な年末調整の対応方法を解説していますので、すぐに使える年末調整のガイドブックが欲しいという方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
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