年末調整をしないとどうなる?会社側のリスクや間に合わなかった時の対処法を解説
更新日: 2025.11.20 公開日: 2021.11.2 jinjer Blog 編集部

年末調整は従業員の所得税を正しく納税するために実施する手続きです。定められたルールに従い適切に所得税を納めなければ、法的な罰則を受ける可能性があります。場合によっては悪質な脱税とみなされ、資産の差し押さえにまで発展する危険もあるのです。
この記事では年末調整が適切におこなわれなかった場合のリスクについて解説します。年末調整をやらないとどうなるのか、年末調整をしなくてもよい場合はあるのかなど、気になる方はぜひ参考にしてください。
関連記事:年末調整とは?確定申告との違いや必要書類、計算の流れをわかりやすく解説
令和7年度の税制改正によって、令和7年12月の年末調整から変更が生じます。また、令和7年11月20日に施行された通勤手当の非課税限度額の改正によって、新たに年末調整の対応が必要となるケースもあります。
- 「令和7年分の年末調整で提出する書類は?」
- 「年収の壁の引き上げで年末調整はどう変わった?」
- 「通勤手当の非課税限度額の改正で年末調整が必要になる従業員は?」
このような疑問をお持ちの方に向けて、令和7年分の年末調整に必要な書類から対象者、計算の流れまで、年末調整に関する基本的な業務を図解でわかりやすくまとめた資料を無料で配布しております。
業務の進め方に不安のある方や、抜け漏れなく対応したい方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 年末調整をしないとどうなる?


そもそも年末調整とは、各従業員の毎月の給与や賞与から源泉徴収した所得税と、その年に本来納税すべき所得税との差額を精算するための手続きです。
従業員の年間所得が確定する12月頃に実施されることから年末調整とよばれます。ここでは、年末調整をしないとどのようなことが起きるのか紹介します。
1-1. 年末調整をしないと正しく従業員の所得税を確定できない
毎月の給与から天引きされる所得税(源泉所得税)は概算で計算されています。実際の所得税には各種所得控除が適用されるので、源泉所得税との間に金額の乖離が生じます。
そのため、年末調整をしなければ、正しい所得税を確定させられません。年末調整をおこなうことで、その年の正しい所得税額を計算し、納め過ぎた分の還付もしくは不足している分の追加徴収ができるようになるのです。つまり「従業員の確定申告を会社が代行している」ともいえるでしょう。
1-2. 年末調整を実施するのは雇用主の義務
年末調整は、所得税法第190条に基づき、従業員に給与を支給する雇用主に課せられた義務です。なお、所得税法第184条に基づき、常時2人以下の家事使用人(お手伝いさんなど)にのみ給与を支払っている個人は、源泉徴収義務者から外れるため、源泉徴収や年末調整をおこなう必要はありません。
故意に年末調整をおこなわなかった場合は国からの罰則が課せられます。また、人為的なミスによる手続きに不備があっても、罰則が発生する可能性はゼロではありません。年末調整は決められたルールに従い、適切に実施しましょう。
とはいえ、年末調整は提出書類や記載ルールが細かいため、抜け漏れがないか不安な方もいるのではないでしょうか。当サイトでは、そのような方に向けて、年末調整のルールをわかりやすくまとめた資料を無料で配布しています。年末調整業務に不安がある方は、こちらの「年末調整のガイドブック」を見て確認しながら業務をすすめることをおすすめします。
2. 会社が年末調整をしない場合の5つのリスク


もしも年末調整が適切に実施されなかった場合、もしくは故意的にやらなかった場合における会社のリスクを紹介します。
そもそも年末調整が実施されない状態では、従業員だけでなく会社も正しい納税ができていません。法律で定められた税金を納めることは、私たち国民の義務なので、対象となる従業員への年末調整は必ず実施されなければなりません。
2-1. 余計な税金が掛かる
年末調整を実施せず期日までに所得税が納税できなかった場合には「延滞税」が発生します。延滞税は納付期日の翌日から自動で課税され、特に納付期日を2ヵ月以上経過した場合は税率が上がるため注意が必要です。
なお、延滞税の利率は、納期限の翌日から2ヵ月間については「年7.3%」と「延滞税特例基準割合+1%」のうち低い方が適用され、それ以降の期間は「年14.6%」と「延滞税特例基準割合+7.3%」のうち低い方が適用されます。
また、「納税すべき所得税を納付していない」「納税した所得税が本来納めるべき金額よりも少ない」といった場合、加算税が発生する恐れもあるので注意が必要です。
2-2. 過剰納税分の還付が受けられない
年末調整を実施しなかった場合、会社は過剰に納税した源泉所得税の還付を受けられません。
先述したように、従業員の毎月の源泉所得税は概算であるため、本来の所得税より多く徴収していることが一般的です。会社が所得税の過払金を還付されなければ、当然ながら従業員への還付もできません。
2-3. 従業員に確定申告の負担が掛かる
会社が年末調整をおこなわなかった場合、従業員は自身で確定申告をする必要があります。確定申告の準備には時間を要し、また申請の手順も複雑です。年末調整に比べて圧倒的に手間が掛かることから、従業員への負担も増大します。
会社が正しく納税をしないと、会社に対する従業員の信用も低下してしまうでしょう。仕事のモチベーションが低下し、退職者が増大する可能性も考えられます。
2-4. 資産が差し押さえられる
税務署から税金の未納や脱税を指摘され、その後も納税をしなかった場合、最悪のケースとして資産が差し押さえられるケースも考えられます。
実際には税金を滞納してすぐに資産が差し押さえられることはありません。初めに税務署からの督促状が送付され、それに応じなかった場合は電話や書面で直接催促されます。税務署から再三の督促を受けたにもかかわらず納税をしなかった場合に資産差し押さえに発展するのです。
資産の差し押さえは対外的な会社の信用にも関わります。税金は期限内に納付し、万が一税務署から税金未納の指摘を受けた場合は速やかに対応しましょう。
2-5. 雇用主に懲役もしくは罰金が科せられる
故意に年末調整をおこなわなかった場合や、書類を偽造し嘘の申告をした場合、従業員から徴収した所得税を納税しなかった場合など、これらは全て「脱税」とみなされ法的な罰則の対象となる可能性が高いです。
所得税法においてこれらの行為が発覚した事業者には「1年以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金」、悪質な場合は「10年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金」といった罰則が定められています。
3. 年末調整の対象者


年末調整の対象者は、原則として「扶養控除等申告書」を提出し、年末まで勤務している人です。年の途中で入社した人も12月31日時点で在籍していれば対象となります。
3-1. 会社員だけでなく学生やパート・アルバイトも対象
年末調整は雇用形態に関係ありません。通常の会社員だけでなく、学生やパート・アルバイトでも条件を満たしていれば、年末調整を実施しなければなりません。
関連記事:年末調整の対象者とは?必要な書類や確定申告との関係も解説
3-2. 年の中途で年末調整が必要になるケースもある
年末調整は年の暮れにおこなうことが原則ですが、年の途中で年末調整が必要になるケースもあります。次のような人は、年末に在籍していない場合でも、年末調整をしなければなりません。
- 海外転勤などを理由に非居住者となった人
- 死亡退職した人
- 著しい心身の障害のため退職した人
- 12月の給与を受け取り退職した人
- その年の給与総額が103万円以下である人(※令和7年度税制改正により変更の可能性あり)
なお、退職後に給与が支給される見込みがある人などは、上記の条件にあてはまっても年末調整の対象者に含まれないので注意しましょう。
3-3. 従業員が年末調整を受けない場合のリスク
その他の年末調整の対象条件を満たしていても、「扶養控除等申告書」などの年末調整に必要な書類を提出していない場合、年末調整が受けられません。
年末調整を受けない場合、その年の正しい所得税が確定できていないため、源泉徴収により所得税の納め過ぎとなっている可能性があります。場合によっては、その年の源泉徴収税額の合計額よりもその年に納めるべき所得税額のほうが高く、追加納税が必要なケースもあります。
このような場合、従業員は自身で確定申告をしなければ、還付金の受け取りができません。また、追加納税が必要な場合に確定申告をしない場合、延滞税や加算税などの罰金が課せられる恐れもあるので、従業員に年末調整の重要性をきちんと周知しておきましょう。
3-4. 年末調整をしても確定申告が必要になるケースに注意
次のような場合、年末調整をしても従業員自身で確定申告が必要です。
- 副業所得(給与などを除く所得)が20万円を超える場合
- 2ヵ所以上から給与を受け取り年末調整されなかった所得が20万円を超える場合(※)
- 同族会社から利子や賃貸料などを受け取っている場合
- 公的年金等を受け取りながら働いていて確定申告不要制度を利用できない場合
(※)給与収入の合計額から雑損控除等の所得控除の合計額を差し引いた後の金額が150万円以下の場合は申告不要
年末調整後に確定申告が必要となる従業員について周知すると、会社として丁寧な対応だといえるでしょう。
参考:No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人|国税庁
4. 年末調整をしなくてもよい従業員の条件


原則として、年末調整は自社で雇用している従業員全員を対象として実施します。しかし、例外的に年末調整の対象外となる従業員もおり、該当する従業員への年末調整は実施しなくても罰則はありません。ここでは年末調整をやらなくてもよい従業員の条件を解説します。
4-1. 「扶養控除等申告書」を提出していない
自社に対して「扶養控除等申告書」を提出していない従業員は年末調整の対象外です。該当する従業員は扶養控除等申告書を提出している他の会社で年末調整をおこなうか、もしくは自身で確定申告をおこないます。
扶養控除等申告書は年末調整をおこなうための前提条件となる書類です。従業員が扶養控除等申告書を提出できるのは1社のみと定められているので、従業員もその1社でしか年末調整を受けることができません。
特にアルバイト社員の場合は該当するケースが多く、採用時には必ず他社での勤務の有無を確認しておきましょう。他社との掛け持ちをしているようであれば、どの事業所で年末調整を受けるかの確認が必要です。
参考:No.2520 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収|国税庁
4-2. 年収160万円以下で所得税の源泉徴収がない
令和7年度税制改正により、2025年分から給与収入が160万円(給与所得控除:65万円 + 基礎控除:95万円)以下であれば所得税はかからなくなりました。また、年末調整とは、源泉徴収税額の合計額と年税額を比較し、過不足がある場合に精算する手続きです。
つまり、所得税が発生せず、源泉徴収をしていなければ、過不足額を調整する必要はないため、年末調整は不要となります。ただし、給与収入160万円以下で所得税が生じなくとも、源泉徴収をしている場合には還付金が発生するので年末調整が必要です。
参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
関連記事:年収103万円以下のアルバイトは年末調整しなくていい?必要になる条件とは
4-3. 給与収入が年間2,000万円を超えている
年間給与収入が2,000万円を超える従業員は、年末調整の対象外で確定申告が必要です。該当者には年末調整で対応できないため、確定申告をおこなうよう、案内しましょう。
4-4. 災害減免法が適用されている
大規模災害により経済的に大きなダメージを受けてしまった被災者に対しては災害減免法が適用される場合があります。災害減免法の適用者には所得税の納税猶予期間が設定されるので、該当する社員に対する年末調整の未実施には罰則はありません。
関連記事:年末調整の障害者控除とは?対象範囲やいくら戻るのか、書類の書き方を解説
5. 年末調整に間に合わなかった場合の対処方法


会社が年末調整を期限までに終えられず間に合わなかった場合、どれだけ遅れたかによって対応が異なります。数日であれば事前に税務署に連絡しておくことで、受け取ってもらえるのが一般的です。しかし、大幅に遅れるのであれば、どうするべきなのでしょうか。
5-1. 確定申告をおこなう
年末調整が大幅に遅れてしまう場合、従業員自身で確定申告をしてもらう必要があります。確定申告は、原則として毎年2月16日から3月15日(土日祝の場合は翌日)が申告期間です。確定申告の義務があるにも関わらず無申告だと延滞税や加算税といったペナルティが従業員に発生する恐れがあります。
なお、年末調整は会社(給与支払者)の義務です。年末調整に間に合わなかったというのは、義務を果たせていないことになります。法令に基づき会社に罰則が課せられる可能性があることも十分に理解しておきましょう。
関連記事:年末調整の再調整は可能!方法やポイントをわかりやすく解説
5-2. 還付申告で対応できる場合もある
従業員が年末調整を受けることを忘れていて、かつ確定申告期限(原則3月15日)を過ぎてしまった場合でも、払いすぎた税金があるときは「還付申告」により5年以内なら還付を受けられます。
そのため、従業員から年末調整を忘れていたとの申し出があった場合は、還付申告の対象となるか案内するとよいでしょう。なお、不足税額がある場合は期限後でも通常の確定申告が必要となり、延滞税や加算税が課される可能性があるため注意が必要です。
6. 年末調整をスムーズに終える方法


年末調整には、必要書類の準備・配布・回収、所得税の計算、源泉徴収票の作成・交付、法定調書の作成・提出など、さまざまな工程があります。ここでは、年末調整をスムーズに終えるための方法を紹介します。
6-1. 基礎控除・給与所得控除の見直しをはじめ法改正を押さえておく
最新の法改正のポイントを押さえておくことは、業務の効率化や人的ミスの防止に役立ちます。令和7年度税制改正により、2025年分の所得税の計算において以下が変わります。
- 基礎控除の引き上げ(最低保障額は48万円から98万円へ引き上げ)
- 給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円へ引き上げ
- 特定親族特別控除の創設(特定親族1人につき最大63万円の控除を適用可能)
- 扶養親族等の所得要件の見直し(例えば、扶養親族の所得要件は48万円以下から58万円以下へ引き上げ)
特に年末調整においては、所得税の計算のみならず、必要書類のフォーマットなどにも変更があります。早めに情報を収集し、法改正に対応したシステムを導入するなど、対策を講じることが重要です。
参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
6-2. スケジュールを立てておく
年末調整は、あらかじめスケジュールを立てておくことがスムーズに進めるポイントです。例えば、10月下旬から申告書を配布・説明し、11月中に回収するスケジュールにすれば、年末調整完了後に法定調書を作成・提出するまでの間に、内容を十分にチェックできます。早めに進めておけば、不備や不足書類があった場合でも余裕をもって修正対応が可能になります。
6-3. 年末調整の代行サービスを活用
年末調整は、税理士事務所やアウトソーシング会社などの代行サービスを活用できます。これにより、自社での事務作業負担を軽減でき、人件費の削減も期待できるでしょう。
ただし、年末調整の法的責任は最終的に会社側にあるため、依頼後も内容確認は欠かせません。代行サービスを利用する際は、依頼先の実績やセキュリティ体制を確認しましょう。依頼先のホームページや資料で実績を把握し、自社からの問い合わせに迅速に対応できるカスタマーサポート体制が整っているかも重要なポイントです。
6-4. 電子化を検討してみる
年末調整は電子化することが可能です。電子化により、書面で発生していた記入漏れや計算ミスなどの不備を減らし、経理担当者の事務負担も軽減できます。
例えば、原票と申告書の内容照合をシステム上で自動チェックできるため、ヒューマンエラーが減少し、正確性が向上します。ただし、電子化しても一部の確認作業や修正対応は必要であり、導入にはシステム環境やセキュリティ体制の整備が欠かせません。
7. 年末調整をしていない・間に合わなかった場合には税務署に相談しよう


年末調整は従業員の手取り額や納税額に大きく関わる大事な手続きです。法令に基づき間違いのないように実施することが大切です。特に創業間もないスタートアップ企業では年末調整の経験やノウハウが不足しているため、正しい手続きができないことも考えられます。
会社の年末調整や所得税を所管しているのは税務署です。もしも年末調整の不備が発覚した場合や、年末調整をやっていないと気付いたときはまずは管轄の税務署に相談しましょう。



令和7年度の税制改正によって、令和7年12月の年末調整から変更が生じます。また、令和7年11月20日に施行された通勤手当の非課税限度額の改正によって、新たに年末調整の対応が必要となるケースもあります。
- 「令和7年分の年末調整で提出する書類は?」
- 「年収の壁の引き上げで年末調整はどう変わった?」
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