就業規則の作成方法|記載すべき項目や注意すべきポイントを解説
就業規則は、「常時10人以上の労働者を使用する使用者」に作成が義務付けられており、「絶対的必要記載事項」「相対的必要記載事項」「任意記載事項」から成り立ちます。
就業規則を作成する際は、「絶対的必要記載事項」を記載するだけでなく、労働者代表から意見を聴取する、労働基準監督署に届け出る、従業員全員に周知するなどの手続きが必要です。
この記事では、就業規則の作成方法と記載すべき項目、注意点について解説します。
▼就業規則について1から理解したい方はこちら
就業規則とは?人事担当者が知っておくべき基礎知識
デジタル化に拍車がかかり、「入社手続き・雇用契約の書類作成や管理を減らすために、どうしたらいいかわからない・・」とお困りの人事担当者様も多いでしょう。
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目次
1. 就業規則の基本的な作成方法
就業規則の基本的な作成の流れは、下記の通りです。
- 就業規則の原案を作成する
- 従業員代表に意見を聴取し、意見書を書いてもらう
- 就業規則を管轄の労働基準監督署に届け出る
- 就業規則を従業員に周知する
以下、それぞれの手順について、詳しく解説します。
1-1. 就業規則の原案を作成する
就業規則は下記の3つの要素から構成されており、ある程度記載するべき内容は決まっています。
- 絶対的必要記載事項:労働時間・賃金・退職について
- 相対的必要記載事項:退職手当、安全衛生など
- 任意記載事項:企業理念など
1は、就業規則への記載が義務付けけられている項目です。
2は制度を運用する際必要となり、3は法律上、記載の必要はありません。
上記を元に、業種や雇用形態に合わせて原案を作成します。
また、法令違反のチェックなど、会社の担当者のみで作成が難しい場合は、専門家への相談をおすすめします。
なお、自社のみで作成したい場合は、厚生労働省が提供する「就業規則作成支援ツール」を活用するとよいでしょう。
1-2. 従業員代表に意見を聴取し、意見書を書いてもらう
原案が完成したら、従業員代表に就業規則に対する意見を聞き、意見書を書いてもらいます。
従業員代表とは、下記のいずれかに該当する者です。
- 従業員の過半数で組織する労働組合
- 1がない場合は、民主的に選ばれた従業員の過半数を代表する者
意見書の提出は労働基準法で義務付けられているため、必ず聴取のうえ、作成します。
関連記事:就業規則の意見書とは?作成に必要な内容と書き方のポイント
1-3. 就業規則を労働基準監督署長に届け出る
必要書類の作成が終わったら、下記を2部ずつ用意し、管轄の労働基準監督署長に届け出ます。
- 就業規則
- 就業規則意見書
- 就業規則(変更)届
3は書類提出用で、一般的に添付する書類です。
2、3については、各都道府県の労働局ホームページからダウンロードできますので、ぜひ活用しましょう。
労働基準監督署に就業規則が受理されれば、作成は完了となります。
参考:厚生労働省 | 就業規則意見書
参考:厚生労働省 | 就業規則(変更)届
関連記事:就業規則の届出方法と具体的な手順を分かりやすく解説
関連記事:就業規則の変更届出の方法と気をつけるべき4つの注意点
1-4. 就業規則を従業員に周知する
就業規則は作成すればそれで終わりではなく、従業員に周知する義務が企業に課されています。(就業規則の周知義務)
また周知方法も定められているため、下記のような方法で、従業員全員が就業規則を認識している状態にする必要があります。
- 事務所や作業場の見やすい場所に常時掲示する
- パソコンの共有フォルダに格納する
- 冊子で全員に配布する
以上により、就業規則が実際に効力を発揮します。
2. 就業規則の作成に必要な項目
就業規則には絶対に記載が必要な事項(絶対的必要記載事項)と、制度がある場合は記載する項目、それ以外の項目に分かれています。
それぞれの項目に記載すべき内容について、詳しく解説します。
2-1. 絶対的必要記載事項:必ず記載が必要な項目
労働基準法第89条により、就業規則に必ず記載しなければいけない項目で、具体的には下記のとおりです。
- 労働時間:始業・終業の時刻、休憩時間の長さ、休日、休暇、など
- 賃金:賃金の計算・決定方法、払い方、支払い期日、昇給時期、など
- 退職:解雇理由、退職、定年、など
2-2. 相対的必要記載事項:運用する場合のみ記載が必要な項目
相対的必要記載事項とは、会社で該当の制度を運用する際に、記載が必要な項目のことです。
具体的には、下記のとおりです。
- 退職手当:支払われる従業員の範囲、金額の決定方法、振込時期、など
- 臨時の賃金:賞与の計算方法、振込時期、など
- 最低賃金:最低賃金の額
- 費用負担:食費など、従業員に負担させる事柄
- 安全衛生:健康診断、ストレスチェックなど
- 災害補償:災害補償の具体的な内容
- 職業訓練:教育訓練の受講指示など
- 表彰:表彰者の選定方法と、表彰時期
- 制裁:懲戒に当たる行為と、制裁内容
- 配置転換:転勤、出向、健康上の理由での配置転換など
- その他:公益通報者保護、副業・兼業など、労働者すべてに適用されるルール
2-3. 任意的記載事項:企業理念など必要に応じて記載する事項
企業理念や服務規律など、企業が必要に応じて記載できる事項です。
とはいえ、法律で記載が義務付けられている項目ではありませんので、必要に応じて明記しましょう。
3. 就業規則はなぜ作成が必要なのか
就業規則はなぜ作成が必要なのでしょうか。就業規則によってさまざまなルールを設けることで、トラブルを未然に防ぎ従業員はルールに則って勤務できます。
3-1. 就業規則を作成しないデメリット
就業規則を作成しない最大のデメリットは労働基準法に違反するということです。常時10人以上の従業員を雇用している企業は、就業規則の作成義務が労働基準法に定められています。そのため、就業規則を定めないと作成義務違反として罰則を受ける可能性があります。
また、10人未満であっても就業規則を定めていないことで従業員とのトラブルにつながりかねません。例えば、休職や復職、退職といったことでトラブルに発生する恐れがあります。
3-2. 就業規則と雇用契約書の違い
就業規則はすべての従業員が対象です。従業員ごとに規則に違いはありません。一方、雇用契約書は企業と従業員が交わす雇用条件についての書類です。雇用契約書に記載された内容は全従業員ではなく、従業員ごとに異なります。
4. 就業規則の作成は外部に依頼可能
就業規則の作成は自社ではなく、外部に依頼可能です。ここでは自社で就業規則を作成するメリット、外部に依頼して代行してもらうメリットを解説します。
4-1. 自社で作成するメリット
就業規則を自社で作成することの最大のメリットは、費用をかけずに規則を作れるという点です。社労士や弁護士への就業規則作成依頼は費用相場が高い傾向にあります。就業規則へのコストを抑えるのであれば、自社で作成を検討してみましょう。
また、従業員であれば自社内の状況や情報を把握できるため、自社独自のルールも作成可能です。
4-2. 社労士に依頼するメリット
社労士に就業規則作成を依頼するメリットは賃金や退職といった、労務についてのルールを漏れなく作成できるという点です。就業規則の内容によっては助成金を受給できる可能性があります。社労士に依頼すれば助成金の受給も期待できるでしょう。
4-3. 弁護士に依頼するメリット
弁護士へも就業規則の作成を依頼可能です。就業規則を弁護士に作成依頼するメリットは、法律に基づいて厳正な就業規則を作成できる点です。さらに、専門家としての見地をもとに、労使についてのトラブルを予想したうえで就業規則を作成できます。
4-4. 社労士・弁護士以外に依頼するメリット
就業規則は社労士、弁護士以外に依頼するとトラブルになりかねません。有償での就業規則作成は社労士と弁護士のみが認められている独占業務です。そのため、社労士や弁護士以外に就業規則作成は依頼しないようにしましょう。
5. 就業規則の作成で注意すべきポイント
就業規則は、各業種によっても記載する内容が異なります。テンプレートなどを利用すると、思わぬ不利益につながるケースも多いため、業種の実情に合わせて、適切な内容の明記が求められます。
今回は一般的に多い、就業規則の作成で注意すべきポイントについて解説します。
5-1. 労働時間の管理方法
労働時間が不規則な業界では、時間管理が難しいケースも多いでしょう。
変形労働時間制やフレックスタイム制、裁量労働制などを利用する場合は、就業規則への明記が必要です。
また、フレックスタイム制などは、別途、労使協定が必要になります。
それぞれの方法について詳しく調べてから、就業規則に記載することをおすすめします。
5-2. 雇用形態別の管理方法
正規雇用だけでなく、契約社員や、アルバイト従業員を雇う場合は、それぞれ労働時間や賃金の規定が異なるケースもあるでしょう。
そのため、さまざまな雇用方法の従業員がいる企業では、別々に就業規則を作成した方が、管理しやすい場合もあります。
特に、有期雇用の従業員を雇い入れる場合は、
- 契約期間に定めの有無
- 更新の有無
- 更新条件
- 更新がない場合の事前告知
- 正社員への配置転換の有無
など、詳細に記載するようにしましょう。
5-3. 懲戒処分の具体的な内容
懲戒処分は、就業規則に理由が明記されていないと行使できません。
例えば、経歴詐称により通常より賃金を多くもらっている従業員がいたとしても、就業規則の懲戒理由に「経歴詐称」を明記していなければ、処分できないということです。
解雇や減給などの条件は、できるだけ明確に記載しましょう。
とは言え、すべてを網羅することは現実的に不可能です。そのため、項目の最後に「その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき」と記載し、不測の事態に備えるようにしましょう。
5-4. 業種ごとに異なる注意点
就業規則を作成するうえでは、業種ごとでも注意点が異なります。
5-4-1. 飲食店
飲食店は正社員だけでなく、アルバイトやパートのスタッフも多い傾向にあります。そのため、就業規則は正社員だけでなく、アルバイトやパートタイムのスタッフに向けたものも用意しましょう。就業時間やシフト、休暇、福利厚生などのルールを就業規則に記載します。
5-4-2. 製造業
製造業は労働災害が発生するリスクが高い業種です。どのような労働災害が発生するのかは、取り扱う物によって異なります。そのため、自社に潜む労災のリスクを洗い出しましょう。その後、労働災害の発生リスクを抑えるためのルールを就業規則に設けます。
5-4-3. 運送業
運送業向けの就業規則では飲酒運転や違反、事故に対する懲罰についてのルールを設けましょう。車を運転する業種だからこそ、一般企業とは異なるルールが求められます。また、運送業は2024年4月からドライバーの時間外労働の上限に罰則が設けられます。そのため、2024年4月からの労働時間についてのルールも定めましょう。
関連記事:建設業の労働時間の上限規制は2024年4月から!現場にあった勤怠管理方法もあわせて解説
5-4-4. 建設業
建設業も運送業と同じく2024年4月から時間外労働の上限に罰則が設けられます。そのため、就業規則には運送業と同じく労働時間についての新たなルールを設ける必要があります。また、ヘルメットや安全靴といった安全に作業するための取り組みも就業規則に記して、事故防止につなげましょう。
関連記事:建設業の労働時間の上限規制は2024年4月から!現場にあった勤怠管理方法もあわせて解説
6. 就業規則は作成から周知まで注意深く取り組もう!
就業規則は「絶対的必要記載事項」など、作成上かならず記載すべき項目があります。
また、従業員代表への意見聴取と意見書の作成や、労働基準監督署への届出、従業員への周知など、作成にあたり、やらなければいけないことが多々あります。
就業規則を作成する際は、記載内容だけでなく、作成後の事務処理まで確認し、法令違反のないように注意深く進めましょう。
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