社会保険と国民健康保険の切り替え手続きとは?タイミングや注意点を解説
更新日: 2025.6.10 公開日: 2022.4.13 jinjer Blog 編集部

日本は国民皆保険制度を導入しているため、全国民が社会保険または国民健康保険のいずれかに加入する必要があります。そのため、原則として雇用されている会社を退職した場合は、社会保険から国民健康保険に切り替えをしなければなりません。
社会保険は会社に雇用されている正社員や、一定の非正規社員が加入するもので、国民健康保険はそれ以外の人が加入する保険ですが、それぞれ運営主体や保険料、保障内容などに違いがあります。
ここでは、国民健康保険に切り替えるタイミングや社会保険と国民健康保険の違い、任意継続保険に加入するメリット・デメリットなどについて解説します。
▼社会保険の概要や加入条件、法改正の内容など、社会保険の基礎知識から詳しく知りたい方はこちら
社会保険とは?概要や手続き・必要書類、加入条件、法改正の内容を徹底解説
目次
従業員の入退社、多様な雇用形態、そして相次ぐ法改正。社会保険手続きは年々複雑になり、担当者の負担は増すばかりです。
「これで合っているだろうか?」と不安になる瞬間もあるのではないでしょうか。
◆この資料でわかること
- 最新の法改正に対応した、社会保険手続きのポイント
- 従業員の入退社時に必要な手続きと書類の一覧
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1.社会保険を国民健康保険に切り替えるタイミングとは


社会保険と国民健康保険は運営者が異なるため、会社員が離職して自営業や無職になった場合は、健康保険の切り替え手続きをしなければなりません。
社会保険から国民健康保険へ切り替えるタイミングは、「会社退職後」です。国民健康保険の加入日は、会社退職日の翌日、つまり社会保険の資格喪失日からとなります。
そのため、退職した従業員はすぐに国民健康保険への切り替え手続きをおこなう必要があります。退職者には、退職日翌日から14日以内に、本人の住所がある市町村の国民健康保険の窓口で加入手続きを済ませるよう案内しましょう。必要な提出書類は市町村によって異なるため、事前に確認が必要であることを案内しておくとより親切です。
75歳以上の方や生活保護を受けている方は、国民健康保険への加入は不要です。しかし、それ以外の場合は、退職後に無保険の状態を避けるためにも、退職日の翌日を資格取得日として速やかに手続きをすることが求められます。
これにより、健康保険の空白期間が発生せず、医療費の負担を避けることができます。
無保険の状態では、病気や怪我をした場合に治療費が高額になるリスクがあるため、国民健康保険への切り替えは退職後の優先すべき手続きの一つです。速やかな手続きが重要であり、会社は従業員に対して適切な案内をおこなう必要があるでしょう。
2.国民健康保険に切り替えない場合


国民健康保険の切り替え手続きは、退職者がおこないます。手続きには書類の準備などの手間がかかるため、退職後に正社員を目指している場合、切り替え手続きをしたくないという退職者もいるかもしれません。
しかし、切り替えをしないままだと、怪我や病気の際に治療費が全額自己負担になる可能性があります。このようなリスクを避ける方法として、任意継続被保険者になることが挙げられます。
ここでは、任意継続被保険者の概要やメリット・デメリットなどを解説します。
2-1.任意継続被保険者になる
国民健康保険に切り替えをしないのであれば、任意継続被保険者になることができます。
健康保険の任意継続制度は、退職後も2年間まで健康保険に引き続き加入できる便利な仕組みです。この制度を利用することで、退職後も健康保険の給付を受け続けることができ、扶養家族も引き続き保険に加入できます。
ただし、任意継続被保険者は出産手当金や傷病手当金が受けられないというデメリットがあります。また、保険料も退職時の標準報酬月額で計算されるので、退職後の経済状況によっては保険料の支払い負担が大きくなるかもしれません。
そのため、退職後に任意継続被保険者となるか、社会保険から国民健康保険へ切り替えるかはメリット・デメリットを踏まえたうえで、慎重に比較検討することが重要です。
2-1-1.任意継続被保険者のメリット
任意継続保険のメリットは、国民健康保険より保険料を安く抑えられる場合があることです。
任意継続保険の場合、保険料は事業主との折半ではなく、全額自己負担となります。これは一見デメリットに思えるかもしれませんが、被保険者の保険料を負担すれば、被扶養者の保険料が不要となるため安く抑えられる可能性があるのです。
また、一定額を超えた医療費を払い戻すことができる付加給付制度や、人間ドックの受診や保養所の利用に対する補助なども、働いていた頃とほぼ同じ条件で利用することが可能です。
保険料が安くなるかどうかは、退職時の標準報酬月額や被扶養家族の人数によって違ってきますが、国民健康保険の手続きの手間がないということだけでもメリットといえるでしょう。
2-1-2.任意継続被保険者のデメリット
任意継続保険のデメリットは、一定の要件を満たさなければ利用できないところです。
任意継続被保険者となるために必要な要件は以下2つです。
- 資格喪失日の前日までに、継続して2ヵ月以上の被保険者期間があること
- 資格喪失日から20日以内に申請を済ませること
特に2については、1日でも申請が遅れるといかなる理由があっても任意継続保険を利用できなくなるので要注意です。なお、一度国民健康保険などに加入してしまうと、任意継続保険は利用できなくなる点にも注意が必要です。
また、任意継続保険のメリットとして「保険料が安くなることがある」と説明しましたが、場合によっては国民健康保険よりも保険料が割高になるケースもあります。国民健康保険は前年度の所得に基づいて計算されるので、退職後に職に就かなかったり、収入が大幅に落ち込んだりした場合は、2年目の保険料はかなり安くなります。
一方、任意継続保険の場合、退職した時点での標準報酬月額に基づいて算出された保険料を支払わなければなりません(ただし保険料には上限あり)。保険料は任意継続保険の加入期間である2年間はずっと変わらないため、退職後に所得が減った場合、国民健康保険より保険料の負担が大きくなってしまう可能性があるので注意しましょう。
参考:任意継続の加入条件について|全国健康保険協会(協会けんぽ)
2-2.配偶者などの扶養に入る
社会保険から国民健康保険へ切り替えない場合は、配偶者の扶養家族に入るという選択肢があります。
具体的には、退職後に配偶者や家族が働いており、その家族が社会保険に加入している場合、その家族の扶養家族として社会保険に加入する方法です。
被扶養者の対象となる家族の範囲は3親等内の親族で、収入要件として「年間収入が130万円以内で被保険者の収入の2分の1未満」などの条件があります。これらを満たせば保険料なしで健康保険の被扶養者になれるため、経済的な負担は軽減されるでしょう。
ただし、収入要件には雇用保険の失業等給付や健康保険の傷病手当金、公的年金などの収入も含まれるため、退職後に働いていなくても被扶養者になれない可能性もあります。そのため、収入要件を確認し、必要な手続きをおこなうことが重要です。
3. 社会保険と国民健康保険の違い


社会保険と国民健康保険は、どちらも公的な医療保険制度ですが、両者にはいくつかの違いがあります。
社会保険とは、主に民間企業に勤める会社員が加入する健康保険の総称で、事業所や中小企業の会社員が主に加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)が運営します。社会保険は、法人や公的機関など加入が義務付けられた「強制適用事業所」と、社員の過半数が希望すれば任意で加入できる「任意適用事業所」に分かれます。
社会保険の特徴としては、配偶者や親族を扶養に入れることができる点が挙げられます。また、保険料は被保険者の収入によって計算され、事業者と折半して支払うので保険料負担を軽減できるのも特徴です。国民健康保険との差異もあり、社会保険に加入することで幅広い保障を受けることができます。
一方、国民健康保険は、主として社会保険に未加入の人が加入するものであり、自営業者や無職の方々が主な対象となります。
運営主体は2018年から都道府県となり、実際の運営は市町村がおこなっています。「国保」とも略されるこの制度は、社会保険とは異なり扶養システムがありません。従って、同一世帯の家族であっても全員が個々に被保険者となり、それぞれが保険料を支払います。
保険料は世帯単位で算出され、収入や人数、年齢などの要素によって料金が異なります。また、運営自治体によっても保険料が変動するので、詳細は各自治体で確認しなければなりません。所得が一定水準以下の場合には、保険料の減額制度が適用されることもあるため、該当する場合は積極的にチェックすると良いでしょう。
関連記事:社会保険と国民健康保険の違いとは?切り替え時の手続きや任意継続について解説!
4. 社会保険から国民健康保険への切り替え手続き


原則として、社会保険から国民健康保険への切り替えは、退職者本人がおこなわなければなりません。しかし、退職者は専門知識がないことも多く、手続き方法を担当者に質問してくる可能性があります。
また、会社側が用意する書類もあるので、手続きをスムーズにするためには必要書類や提出方法を把握しておくことが望ましいでしょう。
ここでは、社会保険から国民健康保険への切り替え手続きについて解説します。
4-1. 切り替え手続きに必要な書類
離職などで社会保険から国民健康保険に切り替える場合は、まず会社側が年金事務所や健康保険組合に「被保険者資格喪失届」を提出する必要があります。
提出の際は以下の書類を添付する必要があります。[注2]
- 本人および被扶養者の健康保険被保険者証
- 高齢受給者証
- 健康保険特定疾病療養受給者証
- 健康保険限度額適用・標準負担額減額認定証
2~4については、交付されている場合のみの添付ですが、ミスがないよう退職者にしっかり確認しましょう。
[注2]従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き|日本年金機構
4-2. 必要書類の提出方法と期限
資格喪失届は、資格を喪失する日(退職日)から5日以内に提出しなくてはいけないので、早めに手続きを済ませましょう。提出方法は、窓口持参のほか郵送や電子申請による提出が可能です。
資格喪失届の手続きをおこなえば、退職者は社会保険の資格を失います。そのため、退職者は速やかに国民健康保険への加入手続きをおこなわなければなりません。手続きは、被保険者本人(退職者)が市区町村役場に出向く必要がありますが、知らない従業員も多いので忘れずに案内しましょう。
なお、一定の要件を満たしていれば、任意継続被保険者制度(任意継続保険)を利用することで、退職後も引き続き2年間にわたって、社会保険の被保険者になることが可能です。
ただ、任意継続保険にはメリットだけでなくデメリットもあるため、内容や特徴をよく理解した上で、制度を利用するかどうか退職者に説明し検討してもらいましょう。
関連記事:健康保険厚生年金保険被保険者資格喪失届とは?提出方法や記入例を解説
5. 社会保険から国民健康保険への切り替えにおける注意点


本来は、期日内でスムーズに国民健康保険に切り替えることが望ましいですが、諸事情によって期日を過ぎてしまうこともあるかもしれません。しかし、どのような事情があるとしても、期日を過ぎてしまうことには大きなリスクが生じます。
従業員によっては、「期日をすぎてもどうにかなるだろう」「不備があってもフォローしてくれるだろう」と安易な考えを持っている可能性があるので要注意です。
ここでは、社会保険から国民健康保険に切り替える際に、特に注意しておきたい注意点についてご紹介します。
5-1. 14日以内に間に合わず空白期間が発生した場合
退職後、社会保険から国民健康保険への切り替え手続きを14日以内におこなわなかった場合、重大なリスクが伴います。
本来、国民健康保険に加入していれば就学前の子供の負担は2割、就学後から70歳未満までは3割、70歳以上は2割(現役並みの所得者は3割)で済みます。ところが、期限を過ぎてから手続きすると、届出の前日までの医療費が原則として全額自己負担となり、大きな経済的損失が生じるのです。
国民健康保険の保険証は、市区町村によっては即日発行される場合もありますが、郵送での交付も多いため、受診時に手続きをしても間に合わないことが考えられます。
そのため、従業員には切り替え手続きを迅速におこなう必要性を認識させ、14日以内に必要な書類を提出するよう案内しましょう。
5-2. そもそも切り替えをおこなわなかった場合
社会保険から国民健康保険への切り替えをおこなわなかった場合、重大な問題が発生する可能性があります。
まず、国民健康保険への切り替えがなされない場合、最大で2年間、さかのぼって保険料が請求されることになります。日本の医療保険制度は「国民皆保険」が原則であり、退職日の翌日から国民健康保険に自動的に加入することが求められます。そのため、手続きを遅れると退職日の翌日にさかのぼって保険料が請求されるだけでなく、延滞金が発生する可能性もあります。
また、切り替えていない期間中は無保険状態となり、保険に関する手続きを何もおこなっていない場合は、医療費がすべて全額自己負担となるため、10割の医療費を支払わなければなりません。
さらに、保険料の未納が続くと財産を差し押さえられるリスクも生じます。これらの問題を回避するためには、速やかに切り替え手続きをおこなうことが不可欠です。
国民健康保険への切り替えは、健康保険の継続や任意継続保険の選択とも関連し、生活の安定を図るために重要な手続きですので、必ずおこなってください。
5-3. 退職時には必ず健康保険証を返却してもらう
社会保険から国民健康保険への切り替えにおける重要な注意点の一つとして、退職時には必ず健康保険証を返してもらうことが挙げられます。
退職する際には、従業員と扶養家族の健康保険証を適切に回収し、資格喪失届に添付する必要があります。特に協会けんぽに加入している場合、健康保険証を回収できない場合には「健康保険被保険者証回収不能届」の提出が必須となるため、業務が増えてしまうので注意してください。
また、健康保険証の返却を怠ると、退職後に従業員が医療機関で不正に使用する可能性があり、その場合、医療費の返金や国民健康保険への再加入手続きなど複雑な処理が必要になります。
このようなトラブルを回避するためにも、退職時は健康保険証を必ず返却してもらうことを忘れないようにしましょう。
6. 国民健康保険から社会保険への切り替え手続き


再就職などで国民健康保険から社会保険に切り替える場合、被保険者は市区町村役場で今まで加入していた国民健康保険の脱退手続きをおこないます。
一方、雇用する事業者は加入資格を得た日(入社日)から5日以内に、「被保険者資格取得届」を日本年金機構宛に提出する必要があります。また、雇用する従業員に配偶者や子などの扶養家族がいる場合は、併せて「健康保険被扶養者(異動)届」も提出しなければなりません。
提出書類の期限を守れない場合は、従業員とその家族に迷惑がかかってしまうほか、従業員や社会からの信用を失ってしまうリスクがあるため、担当者は忘れずに対応するようにしましょう。
当サイトでは、上記のような提出漏れがないように、社会保険の手続きや担当者が気を付けるポイントなどを解説した資料を無料で配布しております。社会保険の手続き(加入・喪失)で不安な点があるご担当者様は、こちらから「社会保険手続きの教科書」をダウンロードしてご確認ください。
参考:健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 厚生年金保険 70 歳以上被用者該当届|日本年金機構
7. 国民健康保険の切り替え手続きは速やかに対応しよう


退職した従業員は、ほとんどの場合、国民健康保険に加入します。国民健康保険への切り替え手続きは退職者がおこなうため、基本的に会社が関わることはありません。とはいえ、資格喪失届など手続きに必要な書類は会社が申請をおこないます。
また、任意継続を希望する場合は、会社がサポートしなければならないケースがあるでしょう。また、従業員の中には手続き方法がわからず、国民健康保険に関する相談をしてくるケースもあるかもしれません。
どちらにしても、健康保険は怪我や病気の治療に不可欠なので、退職者が困ったことにならないよう人事や労務を担当する方は健康保険に関する知識を身につけて、速やかに対応できるようにしておきましょう



従業員の入退社、多様な雇用形態、そして相次ぐ法改正。社会保険手続きは年々複雑になり、担当者の負担は増すばかりです。
「これで合っているだろうか?」と不安になる瞬間もあるのではないでしょうか。
◆この資料でわかること
- 最新の法改正に対応した、社会保険手続きのポイント
- 従業員の入退社時に必要な手続きと書類の一覧
- 複雑な加入条件をわかりやすく整理した解説
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