みなし残業制度とは?ルールやメリット・デメリットを詳しく解説!
更新日: 2025.8.25 公開日: 2021.9.7 jinjer Blog 編集部

残業代も含まれる人件費は、企業にとって最も大きな割合を占める費用の一つです。
毎月の人件費の変動が大きいと感じていたり、残業手当の計算が煩雑化していたりする企業は、みなし残業の導入が問題の解決につながるかもしれません。
本記事では、みなし残業の定義やメリット・デメリット、さらには導入のポイントや注意点を紹介します。
【関連記事】残業時間の定義とは?正しい知識で思わぬトラブルを回避!
人事労務担当者の実務の中で、勤怠管理は残業や深夜労働・有休消化など給与計算に直結するため、正確な管理が求められる一方で、計算が複雑でミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
さらに、働き方が多様化したことで管理すべき情報も多く、管理方法と集計にお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな担当者の方には、集計を自動化できる勤怠システムの導入がおすすめです。
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1. みなし残業(固定残業代制)とは

みなし残業(固定残業代制)とは、あらかじめ一定時間分の残業代(時間外労働手当)を毎月の給与に含めて支給する制度です。企業はあらかじめ「○時間分の残業代」を定額で給与に組み込み、従業員の残業時間がみなし残業時間以下であれば、実際の残業時間にかかわらずその残業代を支払います。
例えばみなし残業時間を月20時間と定めている場合、実際の残業時間が20時間より少なくても20時間分の残業代を支給します。
1-1. 労働基準法の割増賃金が適用されない
みなし残業代には法定の割増率(25%以上の割増)があらかじめ織り込まれて支給されています。したがって、みなし残業時間内の残業については追加で割増賃金を計算・支給する必要はありません。
ただし、規定のみなし残業時間から超過した分の残業時間に対しては、割増賃金を支払う必要があります。
例えば、みなし残業時間を20時間で設定している場合、20時間以内であれば割増率をさらに適用する必要がありません。20時間を超過した分から、追加で割増賃金の支払いをおこないましょう。
残業代が払われずに残業を続けている状態を、サービス残業といいます。2019年の働き方改革関連法が制定されてからは、残業時間に上限規制が設けられ、そちらも法律違反に該当する可能性があるため注意が必要です。
関連記事:時間外労働の上限規制とは?違反する具体例や超えないための対策ポイントを解説
2. みなし残業のメリット


みなし残業制を正しく導入すれば、企業にとって費用管理や業務効率の面で大きなメリットがあります。従業員側にも一定のメリットがある制度です。具体的にどのような点があるのか、4つ紹介します。
2-1. 残業代の計算が効率化する
みなし残業時間が適切に設定されている場合、従業員の残業代計算の手間が軽減します。大幅な工数削減となり、給与担当者の業務効率化につながるでしょう。
ただし、残業時間の設定が適切におこなわれない場合は、残業時間の超過が頻繁に発生するかもしれません。この場合は、通常の残業と同様に、個々の超過時間等を把握する必要があります。
【関連記事】固定残業代とは?制度の仕組みや導入のポイントを分かりやすく解説
2-2. 人件費を把握しやすくなる
残業代が月々の給与に含まれる場合、人件費の把握が容易となります。残業代による人件費の変動が起こりにくく、企業は支出の見通しをより正確に立てやすくなるでしょう。
人件費は、企業支出のなかでも高い比率を占める支出です。大幅な増減があると、企業は支出予測を修正しなければなりません。人件費についてあらかじめ見通しが立てられるということは、経営上大きなメリットとなるでしょう。
2-3. 業務効率アップが期待できる
みなし残業制は従業員の働き方にも良い影響を及ぼす可能性があります。みなし残業制では、あらかじめ残業代が給与に含まれているため、残業してもしなくても給与がほぼ変わりません。その結果、従業員の残業に対する意識が変化し、「長時間残業して稼ごう」よりも「残業しても給料は同じだから、テキパキ仕事を終わらせて定時で帰ろう」と考える従業員が増えるでしょう。このような意識の変化は、生産性の向上や業務の効率化につながります。
2-4. 従業員の給与が安定する
みなし残業制には従業員の収入を安定させるメリットもあります。毎月の給与に一定の残業代が含まれるため、たとえ残業が少ない月でも手取り額が大きく落ち込むことはありません。従業員にとっては毎月の収入が推定できるようになり、生活設計が立てやすくなるでしょう。生活が安定することは従業員の安心感につながり、モチベーション維持にも寄与します。
3. みなし残業のデメリット


一方で、みなし残業には注意すべきデメリットやリスクも存在します。「残業代を固定で支給する」という仕組み上、企業側・従業員側それぞれにデメリットがあり得ます。導入前に考慮しておきたいポイントを3つ確認しましょう。
3-1. 人件費がかさむ場合がある
みなし残業を導入すると必ずしも人件費削減になるわけではなく、場合によっては人件費が増加するリスクがあります。みなし残業制は「残業代を払わなくて済む」制度ではありません。定めたみなし時間分の残業代は必ず支払う必要があるため、実際には残業が少なかった場合でもその分の残業代を含めた給与を支給しなければなりません。
極端に言えば、残業がほとんど発生しない企業でも一定額の残業代を支払うことになるため、通常の残業代支給より人件費が割高になる可能性があります。
3-2. サービス残業が増える可能性がある
みなし残業制を正しく運用しないと、サービス残業(無給残業)が横行する恐れがあります。みなし残業制は「一定時間分の残業代は給与に含まれているが、それを超えた分の残業代は支払われる」制度です。
しかし従業員の認識が不十分だと、「みなし残業代に含まれているのだから、超過分の残業代は一切支給されない」といった誤解が生じてしまうことがあります。
その結果、従業員が超過分の残業時間を申告せずに自主的にサービス残業をしてしまう可能性があります。
こうした事態を避けるために、不要な残業をさせない工夫をするとともに、超過分の残業代を支払うことを周知徹底しましょう。
3-3. 従業員の不満が発生する場合がある
みなし残業制に対する従業員の理解不足は、不満やトラブルの原因となります。制度を正しく説明しておかないと、「みなし残業時間ぎりぎりまで働くことが期待されている」と勘違いする従業員も出てきます。その結果、業務が早く終わった日でもオフィスに残ろうとしたり、定時で帰ることに罪悪感を抱いたりするケースが考えられます。
さらに、現場の管理職側においても「みなし残業代を払っているのだから一定時間の残業はさせないと損」という誤った意識が生まれる危険があります。管理職がその点を履き違えれば、従業員に無駄な残業を強いる風土ができてしまい、従業員の不満や士気低下を招くでしょう。
このような事態を防ぐには、みなし残業制の仕組みやルールを従業員に正しく理解させることが大切です。
4. みなし残業制の導入のポイント


みなし残業制を自社で導入する際には、事前の準備と社内周知が重要です。制度を有効に機能させ、違法運用によるトラブルを避けるために、以下のポイントを押さえておきましょう。
4-1. 就業規則・雇用契約書にルールを明記して周知する
みなし残業制には法律上の細かな定めがないため、企業が任意で導入する制度という位置づけです。したがって、導入する場合は就業規則や雇用契約書などに制度の内容を明記し合意することが不可欠です。
単に「給与には固定残業代〇時間分を含む」と一文入れるだけでは不十分で、トラブルに備えて具体的な取り決めをはっきり示しておく必要があります。
明記しておきたいのは、以下の内容です。
- みなし残業代を除く基本給の額
- みなし残業時間
- みなし残業代の金額の計算方法
- みなし残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払うこと
なお、従業員への周知を怠った場合、みなし残業は法的に無効とされることもあります。
4-2.適切なみなし残業時間を設定する
みなし残業時間の設定は慎重におこないましょう。形式上、みなし残業時間に法律上の上限は存在しません。しかし、一般的には、みなし残業時間も月45時間以内に収めるのが望ましいとされています。これは、労使協定である36協定において法定外残業の上限は原則月45時間と定められているためです。
5-3. 残業時間・労働時間の管理を徹底する
みなし残業制を導入する場合、より厳密に個人の労働時間を把握する必要があります。「みなし時間内に収まっているかどうか」「収まっていない場合、何時間分超過したか」などをそれぞれ確認する必要があり、混乱を招くケースもあるでしょう。
これを未然に防ぐには、適切な勤怠管理ツールが不可欠です。個々の残業時間を一元的に把握できる、使い勝手のよいツールを選ぶと良いでしょう。
5. みなし残業制が違法になる可能性が高いケース


安易にみなし残業制を導入すると、労働基準法に抵触しトラブルとなる可能性もあります。制度を導入する際は、最低賃金・労働時間に注意することが必要です。
みなし残業制を導入する際、注意したいポイントを紹介します。
5-1. 基本給が最低賃金を下回っている
みなし残業代を給与に組み込む際に注意したいのが、基本給部分の最低賃金割れです。最低賃金法第4条では、従業員に最低賃金以上の賃金を支払うことが定められています。すなわち、みなし残業代を除いた基本給を時間あたりに換算した上で、最低賃金以上かどうかを確認しなければなりません。
最低賃金は各都道府県によって異なるため、都道府県労働局や事業所の労働基準監督署で最新の情報を確認しましょう。
5-2. 雇用契約書や就業規則にみなし残業制の詳細を明記していない
前述のとおり、みなし残業制は就業規則や雇用契約書への明記が必須です。もし契約書や規則にみなし残業に関する規定を設けずに運用すれば、それだけで無効とみなされる可能性が高いです。
みなし残業代については、前項にて紹介した項目を最低限記載するようにしておきましょう。
5-3. 労働時間を適切に管理できていない
従来は、みなし労働時間制が適用される従業員について、使用者が実際の労働時間を詳細に管理するかどうか曖昧な部分もありました。
しかし、2019年4月に働き方改革関連法である労働安全衛生法が改正され、みなし労働時間制が適用される労働者の労働時間把握が義務付けられています。「労働時間の把握義務違反」に対しての罰則はありませんが、36協定に違反した場合は、「半年以内の懲役もしくは30万円以下の罰金」が科せられます。
タイムカードや勤怠管理システムを利用するなど工夫をして、適切に労働時間を管理するようにしましょう。
5-4. みなし残業超過分の残業代を支払っていない
みなし残業時間を超えた分の残業代を払わないことは明確な違法行為です。
労働時間を適切に把握せず、超過分を支給しなければ、「未払い残業代の請求」や「残業拒否」など従業員とのトラブルに発展する可能性があります。
従業員からの信頼を失うリスクもあるため、正確な労働時間を把握して未払いがないように注意しましょう。
5-5. みなし残業時間を45時間超にしている
前述の通り、一般的にみなし残業時間は月45時間以内に収めるのが望ましいとされています。実際、過去の判例でも「45時間程度」が一つの目安と考えられており、80時間を超えるようなみなし残業時間設定は「時間外労働に対する正当な対価ではない」と判断されたり、「公序良俗に反し無効」とされたりする可能性が高いです。
常態として月45時間を超える残業を前提とする契約は、従業員の健康管理の面からも問題があり好ましくありません。
5-6. 残業時間が給与明細に記載されていない
残業時間が給与明細に記載されていない場合も違法とみなされかねません。給与明細にはその月の労働時間情報(何時間働いたか)を明示することが求められています。みなし残業代制であっても例外ではなく、実際に何時間残業したのかを明確に記載し、残業代計算の根拠を示す義務があります。
6. みなし残業の導入は法に則っておこなうことが重要


みなし残業は、従業員の給与にあらかじめ「一定時間分」の残業手当を含めて支給する労働契約です。この制度を適切に活用すれば、残業代計算の負担軽減や人件費の見通し向上などのメリットが得られ、従業員にとっても収入の安定や働き方の意識改革といったプラス効果が期待できるでしょう。
一方で、運用を誤れば労働基準法違反となり制度自体が無効と判断されるリスクがあります。
みなし残業時間は45時間を超えない範囲に留め、最低賃金を下回らない給与設計にするなど、常に法令順守を最優先すべきです。導入にあたっては就業規則や契約書の整備、労働時間管理の徹底など準備を万全におこない、企業と従業員双方にとって安心・納得できる形でみなし残業制を活用しましょう。
関連記事:みなし残業と固定残業の違いとは?それぞれの定義を紹介



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