働き方改革で残業時間の上限規制や割増率はどう変わった?わかりやすく解説!
更新日: 2025.12.11 公開日: 2020.5.28 (特定社会保険労務士)

働き方改革によって、残業に関するルールは大きく見直されました。段階的に法改正が進められ、大企業だけでなく中小企業も変化を求められています。特に、残業時間に上限が設けられたことで、長時間労働の是正が進み、従業員に過度な残業を課すことができなくなりました。
本記事では、法改正前の残業規制との違いや、働き方改革による36協定の変更点、新たに設けられた罰則や割増率の引き上げについて、わかりやすく解説します。
目次
人事労務担当者の実務の中で、勤怠管理は残業や深夜労働・有休消化など給与計算に直結するため、正確な管理が求められる一方で、計算が複雑でミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
さらに、働き方が多様化したことで管理すべき情報も多く、管理方法と集計にお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな担当者の方には、集計を自動化できる勤怠システムの導入がおすすめです。
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1. 働き方改革による残業規制の変更点


2019年4月に施行された働き方改革関連法により、企業における時間外労働の取り扱いは大きく変わりました。まずは、主要な変更点について一覧表で確認しましょう。
| 内容 | 改正前 | 改正後 |
| 時間外労働の上限規制 | 実質無制限(特別条項で超過可能) | 原則:月45時間・年360時間
特別条項ありでも上限あり(年720時間など) ※中小企業2020年4月~ |
| 違反に対する罰則 | 行政指導のみ | 6ヵ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 月60時間超の残業の割増率 | 中小企業は25%以上 | 中小企業も50%以上 (2023年4月~) |
このように、働き方改革により企業には法的な対応が求められるようになりました。ここでは、各変更点について詳しく解説します。
1-1. 時間外労働の上限規制が新設された


過重労働による健康被害や過労死などの深刻な問題を受けて、働き方改革では、それまで事実上無制限とされていた残業時間に明確な上限が設けられました。
具体的には、時間外労働(休日労働除く)の上限は、原則として「月45時間・年360時間」となりました。また、「特別条項付き36協定」を締結したとしても、次の上限を超えて従業員を働かせることができません。
- 1ヵ月の時間外労働+休日労働の合計が100時間未満
- 2~6ヵ月間の時間外労働+休日労働の合計が月平均80時間以下
- 年間の時間外労働の合計は720時間以下
- 月45時間を超えて時間外労働をさせられるのは年に6回まで
特に注意が必要なのは、「月100時間未満」「月平均80時間以下」の規定には、時間外労働だけでなく休日労働も含まれる点です。例えば、ある従業員の月の平日残業が70時間でもそれだけで上限規制に抵触するわけではありませんが、休日労働が30時間ある場合は合計して「月100時間以上」の時間外労働となるため、違法と判断される可能性が高いでしょう。
このように、時間外労働を適切に管理するためには、「時間外労働」「休日労働」「法定労働時間」などの定義を正しく理解し、運用することが不可欠です。そこで当サイトでは、残業時間の定義から上限規制の詳細までをわかりやすく解説した資料を無料で配布しています。
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関連記事:時間外労働の上限規制とは?違反する具体例や超えないための対策ポイントを解説
1-2. 上限規制を違反した場合の罰則が設けられた
従来は、時間外労働の上限に法的拘束力がなく、超過しても行政指導にとどまっていました。法改正によってこの点が改善され、上限規制に違反した場合には、「6ヵ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金」が科されることとなりました。
罰則規定の追加を受けて、企業には一層、コンプライアンスの意識が求められます。従業員の働きすぎを防ぎ、適切な労働時間管理を実現するうえでも、法的リスクの回避は大切なポイントです。
関連記事:働き方改革による残業規制の最新情報!上限時間や違反した際の罰則を解説
1-3. 月60時間超の割増率が引き上げられた
「月60時間を超える時間外労働」について、2023年4月から中小企業にも50%以上の割増賃金の支払いが義務化されました。なお、この規定は大企業ではすでに2010年4月から適用されており、今回の改正ですべての企業に適用が完了しました。
また、残業の上限規制に対応する形で、特別条項付き36協定を締結する際には、「限度時間を超える場合の割増率」について協定を定めることが求められるようになりました。なお、限度時間を超える残業に対しては、25%を超える割増賃金率とするよう努めなければなりません。ただし、あくまで努力義務にとどまります。
その他、残業手当の割増率の一覧は次のとおりです。
| 条件 | 割増率 |
| 時間外労働 | 25%以上 |
| 深夜労働(22時~翌5時) | 25%以上 |
| 法定休日労働 | 35%以上 |
| 1ヵ月の時間外労働が60時間を超えた場合 | 50%以上 |
| 深夜労働 | 50%以上 |
| 深夜労働+法定休日労働 | 60%以上 |
| 1ヵ月の時間外労働が60時間を超え、深夜労働が発生した場合 | 75%以上 |
なお、休日労働をして代休を取ったとしても、割増賃金は発生するので注意しましょう。
関連記事:残業手当とは?割増率や計算方法、残業代の未払い発生時の対応を解説
関連記事:割増賃金とは?種類別の割増率や計算方法・企業が講じるべき対策を解説
1-4.残業規制は中小企業にも全面適用された
残業時間の上限規制は、当初は大企業を対象に2019年4月から施行されましたが、中小企業にも2020年4月から同様のルールが適用されています。また、上述の通り、時間外労働が月60時間を超えた場合の割増賃金率50%の適用も、2023年4月から中小企業に適用されました。
このように、現在では企業規模にかかわらず残業規制を守る必要があります。すでに全面適用されている以上、法律の正しい理解と適切な労働時間管理が求められます。
2. 働き方改革と残業規制の関係性とは?


働き方改革では、長時間労働の是正が重要な柱の1つとして掲げられており、残業時間に関する制度の見直しが進められました。これまで曖昧だった時間外労働の上限が明確に規定され、従業員の健康確保と企業の働き方の見直しが求められるようになったのです。
ここでは、まず法改正前の問題点を整理したうえで、なぜ残業規制が現代の企業にとって重要なのかを見ていきましょう。
2-1. 働き方改革の全体像をおさらい
働き方改革は、日本が直面していた「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「労働者のニーズの多様化」などの課題に対応するため進められた国主導の政策であり、「働く人が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自ら選択できる社会」を実現することを目的としています。
主な施策として、次のような見直しがおこなわれました。
- 労働時間法制の見直し
- 時間外労働の上限規制
- 勤務間インターバル制度の導入促進
- 年5日の年次有給休暇の取得義務化
- 労働時間の客観的把握の義務化
- フレックスタイム制の拡充や高度プロフェッショナル制度の見直し
- 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
- 同一労働同一賃金ガイドラインの策定
- 待遇差の説明義務の強化
- 事業者への助言・指導や紛争解決手続の整備
なかでも最も影響が大きかったのが、時間外労働の上限規制の法制化です。これにより、企業には法令遵守だけでなく、労働時間の適正な管理と職場の業務改善が強く求められるようになっています。
2-2. 法改正前の残業規制に関する問題点とは
36協定とは、従業員へ時間外労働(残業)や休日労働を命じる際に労使間で締結が必要な協定のことです。企業が従業員に「1日8時間・週40時間」の法定労働時間を超えた勤務をさせるためには、36協定の締結と届出が前提となります。
36協定を締結すれば、企業は一定の範囲内で従業員に残業を命じることができますが、上限として「月45時間・年360時間」が定められています。
しかし、従来の制度では、「特別条項付き36協定」を締結することで、上限を超える残業が可能でした。以前の特別条項には明確な上限規定がなく、形式上の手続きのみで青天井の残業が容認されている状態であり、過重労働や過労死といった深刻な労働問題が社会的に大きくクローズアップされていました。
さらに、当時の36協定には違反に対する罰則がなく、行政指導や告示にとどまっていた点も問題でした。
こうした背景を受けて、働き方改革関連法により残業の上限が法律で明確に規定され、企業には、コンプライアンスの徹底と業務の見直しが求められるようになったのです。
関連記事:36協定における残業時間の上限を基本からわかりやすく解説!
関連記事:36協定に対応した勤怠管理システムとは?必要な機能を紹介
2-3. 人材不足解消や業績向上のためにも残業規制は重要
残業規制の強化は、単に労働時間を減らすことが目的ではなく、持続可能な働き方を実現し、企業全体の生産性向上につなげるための重要な施策です。
現代の労働市場では、少子高齢化の影響もあり人材の確保が年々難しくなっています。過度な長時間労働が常態化している職場では、従業員の定着率が下がり、採用活動にも悪影響をおよぼすおそれがあります。反対に、適正な労働時間が確保されている企業は、働きやすい職場として評価され、人材の確保・定着にもつながるでしょう。
また、長時間働くことと業績向上が比例するとは限りません。むしろ、限られた時間の中で効率的に働く環境を整えることで、生産性や創造性の向上が期待できます。従業員の健康を守りつつ、パフォーマンスを最大限に引き出すことが、企業の持続的成長にもつながっていくのです。
残業時間の上限規制は、「守らなければならないルール」だけではなく、「企業の未来を支える戦略」として前向きに取り組むべき課題だといえるでしょう。
3.働き方改革の残業規制の経過措置


働き方改革による時間外労働の上限規制は、原則としてすべての企業に適用されていますが、特定の業種においては実態に配慮し、2024年3月までは猶予期間が設けられました。2024年4月からは上限規制の対象となりますが、一部取扱が他の業種とは異なります。
ここでは、対象となる「建設業」「運送業」「医師」について、2024年4月以降の上限規制の取扱いを解説します。
3-1. 建設業は2024年4月から適用
建設業では、2024年4月からは、災害の復旧・復興の事業を除き、上限規制がすべて適用されます。ただし、災害の復旧・復興の事業に関しては、従前どおり以下の規制が適用されないままです。
- 1ヵ月の時間外労働+休日労働の合計が100時間未満
- 2~6ヵ月間の時間外労働+休日労働の合計が月平均80時間以下
関連記事:建設業の労働時間の上限規制は2024年4月から!改正ポイントを解説
3-2. 運送業の2024年問題
トラック運転手などの自動車運転業務は、2024年4月より、残業規制について次のような取扱いがなされます。
- 特別条項付き36協定を締結する場合の残業上限が年960時間まで
- 「1ヵ月の時間外労働+休日労働の合計が100時間未満」の規制が適用されない
- 「2~6ヵ月間の時間外労働+休日労働の合計が月平均80時間以下」の規制が適用されない
- 「月45時間を超えて時間外労働をさせられるのは年に6回まで」の規制が適用されない
2024年4月からの改正により、運送業界では「2024年問題」として物流の停滞や人手不足、売上減少などが懸念されています。特にお中元やお歳暮などを配送する繁忙期は、輸送能力の低下によって配送が間に合わない可能性があります。
ドライバーの労働時間短縮と安定的な輸送体制を両立するためには、業務の効率化・集約化、運賃見直し、システム導入などの対応が不可欠です。今後は企業努力に加え、発注者や消費者の理解・協力も求められる分野となっているでしょう。
関連記事:物流・運送業界向け勤怠管理システムとは?選び方やおすすめ機能を解説
3-3.医師の時間外・休日労働時間は年960時間
医師についても、これまでの過酷な長時間労働を是正するため、2024年4月から新たな上限規制が導入されました。医師の残業規制は以下のような取扱いとなっています。
- 特別条項付き36協定を締結する場合の「残業+休日労働」の上限が年960時間まで
※ただし、地域医療の維持や救急対応など、一定の条件下では年1,860時間までの延長が認められる「特例水準」もあり
- 「1ヵ月の時間外労働+休日労働の合計が100時間未満」の規制が適用されない
- 「2~6ヵ月間の時間外労働+休日労働の合計が月平均80時間以下」の規制が適用されない
- 「月45時間を超えて時間外労働をさせられるのは年に6回まで」の規制が適用されない
また、医療法等に追加的健康確保措置に関する定めがあります。医師の働き方改革は、患者の命に関わる業務の性質から特に慎重な対応が求められています。勤務環境の整備と医療体制の持続可能性を両立させる取り組みが今後も重要となるでしょう。
関連記事:【2024年】労働基準法改正による労働時間や増賃金率の変化を解説
4.働き方改革による残業規制のメリット・デメリット


働き方改革によって導入された時間外労働の上限規制は、企業・従業員双方にさまざまな影響を及ぼします。労働環境の改善という大きな目標がある一方で、現場では新たな課題も浮き彫りになっています。ここでは、企業と従業員それぞれの立場から、残業規制にともなうメリットとデメリットについて見ていきましょう。
4-1.企業のメリット
企業にとっての最大のメリットは、生産性の向上が期待できる点です。残業が制限されることで、限られた時間の中で成果を出す必要が生じ、業務の無駄を省く意識が高まります。業務の効率化やプロセス改善に取り組むきっかけとなり、結果的に組織全体のパフォーマンス向上につながる可能性もあるでしょう。
また、長時間労働の是正によって職場環境が改善されることは、従業員の満足度や定着率の向上にも寄与します。働きやすい職場として評価されれば、採用活動にも良い影響を及ぼす可能性があります。さらに、労働時間に関する法令を遵守することで、コンプライアンス体制が強化され、労働基準監督署からの指導や労使トラブルのリスクを低減できます。
関連記事:長時間労働の問題点は?原因と改善策を解説
4-2.企業のデメリット
一方で、企業にとっては運用上の負担も無視できません。これまで残業によって支えられていた業務体制では、人手不足や納期遅延のリスクが顕在化する可能性があります。特に、慢性的な人材不足に直面している中小企業では、現場のひっ迫感が増すケースもあるでしょう。
また、残業を抑制するために新たな人材を確保したり、業務を分担したりするにはコストが発生します。加えて、正確な勤怠管理の徹底や36協定の見直し、従業員への制度周知など、法令対応のための体制整備に手間と時間がかかる点も課題です。制度導入に伴う初期対応の負荷は、企業規模を問わず大きなものとなるでしょう。
4-3.従業員のメリット
従業員にとって、残業規制がもたらす最大の利点は、心身の健康が守られることです。過重労働によるストレスや疲労の蓄積が抑えられることで、生活の質が向上し、仕事のパフォーマンスも安定しやすくなります。
また、仕事に費やす時間が適正化されることで、家族との時間や趣味、学びの時間など、プライベートの充実も図りやすくなります。いわゆるワーク・ライフ・バランスの実現に向けた大きな一歩と言えるでしょう。さらに、労働時間の適正な記録と管理が進むことで、これまで曖昧だったサービス残業の抑止にもつながり、未払い残業代の問題改善にも一定の効果が期待できます。
関連記事:離職率とは?日本の現状や高くなる原因・改善が必要な理由を解説
関連記事:社員の離職防止の施策とは?原因や成功事例を詳しく解説
4-4.従業員のデメリット
一方で、従業員側にも一定の戸惑いや不安が生じることがあります。とくに、残業代が収入の一部として大きな割合を占めていた場合には、残業抑制によって手取りが減るという影響が避けられません。生活設計に影響を及ぼす可能性もあり、個人によっては働き方の見直しを迫られる場面もあるでしょう。
また、残業時間が制限されたことで業務量が変わらないまま、短時間で成果を求められるプレッシャーが増すこともあります。効率化を進めるために求められるスキルやスピードに対応できず、かえって精神的な負担が増すケースも考えられます。
さらに、制度が形式的に導入されただけで実態が伴わない、形だけの働き方改革になってしまうと、不満が生じる可能性があります。例えば、「表向きは定時退社を促されるが、持ち帰り仕事が常態化している」といった場合、在宅勤務での疲労が蓄積し、本来の目的を果たせていない状況となってしまうでしょう。
関連記事:残業時間によっては産業医面談が義務になる?面談の流れやポイントを解説
5. 働き方改革後も残業削減が進まない企業の対策ポイント


働き方改革による残業時間の上限規制に対応するため、36協定の見直しや勤怠管理の強化が多くの企業で進められました。しかし実際には、「制度は整えたのに残業が減らない」といった声も少なくありません。
これは、単に制度やルールを設けるだけでは不十分で、組織の仕組みや従業員の意識、業務のあり方そのものにも目を向ける必要があるからです。ここでは、残業を減らすために企業が押さえておきたい3つのポイントを解説します。
5-1. 残業手当を求める従業員への説明をおこなう
残業時間を減らそうと取り組んでいるにもかかわらず、あえて残業したがる従業員に困っているケースもあるでしょう。その背景には、「残業代を生活のあてにしている」「残業しないと給与が足りない」といった経済的な事情が潜んでいることも少なくありません。
このようなケースでは、単に「残業禁止」を徹底するだけでなく、残業代に依存せず働ける環境を整えることが重要です。例えば、基本給や賞与の見直し、残業を抑えた従業員へのインセンティブ制度の導入、福利厚生の充実といった方法が考えられます。
従業員に対しては、「なぜ残業を削減するのか」「その代わりにどのような待遇があるのか」を丁寧に説明し、会社全体としての方向性を共有することが不可欠です。
5-2. 業務体制や業務フローを抜本的に見直す
残業の上限を厳しく設定したものの、業務量自体が変わらなければ、サービス残業の温床となるおそれがあります。制度だけではなく、実態に即した業務の見直しが伴わなければ、真の改革にはつながりません。
まずは、自社で残業が発生している原因を把握することが大切です。業務量が多すぎるのか、不要な手間がかかっているのか、担当の偏りがあるのかといった実態を洗い出しましょう。そのうえで、業務配分の調整やフローの効率化、ツールの導入による自動化など、業務そのものを根本から見直すことが求められます。
関連記事:残業削減対策の具体的な方法と期待できる効果について解説
5-3. アナログな勤怠管理手法をアップデートする
タイムカードや出勤簿など紙ベースの勤怠管理を続けている場合、「集計してみるまで残業時間が分からない」「気づいたら上限時間を超過していた」といった自体が起こりやすくなります。こうした「見えない残業」は、法令違反や未払賃金のリスクを高める要因となります。
これらの課題を解消するためには、リアルタイムで労働時間を把握できる勤怠管理システムの導入がおすすめです。
勤怠管理システムを活用すれば、月中の残業時間を自動で集計でき、上限に近づいている従業員に対して、事前にアラートを出すことができます。「気づいたときには手遅れだった」というリスクを未然に防ぐことが可能です。
さらに、全国に拠点がある企業では、本社の人事担当者から各支店や店舗で働く従業員の労働時間をリアルタイムで把握できるため、全社的な労働時間の管理と是正がスムーズになる利点もあります。
関連記事:働き方改革への対応で企業が取るべき行動と導入すべきシステム
関連記事:ペーパーレス化で働き方改革を推進!メリット・注意点や取り組み事例を紹介
5-4. 社労士の見解「制度だけでは残業が減らない」理由
働き方改革によって法律上の残業規制は強化されましたが、「制度を整えただけで残業が自然に減る」わけではありません。実際に現場で起きている問題と向き合い、具体的な改善策を講じなければ、表面的な取り組みに終わってしまうおそれがあります。
社労士として多くの企業を支援してきた立場から見ると、残業削減が進まない職場にはいくつか共通する傾向があります。制度やルールを導入しても「現場で十分に理解されていない」「管理職が対応に消極的」「就業規則や36協定の内容が実態と乖離している」といった課題が放置されているケースです。
また、労働時間を適正に把握・管理する”しくみ”が整っていなければ、残業規制を実効的に機能させることはできません。ただ単に勤怠管理システムを導入するだけでなく、就業ルールを周知徹底し、管理職会議で毎月確認するなど、現場への継続的なフォローは不可欠です。
残業削減は、労務リスク対策として受動的に取り組むのではなく、「組織として働き方をどう変えていくか」という前向きな視点を持つことが何より大切です。制度を守るだけの取り組みにとどまらず、働きやすさや生産性向上を目的とした改革であることを、発信し続ける姿勢が求められます。
前向きなメッセージを継続的に伝えていくことで、従業員の理解につながり、自然と協力も得られやすくなるでしょう。
6. 働き方改革の残業規制に関する質問


働き方改革によって導入された残業時間の上限規制ですが、「誰に適用されるのか」「業種によって違いはあるのか」など、実務上の疑問も多く聞かれます。ここでは、よくある質問について回答します。
6-1. 管理監督者には適用される?
残業時間の上限規制はすべての従業員に適用されるわけではありません。管理職(労働基準法上における管理監督者)は適用除外とされています。管理職については、残業時間の上限規制だけでなく、時間外労働や休日労働における割増賃金の支払い義務もありません。ただし、深夜労働の割増賃金は、管理職にも適用されるので注意しましょう。
また、労働基準法上の管理監督者とは、役職名だけで決まるものではありません。実際の権限や勤務実態、待遇などに応じて総合的に判断されます。「名ばかり管理職」とみなされてしまうと、未払賃金の遡及リスクが発生するおそれもあります。リスクを避けるためにも、管理監督者の適用は慎重におこないましょう。
関連記事:労働時間の上限規制は管理職にもある?管理監督者との違いを理解しよう
6-2. 適用除外される業種・企業はある?
残業時間の上限規制は、一部の業種や職種については、業務の特性上、一律の適用が適さないことから、導入時に5年間の猶予期間が設けられていました。現在は猶予期間が終了していますが、現在も事業・業務に応じて独自の上限規制が設けられているケースがあります。
| 事業・業務 | 猶予期間中(~2024年3月) | 猶予後の取り扱い(2024年4月~) |
| 建設事業 | 上限規制は適用されません。 | すべての上限規制が適用されます。
※ただし、災害の復旧・復興の事業には、
の規制が適用されません。 |
| 自動車運転の業務 | 特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が「年960時間」となります。
※以下の規制が適用されません。
|
|
| 医師 | 特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外・休日労働の上限が「最大1860時間」となります。
※以下の規制が適用されません。
|
|
| ⿅児島県及び沖縄県における砂糖製造業 | 以下の規制が適用されません。
|
すべての上限規制が適用されます。 |
| 新技術・新商品の研究開発業務 | 上限規制は適用されません。 | |
参考:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説(P6)|厚生労働省
7. 働き方改革で残業削減できた事例


働き方改革の推進にあたり、制度の整備だけでなく、現場レベルでの工夫や改善に取り組む企業も増えています。ここでは、実際に残業削減や働き方の見直しに成功した企業の事例を紹介します。
7-1. ITの活用で業務効率化とコミュニケーションの円滑化を実現した事例
10店舗の生花店を展開するA社は、クラウド勤怠管理ソフトを導入し、アナログだった紙の勤怠集計を大幅に効率化しました。全従業員の勤怠をリアルタイムで把握できるようになり、労働時間の削減にも成功しています。
さらに、各店舗にタブレットを配布し、ビデオ会議や研修も実施したことで、遠隔地とのコミュニケーションが活発になり、従業員の意識にもポジティブな変化が生まれています。IT・ICTの活用により、業務改善と職場の一体感向上を同時に実現した好事例です。
7-2. スーパーフレックスタイム制導入によって時間外労働削減を達成した事例
建設業を営むB社では、時間外労働の削減と若手社員の定着を目的に、コアタイムなしのスーパーフレックスタイム制を導入しました。
3ヵ月の精算期間で柔軟に働ける環境を整えることで、業務の繁閑に応じた労働時間調整が可能になりました。さらに、社外メンター制度の導入により新入社員の悩みを外部専門家がサポートし、退職者ゼロを継続中です。パートタイマーには正社員転換制度や時給アップの仕組みを導入するなど、多様な働き手が活躍しやすい環境づくりを推進しています。
8. 働き方改革でより良い職場環境をめざそう


働き方改革の施行により、たとえ特別条項付きの36協定を締結している場合でも、上限を超える時間外労働が原則として認められなくなりました。これは、長時間労働が常態化していた職場環境を見直す大きな転機であり、従業員の健康を守るための重要な一歩です。
この機会に、自社の労働時間管理や業務体制を再点検し、より持続可能で働きやすい職場づくりに取り組んでみると良いでしょう。法令遵守だけでなく、従業員の声に耳を傾けながら、実態に即した改善を積み重ねていくことが、組織全体の生産性や定着率向上にもつながっていくはずです。
関連記事:残業時間の定義とは?正しい知識で思わぬトラブルを回避!



人事労務担当者の実務の中で、勤怠管理は残業や深夜労働・有休消化など給与計算に直結するため、正確な管理が求められる一方で、計算が複雑でミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
さらに、働き方が多様化したことで管理すべき情報も多く、管理方法と集計にお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな担当者の方には、集計を自動化できる勤怠システムの導入がおすすめです。
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