所得税のための年末調整とは?仕組みや業務効率化のポイントを解説
更新日: 2025.11.21 公開日: 2022.3.9 jinjer Blog 編集部

毎月の給与から天引きされる所得税は概算で計算されており、年間の正確な納税額ではありません。年末に年間の給与や各種控除をもとに正しい税額を算出し、過不足を精算する手続きが「年末調整」です。
令和7年分の年末調整では、基礎控除や給与所得控除などの改正により計算がやや複雑になっています。そのため、正確な税額計算と効率的な対応が求められます。本記事では、所得税のための年末調整の仕組みや、業務を効率化するポイントをわかりやすく解説します。
関連記事:所得税とは?源泉所得税や定額減税など複雑な処理を詳しく解説
目次
「特定親族特別控除」が新設されるなど、例年以上に複雑になる令和7年の年末調整。
従業員からの問い合わせが増える年末に、最新の制度をどう案内すればいいか、不安に感じていませんか?
◆よくある質問
Q. 大学生などのアルバイト収入が増えても、親の控除額は減らない?
Q. 年末調整の対象者は?
Q. 退職者や二か所で働く従業員の年末調整は必要?
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1. 所得税のための年末調整はなぜ必要?


年末調整は、所得税を正しく計算し、適切に納税するためにおこなわれます。しかし、年末調整が求められる理由はそれだけではありません。ここでは、年末調整が必要とされる理由について詳しく見ていきましょう。
1-1. そもそも所得税とは?
所得税とは、個人が1年間(1月1日から12月31日まで)に得た所得(もうけ)に対して課される税金です。所得は「給与所得」「事業所得」「不動産所得」「譲渡所得」「雑所得」など10種類に分類され、それぞれ計算方法が異なります。
所得税の計算では、所得から「所得控除」とよばれる一定額を差し引き、課税所得を求めます。所得控除には、基礎控除や扶養控除、配偶者控除、社会保険料控除などがあり、納税者の家族構成や状況に応じて適用されます。課税所得に対しては累進課税が採用されており、所得が大きくなるほど税率(5%~45%)も高くなります。
所得税は原則として確定申告による申告納税方式です。しかし、給与所得者については「年末調整」の仕組みにより、会社が従業員に代わって所得税の計算と納付をおこないます。これにより、給与所得者は確定申告を原則不要で納税を済ませることができます。
1-2. 年末調整とは所得税の過不足を調整する手続き
年末調整とは、その年に給与から源泉徴収された所得税の合計額と、実際に納めるべき所得税額を照らし合わせ、その差額を清算する手続きです。給与から毎月引かれている源泉所得税はあくまで概算で計算されており、年間収入や各種控除額を正確に反映しているわけではありません。そのため、年末に一度、正確な金額で税額を精算する必要があります。
年末調整により、毎月の給与から多めに天引きされていた場合には過払い分が還付され、逆に不足していた場合には不足分を追加で納めることになります。また、保険料控除や住宅ローン控除なども正しく反映されるため、従業員にとっては過不足のない正確な所得税の納付が可能になります。
関連記事:年末調整とは?【令和7年最新】確定申告との違いや必要書類、計算の流れをわかりやすく解説
1-3. 年末調整は会社の義務になっている
年末調整は従業員に給与を支払う会社の義務となっています(所得税法190条)。年末調整を正しくおこなわなかった場合は次のような罰則が課されるリスクがあります。
【年末調整をおこなわず、従業員から正しい所得税額を徴収しなかった場合】
1年以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金
(所得税法242条)
【年末調整をおこなったものの、追加の徴収額の納付をしなかった場合】
10年以下の拘禁刑、または200万円以下の罰金、あるいはその両方
(所得税法240条)
源泉徴収票を交付しなかったり、虚偽の記載をしたりした場合も1年以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金を課される可能性があります。さらに、納税不足により不納付加算税や延滞税が課されるおそれもあります。こうしたリスクを避けるためにも、年末調整の仕組みを正しく理解し、余裕を持って手続きを進めることが重要です。
1-4. 年末調整の結果は住民税にも反映される
年末調整を終えた後、会社は従業員に源泉徴収票を交付し、税務署に法定調書を提出するとともに、市区町村に給与支払報告書を提出する必要があります。この給与支払報告書の情報に基づき、従業員の住民税が賦課決定されます。
年末調整が正しくおこなわれなかったり、手続きが遅れたりすると、従業員の所得税だけでなく住民税の計算にも影響が生じる可能性があります。そのため、年末調整の重要性を再認識し、期限までに正確に手続きをおこなうことが大切です。
関連記事:給与支払報告書とは?書き方や提出方法・期限をわかりやすく解説
2. 年末調整の対象者


年末調整を正しくおこなうためには、まず対象者を把握することが重要です。原則として会社に「扶養控除等申告書」を提出していて、年末まで勤めている従業員が年末調整の対象者となります。年の途中に退職した人は基本的に年末調整の対象外ですが、次に該当する場合は年末調整の対象となります。
- 海外支店への転勤などの理由で非居住者となった人
- 死亡退職した人
- 著しい心身の障害のために退職した人(退職後その年に再就職し給与を受け取る見込みがある人を除く)
- 12月に支給されるべき給与等を受け取り退職した人
- パートタイマーなどその年の給与総額が123万円以下である人(退職後その年にほかの勤務先から給与を受け取る見込みのある人を除く)
令和7年度税制改正により「年の中途でおこなう年末調整の対象となる人」の条件が一部変更されているので注意が必要です。
参考:令和7年分 年末調整のしかた Ⅱ 年末調整とは|国税庁
2-1. 年末調整の対象外の人は確定申告が必要
年末調整の対象外となる人は、確定申告で納税する必要があります。例えば、ダブルワークをしていて扶養控除等申告書をほかの勤務先に提出している人や、年の途中に退職した人(一部を除く)などは年末調整の対象外です。また、次の条件に該当する人も、年末調整の対象者から外れます。
- 1年間の給与総額が2,000万円を超える人
- 災害減免法によりその年の給与に対する所得税および復興特別所得税の徴収猶予や還付を受けた人
また、年末調整を受けたとしても、副業所得が20万円を超える場合や、寄付金控除や医療費控除といった年末調整で適用できない控除を適用したい場合などは、従業員自身による確定申告が必要です。
確定申告には、勤務先から交付される源泉徴収票が不可欠です。年末調整の対象外となる従業員にも、翌年1月31日までに源泉徴収票を正しく交付しましょう。
関連記事:年末調整の対象者とは?必要書類や確定申告との関係も解説
3. 年末調整で注意したいポイント


年末調整は、従業員の所得税の正しい納付に関わる重要な手続きです。正確な申告と計算をおこなうためにもポイントを押さえておきましょう。
3-1. 年末調整では処理できない控除がある
年末調整では次のような所得控除や税額控除が適用できません。
- 寄附金控除
- 医療費控除
- 雑損控除
- 住宅ローン控除(1年目)
ふるさと納税については、ワンストップ特例を活用すれば、年末調整や確定申告をせずとも寄付金控除の手続きが可能です。また、1年目の住宅ローン控除は年末調整で対応できないため従業員による確定申告が必要ですが、2年目以降は年末調整で対応できます。
従業員がこのような制度を知らないケースも少なくありません。事前に制度の仕組みや申請方法を丁寧に説明してあげることで、手続きがスムーズになり、従業員の安心にもつながります。また、会社としても誤った申告や控除漏れを防げるため、双方にとってメリットがあります。
参考:No.1213 認定住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁
3-2. 年末調整の期限は翌年1月31日まで
年末調整は通常11月頃からおこなわれますが、法律上の実施期限は特に定められていません。しかし、年末調整に基づいて作成される法定調書の提出期限は翌年1月31日(※土日・祝日の場合は翌営業日)です。そのため、会社は年末調整を1月31日までに完了し、関係書類を提出できる状態にしておかなければなりません。
もし従業員から提出された書類に不備があったり、年末調整の計算が期限内に完了しなかったりした場合、会社側で年末調整ができません。この場合、対象となる従業員は自ら確定申告をおこなう必要があります。
確定申告の期間は原則として毎年2月16日から3月15日までです。期限を過ぎて申告した場合や申告をおこなわなかった場合には、従業員に無申告加算税や延滞税などのペナルティが課される可能性があります。不要な負担を従業員にかけないためにも、会社は年末調整のスケジュール管理を徹底し、書類提出の期限を従業員に周知徹底することが重要です。
関連記事:年末調整はいつが期限?具体的なスケジュールや提出書類を解説
3-3. 所得税の仕組みや計算方法は税制改正により変わる
所得税の計算方法や控除の内容は毎年の税制改正によって変更されることがあります。令和7年度税制改正の主な変更点は次の通りです。
- 基礎控除の引き上げ
- 給与所得控除の最低保障額の引き上げ
- 特定親族特別控除の新設
- 扶養親族等の所得要件の改正
例えば、基礎控除と給与所得控除の引き上げにより、給与収入160万円(従来は103万円)までは所得税がかからなくなります。なお、この改正は令和7年分(2025年分)の年末調整から適用されます。
また、年末調整に必要な書類として「特定親族特別控除申告書」が追加されました。年末調整をスムーズに進めるためには、税制改正の内容を早めに把握し、社内マニュアルや手続きフローの見直しをおこなうことが重要です。参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
4. 年末調整業務を効率化するためのポイント


年末調整は、従業員一人ひとりの所得税額を正確に算出する重要な業務ですが、書類の量が多く、計算や確認作業も複雑です。ミスや遅延を防ぐためには、効率化の工夫が不可欠です。ここでは、業務をスムーズに進めるためのポイントを紹介します。
4-1. 年末調整の電子化を進める
年末調整を紙の書類でおこなう場合、配布・回収・確認・保管など、多くの手間がかかります。しかし、書類を電子化すれば、システム上でのやり取りが可能になり、差し戻しや確認作業も効率化できます。また、提出状況や手続きの進捗もリアルタイムで管理でき、業務全体をスムーズに進められます。
一方で、電子化には個人情報の漏えいリスクへの注意や、操作に不慣れな従業員へのサポートが欠かせません。年末調整を電子化する場合は、セキュリティや操作性も考慮した専用ソフトの導入がおすすめです。料金や機能だけでなく、自社の環境に最適なシステムを整備することが重要です。
関連記事:年末調整の電子化とは?やり方、企業におけるメリット・デメリットを解説
4-2. 余裕をもったスケジュールを設定する
年末調整の主な業務の流れは次の通りです。
- 10月:年末調整に必要な書類を従業員に配布
- 11月:従業員から書類を回収
- 12月:年末調整の計算および過不足税額の精算
- 翌年1月:源泉所得税の納付および法定調書の提出
年末ギリギリに業務をおこなうと、法定調書の提出期限(翌年1月末)に間に合わないリスクがあります。そこで、年末調整のスケジュールは前倒しで設定し、書類提出の遅れや修正依頼にも余裕をもって対応できるようにしましょう。
特に年末近くは、従業員の休暇取得や業務多忙により書類回収が遅れやすくなります。従業員の負担を軽減するため、社内通知や説明会は早めに実施することが望ましいです。
関連記事:年末調整の再調整は可能!方法やポイントをわかりやすく解説
4-3. 年末調整代行サービスの活用を検討する
社内リソースが限られている場合、年末調整業務を専門業者に任せることも効率化のひとつの方法です。税務知識や実務経験を持つ専門家による作業により、計算ミスや書類不備を大幅に減らし、社内担当者の負担を軽減できます。
ただし、税務書類の作成や税務代理、税務相談は税理士の独占業務です。そのため、法定調書の作成や税務署への提出など、税理士資格が必要な業務を委託する場合は、必ず税理士資格を持つ者に依頼することが安全です。一方で、給与データの集計や書類整理など、税理士独占業務に該当しない作業は、社労士やアウトソーシング業者でも対応可能です。
参考:2 税理士の業務|国税庁
関連記事:年末調整の代行サービスとは?気になる費用とその内容を紹介
5. 年末調整は期限に注意して余裕をもっておこなうようにしよう


年末調整とは、1年間に給与から源泉徴収された所得税の概算額と、実際に納めるべき税額を照らし合わせて精算する手続きです。給与を支払う会社には、従業員の所得税を正確に計算し納付する義務があります。誤った年末調整をおこなうと、過失や不正として罰則や追徴課税の対象になることがあります。
専用の管理システムを活用すれば、人事・労務担当者の作業負担を軽減し、正確かつ効率的に年末調整を進めることが可能です。税制改正に自動対応するシステムであれば、手動修正の手間を省き、スムーズに対応できます。



「特定親族特別控除」が新設されるなど、例年以上に複雑になる令和7年の年末調整。
従業員からの問い合わせが増える年末に、最新の制度をどう案内すればいいか、不安に感じていませんか?
◆よくある質問
Q. 大学生などのアルバイト収入が増えても、親の控除額は減らない?
Q. 年末調整の対象者は?
Q. 退職者や二か所で働く従業員の年末調整は必要?
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