月60時間超残業の割増賃金率引き上げは中小企業も対象に!計算方法を解説
更新日: 2024.11.14
公開日: 2021.9.1
OHSUGI
働き方改革が進む昨今では、残業削減に取り組む企業はますます増えてきています。
残業をなくすことは、従業員の良好な労働環境を維持するのにつながるのはもちろん、人件費の低減が期待できるため、企業の経営改善にも効果的です。
残業時間の増加は従業員の負担を大きくするだけでなく、人件費も増えてしまいます。場合によっては新たな人員を採用したほうが、コストカットになるケースも少なくありません。
特に残業時間が月60時間を超過するケースでは、比率がより高くなるルールもあります。そこで以下からは、時間外労働が月60時間を越えた場合の従業員1人あたりの賃金について、詳しく解説していきます。
目次
働き方改革が始まり、法改正によって労働時間の客観的な管理や年次有給休暇の管理など、勤怠管理により正確さが求められることとなりました。
しかし、働き方改革とひとことで言っても「何から進めていけばいいのかわからない…」「そもそも、法改正にきちんと対応できているか心配…」とお悩みの人事担当者様も多いのではないでしょうか。
そのような方に向け、働き方改革の内容とその対応方法をまとめた資料を無料で配布しておりますので、法律にあった勤怠管理ができているか確認したい方は、以下のボタンから「中小企業必見!働き方改革に対応した勤怠管理対策」のダウンロードページをご覧ください。
1.【中小企業も対象】2023年4月60時間超残業の割増賃金率が50%に変更
60時間超の割増賃金率は2023年4月1日に改正されました。中小企業においては、法改正にともなう給与計算の見直しが必要です。これまでは25%の割増が適用されていた月60時間超の残業に対し、今後は50%の割増賃金を支給しなければならなくなります。
どのような変化が生じたのか、必要な対応とあわせて十分に理解し、正しく割増賃金を支給できるようにしましょう。
1-1. 猶予期間が満了し中小企業にも割増賃金率50%が適用
2019年4月の法改正では、大企業・中小企業ともに1ヵ月の時間外労働が60時間超の場合、割増賃金率が50%に変更されました。
ただし、中小企業に対しては猶予期間が適用されていました。この猶予期間は2023年3月31日までであるため、4月からはすべての企業で割増賃金率が変化することになります。60時間以下の残業時間の場合、割増賃金率は25%です。2倍の割増賃金率になるため、人件費を抑えたい場合はこの変更に十分に注意しましょう。
また、法改正に伴う割増賃金の計算方法が複雑化しているため、企業は正確な勤怠管理と賃金計算が求められます。
特に、時間外手当、深夜手当、休日手当など、各種手当の支給条件をしっかり把握し、従業員に対する公正な賃金支払いを実施することが重要です。法令遵守を徹底し、労働環境の改善を図ることが、企業の持続可能な発展につながるでしょう。
1-2. 契約社員やアルバイトでも割増賃金は必要
契約社員やアルバイトでも割増賃金は必要です。契約社員やアルバイトなど、正社員以外の雇用形態で働く従業員にも、割増賃金が発生します。労働基準法はすべての雇用形態に適用されるため、契約社員やアルバイトでも、法定労働時間を超えた場合には時間外手当を支払う必要があります。
具体的には、1日8時間または週40時間を超える労働に対しては25%以上、また月60時間を超える部分については50%以上の割増賃金が適用されることになります。このことから、企業はすべての働き方に対して公平な待遇を提供する必要があります。
また、法改正に伴って中小企業でも同様のルールが適用されるようになったため、契約社員やアルバイトを雇用している企業にとっては特に注意が必要です。さらに、「みなし残業制度」や「歩合給制」を導入している場合でも、法定労働時間を越えた労働には割増賃金が生じる点に注意が必要です。
このように、企業は残業時間の管理を徹底し、適切な割増賃金の支払いを行うことで法律を遵守しつつ、従業員のモチベーション向上にもつなげることができるでしょう。
2. そもそも割増賃金が発生するケースとは
当然ではありますが、従業員が残業をした場合、その分の賃金については、基本給とは別に支払わなければなりません。
さらに労働基準法が定める法定労働時間を超過すると、各従業員の所定賃金にもとづく時間単価に対して、割増分を支給する規定になっています。なお割増賃金が発生するのは、時間外労働をはじめとした、次の3つのケースです。
2-1. 時間外労働
時間外労働とは、法定労働時間を超過した勤務を指します。
例えば1日単位の勤務で考えた場合、「9時~18時(実働8時間・休憩1時間)」を所定労働時間としているのであれば、19時まで働いたら1時間の時間外労働をしたことになります。さらに労働基準法では、原則1日8時間勤務が上限です。そのため超過した1時間は法定外勤務となり、1.25倍以上の割増賃金の支払いが生じます。
また仮に1日の所定労働時間を「9時~17時(実働7時間・休憩1時間)」した場合、18時までの勤務は法定内労働となるため割増は発生しません。所定賃金の時間単価分のみを追加支給します。
2023年4月からの法改正により、月60時間を超える時間外労働に対しては、割増賃金率が50%以上に引き上げられました。このため、企業はこの計算方法の変更に最大限配慮し、適切な賃金支払いを行う必要があります。
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2-2. 休日労働(法定休日)
休日労働とは、労働基準法で定める法定休日(週1日)において勤務するケースを指します。
例えば週40時間勤務・土日休みの週休2日制で、日曜を法定休日としている場合、仮に土曜に出勤した際には、法定時間外労働の割増賃金が適用されます。
ただし法定休日の日曜に勤務すると、時間外労働ではなく、別途休日出勤手当を支給しなければなりません。なお法定休日での割増賃金は、所定賃金にもとづく時間単価の1.35倍以上になります。
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2-3. 深夜労働
深夜労働とは、夜間(22時~翌5時)で労働する場合を指します。深夜勤務においては、所定賃金にもとづく時間単価の1.25倍の割増が求められるのが原則です。
また割増率は、時間外労働と休日出勤であれば「1.25~1.5倍」の範囲に限定されています。一方で深夜勤務は、「1.25倍以上」と上限はありません。
例えば休日出勤で深夜勤務になった際には、休日出勤分と深夜勤務分の比率を合わせて「1.6倍」の割増賃金が発生することになります。
3. 月60時間を超える時間外手当の計算方法
労働基準法による時間外労働の上限は、原則として月45時間・年間360時間です。ただし臨時的に特別な事情がある場合に限り、各種制約はありますが、上限を超えた時間外労働も認められています。
ちなみに労働基準法の制限を超過する場合は、36協定の特別条項を結んでいたとしても、次の条件は必ずクリアしなければなりません。
- 時間外労働の合計は年間720時間以内
- 時間外労働・休日出勤の合計は月100時間未満
- 休日出勤の合計平均は2~6ヶ月のすべてで月80時間以内
- 月45時間を超過した時間外労働は年間6ヶ月まで
さらに月45時間を超えるケースでは、割増賃金の比率については1.25倍を上回った設定が努力義務とされています。加えて月60時間を超過した際には、1.5倍以上の割増率にした賃金を支払わなければなりません。
これは努力義務ではなく必須であり、前述したように今までは大手企業にのみ課せられていましたが、2023年4月1日からは中小企業にも適用されます。
この他にも、2019年の働き方改革による法改正で有給休暇の取得義務化や時間外労働の上限規制などが設けられ、勤怠管理をする上では法改正の内容もしっかりと把握しておかなければなりません。当サイトでは法改正の内容とその対応法をまとめた資料を無料で配布しておりますので、法改正の内容があやふやな方は、ぜひこちらから「中小企業必見!働き方改革に対応した勤怠管理対策」をダウンロードしてご確認ください。
関連記事:時間外労働の割増率とは?計算方法や適用されない場合を解説
3-1. 月60時間超えの割増賃金の具体的な計算例
具体的な計算例として、仮にある従業員が月に70時間の残業をした場合を考えてみましょう。
その従業員の時間単価が1,000円で、月60時間を超えるため割増率は1.5倍となります。
この場合、10時間(70時間-60時間)に対する割増賃金は1,000円×1.5×10時間=15,000円となります。
3-2. 60時間超過の時間外労働と休日労働が重なった場合
また、60時間を超える時間外労働と法定休日の労働が重なった場合、企業はこれらの労働に対して重複して割増賃金を計算しなければなりません。休日労働として法定休日に働いた場合についても考慮する必要があります。
60時間を超えた残業があり、その週に法定休日に出勤した場合、時間外手当と休日手当を併せて計算する必要があります。具体的には、時間外労働に対する割増率が50%の場合、さらに休日手当の35%が加算されると、結果的に総計で85%の割増賃金が発生します。
仮にこの従業員が法定休日に8時間働いた場合、休日手当は時間単価に35%の割増が加算されるため、1,000円×1.35=1,350円となります。
このため、法定休日の8時間分の割増賃金は1,350円×8時間=10,800円となります。
このような計算を正確に行うためには、労働時間の厳密な管理が不可欠です。企業側は、これらの計算方法をしっかりと把握し、従業員への適切な賃金支払いを行うことで問題を未然に防ぐことが大切です。
3-3. 60時間超過の時間外労働と深夜労働が重なった場合
さらに、この従業員が深夜勤務を行った場合、例えばその内の5時間が午後10時から午前5時の間に該当すると仮定します。
深夜労働に対しては、時間単価に25%の深夜手当が加算され、合計で1,000円×1.25=1,250円となります。
この場合、深夜労働の5時間に対する割増賃金は1,250円×5時間=6,250円となります。
これらを合計すると、この従業員の月の残業に対する総割増賃金は、
- 時間外労働の15,000円
- 深夜労働の6,250円
- 法定休日労働の10,800円
これらを合わせて32,050円となります。
このように、各種割増賃金の計算を正確に行うことで、適切な支給が可能となります。企業はこのような計算の正確性と法令遵守を意識し、従業員に対して透明性のある賃金支払いを行うことが求められます。
3-4. 代替休暇を取得した場合
代替休暇制度を活用すると、60時間を超える時間外労働の一部に対する割増賃金支払いの代わりに、従業員に休暇を与えることができます。
この制度では、取得できる休暇時間は「(1カ月の時間外労働時間数-60)× 換算率0.25」で計算されます。
例えば、1カ月に72時間の時間外労働があった場合、労働者は3時間の代替休暇を取得できます。ただし、代替休暇を取得しても、割増賃金率はゼロにはならないため、注意が必要です。
基本時給に基づいて計算すると、基本時給 ×(1カ月の時間外労働時間数-60)× 掛け率1.25となります。
この制度は、従業員の労働環境を改善しつつ、企業側のコスト負担も軽減する効果があります。
4. 60時間超残業における割増賃金率の法改正で企業がおこなうべき対応
割増賃金率の変更に合わせて、企業がおこなうべき対応は主に4つです。労使間のトラブル防止や残業時間の削減ができるように、可能な範囲で対応していきましょう。
4-1. 就業規則の見直しと周知
給与の規定は評価の基準をはじめ、社内制度や評価制度のを見直すことが大切です。残業時間の方法や社内規定などは特に重要です。
現行のルールで問題ないか、厚生労働省のモデルケースを参考にするとよいかもしれません。
変更が発生した場合や、周知が十分でないと感じる場合は就業規則を今一度従業員全体が理解できるように、説明する機会も作りましょう。
4-2. 残業時間の可視化
60時間を超える残業時間を発生させないためには、正確に従業員別の残業時間を確認することが大切です。そのために勤怠システムを始めたシステムによる管理を導入したり、チェックできる体制を整えたりしましょう。
残業時間の目標値の設定や、集計結果を公開することも効果的です。また、残業削減に向けた業務効率化を図るために、業務の見直しや役割の再構築も必要です。定期的なミーティングを通じて残業の状況を共有し、従業員全体で目標達成に向けた意識を高めることが重要です。
さらに、代替休暇制度の導入を検討することも一つの手段です。これにより、上限を超えた時間外労働に対しても柔軟に対応でき、従業員のワークライフバランスを維持しやすくなります。
4-3. 残業削減に向けた業務効率化
残業は少ないほど従業員の負担が減り、企業側も人件費を抑えることができます。とくに月60時間を超える残業は従業員と会社にデメリットが多いため、残業時間の削減につながる業務効率化も急がなくてはいけません。
マニュアルを用意したり、新しいツールや環境の整備を進めて効率よく業務を進められるように準備しましょう。また、残業を管理するための新しい評価制度を導入し、従業員の時間管理意識を高めることも重要です。
これにより、働き方改革に沿った企業文化を築き、法令遵守を促進することが拡大し、従業員がより良い環境の中で働けるようになります。このような取り組みは、企業の生産性向上にも寄与し、持続可能な成長を実現するための鍵となります。
4-4. 代替休暇制度の導入
代替休暇制度は1ヵ月に60時間を超える残業が発生した際に、割増賃金の代わりに代替休暇を付与する制度です。従業員は心身を休めることができ、企業側は人件費を抑えることが可能です。休暇が増えれば人員が足りなくなる恐れもありますが、一つの手段として導入を考えてもよいかもしれません。
ただし、代替休暇の取得に関しては、事前に明確なルールを設けることが重要です。
休暇の取得方法や申請期限などを労働契約や就業規則に明記しておくことで、従業員が安心して制度を利用できる環境が整います。
また、この制度を活用することで、従業員のモチベーションや満足度が向上し、結果として企業の生産性向上にもつながる可能性があります。さらに、労働時間を適切に管理するためにも、勤怠システムの導入を検討し、残業状況を可視化することで、企業としての法令遵守や適正な労働環境の提供が実現できるでしょう。
5. 月60時間を超える時間外労働をなくすための対策
そもそも労働基準法の規定を超過した時間外労働においては、労使協定にもとづく36協定の締結をしなければなりません。
なおかつ36協定を結んだからといって、どんな時間外労働も許されるわけではなく、原則として使用者は必要最小限に留めるべきとされています。
特に月60時間を超えるような時間外労働は、従業員にとっても企業側にとっても非常に大きな負担です。できるだけ残業を減らすことが推奨されているため、時間外労働を減らすための取り組みについても見ていきましょう。
以下からは厚生労働省による中小企業における長時間労働見直し支援事業検討委員会が発表した「運送業・食料品製造業・宿泊業・飲食業・印刷業を例に時間外労働削減の好事例集」を参考にした対策例を紹介します。
次に取り上げているのは、特に人件費削減の効果が高かったケースです。
5-1. 時間管理に関連した評価制度の導入
中でもコストカットに有効的な結果が出ていたのが、人事評価で時間外労働に関する項目を設定した事例です。例えばリーダークラスの人材の評価制度にて、それぞれの部下の残業量によって報酬が変動する仕組みを取り入れるなどです。
管理職の時間管理の意識を高めることで、各従業員の働き方も十分に把握することにつながり、より強固なマネジメント体制が確立される効果にも期待できます。
5-2. トップダウンによる残業削減計画の推進
経営陣が主導となり、時間外労働関連のプロジェクトを推進するのも1つの方法でしょう。なお特に高い効果が見られたのが、残業の事前申請です。
あらかじめ上司に時間外労働の許可を促す体制にすることで、例えば他のメンバーに業務を割り振ったり、翌日に持ち越すよう指示したりなど、柔軟に管理できるようになります。
5-3. 労働時間の是正を目的とした教育の実施
具体例の1つとして考えられるのが、各従業員のマルチプレーヤー化です。担当工程をローテーション制にする・専門資格の取得を広く支援するなど、業務の偏りがなくなるような教育やサポートを行う方法もあります。
同等のレベルで仕事ができるメンバーが増えれば、その分互いに協力しやすくなり、現場の強固な連携にもつながるでしょう。
関連記事:残業削減対策の具体的な方法・対策と期待できる効果について解説
5-4. 効果的な勤怠管理システムの導入
勤怠管理システムを導入することで、労働時間の透明化が進み、時間外労働の抑制につながります。このようなシステムは、従業員の出勤・退勤時間をリアルタイムで把握し、残業時間を自動で計算するものです。また、先進的なシステムでは、労働時間をビジュアライズし、各従業員の労働状況を一覧で確認することも可能です。これにより、部門ごと、あるいは個々の従業員ごとに時間外労働が発生していないか、逐一チェックできるようになります。
6. 時間外労働の割増賃金を正しく支給し、残業時間は可能な限り減らそう
原則として労働基準法による時間外労働は、月45時間・年間360時間が上限です。規定を超過するような残業は、基本的に何か特別な事情がある場合にしか認められていません。特別な事情というのもあくまで臨時的なものを指しており、例えば決算期の処理やトラブル対応などに限られています。
月60時間を超えるような残業は例外という認識だからこそ、通常よりも高い割増率になるのは当然です。企業の姿勢として、まずはなるべく時間外労働に頼らない姿勢であることが重要でしょう。
どうしても長時間の残業が発生する場合は、割増賃金を正しく計算して支給することが求められます。
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