残業による割増率の考え方と残業代の計算方法をわかりやすく解説

残業代として支払う割増賃金の計算方法は、労働基準法上の労働時間の考え方とともに理解しておくことが大切です。
誤った賃金の支払いをしてしまうと、労働基準法違反となるだけでなく、是正勧告や罰則を受ける恐れや、未払い賃金や遅延損害金の支払いが生じるリスクがあります。
本記事では、残業による割増賃金の考え方について、残業代の計算例を用いながら詳しく解説します。労務管理の参考に、ぜひご一読ください。
目次
残業時間の管理や残業代の計算では、労働基準法で「時間外労働」と定められている時間を理解し、従業員がどれくらい残業したかを正確に把握する必要があります。
しかし、どの部分が割増にあたるかを正確に理解するのは、意外に難しいものです。
当サイトでは、時間外労働の定義や上限に加え、「法定外残業」と「法定内残業」の違いをわかりやすく図解した資料を無料で配布しております。
資料では効率的な残業管理の方法も解説しているため、法に則った残業管理をしたい方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1.残業の割増賃金とは
「残業」と聞くと、終業時刻を過ぎて働いた時間すべてを指すと思われがちですが、正しくは「法定内残業」と「時間外労働(法定外残業)」の二つに分けられます。


例えば、所定労働時間が1日7時間の会社で、7時間を超えて8時間以内に勤務した場合、この一時間が「法定内残業」にあたります。割増賃金の支払い義務があるのは、「時間外労働(法定外残業)」のみです。
労働基準法37条では、法定労働時間である1日8時間、週40時間を超えて労働させた場合の割増賃金について、以下のように定めています。
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
「政令で定める率」は、時間外労働については25%以上とされており、この割増賃金を「時間外割増賃金」といいます。なお、法定労働時間を超えて残業させるには36協定(時間外・休日労働に関する協定届)の締結が必要です。


参考:労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令|e-Gov法令検索
関連記事:残業の定義とは?正しい知識で思わぬトラブルを回避!
関連記事:36協定の協定書とは?書くべき項目や記載例・協定届との違いを解説
1-1.残業手当の意味
一般的に「残業手当」は、法定労働時間を超えて労働した場合に支払われる「時間外割増賃金」を指します。
しかし、企業によっては、法定労働時間内の残業(法定内残業)に対し支払われる手当を残業手当と呼ぶケースもあります。
このような表現の揺れは従業員に誤解を与え、トラブルの原因となる可能性があるため、残業手当という言葉を用いる際は、それが何を指すのかを明確にし、従業員に正しく伝えるよう配慮すると良いでしょう。
労働基準法における残業手当は、第37条に定められた時間外割増賃金の支払いを意味します。つまり、残業手当(時間外割増賃金)を支払うことは、法的には労働基準法37条の割増賃金の支払いを履行するということです。
時間外割増賃金を支払うことは、企業にとって法定内労働よりも高い人件費の負担につながります。これは、不必要な残業の抑制や従業員の過重労働防止、健康管理への配慮を促す役割を果たします。
一方、労働者にとっては、法定時間を超えて働いたことに対する正当な対価が保障され、経済的な支えとなる側面があります。
関連記事:残業手当とは?割増率や計算方法、残業代の未払い発生時の対応を解説
2. 残業による割増率と計算式
時間外労働、休日労働、深夜労働(原則午後10時から午前5時)をさせた場合、支払わなければならない割増賃金の割増率は次のとおりです。
| 割増率 | ||
| 1ヵ月の時間外労働
60時間以内 |
1ヵ月の時間外労働
60時間超え |
|
| 時間外のみ | 25%以上 | 50%以上 |
| 休日労働のみ | 35%以上 | |
| 深夜労働のみ | 25%以上 | |
| 時間外労働+深夜労働 | 50%以上 | 75%以上 |
| 休日労働+深夜労働 | 60%以上 | |
時間外労働、休日労働、または深夜労働(原則午後10時から午前5時)が発生した場合、その労働に対しては、割増賃金を支払わなければなりません。
ここでは、どのような場合にこれらの割増率が適用されるのか、割増賃金の算出方法について解説します。
2-1. 時間外労働(時間外手当・残業手当)は割増率25%以上
1日8時間、週40時間の法定労働時間を超える労働に対しては、25%以上の割増賃金を支払う必要があります。


ここでは、割増賃金の基礎となる1時間当たりの賃金を1,500円とし、いくつかのパターンを解説します。
なお、月給制の社員に関しては割増賃金の基礎となる賃金に含む手当と含まない手当があり、判断には注意が必要です。詳細は以下の関連記事をご確認ください。
関連記事:割増賃金の基礎となる賃金とは?計算方法など労働基準法の規定から基本を解説
2-1-1.法定労働時間を超えたとき(1日8時間・週40時間)
法定労働時間の1日8時間・週40時間を超えたときは、25%以上の時間外割増賃金を支払います。例えば、1ヵ月の時間外労働が20時間であった場合、その時間外労働に対する賃金は以下のようになります。
1,500円×1.25×20時間=37,500円
なお、計算の際に端数が出た場合は、四捨五入および切り上げ処理は認められますが、切り捨ては労働者にとって不利となり認められないため注意しましょう。
2-1-2.限度時間を超えたとき(1ヵ月45時間・1年360時間等)
時間外・休日労働に関する協定届(36協定)においては、時間外労働の上限として1ヵ月45時間・1年360時間を超えないように定められています。
臨時的な特別の事情があり特別条項付きの協定を締結した場合はこの限度時間を超えて、以下の限度まで時間外労働が可能となります。
・年間720時間以内 ※月45時間を超えられるのは年間6ヵ月まで
・2~6ヵ月平均80時間以内
・月間100時間未満
※休日労働を含む
関連記事:時間外労働の上限規制とは?違反する具体例や超えないための対策ポイントを解説
1ヵ月45時間・1年360時間を超えた場合でも、1ヵ月60時間以内であれば、時間外割増賃金の割増率は変わらず25%以上となります。例えば、1ヵ月の時間外労働が60時間であった場合、その時間外労働に対する賃金は以下のようになります。
1,500円×1.25×60時間=112,500円
2-1-3.時間外労働が1ヵ月60時間を超えたときは割増率50%以上
労働基準法37条においては、月の時間外労働が60時間を超えた場合、その超えた時間に対する時間外割増賃金の割増率は50%以上とすることが定められています。
例えば、1ヵ月の時間外労働が70時間であった場合、その時間外労働に対する賃金は以下のようになります。
時間外労働(~60時間)1,500円×1.25×60時間=112,500円
時間外労働(60時間超え)1,500円×1.50×10時間=22,500円
2-2.休日労働(休日手当)は割増率35%以上
法定休日の労働に対しては、休日割増賃金を35%以上支払わなければなりません。
法定休日に8時間勤務した場合の休日労働に対する賃金は以下のようになります。
1,500円×1.35×8時間=16,200円
関連記事:休日手当とは?休日出勤の割増率の種類や正しい割増賃金の計算方法を解説
2-3.深夜労働(深夜手当)は割増率25%以上
深夜の労働(原則午後10時から午前5時)に対しては、深夜割増賃金を25%以上支払わなければなりません。
深夜に3時間勤務した場合の深夜労働に対する賃金は以下のようになります。
1,500円×0.25×8時間=16,200円


3. 残業代の具体的な計算方法
残業代は「1時間あたりの賃金(基礎賃金) × 割増率 × 時間外労働の時間数」により算出します。ここでは、実務上どのように勤怠を集計し残業代を算出するのか、その実例と注意点を解説します。
関連記事:残業代の計算方法は?残業時間の算出や割増率など残業手当の知っておくべき基本ルール
3-1. 時間単位の賃金を算出する
残業代を計算するためには、その計算の単位となる1時間あたりの基礎賃金を算出する必要があります。
パート・アルバイトなどで時給制の場合は規定の時給が1時間あたりの基礎賃金になりますが、月給制の場合は手当なども含めて計算しなければなりません。
1時間あたりの基礎賃金は「月給÷月平均所定労働時間」で求めることができます。この際、月給に使用する金額は通勤手当や住宅手当などの労働基準法施行規則で定められた賃金を除いた金額となります。
月平均所定労働時間は「(365日 – 年間休日数)×1日の所定労働時間÷12ヵ月」で求めることができます。
割増賃金の基礎となる賃金や月平均所定労働時間の計算式について仕組みをより詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてみてください。
関連記事:割増賃金の基礎となる賃金とは?計算方法など基本を解説
関連記事:月の所定労働時間|平均の出し方や残業時間の上限について詳しく解説
3-2. 残業時間を区分する
割増賃金の支払いが必要になるのは、時間外労働と深夜労働、休日労働があった場合、さらに月の時間外労働が60時間を超えた場合です。
したがって、残業代の計算をする際は「法定内残業(割増なし)」と「法定外残業(時間外労働)」を区分し、「深夜労働」「休日労働」のあった時間と「月の時間外労働が60時間を超えた時間」をそれぞれ算出し、適切な割増率を乗じていきます。
3-3. 残業時間を1分単位で計算する
残業時間は原則として1分単位で計算する必要があります。賃金には「全額払いの原則」があり、たとえ1分でも未払いがあれば違法となります。
会社によっては10分、15分単位での申請を求めるケースもありますが、その際にも時間の「切り捨て」は認められません。
ただし、18分残業した場合に20分の残業代が支払われるなど、労働者に不利益とならない形での「切り上げ」は問題ありません。
関連記事:残業は1分単位?タイムカードで残業時間を正しく計算する方法
3-4. 割増率を乗じて残業代を算出する
割増賃金の基礎賃金の算出、残業時間を区分ごとの合計が算出できたら、最後に割増率を乗じて残業代を算出します。
ここでは、時間あたりの賃金1,500円、月の法定外労働時間が70時間(うち深夜労働25時間)のケースで考えてみましょう。
70時間の残業を区分すると、次のようになります。
法定外残業(25%割増):35時間
法定外残業+深夜残業(50%割増):25時間
60時間を超える法定外残業(50%割増):10時間
これらの割増率を乗じて残業代を割り出すと、以下の計算式となります。
1,500円×1.25×35時間+1,500円×1.5×25時間+1,500円×1.5×10時間=144,375円
実際には、14万4,375円全額を支給するのではなく、社会保険料や税金を控除した金額を支給します。
時間外勤務は、支給する残業代だけでなく社会保険料の会社負担分も加わるため、実際のコストは支給する残業代以上に膨らみます。
関連記事:残業手当とは?割増率や計算方法、残業代の未払い発生時の対応を解説
4. 残業の割増率を考える際の注意点


残業の割増率を誤ると賃金トラブルにつながりかねません。そのため、残業の割増率を適用する際は、特に以下のケースに注意が必要です。
- 深夜・休日労働と重なった場合
- 土曜日に出勤した場合
- 契約社員や歩合制の場合
4-1. 深夜・休日労働と重なった場合
時間外労働が深夜労働と重なった場合、先述のとおり、それぞれの割増率を重ねて適用する必要があります。
例えば、深夜労働と時間外労働が重なった場合は、深夜労働の割増率(25%以上)と時間外労働の割増率(25%以上)を合わせて、50%以上の割増賃金率で支払う必要があります。
一方で、法定休日に労働した場合、その労働は休日労働となり、時間外労働とは重複しません。そもそも法定休日には法定労働時間という概念がないため、休日労働に時間外労働の割増賃金は発生しないという点に注意しましょう。
う。
4-2. 土曜日に出勤した場合
一般的に週休2日を導入している企業の多くは、土曜日と日曜日を休日としています。しかし、会社が法定休日を日曜日と定めてている場合、土曜日に出勤しても「休日出勤」としての割増賃金(35%以上)は発生しません。これは、休日出勤の割増賃金が法定休日のみに適用されるためです。
ただし、土曜日の出勤によって週の労働時間が40時間を超えた場合は、その超えた時間が時間外労働となり、25%の割増賃金を支払う必要があることに注意しましょう。
4-3. 契約社員や歩合制の場合
時間外労働の割増賃金は正社員だけに関係する話ではありません。契約社員や歩合制の社員であっても、時間外労働が発生した際には、割増賃金を支払う必要があります。
歩合制の社員の場合、その月の実績の給与を総労働時間で割り時間単位の給与を計算します。その後、状況に応じた割増率と労働時間をかけて時間外労働の賃金を算出しましょう。
5.さまざまな残業時間の制度


残業時間には、一般的な「法定外残業」だけでなく、企業や職種によって異なる特別な制度があります。
特に「固定残業代制」や「裁量労働制」といった制度は、一見すると労働時間を柔軟に設定できるように見えますが、その適用ルールや残業代の支払いは一般的な方法とは大きく異なります。
それぞれの制度の仕組みと注意点を把握しておきましょう。
5-1.みなし残業制(固定残業代制)
みなし残業制(固定残業代制)とは、給与に毎月あらかじめ一定時間分の残業手当を含めて支給する給与形態です。みなし残業時間を下回る時間分しか残業しなかった場合でも、残業手当は減額せず支給します。
しかし、みなし残業時間を超えて労働した時間分については、別途残業代を支払わなければなりません。
固定残業代を支払っているからといって、労働時間の管理が不要になるわけではありません。規定の時間を超える残業には割増賃金の支払いが必要となるため、この点には十分注意しましょう。
関連記事:みなし残業制度とは?ルールやメリット・デメリットを詳しく解説!
5-2.裁量労働制と残業代計算
裁量労働制とは、事前に決められた時間を労働したとみなす勤務制度です。通常の勤務体系とは異なり、労働者の個人の裁量によってその日の始業・終業時間を決定できるという特徴があります。
みなし労働時間が8時間と定められている場合、実際の労働時間が9時間であっても時間外労働の割増賃金の対象とはなりません。
しかし、みなし労働時間が9時間と定められている場合は、法定労働時間から1時間超えているため、割増賃金の支払いが必要です。
一方、裁量労働制の場合でも、休日労働や深夜労働に対しては別途割増賃金を支払う必要がありますので注意しましょう。
関連記事:裁量労働制とは?労働時間管理における3つのポイントを徹底解説
6. 残業削減のポイント


時間外労働は従業員の心身に大きな負荷をかけるだけでなく、企業にとっても人件費増加という形でコスト増につながります。健全な職場環境を維持し、生産性を向上させるために、残業削減のポイントをおさえましょう。
6-1. 業務整理や標準化
残業を削減するには、まずは残業の根本の原因となっている業務を整理しましょう。業務を標準化することで、特定の担当者への業務の集中を防ぎ、誰でも同じ作業を進められるようになります。
業務の属人化を解消することで、引き継ぎもスムーズになるため、結果的に効率アップと残業時間の削減につながるでしょう。
6-2. 勤怠管理システムを活用する
従業員が無理なく勤務できているか、時間外労働が増えていないかを適切に把握・管理することはとても重要です。
タイムカードで勤怠管理をしている場合、従業員の勤務時間をリアルタイムで把握することは難しくなります。そのため、月末になり時間外労働が増加していることに気付く、といった事態も考えられるでしょう。
勤怠管理システムを導入すれば、従業員の勤務時間をリアルタイムで把握できます。これにより、勤務時間が上限に近づいている従業員に対して早めに調整をおこなうなど、適切なマネジメントを講じられるようになるでしょう。
関連記事:小規模企業や中小企業におすすめの勤怠管理システムとは?選び方を詳しく解説
7. 残業と割増率の仕組みを理解して正しい残業代を計算をしよう


残業代の割増率を誤って理解していると、給与計算ミスを引き起こしかねません。従業員との信頼関係を損ねるだけでなく、法的なトラブルにつながるケースもあるため、労務担当者は必ず詳細を把握しましょう。
また、手作業による給与計算は、ヒューマンエラーのリスクが伴います。勤怠管理システムを利用して、従業員の総労働時間から残業時間を正確に算出し、計算ミスを削減していきましょう。



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