労働基準法とは?法律の要点や人事が必ず押さえたい基本をわかりやすく解説
更新日: 2025.12.1 公開日: 2021.10.1 jinjer Blog 編集部

労働基準法は、働く人の労働条件の最低基準を定めた法律です。人事・労務担当者などの従業員を管理する立場にある場合、この法律の内容を正しく理解しておくことが重要です。
企業を発展させるためには、従業員にさまざまな条件を求めることは当然でしょう。しかし、企業は従業員よりも圧倒的に強い立場にあります。企業の希望のみで労働条件を設定すると、場合によっては適切でない労働環境で働かせることになりかねません。
そこで、従業員の健全な働き方を実現するために、企業が守らなければならない法律が「労働基準法」です。
本記事では重要事項を中心に、労働基準法の大まかな基礎知識について解説していきます。
目次
人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。
◆労働基準法のポイント
- 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
- 年次有給休暇:年5日の取得義務の対象者は?
- 賃金:守るべき「賃金支払いの5原則」とは?
- 就業規則:作成・変更時に必要な手続きは?
これらの疑問に一つでも不安を感じた方へ。当サイトでは、労働基準法の基本から法改正のポイントまでを網羅した「労働基準法総まとめBOOK」を無料配布しています。
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1. 労働基準法とは


労働基準法(労基法)とは、労働者の労働条件の最低基準を定め、労働者の生活と権利を守ることを目的とする日本の法律です(一部の国家公務員などを除く)。労働時間、休憩、休日、賃金、解雇など、労働者が働くうえで必要な基本的ルールを規定しています。
1-1. 目的条文
労働基準法には、その法律が制定された目的を説明する、「第○条(目的)」という見出しの付いた条文は存在しません。
しかし、「第1条(労働条件の原則)」が実質的に目的条文の役割を果たしています。
第一条(労働条件の原則)労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
② この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
労働基準法の目的として、労働者の人間らしい生活の保障と最低基準の設定という法律全体の基本方針が示されています。特に雇用契約の実情として、企業が有利になる内容で締結されるケースが多いため、「労働者保護」という立法目的がここに集約されています。
1-2. 適用される事業と労働者の定義
労働基準法は原則としてすべての事業、すべての労働者に適用されます。
ここでいう「労働者」とは「事業に使用され賃金を支払われている人」のことで、正社員・契約社員・アルバイトなどの雇用形態や、職種を問わず該当します。例えば、日本で働くパートタイマーや外国人労働者であっても労基法の保護を受けることができ、雇用形態に関係なく最低基準が保障されます。
ただし、一部には労働基準法が適用されない事業や労働者も存在します(「適用除外」とよばれます)。詳しくは次項で説明します。
1-3. 労働基準法の適用除外
労働基準法の規制が適用除外となる主なケースには次のようなものがあります。例えば、国家公務員や地方公務員には公務員制度の法律が優先し、船員には船員法という別の法律が適用されるため、労基法の適用範囲外となるケースがあります。
- 同居の親族のみを使用する事業
- 家事使用人
- 公務員(全面適用除外と一部適用除外あり)
- 船員(船員法の適用対象者、一部適用除外)
1-4. 労働基準法は強行法規
労働基準法は強行法規と位置づけられています(労働基準法第13条)。そのため、事業主と労働者の間で合意された契約内容が法律に反している場合、その契約は原則として無効となります。
これは、労働者が自ら不利益を承知のうえで契約した場合であっても、法律で定められた最低基準を下回る条件は認められないという考え方に基づいています。
例えば、法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超えて労働させる場合に支払うべき割増賃金の不支給を契約で定めた場合、この契約条項は無効です。つまり、たとえ労働者が同意していたとしても、事業主は法定の割増賃金を支払う義務を免れることはできません。
1-5. 労働基準法には罰則が定められている
労働基準法には違反した場合の罰則が定められています。最も重い罰則は第117条で規定されており、第5条「強制労働の禁止」に違反した場合には、1年以上10年以下の拘禁刑または20万円以上300万円以下の罰金が科される可能性があります。
そのほかにも、違反の重大さに応じて罰則が設けられており、例えば「1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(第118条)」「6ヵ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(第119条)」などがあります。
さらに、第121条には両罰規定があり、労働基準法違反をおこなった者(例えば一般従業員)だけでなく、その事業主も処罰される可能性があります。
このように、労働基準法は単なる行政上のルールではなく、刑事罰を伴う強制力のある法律であり、違反の程度に応じた厳格な罰則体系が設けられています。
関連記事:労働基準法5条による「強制労働の禁止」の意味や違反の罰則
2. 労働基準法の全体像を知ろう


労働基準法は、労働者の基本的な権利を守り、適正な労働環境を確保するために制定された法律です。企業が従業員を雇用する際には、この法律が定める最低基準を十分に理解し、それを下回らない労働条件を設定することが不可欠です。もし違反があった場合、労働基準法には罰則規定が設けられているため、罰金や拘禁刑などの処罰を受ける可能性があります。
しかし、労働基準法の内容は非常に多岐にわたります。例えば、労働契約の締結や解約に関するルール、賃金の支払い方法と最低賃金、法定労働時間や残業の取り扱い、年次有給休暇や特別休暇、安全衛生対策、年少者・妊産婦への配慮、労働災害への補償、就業規則の作成義務、さらに寄宿舎の設置に関する規定など、企業が守るべき項目は数多くあります。これらを一度に把握することは容易ではありません。
そのため、本記事では、従業員を雇用する際に特に頻繁に関わる事項や、企業として必ず押さえておくべき重要ポイントを中心に解説します。これにより、労働基準法の基本的な理解を深め、法律違反によるリスクを回避しつつ、安心・安全な職場環境の構築に役立てられます。
2-1. 【最新】労働基準法の改正ポイント
2023年4月1日からは、中小企業に対して適用が猶予されていた「月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率50%」が、すべての企業に適用されています。これにより、中小企業においても大企業と同様、60時間を超える残業に対しては通常の1.5倍の賃金を支払う必要があります。
さらに、2024年4月1日からは、建設業や運送業などに設けられていた「時間外労働の上限規制」の猶予期間が終了し、これらの業種にも上限規制が適用されています。また、労働契約の締結時や有期労働契約の更新時に、労働者に対して「明示しなければならない労働条件」が追加されています。
参考:2023年4月1日から 月60時間を超える時間外労働の割増賃金が引き上げられます|厚生労働省
参考:建設業 時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省
なお、2025年時点では、労働基準法そのものに大きな改正の施行はおこなわれていません。しかし、育児・介護休業法や高年齢者雇用安定法など、労働に関連する周辺法令では重要な改正が相次いでおり、企業の労務管理にも大きな影響を与えています。
また、少子高齢化や働き方の多様化、テレワークの定着など、社会情勢の変化に対応するため、今後も労働基準法自体の見直しがおこなわれる可能性があります。そのため、人事・労務担当者は、最新情報を定期的に確認し、社内規程や就業ルールを現行法に即して適正に更新していくことが重要です。
3. 労働契約関係


労働契約とは、「従業員が企業に労働力を提供し、企業がその対価として給与を支払う」という雇用に関する契約です。労働基準法には、正社員やアルバイトといった雇用形態にかかわらず、労働契約に適用されるルールが定められています。
労働契約を結ぶ際には労働条件を明確に取り決め、労働条件通知書や雇用契約書などの書面で明示する義務があります(労働基準法第15条)。
特に必ず明示しなければならない事項として、次のようなものがあります。
- 労働契約の期間
- 有期労働契約の場合は、更新する場合の基準・通算契約期間または更新回数の上限がある場合はその上限
- 就業の場所と仕事内容(変更のある場合は、変更する可能性のある範囲)
- 始業・終業時刻、休憩時間・休日など勤務時間に関する事項
- 給与の決定方法・締め切り・支払時期、昇給
- 退職に関する事項(解雇事由を含む)
上記に加え、有期労働契約の更新時、無期転換申込権(※)が発生している場合はその旨と無期転換後の労働条件の明示が必要になります。
(※)有期労働契約で通算5年を超えて働いた従業員が企業に申し出をすることで無期雇用に転換できる権利
一方で、退職手当、臨時に支払われる賃金、最低賃金額、食費や作業用品の負担、安全及び衛生、職業訓練、災害補償、表彰や制裁、そして休職に関する事項については、該当する定めがない場合には明示が不要です。
関連記事:労働基準法第15条に基づく労働条件の明示義務とは?ルール改正も解説
4. 賃金


労働者に支払う給与については、毎月1回以上、必ず期日を決めて支払う必要があります。また、給与額も最低賃金(都道府県・産業により異なる)を満たさなくてはなりません。
4-1. 賃金支払の5原則
労働基準法第24条において、労働者に対する賃金の支払いとルールに関して明記されています。条文において、「賃金支払い5原則」とよばれる5つのルールを定めております。5つの項目は次の通りです。
- 通貨払の原則
- 直接払の原則
- 全額払の原則
- 毎月1回以上払の原則
- 一定期日払の原則
関連記事:労働基準法第24条とは?例外や違反した場合の罰則を詳しく解説
なお、仮に所得税など法令に定めるもの以外の特別な控除がある際には、別途、労使協定を結ぶことが求められます。
給与は全額を直接本人に支払うのが原則です。代理人や親権者などへの支払いはできません。
関連記事:労働基準法に定められた賃金とは?定義や給与との違い、5原則違反時の罰則を解説
関連記事:労働基準法に定められている平均賃金について分かりやすく解説
関連記事:労働基準法に基づく最低賃金とは?その基準や違反への罰則を解説
5. 労働時間・休憩・休日


労働時間や休憩・休日に関する定めは、労働基準法の中でも特に重要な部分のひとつです。法定労働時間の原則を理解し、適切な労働時間管理をおこないましょう。
5-1. 法定労働時間と時間外・休日労働
労働基準法が定める法定労働時間は、原則として1日8時間、1週40時間です。企業はこの上限を超えて労働者を働かせてはいけません。仮にこれを超える労働をさせる場合、あらかじめ労使協定(36協定)を締結し、所轄の労働基準監督署に届出が必要です。
36協定を締結していても無制限に残業させて良いわけではありません。原則として1ヵ月45時間・1年360時間が時間外労働の上限です。臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間以内、かつ複数月平均80時間以内、単月100時間未満が限度です。
休日については、少なくとも週に1回、または4週間で4日以上の休日(法定休日)を与えなければなりません。なお、この法定休日に労働させる場合も、事前に36協定の締結・届出が必要です。
関連記事:労働基準法に定められた休日とは?そのルールを分かりやすく解説
5-2. 休憩時間
労働時間が長時間に及ぶ場合、適切な休憩を与えなければなりません。法定の休憩時間は次の通りです。
- 労働時間が6時間を超える場合:45分以上の休憩を与える
- 労働時間が8時間を超える場合:1時間以上の休憩を与える
休憩は労働時間の途中で与え、原則として労働者に一斉に付与しなければいけません。また、休憩時間は労働者が自由に利用できることが求められます。
5-3. 労働時間の弾力化
労働基準法では業務の実態に合わせて労働時間を柔軟に配分できるよう、次のような労働時間の制度を認めています。それぞれ適切な手続きを踏めば、法定労働時間の適用を一部変則的に運用することが可能です。
- 変形労働時間制
- フレックスタイム制
- 労働時間のみなし制
- 事業場外労働のみなし労働時間制
- 裁量労働制
- 高度プロフェッショナル制
それぞれの概要を簡単に紹介します。
5-3-1. 変形労働時間制
変形労働時間制は、月や年単位など一定の期間内で平均した労働時間が法定範囲内に収まれば、特定の繁忙期に1日8時間・週40時間を超えて働かせることを認める制度です。
例えば1ヵ月単位の変形労働時間制では、1ヵ月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間以下となるように労働時間を設定すれば法定時間内とみなされます。
導入には就業規則への規定や労使協定の締結・届出が必要です。
5-3-2. フレックスタイム制
清算期間(最長3ヵ月)内の総労働時間を定めておき、各日の始業・終業時刻や労働時間を労働者が自主的に決定できる制度です。コアタイム(必ず働く時間帯)やフレキシブルタイム(出退勤可能な時間帯)を定めるケースもあります。
フレックスタイム制には、仕事と生活の調和を図りながら効率的に働けるメリットがあります。導入には就業規則への規定と労使協定の締結が必要です。清算期間が1ヵ月を超えるときは、労使協定を労働基準監督署へ届け出る必要があります。
5-4. 労働時間のみなし制
みなし労働時間制は、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ決められた労働時間を働いたものとみなす制度です。特に労働時間の管理が難しい業務や、高度な専門性が求められ結果が重視される職種に適用されることが一般的です。
5-4-1. 事業場外労働のみなし労働時間制
「事業場外労働のみなし労働時間制」とは、従業員が企業の外で業務をおこない労働時間の把握が難しい場合に、決められた時間だけ働いたとみなす制度です。典型例は直行直帰で顧客先を回る営業職です。
この制度では、従業員が1日社外で働いた場合、原則として所定労働時間働いたものとみなされます。
しかし、実態として通常の所定時間を超える場合もあります。その場合は「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」を働いたとみなすことができます。
さらに、労使協定で別の時間を定めている場合は、その協定で定めた時間を労働したものとみなすことも可能です。
みなし時間が1日あたり法定労働時間(8時間)を超える場合は、労使協定を労働基準監督署に届け出る必要があります。
5-4-2. 裁量労働制(専門・企画)
「裁量労働制」は、業務の遂行方法や時間配分を労働者の裁量に委ね、実際に何時間働いたかに関係なく労使で定めた一定時間を働いたものとみなす働き方で、対象者本人の同意が必要となることが特徴です。
裁量労働制には法律で適用できる業務の種類が限定されています。「専門業務型裁量労働制」は専門性の高い職種に適用され、「企画業務型裁量労働制」は企画立案業務などに適用されます。
いずれも基本的な仕組みは似ていますが、導入手続きに違いがあります。
5-4-3. 高度プロフェッショナル制度
高度プロフェッショナル制度は、特定の高度専門職について、本人同意のもと労働時間や休憩、休日、深夜割増賃金などの法令を適用除外とする制度です。簡単に言えば、高い専門性と高収入(1,075万円以上)を持つ労働者に対しては労働時間ではなく成果で評価する働き方で、欧米でいうホワイトカラーエグゼンプションを日本向けに導入した制度といえます。
高度プロフェッショナル制度の対象労働者には、労働基準法上の時間外労働、休日、深夜の規定が適用されなくなります。ただし、導入や運用には多数の遵守事項があるため注意が必要です。
6. 年次有給休暇


年次有給休暇は、従業員が有給で休むことができる権利です。一定の条件を満たした従業員に対して、毎年所定の日数の有給休暇を与えなければなりません。
具体的には「雇い入れの日から6ヵ月継続勤務し、その間の全労働日の8割以上勤務した」従業員に対し、継続勤務6ヵ月時点で最低10日の有給休暇を付与する必要があります。この付与日からさらに1年継続勤務するごとに、労働者の勤続年数に応じて付与日数が増えていきます(最大20日)。
パートタイマーのように労働日が少ない労働者に対しても基準を満たせば付与されますが、付与日数は出勤頻度に応じて按分されます(比例付与)。
関連記事:労働基準法におけるパート・アルバイトの有給休暇の条件と日数・賃金の計算方法
6-1. 時季指定権と時季変更権
有給休暇は従業員が請求した時季(タイミング)に取得させることが原則です。これを時季指定権といい、従業員は基本的に自分の取りたい日に年休を取得できます。使用者は請求された有給休暇を拒否することはできません。
ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は、使用者が時季を変更することも認められています(時季変更権)。
しかし、正当な理由なく一方的に年休取得を認めないことは違法となります。基本的には労働者の希望日を尊重し、業務に重大な支障がある場合のみ、従業員に変更の相談をすることが望ましいでしょう。
6-2. 年5日の取得義務
2019年の働き方改革関連法の改正により、1年に10日以上の有給休暇が付与される従業員には、年間で最低5日は必ず消化させることが義務化されました。
従業員が自発的に5日以上の有給休暇を取っていれば問題ありませんが、そうでない場合、企業が時季を指定して取得させなければいけません。
7. 年少者・妊産婦


労働基準法は、若年者や妊娠中または産後の女性を保護するルールを定めています。
まず、15歳以上に達した日以後の3月31日が終了するまで、児童は従業員として雇用できません。
しかし、映画・演劇の子役や非工業的事業にかかわる場合など、年少者でも働けるケースもあります。その他にも細かい決まりが定められているので、気になる方はこちらの記事をご覧ください。
関連記事:労働基準法に規定された年齢制限とは?注意点や罰則を解説
また、妊娠中または産後の女性については、次のような制度があります。
- 産前産後休業(産休)
- 育児時間(授乳時間)の付与
- 時間外労働・休日労働・深夜業の制限
- 危険有害業務の禁止
- 軽易な業務への転換
このように、妊産婦については母性保護の観点から特別な措置が義務付けられています。
関連記事:労働基準法に定められた産前産後休業の取り扱いや賃金の取り扱いを解説
関連記事:労働基準法で定められている妊婦を保護する制度を分かりやすく解説
関連記事:労働基準法に定められた育児時間の考え方と計算方法を解説
8. 就業規則


労働基準法では、常時10人以上の従業員を使用する事業場においては就業規則を作成しなければならないと定めています。
また、就業規則の作成・変更をした際、労働基準監督署に届け出る必要があります。届出の際には、従業員代表の意見書の添付が必要です。これは就業規則の内容について労働者の意見を聞いたことを示すための書面で、もし反対意見であっても就業規則が無効になるわけではありません。
就業規則は従業員に周知しなければ効力を発しないため注意しましょう。周知とは、従業員がいつでも内容を確認できる状態にしておくことです。具体的には、社内の見やすい場所に掲示・備え付けたり、社内のイントラネットで公開する、各従業員に書面配布するなどの方法があります。
9. 解雇・退職


「解雇」は企業から一方的に労働契約を解除することです。従業員を解雇する際は、解雇予告として30日前までに予告する必要があり、これより短くなる場合には、不足日数に応じた「解雇予告手当」を支払わなければなりません。
関連記事:労働基準法第20条に定められた予告解雇とは?適正な手続方法
また、解雇してはいけない期間(業務上傷病の休業中とその後30日間、産前産後休業中とその後30日間)は厳守しなければいけません。これに違反した解雇は無効となります。
関連記事:労働基準法で定められた解雇のルールとは?条文や解雇予告について解説
退職に関するルールは、労働基準法だけでなく、民法にも定められており、雇用形態や契約期間によって適用される法律の規定が次のように異なります。
- 無期雇用の場合:民法第627条により、2週間前の予告で退職可能
- 有期雇用の場合:民法第628条により、原則として契約期間中の退職はできないが、やむを得ない事由がある場合は可能
- 有期雇用かつ1年以上雇用期間が経過している場合:労働基準法附則第137条により、民法第628条の規定に関わらずいつでも退職可能
関連記事:労働基準法における退職の定義と手続き方法を分かりやすく解説
10. 労働基準法を遵守するために人事担当者がすべきこと


労働基準法は、従業員の労働条件を守るための基本的な法律です。人事担当者は、日常業務から法改正対応まで幅広く関与する必要があります。ここでは、労働基準法を遵守するために必要な具体的な取り組みを、「事前的対応」「平常時の運用」「事後的対応」の3つの観点で解説します。
10-1. 法改正への迅速な対応(事前的対応)
労働基準法は改正が頻繁におこなわれるため、人事担当者は常に最新の法改正情報をウォッチする必要があります。具体的には、厚生労働省の公式サイトや労働組合、業界団体のニュースレター、セミナー情報などを定期的に確認し、改正内容が自社にどのように影響するかを分析することが重要です。
そのうえで、必要に応じて社内規程やマニュアル、就業規則、給与計算システムなどに速やかに反映させる体制を整えることが求められます。また、社内研修や勉強会を通じて、管理職や従業員に新しい法令内容や遵守ポイントを理解してもらう体制を整えることで、トラブルや法違反のリスクを未然に防止できます。
さらに、法改正対応のチェックリストやフローを作成して定期的にレビューすれば、見落としや手続きの遅延を防ぎ、トラブルや法違反のリスクを未然に回避することが可能です。このように、情報収集・分析・反映・教育の一連のプロセスを組織的に運用し、法令遵守の体制を強化できます。
10-2. 労務管理の効率化と精度向上(平常時の運用)
労働基準法を遵守するためには、普段から正確かつ効率的な労務管理が不可欠です。具体的には、勤務時間や残業時間の記録を正確に管理し、従業員の休暇や代休の取得状況を把握することが基本となります。
近年では、勤怠管理システムの導入が労務管理の精度向上に大きく寄与しています。システムを活用すれば、手入力によるミスや不正打刻を防止でき、勤務データを法令遵守の証拠として保存することも可能です。
また、定期的にチェックリストや内部監査を設け、部門ごとの勤怠管理状況を確認することも重要です。これにより、部署ごとの運用のばらつきや管理上の課題を早期に発見でき、迅速に改善策を講じられます。
10-3. 従業員からの相談や労基署からの指摘への適切対応(事後的対応)
労働基準法違反の疑いがある場合や従業員から相談があった場合には、迅速かつ誠実な対応が求められます。まず、従業員からの相談内容や労基署からの指摘事項を正確に把握し、関連する就業規則や勤怠データを確認します。そのうえで、法令に則った改善策や対応方針を決定します。
例えば、残業時間が上限を超過していた場合は、該当部門に指導をおこない、改善計画を作成して労基署に報告します。また、従業員からの相談には丁寧に説明し、再発防止策や社内窓口の案内をおこなうことで、信頼関係を維持しながら法令違反リスクを最小化できます。さらに、過去の事例を整理して社内マニュアルに反映すれば、同様の問題への対応を迅速化することも可能です。
11. 労働基準法の原則を正しく理解しよう


最後に、労働基準法の基本原則を改めて確認しましょう。
労働基準法は労働条件の最低基準を定める法律であり、違反する労働契約は無効となります。また、法律で定められた基準は最低ラインであって、企業はそれ以上の労働条件の向上を図ることが望ましいとされています。
労働基準法の違反には罰則が科されることがあります。賃金の未払いや違法な長時間労働などは送検事案にもなりえます。労働基準監督署は随時企業への立入調査や是正指導をおこなっているので、常に社内の労務管理が法令を遵守しているかチェックする習慣をつけましょう。
特に近年は働く人の権利意識も高まっており、ブラック企業と見なされれば人材採用にも支障をきたします。コンプライアンス(法令遵守)は企業経営の大前提です。労働基準法を正しく理解し、働きやすい職場づくりにぜひ役立ててください。



人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。
◆労働基準法のポイント
- 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
- 年次有給休暇:年5日の取得義務の対象者は?
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- 就業規則:作成・変更時に必要な手続きは?
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