労働基準法に定められた賃金とは?定義や給与との違いと5原則を解説 - ジンジャー(jinjer)|統合型人事システム

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労働基準法に定められた賃金とは?定義や給与との違いと5原則を解説

賃金を受け渡す様子

労働基準法における「賃金」は、労働の対価として支払われる全てのものを指し、その管理には厳格なルールが求められます。特に「賃金支払いの5原則」の遵守や、最低賃金・割増賃金の適正な計算は、人事担当者が必ず押さえるべき基本事項です。

不適切な賃金管理は、未払い賃金の請求や労働基準監督署からの是正勧告、さらには刑事罰の対象となるなど、企業にとって大きなリスクを伴います。本記事では、賃金の定義や5原則、計算方法、違反時のリスク、適正な支払いのためのポイントを解説します。

▼そもそも労働基準法とは?という方はこちらの記事をまずはご覧ください。
労働基準法とは?法律の要点や人事が必ず押さえたい基本をわかりやすく解説

【最新版】改正ポイントもまとめて解説 労働基準法違反にならないための必須知識まとめ

人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。

◆労働基準法のポイント

  • 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
  • 年次有給休暇:年5日の取得義務の対象者は?
  • 賃金:守るべき「賃金支払いの5原則」とは?
  • 就業規則:作成・変更時に必要な手続きは?
  • 40年ぶりの大改正:人事担当者が押さえておきたい項目は?

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1. 労働基準法における「賃金」とは

はてなマーク

「賃金」は、最低賃金や残業代(割増賃金)の算定、さらには未払い賃金トラブルの判断基準となる非常に重要な概念です。日常的によく使われる言葉ですが、「賃金」の意味は労働基準法と所得税法とで異なる点に注意が必要です。

1-1. 賃金の定義

従業員は、働いたことの対価として雇用主から報酬を受け取ります。それは賃金、給料・手当・賞与などさまざまな呼び方がされています。

労働基準法における賃金をわかりやすくいうと、「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」という定義になります。つまり、基本給・能力給・資格給など給与明細に「給与」として記載されている金銭全てが賃金であり、月給制や年俸制など支給の方法は問われません。

例えば、労働基準法における賃金に含まれるものとして、次のようなものが挙げられます。

基本給

時給・日給・月給などの形で従業員に支払われる基本賃金

超過勤務に対する手当

残業・休日出勤・夜勤などに対する割増賃金

各種手当

通勤手当・住宅手当・扶養手当・技能手当・教育手当・在宅勤務手当・調整手当・休業手当など

保険料

社会保険料・雇用保険料などで企業が従業員負担分を支払う場合

賞与

夏季賞与・冬季賞与・期末賞与・特別賞与など

第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

引用:労働基準法第11条|e-Gov法令検索

1-1-1. 所得税法における「賃金の定義」の違い

同じ「賃金」とよばれるものであっても、労働基準法と所得税法ではその位置づけや判断基準が異なります。労働基準法は労働者の保護を目的とする法律であり、賃金を「労働の対価」として捉える点を重視しています。

一方、所得税法は課税を目的とする法律で、労働対価性の有無に必ずしも限定せず、使用者から受け取る経済的利益を幅広く「給与所得」として扱います。そのため、役員報酬や各種手当、名目上は福利厚生に近い給付であっても、税務上は給与所得に該当する場合があります。

このように、所得税法上は給与所得とされるものでも、労働基準法上は必ずしも賃金に該当しないケースがある点(※逆のケースもあります)には注意が必要です。両法はそれぞれ目的や制度設計が異なるので、同一の支給項目であっても、法令ごとに取扱いが分かれることがあります。

関連記事:給与明細に記載する所得税とは?徴収義務や計算方法をわかりやすく解説

1-2. 賃金・給料・給与・報酬の違い

賃金と似た意味で使われやすい言葉に、「給料」「給与」「報酬」があります。日常的には同義のように用いられることもありますが、実際にはそれぞれに異なるニュアンスがあります。

賃金の意味を正しく理解するためにも、これらの違いを整理しておきましょう。まずは、混同されやすい「給料」と「給与」の違いから説明します。所得税法第28条では、給与所得について次のように定義されています。

給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。

引用:所得税法第28条|e-Gov法令検索

この条文からわかるとおり、「給料」は「給与」に含まれる概念です。つまり、給与は給料よりも広い範囲を指す言葉であるといえます。

次に、「賃金」と「報酬」の違いについて見ていきましょう。両者の違いは主に2点あります。1つ目は、支払いの前提となる労使関係の有無です。賃金は、使用者が労働者に対し、労働の対価として支払うものに限定されます。

一方、報酬は、業務委託や請負など、必ずしも労使関係に基づかない労働や業務の対価として支払われる場合にも用いられる言葉です。つまり、報酬は労働の対償に限定されない点が賃金との違いです。

2つ目の違いは、用いられる分野や場面です。賃金は主に労働法の分野で使われる用語であるのに対し、報酬は社会保険などの分野で用いられることが多いという特徴があります。

なお、労働基準法上の「賃金」に該当するかどうかを判断する際は、「労働の対価」であるかどうかが重要なポイントです。名称が「給料」や「報酬」であっても、その実態が賃金の定義に当てはまる場合には、労働基準法上の賃金として取り扱う必要があります。

1-3. 【2023年4月~】賃金デジタル払いが解禁

2023年4月の労働基準法施行規則の改正により、賃金デジタル払いが解禁されました。賃金は原則として現金払いとされていますが、所定の手続きをおこない、労働者本人の同意を得た場合には、デジタルによる支払いも認められています。

賃金のデジタル払いを導入する際は、まず厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者を確認することが重要です。口座残高の上限額や1日あたりの払い出し限度額などの条件を踏まえ、自社の運用に適した業者を選定しましょう。代表的なサービス(※令和7年4月4日時点)は次の通りです。

  • PayPay株式会社:PayPay給与受取
  • 株式会社リクルートMUFGビジネス:COIN+(スタンダード)
  • 楽天Edy株式会社:楽天ペイ給与受取
  • auペイメント株式会社:au PAY 給与受取

参考:資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について|厚生労働省

導入にあたっては、労使協定の締結が必要となります。また、就業規則や給与規程について、改定が必要かどうかもあわせて検討しておくことが望ましいでしょう。労使協定の整備後は、デジタル払いの内容や手続きについて、従業員へ十分な周知をおこないます。

なお、実際の運用では、労働者一人ひとりからの個別同意が必須です。同意を得ずに賃金のデジタル払いを一方的に適用することはできないため、慎重な対応が求められます。

参考:賃金のデジタル払いを導入するにあたって必要な手続き 雇用主向け|厚生労働省

関連記事:給与のデジタル払いとは?銀行振込との違いとメリット・デメリットを解説

2. 労働基準法上の「賃金」に該当しないもの

はてなと虫眼鏡

労働基準法における「賃金」とは、労働の対価として使用者が労働者に支払うすべてのものを指します。そのため、労働の対価性が認められない給付については、労働基準法上の「賃金」には該当しません。

ここでは、代表的な非該当例を確認していきます。

参考:労働基準法の施行に関する件(昭和二二年九月一三日)(発基第一七号)|厚生労働省

2-1. 任意的恩恵的給付(結婚祝金や病気見舞金など)

結婚祝金や病気見舞金など、事業主の裁量で任意に支給される恩恵的給付は、労働の対価には該当しないため、原則として労働基準法上の賃金には含まれません。

また、従業員が顧客から直接受け取るチップも、使用者から支払われるものではないので、賃金には含まれません。ただし、企業がチップを集計・分配する場合などには、使用者からの支払いとみなされ、賃金とされることがあります。

さらに、賞与や退職金のうち、支給の有無や金額が事業主の裁量に委ねられている部分も、原則として賃金には含まれません。

しかし、結婚手当や退職金などの名称でも、支給条件が就業規則や給与規程で明確に定められており、労働の対価と関連している場合には、労働基準法上の賃金として取り扱われることがあるので注意しましょう。

2-2. 企業設備・業務費(作業服・制服代や出張旅費など)

作業服や制服の支給、出張や業務上の交通費、消耗品費などは、従業員個人の利益のためではなく、業務を円滑におこなうために企業が負担する費用です。そのため、原則として、これらは労働の対価とはみなされず、労働基準法上の「賃金」には含まれません。

例えば、企業が従業員に交通費として10万円を支給し、実際に使わなかった2万円を後で返金する実費精算の場合、この支給額は賃金とはみなされません。

ただし、実費を超えて支給される場合は、その性質によって賃金と判断されることがあります。また、定期券の現物支給についても、支給条件が明確に定められていれば、通勤手当として賃金の一部とされるので注意が必要です。

2-3. 福利厚生給付(社宅や食事補助など)

社宅の提供や社員食堂の利用、食事補助、保養施設の利用などの福利厚生は、原則として賃金には含まれません。これらは労働者の生活支援や就労環境の向上を目的としており、直接的に労働の対価とはみなされないためです。

ただし、現金で一律に支給される住宅手当や食事手当などは、実態次第では賃金と判断される場合があります。また、使用者が負担する所得税・社会保険料の本人負担分や、社宅を利用しない人に支給される定額手当なども、賃金として扱われます。

関連記事:福利厚生とは?目的や種類、メリットを簡単に解説

3. 労働基準法に定められている「賃金支払いの5原則」

お金を2つに分ける

労働基準法第24条は、使用者が労働者に賃金を支払ううえでのルールとして、「賃金支払いの5原則」を規定しています。

第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
引用:労働基準法第24条|e-Gov法令検索

具体的には次の5つの原則を守らなければなりません。

3-1. 通貨払いの原則

賃金は原則として通貨で支払わなければならず、現物での支払いは基本的に認められていません。ただし、次の場合には例外として現物給与が認められます。

  • 法令や労働協約で現物支給が明示的に認められている場合
  • 厚生労働省令で定められたもので定められた方法に基づき確実に支払われる場合

例えば、賃金を従業員の預貯金口座に振り込みたい場合には、個々の労働者の同意を得ることで可能です。ただし、この同意は、労使協定などで一括して取得することはできません。

3-1-1. 違反例:商品券や外貨で支払う

賃金は、原則として日本円の現金で支払わなければならないため、商品券や自社製品など現金以外の方法での支払いは認められません。

また、外国人労働者であっても日本国内で働く場合は日本の労働基準法が適用されるので、外国通貨での支払いも原則として認められないため注意しましょう。

3-2. 全額払いの原則

賃金は、原則としてその全額を労働者に支払わなければなりません。全額払いの原則に反しない賃金控除には、主に2種類があります。

1つ目は、「法令に基づく控除」です。使用者は、労働者に代わって、税金(所得税や住民税)や社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料)などを賃金から控除し、関係機関へ納付することが認められています。

2つ目は、「労使協定に基づく控除」です。労働者と使用者との間で、一定の項目について賃金から控除することを認める労使協定を締結している場合には、その項目について賃金から控除しても、全額払いの原則には違反しません。

ただし、労使協定があれば無制限に控除できるわけではなく、控除の対象は、社内物品の購入費、社宅や福利厚生施設の利用費用など、内容が明確で、かつ労働者にとって合理性が認められるものに限られます。

参考:賃金控除に関する労使協定を締結していますか?賃金の支払は全額払が原則です|厚生労働省

3-2-1. 違反例:法令の規定や労使協定に基づかない天引き

法令や労使協定で控除が認められている場合を除き、給与からの天引きは認められていません。

例えば、備品の破損や紛失があったとしても、実際の損害額や従業員の責任の有無を問わず、一律に給与から差し引くことは、賃金全額払いの原則に反します。

また、労使協定を締結していないにもかかわらず、社内行事費や親睦会費などを給与から控除することも違法となるので注意が必要です。

3-3. 直接支払いの原則

賃金は、労働者に直接支払わなければなりません。たとえ委任状があるとしても、労働者の家族や法定代理人であっても認められません。これは、労働者の賃金が第三者に搾取されることを防ぐためです。

ただし、労働者本人が病気など特別な理由があり受け取れない場合は、代わりの人が「使者」として受け取ることが例外として認められます。使者に該当するかどうかは、社会通念上、本人に支払った場合と同一の効果が生じるといえる者であるか否かによって判断されます。

3-3-1. 違反例:代理人に支払う

未成年者がアルバイトをする際、銀行口座をまだ開設していないことを理由に、給与の振込先として親の口座を指定するケースがあります。

しかし、たとえ未成年者への支払いであっても、賃金は労働者本人に直接支払う必要があるので注意しましょう。

3-4. 毎月払いの原則

賃金は、毎月1回以上支払うことが義務付けられています。これは、賃金を定期的に支払うことで、従業員の生活の安定を図る目的があるからです。そのため、2ヵ月に1回など、1ヵ月を超える間隔で賃金を支払うことは禁止されています。

ただし、毎月1回以上支払われていれば、日払いや週払いといった支払方法であっても問題はありません。また、賃金の締切期間については、暦月に限定されるものではなく、「前月25日から当月24日まで」といったように、一定の期間を区切って設定することも可能です。

3-4-1. 違反例:一括払いの年俸制

年俸制によって賃金額を定めること自体に法律上問題はありません。ただし、労働基準法では毎月1回以上支払うことが求められているため、年俸額は12回以上に分割し、毎月支払う必要があります。

「年俸」と聞くと、年に1回まとめて支払われるイメージを持たれることもありますが、年1回の一括払いでは「毎月1回以上支払う」という労働基準法の要件を満たさず、違反となるので注意しましょう。

3-5. 一定期日払いの原則

賃金は、「毎月○日」のようにあらかじめ特定できる一定の期日を定めて支払わなければなりません。そのため、月給制で「毎月末日」、週給制で「毎週土曜日」といったように、支払日が明確に定まっている定め方は認められています。

3-5-1. 違反例:曜日で支払日を決める

「毎月第4木曜日支払い」のように、月ごとに支払日の日付が変動する定め方は、労働基準法が定める「一定期日払い」の原則に反します。「毎月第4木曜日」と定めていても、ある月は23日、別の月は28日になるなど、支払日が固定されないためです。

一方、「毎月末日払い」は、月によって28日・30日・31日と日付に差はあるものの、「末日」という期日が一意に定まることから、一定期日払いとして適法と解されています。

関連記事:労働基準法第24条における賃金支払いのルールを詳しく紹介

4. 労働基準法に定められている「最低賃金」

最低賃金

最低賃金とは、労働者に対して使用者が支払う必要がある賃金の最低額を定めた制度です。使用者は、最低賃金法に基づき、最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。労働基準法第28条においても、賃金の最低基準については最低賃金法によるものとされています。

最低賃金額を下回る賃金で労働契約を締結していた場合、その下回る部分は無効となり、最低賃金額と同額の賃金を定めたものとみなされます。また、最低賃金の適用は、正社員に限らず、パート・アルバイトや契約社員など、雇用形態を問わず原則としてすべての労働者に及ぶので注意しましょう。

参考:労働基準法第28条|e-Gov法令検索

関連記事:労働基準法に基づく最低賃金とは?その基準や違反への罰則を解説

4-1. 最低賃金の計算に含める範囲

最低賃金を満たしているかどうかは、実際に支払われている賃金のうち、最低賃金の計算対象となる賃金を基に判断します。

計算の対象となるのは、原則として毎月定期的に支払われる基本給およびこれに準ずる賃金です。一方で、次のような賃金は最低賃金の計算には含まれません。

  • 臨時に支払われる賃金(結婚祝金や見舞金など)
  • 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与・ボーナスなど)
  • 時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金
  • 通勤手当・家族手当・精皆勤手当

参考:最低賃金の対象となる賃金|厚生労働省

そのため、基本給が低く、各種手当によって賃金総額を補っている場合には、最低賃金を下回っていないか注意が必要です。

4-2. 最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類がある

最低賃金には、「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類があります。地域別最低賃金は都道府県ごとに定められており、その地域で働くすべての労働者に適用されます。業種や職種を問わず、原則としてこの地域別最低賃金を下回る賃金を支払うことはできません。

一方、特定最低賃金は、特定の産業や業種に従事する労働者を対象として定められる最低賃金です。地域別最低賃金よりも高い水準が設定されている場合もあり、該当する産業・業種においては、特定最低賃金が優先して適用されます。

なお、地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される場合には、金額の高い方の最低賃金を適用する必要があります。

参考:地域別最低賃金の全国一覧|厚生労働省
参考:特定最低賃金の一覧|厚生労働省

関連記事:労働基準法に基づく最低賃金とは?その基準や違反への罰則を解説

5. 労働基準法に定められている「割増賃金の支払い義務」

パーを出す女性

労働基準法第37条では、時間外労働・休日労働・深夜労働を労働者におこなわせた場合、通常の賃金に一定割合を上乗せした「割増賃金」を支払う義務があることが定められています。

この制度は、労働者の健康を守り、長時間労働や過重労働を抑制することを目的としたものです。ここでは、割増賃金の支払いが必要となる代表的なケースについて解説します。

参考:労働基準法第37条|e-Gov法令検索

関連記事:労働基準法第37条とは?割増賃金の計算方法や注意点を解説

5-1. 時間外労働

時間外労働とは、法定労働時間である「1日8時間、1週40時間」を超えておこなわれる労働を指します。この法定労働時間を超えて労働させた場合には、通常の賃金に対して25%以上の割増率で賃金を支払わなければなりません。

また、1ヵ月の時間外労働が60時間を超える場合、その超過分について、50%以上の割増率で賃金を支払う必要があります。例えば、1ヵ月に70時間の時間外労働が発生した場合、60時間分については割増率25%以上、これを超える10時間分については割増率50%以上を適用することになります。

関連記事:時間外労働とは?定義や上限規制、割増賃金の計算など原則ルールを解説

5-2. 深夜労働

深夜労働とは、原則として午後10時から午前5時までの時間帯におこなわれる労働をいいます。この時間帯に労働させた場合、使用者は通常の賃金に対して25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。

また、深夜労働が時間外労働や休日労働と重なることもあります。この場合には、それぞれの割増要件に応じた割増率を合算して適用するため、通常より高い割増賃金が必要となる点に注意が必要です。

関連記事:深夜残業の割増率とは?深夜手当の計算方法も紹介

5-3. 休日労働

休日労働とは、労働基準法で定められている法定休日(週1日または4週4日)における労働を指します。法定休日に労働させた場合、使用者は通常の賃金に対して35%以上の割増賃金を支払わなければなりません。

一方、企業が任意に定める所定休日(法定外休日)に労働させた場合は、労働基準法上の休日労働には該当しません。ただし、所定休日に労働した結果、法定労働時間を超える場合には、時間外労働として割増賃金の支払いが必要となります。

このように、休日の区分によって割増賃金の取扱いが異なるので、適切な給与計算をおこなう観点からも、就業規則において法定休日と所定休日を明確に特定しておくことが重要です。

関連記事:所定休日と法定休日の違いとは?休日出勤時の割増賃金の考え方も解説

6. 労働基準法に基づく正しい賃金計算方法

バツ印をだす女性

賃金は、労働基準法に基づき「実際に働いた時間」に応じて正確に計算する必要があります。賃金計算を誤ると、未払い賃金として是正指導やトラブルにつながるおそれがあります。ここでは、賃金計算において特に重要となる基本的な考え方を解説します。

6-1. 労働時間は1分単位で集計する

労働時間は、「全額払いの原則」に基づき、基本的に1分単位で正確に集計しなければなりません。例えば、「15分未満は切り捨てる」「30分単位で丸める」といった処理は、労働時間を実際より短く算定することになり、労働基準法に違反する可能性があります。

始業・終業時刻や残業時間については、タイムカードやPCのログなどの客観的な記録を基に、実際に労働した時間を1分単位で把握・管理することが重要です。

関連記事:労働時間を1分単位で計算する原則はいつから?労働時間の把握の義務化を解説

6-2. 欠勤や早退・遅刻は控除できる(ノーワーク・ノーペイの原則)

労働基準法では、「働いていない時間について賃金を支払う義務はない」というノーワーク・ノーペイの原則が認められています。そのため、欠勤した日や、遅刻・早退した時間については、実際に労働していない分の賃金を控除することが可能です。

ただし、控除の方法や計算基準はあらかじめ就業規則や賃金規程に定めておく必要があります。ルールが不明確なまま控除をおこなうと、従業員とのトラブルにつながるおそれがあるので注意が必要です。

関連記事:勤怠控除とは?計算方法と注意するべきポイントを紹介

6-3. 【注意】賃金の端数処理は一定の場合に限り認められる

賃金に端数が生じた場合、これを一律に切り捨てることは、労働基準法第24条の「全額払いの原則」に反し、違法となるおそれがあります。しかし、一定の条件のもとでは、事務処理の簡便化を目的として、例外的に端数処理が認められています。

【割増賃金計算における端数処理】

  • 1時間当たりの賃⾦額および割増賃⾦額に円未満の端数が⽣じた場合、50銭未満を切り捨て、それ以上を1円に切り上げる
  • 1ヵ月における時間外労働・休⽇労働・深夜労働のそれぞれの割増賃⾦の総額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満を切り捨て、それ以上を1円に切り上げる

【1ヵ月の賃金支払額における端数処理(※就業規則への記載が推奨されます)】

  • 1ヵ⽉の賃⾦⽀払額に100円未満の端数が⽣じた場合、50円未満の端数を切り捨て、それ以上を100円に切り上げて支払う
  • 1ヵ⽉の賃⾦⽀払額に発生した1,000円未満の端数を翌⽉に繰り越して精算する

参考:賃⾦計算の端数の取扱い|厚生労働省

関連記事:給与計算で迷わない端数処理のポイント|小数点以下の計算ルールも解説

7. 「賃金」を正しく取り扱ううえでの注意点

計算している様子

最後に、賃金について労働基準法を遵守した管理をするために注意すべきポイントを2つ紹介します。賃金を正しく計算して支給することに加えて、以下の点を確認しておきましょう。

7-1. 同一労働同一賃金の原則を遵守する

労働基準法第4条では、「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的な取扱いをしてはならない」と定められており、いわゆる男女同一賃金の原則が明示されています。

この規定により、性別を理由として賃金に差を設けることは一切認められておらず、男女別に採用区分を設けて異なる賃金体系を適用したり、性別を理由とする賃金格差を含む賃金制度を設けたりすることは労働基準法違反となるので注意が必要です。

また、パートタイム・有期雇用労働法および労働者派遣法では、同一労働同一賃金の考え方に基づき、正規労働者(フルタイム正社員)と非正規労働者(パート・アルバイト、契約社員、派遣社員など)との間における不合理な待遇差を禁止しています。

ここでいう待遇差の合理性は、職務内容や責任の程度、配置転換の範囲などを踏まえて判断されます。雇用形態の違いによる待遇差については、その合理性が厳しく問われます。

これらの法的な考え方を正しく理解し、企業内で適切に賃金制度を運用することが、労働環境の公平性を確保するうえで重要です。

参考:労働基準法第4条|e-Gov法令検索
参考:同一労働同一賃金特集ページ|厚生労働省

関連記事:同一労働同一賃金とは?法改正の背景・目的や不合理な待遇差の禁止についてわかりやすく解説

7-2. 非常時には支払い期日前でも企業に支払い義務が発生する

労働基準法第25条により、企業には非常時における賃金の早期支払い義務があります。

具体的には、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常時に関連する費用を必要とする場合、労働者は支払い期日前であっても、既往の労働に対する賃金を請求できます。この「非常の場合」には、労働者本人の出産や疾病、自然災害、結婚、死亡、および1週間以上のやむを得ない帰郷などが含まれます。

企業の人事担当者や総務部門の担当者は、この法的要件を理解し、適切に対応することで、労働者の生活安定を支援し、法令違反を防ぐことが重要です。労働者からの早期支払い請求があった場合、遅滞なく対応することで組織への信頼を維持し、法的リスクを回避できます。

参考:労働基準法第25条(非常時払)について|厚生労働省

7-3. 賃金請求権の時効が5年に延長されている

2020年4月1日施行の改正労働基準法により、賃金請求権の消滅時効期間が従来の2年から5年に延長されました。

この変更は、例えば「給与計算にミスがあった」や「割増賃金が適切に支払われていない」といった未払い賃金に対する請求に関して、より長い期間にわたって労働者が賃金を請求できることを意味します。ただし、経過措置として2023年9月現在は消滅時効期間が3年となっています。

企業の人事担当者や総務部門の担当者は、労働基準法のこの改正に基づく賃金の定義や給与の取り扱いについて十分に理解し、適切に対応する必要があります。未払い賃金による請求リスクを回避するためにも、給与の計算や支払い方法を再確認し、正確に処理することが求められます。

参考:労働基準法の一部を改正する法律について|厚生労働省

7-4. 労働者の同意のない賃金減額は違法になる可能性がある

賃金は労働条件の中でも特に重要な要素であり、使用者がこれを一方的に減額することは、原則として認められていません。労働者の賃金額は、労働契約や就業規則によって定められているので、賃金を不利益に変更する場合には、原則として労働者本人の同意が必要となります。

また、懲戒処分として減給をおこなう場合には、労働基準法を遵守する必要があります。減給の制裁を設けるには、あらかじめ就業規則において、その種類および程度を明確に定めておかなければなりません。

労働基準法第91条では、減給の制裁について一定の上限が設けられており、1回の減給額は平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、複数回の規律違反があった場合であっても、減給の総額は一賃金支払期における賃金総額(例:月給)の10分の1を超えることはできません。

このように、賃金を減額する際には、事前に十分な説明をおこない、労働者の理解を得たうえで慎重に対応することが不可欠です。安易な賃金減額は、労使トラブルや法的リスクを招くおそれがあるため注意が必要です。

参考:労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)に関する法令・ルール|厚生労働省

参考:労働条件・職場環境に関するルール|厚生労働省

関連記事:労働基準法第91条に規定された「減給の限度額」とは?法律上の意味や計算方法

8. 労働基準法の「賃金」の規定に違反した場合のリスク

リスクのブロック

労働基準法では「賃金支払いの5原則」や「割増賃金の支払い義務」など、賃金に関係する厳格なルールが定められています。

これらの規定に違反した場合、企業には民事・行政・刑事の各面で大きなリスクが生じます。単なる事務上のミスであっても企業が責任を問われる可能性があるため、正確な賃金管理が不可欠です。

8-1. 従業員から未払い賃金を請求される

賃金の不払いや計算誤りがあると、従業員から未払い賃金の支払いを請求される可能性があります。

請求は在職中だけでなく、退職後におこなわれることも多く、未払い残業代や各種手当が問題となりやすい点が特徴です。

また、状況によっては遅延損害金の支払いを求められることもあり、その場合の企業の金銭的負担は決して小さくありません。

関連記事:給与未払いの状態とは?時効や罰則についても解説

8-2. 労働基準監督署から是正勧告・指導を受ける

労働基準監督署による調査などによって、賃金に関して労働基準法違反が認められると、是正指導・勧告を受ける可能性があります。

是正勧告を受けた場合、期限内に未払い賃金の支払いや就業規則・賃金制度の見直しをおこない、是正報告書を提出しなければなりません。

是正が不十分な場合や、悪質性が高いと判断されると、再度の指導や司法処分へと発展するおそれもあります。行政対応に多くの時間と労力を取られる点も、大きなリスクといえるでしょう。

関連記事:労働基準監督署の調査の流れや企業が準備しておくべきこととは

8-3. 罰金や拘禁刑などの刑事罰の対象となる

労働基準法には、違反行為に対する刑事罰が定められています。例えば、労働基準法第37条が定める「割増賃金の支払い義務」に違反した場合、同法第120条に基づき「6ヵ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金」が課されるおそれがあります。

労働基準法に違反したからといって、直ちに刑事罰が課されるわけではありません。通常は、労働基準監督署による是正勧告や指導を受け、改善の機会が与えられます。しかし、是正勧告に従わず、違反状態が解消されない場合には、送検され、刑事責任を問われる可能性があります。

刑事罰に至った場合、企業の社会的信用は大きく損なわれ、採用活動や取引関係など、経営全体に深刻な影響を及ぼしかねません。そのため、「意図的ではなかった」「長年の慣習だった」といった理由は通用せず、法令を正しく理解したうえで、継続的に遵守する体制を構築することが重要です。

参考:労働基準法第120条|e-Gov法令検索

9. 労働基準法に沿って賃金を適正に支払うための重要ポイント

ポイント

賃金の支払いは、労働基準法において「最も重要な労働条件」のひとつとされています。不適切な運用は、未払い残業代の請求や行政指導、企業イメージの低下につながるおそれがあります。

ここでは、賃金トラブルを防ぎ、法令に沿った適正な賃金支払いをおこなうために押さえておくべきポイントを解説します。

9-1. 賃金ルールは就業規則・雇用契約書で明確に定める

賃金に関するルールは、労働基準法に基づき就業規則や雇用契約書に具体的かつ明確に定めておくことが不可欠です。

基本給、各種手当、割増賃金(残業代・深夜手当・休日手当)の算定方法、賃金締切日・支払日などを曖昧にしていると、認識のズレからトラブルに発展しやすくなります。

従業員が内容を正しく理解できるよう、書面で明確に定め、周知徹底を図ることが重要です。

関連記事:雇用契約書と労働条件通知書の違いとは?兼用はできる?作成方法も解説

9-2. 勤怠管理・給与計算を正確かつ適切におこなう

適正な賃金を支払うためには、まず正確な勤怠管理が欠かせません。労働時間を実態どおりに把握できていない場合、残業代の未払いなど、労働基準法に違反するリスクが生じます。

そのため、タイムカードやシステムを活用し、始業・終業時刻、休憩時間、残業時間を正確に記録することが重要です。また、記録された勤怠データをもとにおこなう給与計算についても、割増率の誤りや計算ミスがないかを確認できるよう、定期的なチェック体制を整えましょう。

さらに、勤怠管理システムや給与計算ソフトを導入することで、勤怠集計や賃金計算の自動化が可能となります。これらのシステムを連携させれば、データ連携も円滑になり、業務の正確性を確保しつつ効率化を図れます。

9-3. 法改正や最低賃金の改定内容を定期的に確認する

労働関連法令や最低賃金は、毎年のように見直しや改正がおこなわれます。特に最低賃金は地域ごとに異なり、改定のたびに賃金水準の見直しが必要になります。

改正内容を把握しないまま従来どおりの運用を続けていると、知らないうちに法令違反となるケースも少なくありません。厚生労働省の公表情報や専門家の情報を定期的に確認し、必要に応じて就業規則や賃金体系を見直すことが、リスク回避につながります。

10. 賃金の定義や5原則を理解して労働基準法を守った支払いをしよう

本を持った男性

労働基準法では、給与や賞与・手当など従業員の労働の対償として使用者(企業など)が支払う金銭は、一部例外を除き全てが賃金とみなされます。

労働基準法では賃金の支払いについて、「賃金は通貨で労働者本人に全額・あらかじめ決められた日に支払う」という賃金支払い5原則を定めています。実物支給や労働者本人以外に支払ったり、支払日が定まっていなかったりすると違法となり、刑事裁判を経て処罰の対象となる可能性もあるため注意が必要です。

担当者の方は、違反しないように労働基準法の賃金に関するルールを把握して、しっかりと遵守しましょう。

 

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人事担当者であれば、労働基準法の知識は必須です。しかし、その内容は多岐にわたり、複雑なため、全てを正確に把握するのは簡単ではありません。

◆労働基準法のポイント

  • 労働時間:36協定で定める残業の上限時間は?
  • 年次有給休暇:年5日の取得義務の対象者は?
  • 賃金:守るべき「賃金支払いの5原則」とは?
  • 就業規則:作成・変更時に必要な手続きは?
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jinjer Blog 編集部

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