雇用契約の法律上の定義や成立要件とは?労働契約との違いまでわかりやすく解説
更新日: 2025.11.21 公開日: 2020.11.16 jinjer Blog 編集部

人を雇う際、雇用主と労働者の間で雇用契約や労働契約を取り交わすのがルールです。どちらも契約を交わすタイミングは同じであるため、雇用契約と労働契約は何が違うのか、よくわからないという方も多いでしょう。
そこで今回は、雇用契約の定義や、労働契約との違いを解説するとともに、雇用契約を結ぶ際のポイントや注意点を解説していきます。
目次
「長年この方法でやってきたから大丈夫」と思っていても、気づかぬうちに法改正や判例の変更により、自社の雇用契約がリスクを抱えているケースがあります。
従業員との無用なトラブルを避けるためにも、一度立ち止まって自社の対応を見直しませんか?
◆貴社の対応は万全ですか?セルフチェックリスト
- □ 労働条件通知書の「絶対的明示事項」を全て記載できているか
- □ 有期契約社員への「無期転換申込機会」の明示を忘れていないか
- □ 解雇予告のルールや、解雇が制限されるケースを正しく理解しているか
- □ 口頭での約束など、後にトラブルの火種となりうる慣行はないか
一つでも不安な項目があれば、正しい手続きの参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 雇用契約における法律上の定義

雇用契約とは、民法第623条で定義されている「雇用」に関する契約のことです。同法第623条では、雇用契約について「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」としています。
労働契約を交わすことにより、労働者はお金をもらう代わりに仕事をすることを約束し、雇用主は仕事をしてもらう代わりに報酬を支払うことをそれぞれ公的に約束したことになります。
法律上では諾成契約のため口頭でも契約は成立します。ただし、労働基準法に基づき、賃金や労働時間などの重要事項は書面(または電子)による明示が必要です。実務上は、雇用契約を取り交わすときには、雇用主側が雇用契約に関する内容を書面にした「雇用契約書」を労働者に提示し、内容を確認してもらったうえで、合意のもとに署名・捺印することで契約が締結されることになります。
また、雇用契約書とは別に労働条件通知書が存在します。こちらは交付することが義務付けられているため、必ず作成しなければなりません。
参考記事:雇用契約とは?法的な位置付けと雇用契約書を作成すべき理由を解説
参考記事:雇用契約の期間とは?期間の定めがあるとない場合の違いや契約時の注意点を解説
2. 雇用契約を締結する際に必要な書類

雇用契約書は必須ではないものの、トラブル防止の観点から作成することが望ましいです。加えて、労働基準法15条に基づき、雇用主は労働者に対して雇用条件を明示する義務があるため、労働条件通知書が必要です。。この通知書により労働者は自身がどのような条件で働くのかを正確に把握できます。雇用契約成立時にはこれら2種類の書類が必要になるため、それぞれどのような書類なのかみていきましょう。
2-1. 雇用契約書
雇用契約書とは、雇用契約を結ぶ際に雇用主と労働者がその契約内容に同意したことを証する書類です。この書類には、就業時間・場所、休暇内容、具体的な職務内容などの労働条件が詳細に記載され、雇用主と労働者の双方が内容を確認した上で署名と捺印をします。
法律上、雇用契約書には作成義務はありません。あくまで労働基準法上では、使用者が労働者へ労働条件の明示を求められているのみであり、「労働条件通知書」で通知をすれば法律違反にはなりません。。「労働条件通知書兼雇用契約書」が作成される場合、それ自体が「労働条件通知書」の代わりとなるため、作成義務が生じます。
ただし、労働条件通知書のみでは「労働条件の明示」がされるだけで、トラブル発生時に「雇用主と労働者双方が内容を確認し同意した」ことの証明にはなりません。したがって、トラブルの発生に備えたリスク対策の一環として、雇用契約書を作成しておくことが推奨されます。
2-2. 労働条件通知書
労働条件通知書は、労働条件を明示するためのものです。この文書には、労働時間、休暇、報酬、勤務地などの具体的な条件が記載されており、労働者が自己の労働条件を正確に理解するために必要です。労働基準法第15条では、この通知書の交付が義務付けられています。また、労働条件通知書の内容は雇用契約書と整合している必要があり、内容の矛盾がないように注意することが求められます。
労働条件通知書とは、労働基準法第15条および労働基準法施行規則第5条で義務とされる「労働条件の明示」を達成するために作成される書類です。労働条件通知書には、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」と、企業が特定の制度を設けている場合に記載する「相対的記載事項」の二つがあります。具体的な記載事項はあとの章で詳しく説明します。
この通知書は厚生労働省のWebサイトでひな形(テンプレート)が公開されており、誰でもダウンロード可能です。また当サイトでも、労働条件通知書を作成する際に参考にできる労働条件通知書のフォーマットを無料配布しています。
社労士の監修付きで、2024年4月に労働条件の明示ルールが変更された点も反映した最新のフォーマットです。雇用契約書として兼用することもできる雛形になっているため、「これから作る雇用契約書の土台にしたい」「労働条件通知書を更新する際の参考にしたい」という方は、ぜひこちらからダウンロードの上、お役立てください。
参考記事:労働条件通知書と雇用契約書の違い|それぞれの役割と発行方法を解説
参考記事:正社員でも雇用契約書は毎年の更新が必要!その理由や注意点を解説
3. 雇用契約と労働契約の違い

民法の概念である雇用契約に対し、労働関係の諸法規で用いられているのが「労働契約」の概念です。
たとえば平成20年3月から施行された「労働契約法」では、労働者を「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」と定義しており、民法第623条で定義されている「雇用」の労働に従事する者と同義であることが明記されています。一方、使用者については、労働契約法第2条第2項で「その使用する労働者に対して賃金を支払う者」と定義しています。
この部分の違いについて詳しく見ていきましょう。
3-1. 法律上では「労働者」の範囲に違いがある
労働契約法では、前述のように定義された「労働者」と「使用者」の間で取り交わす契約を「労働契約」と位置づけています。つまり、雇用契約と労働契約はほぼ同義であり、大きな違いがないことがわかります。実際、雇用契約書と労働契約書の内容は似通っているところも多く、雇用契約と労働契約が混同されることもめずらしくないようです。
しかし、それはあくまで実用上の話で、法律の観点から見ると、「労働者」の範囲に若干の違いがあります。
民法623条では、「当事者の一方が相手方に対して労働に従事する」ことを約した者を労働者と定義し、法の適用対象としています。
一方、労働契約法における「労働者」の基準は労働基準法第9条の考えに基づいており、労務提供の形態や報酬の労務対償性などを総合的に判断し、使用従属関係が認められるかどうかで、労働者か否か判断するとしています。
また、労基法第116条では「同居の親族のみを使用する業務」は労働者から除外されることが明記されています。「労働に従事する」すべての人を労働者と定義する民法とでは、労働者の範囲に違いが見られます。
表にまとめると以下のように整理できます。
| 契約形態 | 労働者の定義 |
| 雇用契約 |
|
| 労働契約 |
労務提供の形態や報酬の労務対償性などを総合適任判断し、使用従属関係が認められるかどうかで、労働者か否か判断する
「同居の親族のみを使用する業務」は労働者から除外される |
こうした雇用契約と労働契約の違いは、雇用主と労働者の間に何らかのトラブルが生じて訴訟に発展した場合に焦点となる可能性があります。
ただ、先でも説明した通り、実生活では雇用契約と労働契約はほぼ同義と認識されており、明確な違いはありません。雇用契約にしても労働契約にしても、それぞれ書面の内容をしっかり吟味しておけば、いざというときに困る心配はないでしょう。
参考記事:雇用契約書が正社員でも必要な場合と不要な場合の違いとは?
参考記事:雇用契約と請負契約の違いとは?それぞれの内容・注意点を解説
4. 雇用契約と業務委託・請負・委任契約との違い

雇用契約とは異なる契約に、請負契約や委任契約・準委任契約などがあります。雇用契約と類似した契約の種類かな、となんとなく理解している方もいらっしゃるかもしれません。
雇用契約が労働基準法をはじめとした労働法の保護を「労働者」として受けられるのに対し、請負契約や委任契約・準委任契約といった業務委託契約を結んで働く人は「個人事業主または法人(受託者)」として扱われます。「労働者」ではなく、企業間の取引となるため労働法の保護を受けられない点が違いです。
また、請負契約や委任契約・準委任契約の違いはそれぞれ以下のようになります。
| 請負契約 | 発注者に依頼された仕事の完成や、成果物を納めることを目的とした契約 |
| 委任契約 | 発注者に依頼された業務の提供または業務を提供したことによる成果を目的とした契約。法律行為が業務内容の対象。 |
| 準委任契約 | 発注者に依頼された業務の提供または業務を提供したことによる成果を目的とした契約。書類作業や開発業務など、あらゆる事務業務(事実行為)が対象。 |
さらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
関連記事:雇用契約と業務委託契約の違いは?混同しがちな請負契約や委任契約についても解説
5. 雇用契約(労働契約)を結ぶ際のポイントと注意点

労働基準法第15条では、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定められています。
同法に違反すると30万円以下の罰金に処せられる可能性があるため、労働者との間で雇用契約を結ぶ際は、必ず労働条件を記載した書面を提示しましょう。
雇用契約書に記載する内容は企業によって異なりますが、ここでは正社員の雇用契約書を作成する際、押さえておきたいポイントや注意点を7つご紹介します。
5-1. 必要な記載事項を網羅する
労働基準法施行規則では、労働基準法第15条の規定により、労働者に対して労働条件を明示することが義務づけられています。すなわち、労働条件通知書の作成および交付が義務付けられているのです。
雇用契約書を作成する際は特に必須項目はありませんが、労働条件通知書も兼ねた労働条件通知書兼雇用契約書を作成する際は注意が必要です。
労働条件通知書を作成する際は、必ず明示しなければならない「絶対的明示事項」という項目があります。具体的には以下12の項目がきちんと記載されているかどうか、しっかり確認しておきましょう。
絶対的明示事項
①労働契約の期間
②労働契約を更新する場合の基準(期間の定めがある場合)
③就業場所とその変更の範囲④従事すべき業務の内容とその変更の範囲
⑤始業及び終業の時刻
⑥所定労働時間を超える労働の有無
⑦休憩時間
⑧休日・休暇
⑨労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
⑩賃金の決定、計算方法、締め切り、支払い時期
⑪昇給に関する事項(絶対的明示事項ではあるが口頭でもよい)
⑫退職に関する事項(解雇の事由含む)
有期雇用労働者に対しては、以下の項目も絶対的明示事項として追加されます。
⑬有期労働契約の更新上限の有無と内容(最初の契約締結時と更新時に明示)
⑭無期転換申込権が発生する更新のタイミングまでの有期労働契約の通算期間(契約更新の都度明示)
⑮無期転換申込の機会(無期転換ルールが適用される場合)
⑯無期転換後の労働条件(無期転換ルールが適用される場合)
以上が最低限記載しておきたい項目です。
③と④に関しては、2024年4月以降「それぞれの変更範囲」についても記載する必要があります。
たとえば、就業直後は支店勤務であっても、ゆくゆくは本社や別支店に異動する可能性がある場合は、その旨を記載しておかなければなりません。業務内容も同様で、当初は営業部門への配属であっても、企画職や管理部門などへ異動する可能性があれば、その旨を記載しておきましょう。
相対的明示事項
企業によって規定がある場合は、以下の項目を口頭説明もしくは労働条件通知書兼雇用契約書へ記載します。これらを「相対的明示事項」と呼びます。
⑬退職金が支払われる労働者の範囲
⑭退職金の決定、計算および支払いの方法、時期
⑮臨時に支払われる賃金や賞与、最低賃金に関する事項
⑯労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項
⑰安全および衛生に関する事項
⑱職業訓練に関する事項
⑲災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
⑳表彰および制裁に関する事項
㉑休職に関する事項
⑬以降の項目については、必ずしも記載すべき内容ではありませんが、万一労働者との間に何らかのトラブルが生じた場合、「どのような雇用契約を結んでいたか」は重要なポイントになります。
口頭で伝えることも可能ですが、何かあったときのことを考え、きちんと書面にして労働者に提示した方が双方ともに安心して雇用契約を締結できるでしょう。
参考記事:雇用契約を更新する手順|従業員に対して実施すべき具体的対応を解説
参考記事:雇用契約書に記載すべき内容をイチから分かりやすく解説
参考記事:雇用契約を締結する際に押さえておくべき6つのチェックポイント
5-2. どの労働時間制を採用するか決めておく
絶対的明示事項の⑤「始業及び終業の時刻」とあるように、雇用契約を結ぶ際はあらかじめ始業時刻および終業時刻を明記する必要があります。労働者の労働時間に関する制度を労働時間制といい、「原則的制度」と「変則的な労働時間制」の2種類にわかれます。
前者の場合、労働時間は1日8時間以内、1週間40時間以内という規定があり、それを超えたぶんは時間外労働(残業)となります。その場合、絶対的明示事項の⑥「所定労働時間を超える労働の有無について」で、残業に関する事項を盛り込む必要があります。
一方、変則的な労働時間制には、以下の種類があります。
- 専門業務型裁量労働制
- 事業場外のみなし労働時間制
- 変形労働時間制
- フレックスタイム制
これらの労働時間制は、始業・終業時間を自由に決められたり、残業の発生条件が異なったりと、それぞれ独自の制度が設けられています。
そのため、変則的な労働時間制を導入する場合は、それぞれの制度の内容に応じて雇用契約書を作成しなければなりません。
労働時間や残業の条件は後のトラブルの原因になりやすい項目であるため、細心の注意を払って雇用契約の内容を考えましょう。
参考記事:雇用契約書における契約社員からの正社員登用についての記載ポイント
参考記事:アルバイト採用でも雇用契約書は必要?作成するための4つのポイント
参考記事:パートタイマーの雇用契約書を発行する際に確認すべき4つのポイント
参考記事:正社員でも雇用契約書は毎年の更新が必要!その理由や注意点を解説
参考記事:正社員の雇用で必須の雇用契約書の作成方法を分かりやすく解説
参考記事:雇用契約書における契約社員からの正社員登用についての記載ポイント
5-3. 転勤の有無は必ず明記する
絶対的明示事項の③「就業場所」には、雇用後に労働者を配置する場所を記載しますが、将来的に配置転換する可能性がある場合は、その旨をしっかり明記しておくことが大切です。
雇用契約書に転勤の可能性があることを明記せず、雇用後に配置転換を命じた場合、労働者から転勤を拒否されることがあります。
転勤の可能性がゼロでない限りは「業務上で必要な場合は配置転換を命じる場合もある」「労働者は正統な理由なくこれを拒むことはできない」などの文言を盛り込んでおきましょう。
後のトラブルリスクを考えると、雇用契約書に記載するだけでなく、労働者に口頭で説明し、あらかじめ理解を得ておくのがベストです。
参考記事:雇用契約書がないのは違法?考えられる4つのトラブルとその対処法
参考記事:雇用契約の違反に当たる10のケースとトラブルを避ける対策をご紹介
5-4. 人事異動・職種変更の有無を明記する
絶対的明示事項の④「従事すべき業務の内容」では、採用後、どんな仕事に携わってもらうのかを記載します。たとえば総務の人員として採用する場合は、「総務に関する業務」などと表記します。
しかし、正社員として長期間雇用する場合、業務上の必要に応じて人事異動や職種の変更を命じなければならないこともあります。
労働者は求人の業務内容を見てエントリーしているため、人事異動や職種変更の可能性がある場合は、その旨を明記し、労働者の了承を得ておくことが大切です。
参考記事:雇用契約書と就業規則の優先順位とは?見直す際の2つのポイントをご紹介
参考記事:雇用契約を更新しない場合の正当な理由と社員への伝え方
5-5. 試用期間の存在や条件を明記する
企業によっては、本採用の可否を判断するために、一定の試用期間を設けています。
雇用契約を締結するのは本採用の決定後だと思われがちですが、実際は試用期間に入った時点で雇用契約は成立しているため、雇用契約書を取り交わしておかなければなりません。
雇用契約書に試用期間に関する事項を盛り込んでもよいですが、試用期間中の労働時間や処遇が本採用後と異なる場合は、専用の試用期間雇用契約書を用意した方がよいでしょう。
参考記事:雇用契約における試用期間の意味とよくあるトラブルを紹介
参考記事:雇用契約の条件は途中変更できる?契約期間内に変更する方法をご紹介
5-6. 雛形やテンプレートをそのまま使用しない
ネットで検索すると、雇用契約書の雛形として使えるテンプレートがたくさん見つかります。
ただ、雇用契約書の内容は企業によって異なるため、テンプレートをそのまま使用すると、本来記載すべき項目や内容が抜け落ちてしまう可能性があります。テンプレートを使用するのなら、必要に応じて見直し・編集する作業を怠らないようにしましょう。
ここまで雇用契約に関する注意点を解説してきましたが、そもそも雇用契約には禁止事項が決められていたり、解雇についてもルールがあります。
当サイトでは、雇用契約の基礎知識から結び方の解説、解雇がどのように定められているかなど、雇用契約について網羅的に確認できるように解説した資料を無料で配布しております。いつでも確認できる雇用契約マニュアルを持っておきたい方は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
5-7. 雇用契約書を交付する
雇用契約は口頭でも成立するため、労働条件通知書を別途作成し交付する場合は雇用契約書がなくても法律上問題はありません。
しかし、双方の同意を書面として表した契約書がないと、問題が起きた際に確認がとれる物的証拠が残らなくなってしまいます。リスクの面を考えた場合、雇用契約書も書面で発行したほうがよいでしょう。
また、労働条件通知書と雇用契約書を1通にまとめた、労働条件通知書兼雇用契約書を作成する場合は、労働条件通知書に義務付けられている絶対的明示事項の抜け漏れがないか注意しましょう。
以下の記事もご参考ください。
参考記事:雇用契約は口頭でも有効なのか?口頭で契約する際に注意すべき2つのリスク
6. 雇用契約を締結する流れ

雇用契約を締結するには、従業員に必要書類を用意してもらうことや、保険や税金関係の手続きをするなど、雇用契約書の作成の他にも必要なことがあります。雇用契約締結までの流れを企業側の視点から解説します。
6-1. 必要書類を提出してもらう
雇用契約書や労働条件通知書を従業員に交付した後、従業員から必要な書類を提出してもらいます。必要な書類には以下のものがあります。
- 雇用保険被保険者証
- 年金手帳
- 住民票記載事項証明書
- 給与所得者の扶養控除等申告書
- マイナンバーなど
また、中途採用の場合には源泉徴収票や雇用契約書、健康診断書なども提出が必要です。
これらの書類がそろわないとこの後の手続きが止まってしまうため、期限を設けて提出してもらうとよいでしょう。
6-2. 保険・税金関係の手続き
次に、保険や税金に関する手続きをしていきます。。
社会保険の加入手続きは、従業員が健康保険や厚生年金保険に入るための重要なステップです。これらの手続きは、雇用開始後速やかに進める必要があり、必要な書類を揃えて、年金事務所に提出します。
また、雇用保険についても同様です。特に、従業員が新たに雇用されるときは、雇用保険の加入手続きを欠かさずおこなうことが求められます。これにより、従業員が失業した際に給付を受ける権利が確保されます。
所得税の手続きも重要で、従業員が扶養控除等申告書を提出することで、正確に税金の計算がされ、、過剰な税負担を避けることができます。これらの手続きを適切に進めることで、従業員は必要な保険や税の恩恵を受けることができ、企業も法令を遵守した運営が可能になります。
6-3. 法定三帳簿を準備する
雇用契約では労働者名簿、賃金台帳、出勤簿の準備も必要です。これらの帳簿は労働者の情報や給与に関する詳細を記載し、法律によって保存期間が定められています。随時更新し、3年間保管しておく必要があります。
労働者名簿
労働者名簿には、労働者の「住所氏名・生年月日・雇入れ年月日・従事する業務内容」等の詳細な情報を記載する必要があります。ただし、常時30人未満の労働者を使用する事業場では「従事する業務の内容」の記載を省略できます。
名簿の内容変更がある場合、遅延無く対応し、随時更新することが求められます。さらに、雇用形態や従業員の人数に関係なく、全ての事業者に対して労働者名簿の作成が義務付けられています。
賃金台帳
賃金台帳も重要です。この台帳には、各労働者の住所氏名や基本賃金とその計算期間、総労働時間数、時間外労働時間数などの賃金関連の詳細が記載されています。賃金台帳の記入が正確ではない場合や不備がある場合、労働基準監督署から労働基準法第120条に基づき罰金が課されたり、是正勧告を受けることがあります。したがって、賃金台帳は正確かつ完全に記録しておくことが重要です。
出勤簿
出勤簿には労働者の氏名、出勤日、始業時間、終業時間、休憩時間などの事項が詳細に記載されます。この出勤簿は、労働時間の正確な把握や、労基法に基づく適切な管理をするために欠かせないものです。特に、働いた時間は賃金計算や過労防止の観点からも重要であり、日々記録されるべきです。出勤簿を正確に管理することで、労働条件の透明性が確保され、労働者と雇用主双方の信頼関係が強化されます。さらに、労働基準監督署からの調査が入った際にも重要な証拠資料となります。
6-4. 合意を得て書類を交付する
ここまでの手続きが完了したら、労働者に改めて労働条件を提示し、合意を得たうえで雇用契約書・労働条件通知書を交付します。
合意を得る際は、書類を見せて読んでもらうだけではなく、口頭で説明しながら質問や確認をしながら理解してもらいましょう。
使用者・労働者双方が署名・捺印した書面も重要です。
6-5. 備品の供給
従業員が業務に取りかかれるよう、必要な備品の供給をします。。制服、社員証、机、イス、パソコン、事務用品などを用意し、ICカードや指紋登録などのアクセスシステムも設定します。加えて給与システムや人事システムに個人情報を入力し、給与や税金の支払いに備えます。
以下の記事では締結の手続きをさらに詳しく解説しています。
参考記事:雇用契約を締結する際の必要書類や手続きの流れを詳しく紹介
また、雇用契約の手順についてさらに詳しくまとめた資料「雇用契約手続きマニュアル」を無料で配布しております。雇用契約以外にも労働条件通知書に必要な項目などもまとめているため、「雇用契約のルールをいつでも確認できるようにしたい」「適切に雇用契約の対応を進めたい」という方は、是非こちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
7. 雇用契約書・労働条件通知書は電子化が可能

2019年4月に労働基準法施行規則の改正がおこなわれ、これによって雇用契約書・労働条件通知書は電子化ができるようになりました。
労働者が希望した場合に限り、FAX・電子メール・SNSなどによって、雇用契約書・労働条件通知書を交付することができます。
電子媒体による交付をする際は、印刷して保存ができたほうが望ましいとされています。たとえば、SMSによる交付は禁止とはされていませんが、ファイルの添付ができず、文字数も少ないことから非推奨とされています。
雇用契約書・労働条件通知書を電子化する際は、労働者の希望があることと、印刷できる媒体を利用するという点に注意しましょう。
また、受信拒否設定などによる未着の可能性もあるため、受け取ったことを確認することも忘れてはなりません。
参考:平成31年4月から、労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります|厚生労働省
8. 雇用契約を適正に締結して信頼関係を築ける雇用を維持しよう

労働契約は労働者と使用者双方の権利義務を定める契約で、労働時間や業務内容など必要な事項を明記した労働条件通知書を提示し、労働者から合意を得る必要があります。
雇用契約は雇用主と労働者が円滑な関係を保つためにも労働者が労働に従事し、雇用主が報酬を支払うことを約束する契約です。
雇用契約に不備があると、雇用主と労働者の間にトラブルが起こる原因になるため、雇用契約書を作成する時は記載すべき項目や内容をしっかり押さえておきましょう。
参考記事:雇用契約書・労働条件通知書を電子化する方法や課題点とは?
参考記事:雇用契約書に印紙は必要?課税文書と非課税文書の違いとは
参考記事:雇用契約と業務委託契約の違いとは?違いを見分ける具体的な要素
参考記事:正社員でも雇用契約書は毎年の更新が必要!その理由や注意点を解説
参考記事:雇用契約書と労働条件通知書の兼用はできる?そのメリットや作成方法
「長年この方法でやってきたから大丈夫」と思っていても、気づかぬうちに法改正や判例の変更により、自社の雇用契約がリスクを抱えているケースがあります。
従業員との無用なトラブルを避けるためにも、一度立ち止まって自社の対応を見直しませんか?
◆貴社の対応は万全ですか?セルフチェックリスト
- □ 労働条件通知書の「絶対的明示事項」を全て記載できているか
- □ 有期契約社員への「無期転換申込機会」の明示を忘れていないか
- □ 解雇予告のルールや、解雇が制限されるケースを正しく理解しているか
- □ 口頭での約束など、後にトラブルの火種となりうる慣行はないか
一つでも不安な項目があれば、正しい手続きの参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
人事・労務管理のピックアップ
-
【採用担当者必読】入社手続きのフロー完全マニュアルを公開
人事・労務管理公開日:2020.12.09更新日:2025.10.17
-
人事総務担当がおこなう退職手続きの流れや注意すべきトラブルとは
人事・労務管理公開日:2022.03.12更新日:2025.09.25
-
雇用契約を更新しない場合の正当な理由とは?伝え方・通知方法も紹介!
人事・労務管理公開日:2020.11.18更新日:2025.10.09
-
社会保険適用拡大とは?2024年10月の法改正や今後の動向、50人以下の企業の対応を解説
人事・労務管理公開日:2022.04.14更新日:2025.10.09
-
健康保険厚生年金保険被保険者資格取得届とは?手続きの流れや注意点
人事・労務管理公開日:2022.01.17更新日:2025.11.21
-
同一労働同一賃金で中小企業が受ける影響や対応しない場合のリスクを解説
人事・労務管理公開日:2022.01.22更新日:2025.08.26
雇用契約の関連記事
-
トライアル雇用とは?導入のメリット・デメリットや助成金の申請手順を徹底解説
人事・労務管理公開日:2024.10.18更新日:2025.06.11
-
労働条件通知書はソフトを使って作成できる?選び方も解説
人事・労務管理公開日:2023.06.01更新日:2025.10.27
-
試用期間中の解雇は可能?解雇できる条件や必要な手続きを解説
人事・労務管理公開日:2022.09.22更新日:2025.07.16
